とある影の物語   作:野良拳

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ep03「黒犬潰し」

 

 

 

 カナタがグレイスの依頼を受けてから二日後の昼。カナタは掲示板を見ながら、遊撃士手帳に何かを書きこんでいた。

 

「おっ、いたいた、カナタ君」

 

 いきなり横から声をかけられたので、カナタは手を止めて横を向く。そこには遊撃士のコンビであるスコットとヴェンツェルが立っている。

 さっき声をかけた方はスコットのほうだろう。ヴェンツェルは何か難しそうな顔をしている。そんな顔で声をかける人でもない…はずだ。

 

「何ですか?」

 

 先輩の遊撃士に手帳を開いたまま話しを聞くのは失礼かと思い、手帳を閉じてポケットに終い二人に体を向ける。

 

「その、なんだ…グレイスという記者がいるだろ」

 

 用があるのはスコットかと思いきや、難しい顔をしているヴェンツェルも用があるらしく、ヴェンツェルの方から声をかけてきた。

 

「??はぁ、いますね。妙な記者が―――って、アイツまさか」

 

 嫌な予感がカナタによぎり、青い顔になる。それを見たスコットは苦笑いで「そのまさかって言えばいいかな」と言っている。それに続けるようにヴェンツェルは眉間にしわを寄せて口を開く。

 

「“例の件、多分今日だから。夜集合”と伝言を頼まれた…カナタ。お前は少しずれた考えがあるが、遊撃士としての誇りがある奴だから心配ないと思うが…」

 

 ヴェンツェルはそこまで言ってカナタに鋭い視線を送る。その視線にヴェンツェルは苦笑いを返すしかない。

 もっと言い方があるだろうと心の中でグレイスに恨みごとを言いながら、スススっとすり足でヴェンツェルの説教から何時でも逃げれる準備をする。

 

「大丈夫よ。その話しは私に通ってるから」

「ミシェル…何だ、それなら心配ないじゃないか。早く言ってくれ。いらない心配をしたぞ」

 

 ヴェンツェルはミシェルの言葉にホッと安心したような息を吐く。その時に今度は違う意味での説教をしはじめそうな空気を感じ、すぐにこの場を去る為に体を返し、

 

「あ、俺そろそろグレイス…さんの所にいかなくちゃいけないので!」

「あ、コラ待て!」

 

 ヴェンツェルの制止の言葉よりも早くカナタはドアをあけて外に出て走って行っていた。

 

「ったく…ミシェル。奴の仕事は本当に大丈夫なのか?」

「まぁね。別に彼が難しい事するわけじゃないし、アリオスも彼が適任って言ってるしね」

「何?アリオスさんが?…なら心配ないか」

 

 ヴェンツェルはそう言ながらも、ぶつぶつとカナタに対して小言を言いながら二階に歩いて行く。スコットはそれをなだめながら後ろからついていった。

 

「…ま、それが彼がいって大丈夫って意味でもないんだけどね」

 

 ミシェルは誰もいないロビーでそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ep03「黒犬潰し」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は経ち。夜の旧市街のとある建物の屋根の上。

 

 そこに支援課のエリィとランディとティオ、そして“テスタメンツ”のヘッドであるワジが立っていた。

 

 何故ロイドはいないのか。というかワジが何故一緒にいるのかとか。そもそもこんな場所に立っている意味を全て説明すると、次のようになる。

 

 三日前、支援課はこの抗争の裏で動いていたルパーチェの暗躍とその理由を二つの不良グループに明かした。

 それで抗争が収まってくれればよかったのだが、両チームのヘッドはルパーチェに“お礼”をすると言いだした。

 もちろんロイド達は慌てて止めようとしたが、ワジの饒舌に逆に飲み込まれ、協力するはめになったのだ。

 

 何でも作戦は囮を放ってルパーチェが出てきた所を抑える。囮捜査のようなものだった。

 その囮を『一般人にやらせるわけにはいかない。自分がやる』と言ったのがロイドだった。

 

 そしてその作戦が今日、この時間に行われてるということだ。

 

「はぁ」

 

 エリィは何故今こんな事になってるかを思い出し、ため息を吐いた。

 

「?どうした、お嬢?具合でも悪いのか?」

 

 ため息を聞いていたのか、ランディからそう声をかけらる。エリィはその問いに対して首を横に振る。

 

