なんでみんなアクションゲームしてる中俺だけカードゲームしてるんですかねぇ…… 作:手札事故
――ダンジョン。それは突然世界各地に現れた『洞窟』と呼ばれる空間の穴から入る事のできる異空間の総称である。
中は、まさにファンタジーのような、煉瓦や石で舗装された洞窟のような空間。
本物の洞窟の様に特別入り組んでいるわけでもなく、基本は分かれ道が有りながらの一本道。
その道の最奥にはまた別の洞窟があり、それはまた別の、今度は先ほどよりもさらに手強いダンジョンが待っている……無限回廊の世界、それがダンジョンだ。
その性質や道を変えるダンジョン……普通なら、関わることすら憚れる空間だ……だが、その空間は今や免許を取れば一般人でも関われる空間となっていた。
その理由は、その中にいるある生物……所謂『魔物』と呼ばれる存在が跋扈する。
ゴブリン、コボルト、スライム、ゴーレム、魔人、ワイバーン……種族亜種共に多様に存在する。そして、その魔物を討伐し素材を売買する。
如何様な危険を冒してでも一攫千金を夢見てや、命の危機に身を置く一種の狩人、マタギの様な存在がいた……それこそが『探索者』である!!
―――
とあるダンジョンの中、巨体を誇る緑の人形の魔物……オークと対峙するとある青年の探索者が居た。少し大きめな剣を携え、腰には麻袋を付けて、ボロボロのマントを身に着けていた。
オークはその黒目のない不気味な瞳を探索者へと向ける……そこには、目の前の敵対者に向ける殺意が備えられていた。
対して探索者も、オークに対してじっと目を向けていた……と、思わせてその実オークの方は軽くとしか見ていなかった。
本来、ダンジョンではよほどの理由がなければモンスターから目を離すなんて言うのは自殺行為だ。
目を離した隙に相手がどんな動きをするかわからない……唯の野生動物とは違い、目の前のモンスターは魔法なんて非科学的なものから投石なんて原始的な飛び道具まで使ってくるのだから。
しかし、探索者は目の前のオークよりも重要なものをみていた。それは、その探索者にしか見えない……目の前に写る手札、カード……それを見つめていたのだ。
彼に見えるのは視界の端に面を向けてくる5枚のカード……それらには、それぞれこう書かれていた。
【追撃(サポート):パリィを使用した際に追撃ができる。】
【気合い溜め(サポート):力を溜めてダメージを上げる。】
【追撃(サポート):パリィを使用した際に追撃ができる。
【サーチ(サポート):相手の弱点を見極めてダメージを上げる】
【瞑想(サポート):マナを上昇させる。】
……探索者は、行動前……目の前のカードを選び行動するその間だけ、とんでもない思考力を得る
(……やっべ手札事故った!なんもできねぇ!)
目の前に写る手札と言うのは、探索者自身が今出来る行動の事……今ここで選択したカードに写る行動、結果は、まるでタロットに定められた運命のように何があろうとも必ず実現する。
逆に言えば、《《このカードに書かれていない、今持たない手札に書かれた行動は、例えば探索者がどんな意思をもとうとも実現する事も、行動に起こすこともできない……唯一できるのは、『何もしない』と言う事だけだ。
今、探索者の目に映る手札の中には攻撃は愚か、防御も回避も出来る手札は存在しない……それが何を意味するのか……
「GUAAAAAAAA!!」
今や正に目の前のオークがその丸太のような巨腕を振り上げて、どんな初心者探索者でもまず回避できるような、かつ回避すべきような攻撃にも当たらざるおえないのだ。
「ぐぁァァぁァっっ!!!!」
探索者は丁度土手っ腹にその巨腕によるボディブローを打ち込まれ、地面に少しの痣をつけながら転がる。探索者は顔を上げてオークの次の手を見る。
オークは猛ダッシュで探索者へととどめを刺さんと走り寄ってくる……だが、等の探索者には、その動きがスローに、ほぼ止まって見えていた。
そして、また彼の前に5枚の
【追撃(サポート):パリィを使用した際に追撃ができる。】
【瞑想(サポート):マナを上昇させる。】
【パリィ(ガード):アタックカードと共に使う事で、次に受けるダメージを大幅にカットできる。】
【剣撃(アタック):所持した剣で攻撃を与える。
【瞑想(サポート):マナを上昇させる。】
(っしゃ来たァッ!)
