とある影の物語   作:野良拳

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ep02「ロイド・バニングス」

 

 

 

 

 

 ロイドとカナタが再開してから数日後。

 

 東通りにある遊撃士協会支部の二階。カナタはそこにあった椅子に座りながらつまらなそうな顔で“クロスベルタイムズ”と書かれた雑誌を読んでいた。

 

「あら?せっかく休みを上げたのに、ここにくるなんてよっぽど仕事がしたいのかしら?」

「…まぁな。休んでもやることは鍛練ぐらいしかやることないなら、ここでリンさんとエオリアさんのコンビについて行った方がましだ」

 

 いきなりの言葉をかけられたカナタはジト目をその声の主、ミシェルに向けた。

 

「へぇ、あなたがそっちに興味があるのはちょっと意外ね。まぁ、あの子たちも人気あるからね」

 

 ミシェルはそのジト目を簡単に受け流しながら、カナタの向かいの椅子に座る。どうやら、休憩するらしく、手には弁当らしき包みがあった。

 

「??…意外か?」

「いや、だって貴方鍛練とか武術にしか興味がない――って、ああ、なるほど」

 

 ミシェルは途中まで言って、自分の勘違いを知って言葉を止める。

 ここの支部に所属しているエオリアとリンだが、雑誌からも写真を取られるほどきれいな女性である。そんな彼女たちと行動したいというからには、“どうせなら綺麗な女性と仕事をしたい”という気持ちかと思っていた。

 しかし、彼の目的はそうではなく――

 

「泰斗流の使い手とは何人か会ってるが、リンさん程の使い手はあまりいないし、エオリアさんの方は専門外だけど見ておいて損はないしな」

「でしょうね…貴方らしいしけど、女性に対してその思考は失礼よ」

 

 呆れたようにため息をつくミシェルだが、当の二人は気にしないからいいのかとも思ってしまう。

 

「む、失礼なのか?」

「“普通”はね。それに残念。彼女達はしばらく帰ってこないわよ?大人しく体を休めなさい。って、あら?それクロスベルタイムズ?」

「…ちょっと知り合いが乗ってたから、軽く読んだだけだ」

 

 キッパリとそう言いきった後に、やっと彼の手元に置いてある雑誌に気づく。これもカナタにしては珍しい。何時も誰かが買ってきて、机に雑に置かれているが、彼はこういう情報雑誌が嫌いなのか、手に取った所を見た事がない。

 どんな記事が載ってたのか、興味を持ち手にとって開いて読み始める。

 

「あら、この子たちって支援課の――って知り合いだったの?」

「まぁな。ロイドってやつは兄弟弟子みたいなもんだ」

 

 そう言うカナタの顔は何処か機嫌が悪い。まぁ、兄弟弟子が悪く言われて面白いという人はいないだろうが。

 

「ふーん。あなたの兄弟弟子ね。少しはできるの?」

「…それは遊撃士としての評価でか?」

「当たり前…ってそういえば警察官だったわね。じゃあ、両方の視点で貴方なりの評価でいいわ」

 

 それを聞いたカナタは少し考えこむ。

 

「―――比べた事はないから正確なことはわからないけど、多分、戦闘の成果じゃ俺はアイツに負けない」

 

 まぁ、そうだろう。とミシェルも思った。カナタはCランクの遊撃士ではあるが、戦闘レベルだけだったらこのギルドの遊撃士に引けをとらない。ただ、戦いばかりに重点を置いてしまう悪い癖が何時も足をひっぱているだけだ。

 つい先ほどロイドを実際に見て話したが、カナタに勝てる人物とは思えない。

 

「ただ、アイツは俺に負けないだろうな」

「…?ごめんなさい、よくわかんないだけど」

 

 カナタの矛盾した言葉に質問するミシェル。カナタはそれを見て面白そうに笑って得意げに説明しようとする。が、それはドアが開く鐘の音によって止められた。

 

「あら?お客さんかしら」

 