「そうじゃないけど…なんていうか、ロイドちょっと無理しすぎじゃない?こんな危険な囮になったり、ヴァルドって人と一人で戦ったり」

「まぁ、な。アイツがお人良すぎんのもあるが…囮は体格的に考えて適役はアイツだ…確かに、ヴァルドの時はさすがに驚いたが、アイツに勝算があったからああ言いだしたんだろ。実際勝ったし、問題ないんじゃねぇか」

 

 ランディの言う通りなため、エリィは「そうだけど」としか言えない。

 その顔は納得していない―――いや納得はしてるんだろうが、自分が何もできない事が悔しいからだとわかってる表情だろう。そう理解しているランディは頭を掻いて口を開く。

 

「…お嬢が気にすることねぇって。アイツは万能ってわけじゃないし、今回はアイツに適任が多かったってだけだ。お嬢にはお嬢しかできない事がるって」

「?それって、どういう――」

「センサーに感知。誰かきました」

 

 ランディの言葉の意味がわからず、質問しようとしたが、今まで黙っていたティオがそう言った事でおしゃべりは終わる。

 

「っと、本当にきやがった」

「ふふ、これで第一条件クリアって所かな」

 

 最初に気づいたのはランディ。その次にワジが黒服の男たちを見つける。それから少しして、エリィもルパーチェの組員を目でとらえる。

 

「あいかわらず、ティオ助の特技はすげぇな」

 

 ランディは本心から感心したようにティオを褒める。ティオの特技の詳しい事はよくわからないが、ランディ達が気づかない距離の動きを感知する事が可能らしい。

 

「…それほどでも―――…?何故、女なのに“助”なんでしょう?」

「いや、語呂がいいし、なんとなく」

 

 ティオのジト目に笑いながらランディは答える。エリィは二度目のため息を吐き、二人に声をかける。

 

「おしゃべりはそこまで。ワジ君も笑ってないで、あっちに連絡入れてくれる?いい加減静かにしないと罠ってばれるわよ」

「ははは、ごめんごめん」

 

 ワジはそう言って、軽く手を振って何処かの誰かに合図を送った。それはつまり作戦の始まりを示していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果としてルパーチェは罠に見事にはまってくれた。ロイドは走りながらそう思っていた。

 

 テスタメンツのメンバーと同じ格好をして歩いていると、後ろから襲われた。が、後ろから襲われることは容易に想像できたロイドは帽子の後頭部に防護クッションをいれていた為に怪我はなく、倒れた演技のおかげでこの場に来ているルパーチェを全員引き出す事にも成功した。

 

 しかし、そこで話しは終わらず、黒服の男たちは逃げて行った。ワジがいきなり『二人ついてきて』と言ってそのまま黒服を追いかける。そのままにするわけにもいかず、エリィを呼びワジの後を追っている最中だったりする。

 

「いた。ルパーチェ」

 

 エリィは走りながら建物の上を指さす。そこには屋根の上にできている道を走っている黒服の男たちがいる。

 それを見たロイドは焦った。このままでは見逃してしまう。応援なんて呼ばれたらひとたまりもない。

 

 何とかして彼を止めるためエリィに銃で撃ってくれと声をかけようとするが、黒服達はそれよりも前に足を止めている。

 彼等の目の前にはワジが立ちはばかっていた。何時の間に?とは思ったが、今はそんな疑問よりワジが作ったこのチャンスを活かす方が先と判断したロイドは走りながら周りを見渡しながら頭をフル回転させる。

 

【ワジの右方向の道を先回り】

【却下、あっちはサーベルバイパーの本拠地。進んで行こうとは思えない】

【左。そちらなら簡単に追い詰めれる】

【賛同。逃げる方から考えてもそれを選ぶ確立が大きい】

 

「エリィ、こっちだ!」

 

 一瞬で頭のなかで状況の整理をし、エリィに声をかけて目的の場所まで急ぐ。エリィはすこし戸惑いながらも、頷いてロイドについて行く。

 

 予想通り、黒服達はこっちに降りてこようとしている。ここまでくれば、もう逃げ場などない。

 

「――そこまでだ」

「ふぅ…振りまわしてくれたわね」

 

