オズの十戒   作:木ノ宮

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60 脅迫かよ

 

 

 レクリエーションの一環として毎年行われる魔法ドッジボール大会は、実のところは生徒たちの実力を多面的に評価する裏期末試験のようなものなのだと猿飛は言っていた。

 

 仮にそれが本当なら、(めぐる)の責任で早々に負けが確定した場合、同じチームのルクスや白雪にも迷惑をかけることになる。

 

(初めてのドッジボールがどうとか考えてる場合じゃない。次こそはちゃんとしなくちゃ……!)

 

 胸にかけたコート生成用のペンダントを握りしめ、心の中で廻は自分を叱咤する。

 

 ルクスの活躍と白雪の補佐により勝利した一戦目。

 その直後に始まった二回戦目の相手は、山梨という男子一人と、明智、(まゆずみ)の女子二人のチームだった。

 

 チームの役割分担は一回戦のときと同様にした。コート係を廻が務め、もう一人の内野は白雪、外野はルクスという配置だ。

 

「二戦目でルクスがいるところに当たんのかよ……」

「弱気はだめっすよ山梨さん。相手がいかに強敵でも作戦一つで結果が変わるのがこの競技の面白さっすから」

「そうですね。それに、この大会で見られるのは勝敗ではなく取り組みの姿勢だとも言われてますし……」

 

 相手のコート係は山梨。高身長の彼はたしか野球部で、猿飛とスポーツの話で盛り上がっているところを廻は見たことがある。

 

 もう一人の内野は明智だ。ふわふわとした薄茶色の短髪と黒縁眼鏡が特徴の彼女は、以前廻たちを巻き込んで行った旧男子寮の潜入捜査のときと同様、テンションの高さと強気な言動ですべてを乗り切ってしまいそうな頼もしさがあった。

 

 外野を務める黒髪おさげの女子──黛は、そんな明智と比べるとおとなしく、内向的な性格のようだったが。

 

「いくぞ!」

 

 先制は相手チーム。ボールを持った山梨が発動したのは、周囲に霧を出現させる魔法だった。

 

 煙のように蔓延する白い霧に視界を覆われ、山梨たちの姿はおろか味方である白雪の姿すら見えなくなった廻は、とっさに魔法で風を起こしてその霧を一蹴する。

 

 霧とともに視界が晴れたのと、山梨が放ったボールが白雪を狙ったのは同時だった。

 

「あっ、ぶな……!」

 

 焦りながらも瞬時に防御壁(バリア)を展開する白雪。

 攻撃は彼女に当たらず、跳ね返されてコートを出たボールを、外野にいたルクスがタイミングよくキャッチした。

 

「ナイス、ルクスくん!」

 

 白雪が受けたボールをルクスが取り、攻めに転じる。最初の試合と同じ状況だ。

 

 先程のように目くらましをするのだろうか。

 

「ふっふっふ……さっきと同じ手はもう使えないっすよ」

 

 相手のコートから聞こえてきた不敵な笑い声に、廻ははっとする。

 胸の前で腕を組み、小柄な身体をくつくつと揺らして笑うのは明智だった。

 

 廻は目を見開いた。明智がサングラスをかけていたのだ。ほんの数秒前まで、彼女の目を覆っていたのはいつもの黒縁眼鏡だったはずなのに。

 

「これでルクスさんの光魔法は通じないっすよ!」

 

 明智側のもう一人の内野、山梨もいつの間にか同じサングラスをかけている。いったいどこから取り出したのか。

 

 そう廻が疑問を抱いたとき、背後で少女の声が響いた。

 

「わ、私が造りました……!」

 

 相手チームの外野、廻たちのコートの後方で待機していた黛だった。

 

「黛さんは生成魔法が得意だもんね~ サングラスくらいならパパッとつくれちゃうか」

「あ、ありがとうございます。でも長持ちはしないので……」

 

 屈託のない白雪の言葉に、恐縮したように頭を下げながら黛は言う。

 一回戦目の廻たちの試合を見ていたのだろう。ルクスの光を遮断し、目くらましを防ぐ作戦というわけか。

 

「言っておくが、オレの魔法の真価はべつに視界を奪うことじゃねえぞ」

「そんなことはわかってるっすよ。奥の手は他にもあるっす」

「奥の手?」

 