 そう言ってミシェルは立ち上がろうとするが、先にカナタが立ち上がりそれを手で制す。

 

「アンタ休憩中だろ。俺が行くよ」

「あら、本当…って、貴方仕事したいだけでしょ?」

 

 ミシェルはずばりその通りの事を言ってくる。しかし、ここでだれるより鍛練、鍛練より実際の仕事のほうが得るものが大きい。

 

「心配しなくても、俺が出来る仕事かどうか聞いて、出来るようならいつも通りに、出来ないようならアンタを呼ぶさ」

 

 そうとだけ言って、カナタは階段を下りていく。最後にミシェルから「どうだか」とため息のような言葉を聞いたような気がするが、どうでもいい。ここでロイドの事話すよりは仕事の話しをする方が――

 

「…お!マコト君だ」

 

 手にカメラを持った、銀髪の女性がカウンターの前に立っている。

 

 …うん、そう言えば話しの途中だった。途中で終わったら気になるだろうし、話しの続きをしなくてはなとカナタは体を返し、階段を上がり始めた。

 

「あ!コラ!!何で階段を上っていくの!?」

「オレハナニモミテイナイオレハナニモミテイナイ」

「何で片言なの!?というか、遊撃士的にはこの対応は許されるの?」

 

 その言葉にカナタは階段を上がる足をピタリと止める。そしてめんどくさそうに頭を掻いてため息を吐き、クロスベルタイムズのグレイス・リンに顔を向ける。

 

「…最初に言っときますが、俺に家の事と“あの事”は聞いても答えられない」

「おっと、そこを気にしてたか。大丈夫、そこは後日聞くから」

 

 どこが大丈夫なんだろう?そう心の中で呟きながら、階段に腰を落とす。

 

「で、俺でいいのか?ミシェルは休憩中だが呼べば来るけど」

「ん…う~ん、本当は情報ないかミシェルさんに聞きたいんだけど、話してくれないだろうし、そこまで期待もしてないからいいや。目的は君」

 

 そう言ってグレイスはピシッとカナタを指さす。

 

「俺?…悪いが、アンタがほしい情報は多分持ってないぞ。持ってたとしても記者のアンタに理由なしに教えるほど新人でもない」

「ああ、大丈夫大丈夫。そういうのじゃないから――君、今日お休みなんだよね」

 

 何処から手に入れた情報だと一瞬思ったが、シフトが書かれた紙がすぐそこの木の板に張ってあるので不自然ではない。

 

「まぁな。で?」

「ふふふ、ねぇ、取引しない?」

 

 そう言って、グレイスは鞄から資料を取り出す。

 

「君が興味が持ってる情報をまとめた資料がここにあるのよね」

「――俺が興味って?それこそ何故わかる?」

 

 カナタは今までの緩い空気を消し、鋭い視線をグレイスに送るが、グレイスはそれに押されずに手をヒラヒラと降って軽く流すように口を開く。

 

「夜中にあれだけ港で熱心に調べ回ってたら嫌でも気づくわよ。もちろん彼等も気づいてるわよ。これあげるから、怪我するまえに止めなさい」

 

 その言葉にカナタはチッと小さく舌打ちをしながら頭を抱える。心配してるのか、脅してるのかわからない言葉だ。でも取引の内容としては悪い条件でもない…かもしれない。

 

「―――条件は?」

「ふふん。今日ちょっとヤバい所に写真を取りに行くの。だから協力しなさい」

 

 そう言って、ニヤニヤと笑顔をこっちに向ける。ヤバい仕事をやらなければいいのにと思ったが、問題はそこではない。

 

「俺は遊撃士であって、傭兵じゃない。そんな自分勝手な報酬で仕事を受けるわけにはいかない」

「わかってるわよ。だからお休みの日に訪ねたんじゃない」

 

 いや、それわかってない。とツッコミたかったが、

 

「別にいいんじゃない?」

 

 今までの話しが聞こえてたのか、階段から降りてきたミシェルの言葉に止められた。

 