 ロイドとエリィはそう言いながら黒服達に近づく。黒服達も舌打ちをするということは、逃げ場がないことはわかっているらしい。

 そして、止めといわんばかりにワジが上からロイド達の方に降りてきて、黒服の男たちに話しかける。

 

「フフ…鬼ごっこは終わりだよ。降参してくれるかな?」

 

 黒服達はその言葉を聞くと、体を小さく震わせて、笑いだし、そして

 

「―――ガキどもが!!調子に乗りやがって!」

「プロを本気にさせた事後悔させてやる!」

 

 そう言い放ち、軍様式の拳銃と鉈のようなものを取り出した。

 どうやら、このまま大人しく捕まってくれる人ではないらしい。ロイドとエリィは武器を構えるが、ワジは余裕そうに口をあける。

 

「フフ、どうやら一戦しなくちゃいけないみたいだね。君たちの援護、期待していいのかな?」

「…そっちこそ、足手まといになるなよ」

 

 ワジとロイドはそう言ってるうちに黒服達は動き出している。

 

「来るわ!」

 

 それにいち早く気づいたエリィは銃の引き金を引いて、攻撃に移る。

 このメンバーで拳銃をもった男に対応できるのは同じ拳銃を持った自分だけ。もし、ロイド達があれに攻撃されたら危険だ。

 そう思ったエリィはまず、拳銃の男を狙う。拳銃の男も同じことを考えてたのか、エリィに向けて引き金を引くモーションに入っていた。

 

 エリィの心に危ないという警報がなるが、ここで止めるわけにもいかないと彼女の中のもう一つの警報が鳴り響く。

 

 そして次の瞬間、二つの銃撃音と一つの金属音が鳴り響く。ロイドは近寄ってくる鉈の男の攻撃を防御しながら急いでエリィの方向を見る。

 そこには傷一つないエリィの姿。そして逆を見ると、手を抑えている銃を持っていた男と地面に転がってる拳銃。

 

「――…さすが!」

 

 ロイドはそう言って、鉈をはじき、敵の空いた腹に打撃を入れた。黒服の男は苦しみながらも、一歩距離を置こうと下がろうとするが、それは叶わない。

 

「ハッ!」

「がっ!」

 

 横からのボディへの蹴り。これは堪えたのか黒服は地面に体を倒す。

 

「て、テメぇら!」

 

 それを見ていた先程、エリィに抑えられた男がナイフを取り出し、こっちに突進してきている。

 ロイドはすぐにワジの前にでて、その一撃をトンファーで丁寧に受ける。それにより男の動きも否応なく止まった。そこに、

 

「エリィ!」

「わかってる!」

 

 ロイドの声にエリィは男の脚に標準を向けて、引き金を放った。それは見事に命中し、男は力なく地面に膝をつく。

 

「…ぐっ…この、ガキどもが!」

 

 そう叫んではいるが、もう立てるはずもなく、これで戦いは終わった。それを見たワジは少し意外そうな顔でロイドに話しかける。

 

「あらら、もっと手こずると思ったけど、やっぱりマフィアといってもレベルが低かったかな?」

 

 その意見にはエリィも同じだった。もっと手こずると思ったが、こんなに早く終わるとは、マフィアも大したことがないのかと思ってしまう。

 

「いや、強くはないけど、そこまで弱い人達じゃなかった…この人達が俺達を甘く見てた事もあるけど、最初にエリィが敵の拳銃をどうにかしてくたおかげだよ。ありがとう、エリィ」

「え…ああ、うん」

 

 一瞬、ロイドのお礼に戸惑ってしまったが、エリィは慌て頷く。そして、作戦前にランディが言っていた事を理解した。『お嬢にはお嬢にしかできないことがある』それの一つがエリィが扱う銃であって、それを使って皆にはできない事を自分がする。そういうことなんだろう。そうエリィは思い、自分の大事な銃を見て少し笑って、その銃をしまう。

 

「さて、これからが厄介だね」

「…そう思うなら、こんな作戦立てないでくれ」

 

 ワジの言葉にそう言いながら倒れている男たちを縄で縛っるロイド。それに気付いたエリィもそれを手伝うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてルパーチェ全員を旧市街の入口に集め、彼等を中心に円状にサーベルバイパ―、支援課、テスタメンツと囲んだ。

 