探索者はようやく来た
【剣撃(アタック):所持した剣で攻撃を与える。】
【パリィ(ガード):アタックカードと共に使う事で、次に受けるダメージを大幅にカットできる。】
【追撃(サポート):パリィを使用した際に追撃ができる。】
それらを選択した途端、先ほどまでスローに見えていた動きが等速に戻る。探索者は咄嗟を剣を確りと握りしめて駆け出し、オークへと向かう。
「デリャァッ!!!」
「GIIIIII!!」
探索者はのろいオークの動きよりも早く剣撃を叩き込む……だが、オークも負けじとその拳を探索者へと振り下ろすのだ。……だが、そこで発動する
「ふんっ!」
探索者は剣撃を大きく振るって、オークの拳にうまく当てるとその攻撃を弾いてしまった。
流石のオークの剛力に調節したとは言え、探索者の腕にひねったような痛みが来るが、先ほどのボディブローと比べたらへでもない。
そして、パリィにより生まれたオークの隙に、追撃の選択肢が襲いかかる。
オークは咄嗟に防ごうとするが、オークの防御よりも探索者の切っ先の方が素早い。いくら防御や回避を使おうと無駄である。
追撃の一撃は、オークの腹を大きく切り裂いた!
「GIAAAAAAAAAAA―――――」
オークは断末魔の雄叫びを大きく響かせて、両手を広げながらその場に崩れるように倒れてしまった。
そんなオークと向き合って、癖で両手を合わせて黙祷探索者――名を『イズキ・シュウジ』は、黙祷し終えると、冷や汗をぬぐってため息を漏らす。
「あっぶねぇ……手札事故った時は死ぬかと思った……俺のスキルどうなってんだよ……」
スキル――それは、ダンジョンと言う異空間でのみ使用可能な特殊能力。
どんなスキルかは各々異なるが、たいてい一つの大元のスキルから枝分かれするように様々なスキルを持つことが出来る。
たとえば、剣術や銃撃が伸びるスキルから派生する人もいれば、珍しい所だと魔法なんてものも使えたりする人も希少な訳では無い。珍しい部類ではあれど。
……探索者としては、命綱ともいえるスキル。多くの探索者は、自身のスキルに感謝することはあれど、悲観したり糾弾したりすることはないのだ。
大抵の場合、スキルと言うものはその個人個人の得意や趣味趣向につながるものが選定されるのだから。
そんなイズキのスキルは一体何なのか……スキル名は『手札』。
戦闘行動の度に彼の持つ
……まぁ、その……概要だけ聞けばかなり酷いスキルだ。なにせ、他の探索者がアクションゲームをしてる中で、一人だけカードゲームしてる様な物なのだから。
「ったく……こんなスキルじゃ飯食うのも精一杯だぜ。他の奴らにゃ手札なんて無いみたいだし……あーあ、俺ももっと自由に動きてぇよ。」
そんなふうにぶーたれながら、オークの素材を剥ぎ取ろうと近づくイズキ。だが、当人も気づいていないが、メリットになり得る点が無いこともない。
……それは、手札を使用した選択は何があろうとも、どんな事が起ころうとも必ず起こると言う事だ。
相手に防御や回避に専念されたりすれば、防がれたりはする、しかし攻撃そのものは必ず行われるのだ。
これが、他の……アクションをしている者達との明確な分かれ道。
アクションをする者達は、自由で縦横無尽に戦うことが出来る、手札に縛られることは決して無い。
例えば、剣を振るった時……こんな洞窟の様なダンジョンの中では、剣が壁にぶつかり動きが止まる。その隙間にモンスターに襲われ命を落とす……なんてのはザラだ。
しかし、イズキが……先ほどの剣撃の手札を使い行動した場合。その剣撃は何が何でも行われる。剣が壁にぶつかり止まるなんてことはありえないのだ、ことイズキの手札によって起こされる行動に関しては。
「……ま、パリィやバフや追撃が確定成功なのはありがてぇが……おっ。」
イズキが誰にしているかわからない独り言を漏らしながら、オークの素材をはぎ取っていると、オークの身体が結晶となって消える。
モンスターは撃破後しばらくして消滅してしまうのだ。
普通なら、これ以上モンスターの素材が入手できなくなりガクリと肩を落とすところだが、イズキはこれが少し楽しみだったりもする。
元々オークだった結晶から、光が溢れ出しまたイズキの前に三つの手札を見せつける。
【パリィ(ガード):アタックカードと共に使う事で、次に受けるダメージを大幅にカットできる。】
【ソードブーメラン(アタック):剣を投げてランダムなモンスターにダメージを与える。】
【強撃(アタック):力強い一撃を与え、ダメージと共に相手をスタンさせる。】
「おっ、強撃。瞑想外してコイツ入れるか。」
イズキがそう選択すると、強撃のカードが光となりイズキの中に吸い込まれる。
そして、選ばれなかった二枚のカードは灰となって消えて、同じく外すと宣言された瞑想のカードもイズキの身体から抜け落ちるとともに消滅する。
この様に、モンスターを倒すことでランダムにカードを入手することも出来る。正にデッキ構築型なスキルと言うわけだ。
「ふぅ……さて、そろそろ帰るか。スタン系のカードが手に入っただけでもヨシ!ってね……」
そう言って、イズキはその場を後にするのだった。
イズキ――手札と言う運命に縛られながら、手札と言う運命に護られる男…………彼は果たして、カードバトルの最大の罠であり最大の敵、手札事故に抗えるのか!