「!?…そうなのか?」

「別に問題はないわよ。そういう仕事がないわけじゃないし」

 

 知らなかった。そんな事もしてるのか。今までそんな仕事したって聞いた事がないんだが…色々としてるんだなと改めて感じるカナタ。

 

「じゃあ、問題なしね。じゃあマコト君借りてきますね~」

「は?ちょっと待て!俺は別に、ってそこを掴むな!締まるから!首が!」

 

 ぎゃあぎゃあと騒ぎながら出ていく二人にミシェルは「いってらっしゃ~い」とだけ言って見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ep02「ロイド・バニングス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ?不良の抗争?」

 

 場所は少し変わり、 宿酒場“龍老飯店”のカウンターで軽い食事を取りながら話しを聞いたカナタは途中で話しを止める。

 

「そ、この頃旧市街の不良チーム“サーベルバイパー”“テスタメンツ”が潰しあいの抗争が起きようとしてるの…っていうか、旧市街に住んでる君が何で知らないのよ」

 

 グレイスは呆れた目でカナタを見る。カナタはその視線を受けて、この頃を思い出す。確か、二週間前は帝国の方に暇な仕事にいって、六日前に帰ってきて、少し腕がなまったような感じがしたんで、ミシェルに頼んで手配魔獣を主にまわしてもらって…と記憶を探っていく。

 

「――ああ、そういや俺二週間は家に帰ってないや」

「はぁ…君ねぇ、原始人じゃないんだから」

「そ、そんな事はどうでもいいだろ…それに今は不良の抗争の話しだろ!…だが、遊撃士としてはほっとけんないが、スクープにしてはしょぼすぎないか?」

 

 少なくともこの人はもっと大きいスクープじゃないと動かないと思う。会ってまだ少ししか経ってないが、それぐらいはわかる。

 

「あら?そんな事はないわよ。人が知りたいこと記事にするのが私の仕事だもん。それに、話しを最後まで聞きなさい!君、“ルパーチェ”ぐらいは知ってるでしょ?」

「まぁ、詳しい事は知らないが…用はクロスベルで一番大きいマフィアなんだろ?」

 

 そんな組織があることはミシェルから聞いてはいるが、直接会った事はないはずだ。

 

「ふ~ん、君はあんまり興味なし?」

「――それだけ大きい組織なら強い奴がいるのは確かだし、戦ってはみたいと思うが、遊撃士の仕事じゃないだろ」

 

 カナタは軽い食事を取り終えたのか、箸を机におき手を合わせて言葉をつづけた。

 

「それで、そのルパーチェが不良の喧嘩にどう関係するんだ?」

「そうね…そもそも何で不良が大規模な喧嘩しようとしてるから話しは始まるわね」

 

 そう言って、彼女は説明をし始める。

 

 どうやら、両チームの一員が違う場所で同じ時間に闇討ちにあったらしい。それぞれのチームは敵対チームの仕業だと断定し、何時戦闘になってもおかしくないらしい。

 そこまでだったら、ただのハタ迷惑な話だったが、どうやら話しはそこまで簡単な話じゃないらしい。

 

 そもそも、闇討ちにあうタイミングと場所を考えると、ただの闇討ちにしては不審な点が多い。第三者が襲ってるという話を聞いた時の方が、なるほどと納得できた。

 

 なんでも、その第三者がルパーチェというのはわかってるらしい。でも、その理由がわからなかった…というのが“昨日”までの成果らしい。

 

「プロが不良にちょっかい出すなんて普通はやらない。何か裏があるのはわかるが…それで、俺はアンタを守るのが仕事か?」

「まぁ、ちょっと違うけどそんな所。本当はアリオスさんが介入しようと思ってたらしいけど、支援課の子達が先に手をつけてるみたいだし、君でも相当の抑止にはなるし、アリオスさん忙しいし、君とロイド君と知り合いだから後腐れなしって感じで」

「………どうだかな」

 