 これで、彼等を捕まえれれば万事解決なのだが、そうはいかない。彼等はこの場にいる全員ただじゃ済まさないと言って、脅しをかけている。

 最悪そういう事もあり得る為にロイド達は強く言えない。しかし、ワジの『不良に負けたなんて、こんな情けない事お偉いさんには言えないでしょ?』の言葉の反応をみるかぎり、それはないのかもしれないと思いだした。が、やはりそれでも引き下がらない男達。

 

「いや、そろそろ引き時なんじゃない?」

 

 そんな男達に呆れるような声で入ってきた女性の声。その場にいた全員がその声の方向を見る。

 そこにいたのは、先日なんとも失礼な記事を書いてもらった記者、グレイス・リンその人が立っている。そして問答無用に手にもつカメラのシャッターを押した。

 

「て、テメェ!」

 

 黒服の一人がそう叫ぶが、グレイスはそんなの気にしないといった風な笑顔でロイド達に話しかける。

 

「ちょっと君たちの動きを見てたら、いい感じに面白い事してくれてるじゃない。いやー、今回もいい記事がかけそうだわ……でもま、ウチもいろいろあるからね。全部はかけないだろうけど」

 

 そう言って、チラリと地面に膝をついている男たちに視線を向ける。

 

「たかが、新聞社ごとき何時でもルパーチェが――」

「でも、これを記事にされたくわないでしょ?だから取引。これ以上この事に関わらないなら、アンタ達の事は書かないでいてあげる」

 

 グレイスの言葉に男たちは少し考え、スッと立ち上がり、口を開く。

 

「いいだろう。だが、約束を破ったその時は――」

 

 その男は銃を取り出し、グレイスに銃口を向ける。今まで黙って聞いていたロイド達に緊張が走る。

 

「わかってるわよ。でも、アンタ達も気をつけなさいよ?」

 

 しかし、当のグレイスは余裕の笑みをその銃口に向ける。

 

「あ゛?」

「約束も守らない、その一線を越えちゃったら――」

 

 グレイスの言葉と同時に、鋭い金属音が響き、目の前に夜の闇より更に黒い何かが通り過ぎた。

 

 男はそれと同時に持っている銃に違和感を感じ、何だ?と思い銃を見る。すると銃は横に二つに切れ、半分が落ちている地面には綺麗に切られた後のようなものがあった。

 そして、前に向き直ると、いつの間にか、グレイスとの間に軽装の鎧を持った白髪の青年が赤い剣を男に向けて立っている。

 

「…俺達が黙っちゃいないだろうな」

「か、カナタ!?」

 

 いきなり出てきたカナタにロイド達は驚き、ワジとヴァルドは誰?という顔で首を傾ける。

 そして当の黒服達は青い顔になり、全員がカナタを警戒するよに構える。

 

「カナタ?…まさか、遊撃士の“黒犬潰し”の“千影≪せんえい≫”!?クロスベルに来たとは若から聞いてはいたが」

 

 銃を持っていた男がカナタを恐れるように後ずさりしながら、震えた声をだす。

 

「何でって…お前らの悪だくみが俺達の目に留まらないと思ったか?」

「そそ、本当ならアリオスさんが出てくるつもりだったけど、先に支援課が手をつけてるし、保険としてこの子もいれば安心だって言ってね」

 

 カナタの言葉にグレイスが続く。その言葉に支援課四人は更に驚き言葉を失う。

 

「―――また、掌の上、ですか」

「…みたいだな」

 

 ティオとランディはため息のようにそう言った。どうやら、自分たちの行動が予想されていた事が気に入らないらしい。

 

 

「ふ、ふざけんな!テメーみたいな化け物相手にこんなしょぼい仕事やってられるか!!」

 

 マフィア達はカナタを確認するなり、そう叫んでそそくさと旧市街を出て行った。

 

「あははは…やっぱ効果抜群ね。うんうん、アリオスさん程じゃないにしろ、やっぱり恐れられてるね?えっと黒犬潰しだっけ?」

「…うれしくない。あれはほとんど本家が流したデマの噂だ。俺の力じゃない」

 

 二人以外が唖然としている中、二人はそう言って話し合ってる。

 

「お、おいおい。どういうことだ。何で遊撃士がいるんだ?それに“黒犬潰し”って、お前があの“千影”だってか!?」

 

 一番に回復したのはランディだった。しかし、ランディの言葉もおかしい。彼の言葉はまるでその事を知っているかのような言葉。

 