 サングラスを指で押さえながら妖しい笑みを浮かべる明智に、ルクスが訝しげな視線を向ける。

 

「私をだれだと思ってるっすか。オズ魔法学園新聞部副部長、明智恵茉っすよ」

「……それがなんだよ」

「この学園のありとあらゆる情報を握ってる人間ってことっす。つまりですね。もしルクスさんが手心を加えずそのボールを投げれば……バラされたくないルクスさんの秘密を私がうっかり口にすることもあり得るってことっすよ」

「脅迫かよ!」

 

 思わずといったように大きな声を出すルクス。二人のやりとりをコートの中から見ていた廻も、戸惑いを隠せない。

 

 魔法を使ったドッジボールにスポーツマンシップもなにもないのかもしれないが、さすがにそれはいかがなものか。

 

「いいんすか? 中等部で飼ってる猫をさがしにしょっちゅうそっちの校舎に行ってることとか、餌あげたり撫でたりしてるうちにちょっと懐かれて満更でもないこととか、みんなに知られてもかまわないんすか?」

「言ってんじゃねーか!」

 

 つーかどこで見てたんだよ! と我慢の限界に達したらしいルクスが勢いよく腕を振り上げ、投球の姿勢を見せる。

 

 身構えた明智と山梨の後ろから、廻はルクスに向かって言った。

 

「そのまま投げて、ルクスくん!」

「!」

 

 一瞬目を見開いたが、すぐさま意図を察したのか、こくりと頷き真っ直ぐボールを投げるルクス。

 

 そのタイミングで右手を前にかざし、廻は相手のコートに向かって練り上げた自身の魔力を放出した。

 

 するとルクスの放ったボールが速度を増した。

 

 その勢いのまま山梨の足元の地面に当たって軌道を変えたボールは、見えない壁に衝突して跳ね返るかのような不規則な動きをくり返し、コート内の明智たちを翻弄し始める。

 

「な、なんすか!?」

「くそ、ボールが見えねえ……!」

 

 ぐるぐるとあたりを見回し、焦ったような声を上げる明智と山梨。

 

 次の瞬間、明智の肩にボールが当たった。

 

「わ!」

「明智!」

 

 そうして跳ねたボールがコートを飛び出し、それをルクスがすかさず手に取る。

 

 間髪入れずにルクスの投球。先程まで縦横無尽に動き回っていたボールと、アウトになった明智に気を取られていた山梨は、避ける間もなくその攻撃の餌食となった。

 

「二人ともアウト!」

 

 勝った、と自分の隣でぴょんと跳ねるように喜ぶ白雪を横目に見て、廻はほっと胸を撫で下ろす。

 

 そんな廻に、目の前でうなだれる明智たちの恨めしげな視線が注がれた。

 

「おい、いまのは反則だろ!」

「そうっすよ! ボールに魔法をかけるのはルール違反っす!」

「えっ」

 

 たしかに、魔法ドッジボールには“ボール本体への魔法効果付与は禁止”というルールがある。

 ボールそのものを魔法で操作したり、ボールの材質、硬度、形状などを変化させることは許されない、というものだ。

 

 だが、廻はけっして()()()()()魔法をかけていない。

 

「ボール自体に魔法が使われたら破裂する仕組みになってるんじゃなかったか? そうなった時点で失格なんだろ、たしか」

 

 静かに近づいてきたルクスが、廻をフォローするようにボールの仕様に言及した。

 

 そういえば、ときまり悪そうに顔をしかめる明智たちに、廻は笑って説明する。

 

「難しい魔法は使ってないよ。コート内の空気を操作してボールが動く軌道をつくって、風圧でスピードを調整したんだ」

「いや難しいだろ」

「それだけ繊細に操作魔法を使えること自体すごいんすよ……」

 

 ボール本体を操作することが禁止されているのなら、ボールを囲む環境を操作して間接的に対象を動かせばいい。

 

 そう手の内を明かした廻の前で苦笑いを浮かべた明智は、使い道をなくして消えたサングラスの代わりに、ジャージのポケットから取り出した自身の眼鏡をかけ直した。

 

 

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