 アリオスさんが多忙なのはわかるが、ロイド達がやってるのなら出る幕なんてないのでは?後腐れ?確かにそんなの気にする仲ではないが…といろいろと心の中で呟くカナタ。そんなカナタの様子を見てグレイスは面白そうにして口を開く。

 

「あら、気に入らない?」

「…ああ、本当なら支援課だけで手に負える事件だ。わざわざ遊撃士が出張るのはなんていうか…俺は気に入らない」

 

 カナタの言葉にグレイスは笑顔から一変し、つまらなそうな顔で口を開く。

 

「甘い甘い。別に警察と手柄の取り合いしてるわけじゃないでしょ?それに“人を守る”のが遊撃士の役目なら、本来警察とは協力関係じゃなかったけ?」

「む……その通りだ」

 

 グレイスの言葉に少し考えて同意して素直に反省し、頭を下げる。

 

「―――…ふふ」

「?何だよ?」

 

 素直に反省したつもりだったが、何故か笑われた。何というか、気に食わない。

 

「あー、ごめんごめん。今のやりとり知り合いの昔に似てただけ。馬鹿にしたわけじゃないよ」

 

 カナタの顔がしかめっ面になっていたのか、グレイスは笑いながらもそう言って、なだめてくる。

 もちろん、そんな事言われてもやっぱり気に入らないものは気に入らない。

 

「…それで!俺は結局何するんだ?」

「え?ああ、君への仕事?…そうね。実は今まで言ったのは提案であって、今日の仕事ってのは、後輩が鉱山町のマインツに写真撮りにいく予定でね。本当はバスで行かす予定だったんだけど、どうせなら途中の景色の写真もほしいなと思って」

 

 グレイスはそう言いながら、バックから先程見せた資料を手渡す。

 

「なるほど、費用削減か」

「そういうこと。集合は二時で北口ね」

 

 グレイスの言葉に了解と言って、立ち上がり近くに置いてあった伝票を取ろうとした。が、それは再びグレイスが伝票を手に取った事で止められる。

 

「??…なんだよ。まだ、なんかあんのか?まさか奢るとかじゃあるまいし」

 

 一応集合時間まであと二時間はあるが、これ以上ここで話す意味はないので、さっさと店を出たい。

 

「そうね~。ちょっと君の兄弟弟子のロイド君の事教えてくれたら奢ってあげてもいいかな」

「へっ……あんだけ記事で言っといてアイツに興味があんのか?」

「あははは、私は真実を書いただけよ。それに興味以前に支援課は個人的に応援はしてる…でも、昨日の彼の動きはちょっと尋常じゃないっていうかなんていうか。本当に魔獣相手に苦戦したのかって」

「――…ロイドがなんかしたのか?」

 

 グレイスの言葉に話しを聞く気になったのか、再び座り直す。その言葉を聞いたグレイスはにっこりと笑い、昨日の事を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は遡り昨日、東通り。

 

 グレイスはルパーチェの行動が活発になっている事と、旧市街で私服で歩いていたルパーチェの組員が歩いていたという目撃情報を知り、ちょっと変に思い旧市街に張り込みに行こうとしたところだった。そんな時に走っている四人組みが目にとまった。

 

(あら?あれって、支援課の)

 

 あって間もないが、特徴ある支援課の面々は遠目から見てもわかる。どうやら行き先は自分と同じ旧市街らしい。

 

「スクープ?…じゃないわね」

 

 どうせ不良チームの喧嘩を止めにいくとかそんなのだろ。いや、もしかしたらルパーチェの組員がいて、それを見学してる可能性もあるかもしれないし、彼等の戦いも一度写真に収めておきたい。

 

 そうときまれば膳はいそげ。そう言わんばかりのダッシュですぐに旧市街に入り、グレイスは物影に隠れた。

 

「…おっ、さっそくやってる」

 