「?…何か知ってるような言い回しだな?」

 

 カナタもそう思ったのか、首を横に傾げ逆に質問する。それに対し、ランディはその質問に答える気はないのか、それとも答える事ができないのか黙ったままカナタから視線をそらす。

 

「はいはい。説明は私がやるから。それより、君たちはどうするの?」

 

 そんなランディを助ける為かどうかわからないが、グレイスは手をパンパンと叩いて二人の会話を止めながら、不良達を見る。

 

「……けっ、新人の遊撃士か。気にいらねぇな。まぁいい…今回の件はここまでだ。お前ら引き上げるぞ!」

「「「「「オッス」」」」」

 

 そう言って先に動いたのは、ヴァルド達サーベルバイパ―だった。そんな彼等を見送った後にワジが口を開いた。

 

「フフ…おつかれさま。君たちの任務もこれで終了かい?」

「あ、ああ…そうだな。元々は、君たちの喧嘩を止めるのが任務だったけど、今後はもうお互い争うことはないんだろ?」

 

 ロイドの言葉に、ワジが本当に不思議そうな顔をしてそれに答える。

 

「え、何言ってるの?」

「へ…」

 

 その言葉に対し、今度はロイドが詰まった声を出す。

 

「マフィアが絡んでいようがいまいが、お互い目ざわりな事は変わりない。今後も争いは続く」

「全員揃っての潰しあいはさすがにやらないだろうけど…普通の喧嘩は続くだろうね」

「な、ちょっと待てくれ!」

 

 その言葉を聞いて、ようやく理解したロイドは慌てて声を出すが、

 

「なんなら君たちも参加する?君たちなら大歓迎さ」

 

 ワジの笑顔とその言葉にガクリと肩を落とすことしかできなかった。

 

「あんまり冗談には聞こえなんだけど」

 

 後ろに立っていたエリィはそういうが、ロイドには彼は本気でそういってるのはわかっていた。

 

「フフ…新人の遊撃士であそこまで怖がられるなんてね。何したんだか気になるけど…今日は十分楽しめたし。良い夢を」

 

 ワジはチラリとカナタを見てそう言った後、体を返し、テスタメンツのメンバーたちに向けて「行くよ」と声をかけた。

 

「…聖戦終了。撤収する」

「「「「ヤー」」」」

 

 そう言って、テスタメンツもゆっくりと帰って行く。

 

 

 

 

 

 そして残る記者一人、遊撃士一人と支援課四人。

 

「すまん…極力出るつもりはなかったが、俺もこの記者の依頼を受けてたんでな」

 

 何か気まずい雰囲気に耐えられず、先にカナタが支援課に向けて謝りだした。

 

「え、いや。そんなの気にしてない。俺達だけじゃ危なかった所だ。感謝するよ…」

 

 ロイドは慌てて、その謝罪に対してそう答える。すっきりしない終わり方ではあるが、ここでカナタのせいにするのは間違いだと、ロイド自身わかっている。

 ただ、気になる言葉があった。“黒犬潰しの千影”…遊撃士には二つ名がつく事があるのは知っている。“風の剣聖”がそれだ。ただ、二つ名にしては、なんというか物騒な感じがするのだ。

 

「はぁ…“黒犬潰し”ってのは俺が準遊撃士の時に関わった事件だよ」

 

 ロイドの気持ちを知ってか、カナタはめんどくさそうに頭を掻いてそう呟く。

 

「―――猟兵団“黒犬”、そこまで大した猟兵団じゃないが弱い猟兵団でもなかった。それが、準遊撃士一人に潰されたってことか?」

「“なかった”、ね……まぁ、俺の知ったことじゃないか」

 

 ランディの言葉に引っ掛かりながら、カナタは片手剣を鞘を納めて、言葉を続ける。

 

「そりゃ嘘だ。確かに俺はその黒犬の件には関わってはいたが、他に正遊撃士が数人いた。俺は運よく―――」

「ま、たとえそれがデマだとしてもマフィアには恐れられてんだからいいじゃない」

 

 話しの最中にグレイスが割り込み、彼の言葉を切る。ロイドは少しの間考えるように目をつぶっていたが、すぐに目を開き口を開く。

 

「――カナタの件については納得しました。協力感謝します」

 