 そこからロイドがサーベルバイパーとテスタメンツの両チームの人たちに喧嘩を辞めるよう警察の身分を明かしている。しかし、中々信じてもらえない。

 まぁ、ここは旧市街で警察もほとんど巡回していない所だから仕方がないといったら仕方がない。そう心の中で彼等を少し可哀そうだなと思いながら、自分の目的であるルパーチェの組員を探すが、どうやら今日は来てはいないらしい。なら彼等の腕前を写真に収めておこうとカメラを構える。

 

 

 それと同時に彼等の戦闘は始まった。不良チームはそれぞれのチームから二人づつ支援課に向かっている。

 それに対し、支援課のフォーメーションは斧槍を持ったランディが前衛、そのすぐ後ろにトンファーのロイド君。そして数歩後ろに動力銃を構えているエリィ。すでにエグニマのラインをなぞりアーツを詠唱し始めてる。

 一日であそこまでのコンビネーションはグレイスは心の中で素直にほめていた。

 

 ランディは斧槍を振って相手の動きを牽制しながら相手の攻撃は喰らっていない。

 エリィも動力銃で相手の急所を的確に狙っている。ティオも妙な杖の効果か、アーツを連発している。

 

 そして、とうのロイドだが…あまりぱっとしない。いや、的確な指示にランディの援助にエリィ達に不良が近寄らないようにもしているし、指示もちゃんと出してる。

 

(…?あれ?)

 

 それが少し続いていたが、途中からどんどん状況が変わっていく。ロイドの動きがどんどんと良くなっていくのだ。

 ランディの攻撃に加え、ロイドも攻撃に参加していく。それを逆手にとろうと不良が後衛を攻めようとするが、完全に動きを呼んでいるのかのように先回りしてそれを止めている。

 

 遠くから見てやっとわかるぐらいだ。戦闘中のエリィやティオは気づいてはいない。ランディは気づいてるらしく、ロイドの動きを見て軽く口笛を吹いて称賛している。

 

 グレイスがロイドの動きに驚いている間に戦闘は終わっていた。支援課には怪我もなく、不良はボロボロの状態で膝を地面につけている。

 

 それでも、不良はあきらめずに今度は全員で戦おうとする。が、それは両方のヘッド、ヴァルド・ヴァレスとワジ・ヘミスフィアが出張ってきてそれを止めた。

 どうやら、まだ喧嘩を始める時期ではないらしい。彼等は何時か本気で潰しあう事を支援課に伝えて去って行った。

 

 それをしばらく呆けて見ていた支援課だったが、すぐに何かを話し合っている。

 しかし、もはやグレイスにはそれはどうでもよく、ロイドの戦闘しか頭になかった。

 

(…こりゃちょっと、認識を改める必要があるのかしら?)

 

 そう呟きながら、彼女はカメラのシャッターを押して写真を撮った。

 

 すると彼等は行動を開始しはじめた。どうやらテスタメンツの方に用があるらしく、テスタメンツが去って行った方向に歩いて行く。

 どうやら事情を聴きに行くらしい。それならサーベルバイパーの方にもいくはずだ。ワジなら戦いになる可能性は低いが、ヴァルドなら可能性が高い。

 

(なら、あの倉庫の床窓がある方にっと)

 

 グレイスはそう言って支援課とは違う方向に行く。

 

 そして、ついた場所は建物と建物の少しの間。グレイスは倉庫の床窓を覗き込むようにしゃがんでいた。

 あまり好んでいたい場所ではないが、ワジの話しも結構長くなるだろうと覚悟したグレイスであったが、ロイド達は思ったより早く来てくれた。

 

 どうやら、ロイド達もこの抗争の原因を探っているらしく、事情を聴きに来たらしい。しかし、それで「はい、そうですか」というヴァルドではない。

 グレイスの予想通り、彼は無理難題を押し付けてきた。このまま行けばあの場にいる全員で乱戦になるのは明白だろう。

 

 しかし、ロイドの言葉によってそれは止められる。彼は「ヴァルドと一対一の勝負」という名目の試合を申し込んだ。

 