 そういいながら、ロイドの顔はまだ納得いってないものだった。

 

「…“自分たちの力で事件を解決できなかった”って顔ね」

「!?」

 

 ロイドは自分を思ってることを言い当てられ、苦い顔をする。

 

「小さい、小さいわねぇ。必要とあらば、ためらわずに他人の力も借りてより大きな真実を掴みとる…それができてこそ、一人前の捜査官じゃないの?」

「――…」

 

 グレイスの何時になく真面目な言葉にロイドは静かにそれを聞く。そして

 

「――――あなたのお兄さんみたいにな」

「なっ!?」

 

 その言葉にロイドは驚き、支援課の他の三人は意外そうな顔でグレイスを見る。それを見たグレイスはいつも通りの陽気な声を出す。

 

「ふふ、さてと…お姉さんも撤退しようかな。そろそろお肌の年齢が気になる年頃なのよね~」

「……つまり、おばさ――ぐふっ」

 

 何か言いかけたカナタはグレイスによって鳩尾に鉄拳を喰らい、地面に膝をつく。

 

「それじゃあ、お休みなさーい」

 

 そんなカナタをほっといてグレイスはスタスタと旧市街から出て行った。それを唖然として見ているロイドにランディが声をかける。

 

「お前の兄貴…結構、知られてるみたいだな」

「なんだかとても優秀な人だったみたいね?」

 

 ランディに続き、エリィが言葉をかける。

 

「…はは、。押しの強さと行動力だけはピカイチだったみたいだけどね」

 

 ロイドは何処か嬉しそうにそう言っている。その後ろではただ黙ってそのロイドを見るティオがいた。そして――

 

「…お前ら、倒れてる人間ほっといて和やかに話すな――あと、あの馬鹿は直感だけの馬鹿野郎だ」

 

 倒れているカナタは震える声でロイドに文句を言う。

 

「お前は自業自得だろ」

 

 ロイドの言葉に他の三人は頷く。それを見たカナタは「無理やり連れ出されたお礼だからいいんだよ」と愚痴を言いながら、立ち上がる。

 

「アイツはああ言ってたが、俺は今回護衛しかしてない。実際あいつ等を追い詰めたのはお前らだ。だから胸をはていいと思う」

「…はは、お前らしいよ。ありがとう」

 

 カナタの慰めのような言葉にロイドは少し笑って、再びお礼を言う。そして支援課の三人に体を向けて声をかける。

 

「――とにかく任務完了だ。支援課に戻ってセルゲイ課長に報告しよう」

 

 ロイドの言葉に他の三人は頷き、歩き出す。カナタはそれについて行かず、ヒラヒラと手を振る。

 

「俺はここで住んでるし、帰って寝るわ」

「あ、ああ。わかった。じゃあ、またな」

「おう、気をつけて帰れよ」

 

 そう言って、カナタは支援課の歩いて行く姿が見えなくなるまで、その場に立っていた。

 

 そして見えなくなった時に小さく「特務支援課、か」と呟く。

 

 カナタはロイドがその部署に入ってから、少し不安を感じた。ロイドは兄と違って頭がいい。なのに、捜査一課に配属されず、二課でもない新設の部署に配属。

 それは、賭けにひとしいような感じがカナタにはあったのだ。

 

 しかし、今日直接彼等がやっていた事を見て、グレイスの言葉を聞き、その不安は小さくなった。

 

 

(人を守る遊撃士…真実を掴む捜査官、か。悪くはない)

 

 カナタはそう言って、自分の住むボロアパートに帰って行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ――――――――――――――――

 

 

     わがままな王子の友を持って来いと命令された臣下は困りました。

 

     下手な子供で王子と喧嘩してしまうといけない。でも、持っていかなくても怒ってしま

う。

 

     そこでとある臣下は思いつきました。“あれ”を使おう。臣下全員はそれはいい案だと

言いました。

 

 

     そして数日後、王子の目の前に同じ年ぐらいの少年が現れました。そして王子に対し

『は じめまして、貴方のお友達です』そう言って、跪きました。

 

 

    ――絵本『わがまま王と騎士の物語』冒頭より

 

  ――――――――――――――――




 序章を一気に投稿しました。はい、そうです。
 一気ということは序章はここで終わりです。

 次からは1章ということになります。続きが気になる方は今後もよろしくお願いします。
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