 これはグレイスにとっては好都合だ。見たいものが見れる。そう思って彼等の戦いを見逃さないように集中する。

 

 

 まずは最初の一撃はヴァルドの木刀の豪快な一撃。それをバックステップで避けてトンファーでの反撃を放つロイド。

 それは簡単に横腹に入った。しかし、まったく効いていないらしく、ヴァルドはその体勢のまま下斜めから木刀を振り上げる。

 ロイドはそれを片方のトンファーで軌跡をずらすが、勢いまで殺せずに、後ろによろめきながらもトンファーを構えなおす。

 

 やっぱり、そこまでパッとしない。さっきの動きよりは数段遅い…だが、ヴァルドの攻撃は完全に防いでいる。戦い方が悪いわけではないが、やはり先程のように目を引くものではない。

 

 しかし、先程の戦闘と同じようにロイドの動きが徐々に速くなってきている事にグレイスは気づいていた。

 確実にヴァルドの急所に一撃を入れていき、ヴァルドの攻撃はまったく受けていない。

 

 さっきも感じた彼の異常な動き。最初は手を抜いていた?とも思ったが、そんな性格には見えない。

 

(相手のデータをとって戦ってる、とか?)

 

 専門家じゃないから、詳しい事はわからないがグレイスなりの予想をたてた。しかし、それにしては初めて戦う相手をこんなに早くデータを取る事は可能なのか?と疑問は浮かぶ。

 

 そんな事を思っていると、状況が変わりだした。

 

 ロイドは幾ら打撃を入れても倒れない事を焦ったのか、今まで打ち合っていた距離をとろう下がろうとする。

 それを見てすぐにヴァルドは木刀を振り上げて、そのまま振り下ろさず一度力を入れる。

 

 “オーガスラッシュ”ヴァルドが得意とする技ということはグレイスも軽くは聞いていた。力をためて、地面に木刀を叩きつけるだけだが、地面にヒビが入るほどの威力がある技だ。

 

 始めてみるヴァルドの動きにロイドはピタリと動きを止めて、トンファーを構えなおす。どうやら、下手に攻撃すると痛い目にあうのはわかってるからだろう。

 

 普通なら、その選択は正しい。しかし、ヴァルドはロイドが防御の姿勢をとってるにもかかわらず、ヴァルドは雄叫びをあげながら、木刀を振り下げる。

 それと同時に床が割れる。それだけで終わればよかったのだが、ロイドに風圧と床の破片に襲われ、両手を交差し左足を下げてしまう。

 

 “オーガスラッシュ”は威力を重視した技ではない。どうやら、相手を怯ませる技らしい。

 

 そう、怯ませる技ということは、攻撃はここで終わらない。ヴァルドは一気にロイドまで近づき、胸倉を掴もうと手を伸ばす。しかし、その手が胸倉を掴むことはなかった。

 

 ロイドの胸ぐらに掴もうとした手はトンファーによってはじかれている。そして片方のトンファーはヴァルドの腹を叩いている。

 カウンター気味にはいった一撃はさすがに効いたらしく、ヴァルドは地面に膝をついた。

 

 そこで、喧嘩は終わると思ったが、ヴァルドはあの一撃をくらったにもかかわらず、足を滑らせたとだけと言って立ち上がる。

 ロイドは唖然とした顔でそれを見ている。多分グレイスの“タフすぎ”という思いと一緒なんだろう。

 

 それでもヴァルドの気がすんだらしく、喧嘩は終わったらしい。

 

 それを確認したグレイスは静かに立ち上がり、背伸びをする。「あ~、疲れた」と言いながら、肩を回しながら壁の間から通りにでる。

 

(まぁ、いいもの見れたし…それのお礼って事でちょっとは情報あげようかな)

 

 そう言いながら、彼女は彼等が出てくるであろう場所に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、ちょっと情報あげたら、一日で私がわからなかったとこまで推測してくれて助かったってのが昨日の話し」

 

 グレイスはそこまで言って、少し嬉しそうに笑って言葉を続ける。

 

「さすが、“あの人の弟”って感じかな」

「――あんた、ガイと知り合いなのか?」

 

 カナタは少し驚きながら、質問すると、グレイスはしまったという顔になり、すぐに「ま、いっか」とだけ言ってそれに答えた。

 

「ちょっと新米の頃にお世話になったのよ…って、そうじゃなくて、今はその弟のロイド君の話し。ロイド君って武術の才能あったの?」

「あるかどうかって言われたら…それなりにってのが一番しっくりくるかな。一年しか習ってなかったわけだし。先生はもっと習うべきだとかは言ってたけど」

 

 カナタの言葉にグレイスは納得いかない顔をしている。それを見たカナタはちょっと難しそうな顔をして言葉をつづけた。

 

「多分、アンタが気にしてんのは前のクロスベルに載せた事が嘘だったんじゃないかってことだろうけど。それはない…というかアリオスさんが嘘つくような人には見えんだろ」

「そりゃ、そうだけど…ロイド君があれだけ動ければ何とかなったんじゃないの?」

 

 グレイスの言葉はもっともでもあった。昨日みせたロイドの動き。あれはアリオスには届かずとも、相当の達人のように見えた。

 

「そうだな…簡単に言えば相性があるって話だな」

「相性?」

 

 カナタはグレイスの言葉にコクリと頷き、自分の動力銃と剣をグレイスに見せるように持って口をあける。

 

「たとえばだが、アンタはアリオスさんにこのどっちかを持たせるとしたらどっちを選ぶ?」

「へ?そりゃ“風の剣聖”なんだし、剣でしょ」

 

 いきなり意味のわからない質問にグレイスは答え、カナタはその答えを聞いて「つまり、そういうこと」と言う。が、やっぱりわからない。

 

「わかんないですけど」

「…そうだな。ロイドはどっちかっていうと対人は得意だけど対魔獣の戦闘は嫌いってことだ。後は一対多数も嫌いだろうなアイツ」

 

 その言い方だと少しはわかった。でもやっぱり、わからない。グレイスはカナタは説明が下手ということをこの時初めて理解する。

 

「えっと…つまり、私の相手のデータをとって戦うってのは?」

「…だいたい当たってるよ。対応が早すぎるってアンタの疑問もあってるけど、それはアイツの才能みたいなもんだし…まぁ、アイツの事はここまでしか言えない。後は本人に聞けよ。別に記事とかじゃなかったら言ってくれると思うが」

 

 カナタはそう言って、再び鋭い視線を送る。つまりは記事にするなと言うことだろう。

 

「無名の子を記事にして何の意味あるのよ」

 

 しかし、その視線は呆れたような視線とその言葉によって返される。

 

「でも、ま…真面目なあの性格に戦い方までガイさんと似てないのね。ロイド君」

 

 それはロイドの心境を思ってか、それともガイの変わりになってくれない事への落胆なのか、恐らく前者だろう。グレイスは残念そうにそういう。

 

「かもな……でも、ロイドはガイに似てないってだけで、優秀だ。それに、あの家系特有なのか。まぁ、それは確実に持ってる」

「?…ふ~ん、何それ?」

 

 グレイスの質問に答えようと口をあけたが、カナタはそこでピタリと動きを止める。

 

「…っ、自分で考えろ!」

 

 何が恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしてグレイスの持っている伝票を奪った。

 

「あ、ちょっと!」

「これ以上の情報はやらん。だから自分で払う!」

 

 そう言ってカナタはそのままカウンターに直行した。どうやら、バニングス特有というものは言葉にすると恥ずかしいものらしい。

 しかし、グレイスは何となく何を言おうとしてたのかわかったのか、小さく笑って「それなら安心ね」とだけ言って店を出ていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ロイドの強さを説明してもらったけど、あんまり説明にはなってないデスね

…あれ、オリジナルキャラの強さは?――ナンノコト?(・A・)
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