「そういえば…シュウジは?シュウジ!どこ!?」
「アンタの彼氏ならほら、あそこよ」
緑色の髪の少女が指差した先には、スヤスヤと寝息を立てているシュウジの姿があった。
夢の中でまた寝ているなんて…幸せな夢でも見ているのだろうか?
二人の口喧嘩くらいでは彼の眠りの妨げにはならないらしい。
「あっ…結構可愛い寝顔…」
「~~っ!やめて!見せつけないでよ!そういうの失礼よ!」
「君、情緒不安定すぎない?」
この少女の刺々しさは自分すら傷つけているようにアマテは感じた。
まるで自分の能力を持て余しているかのような、自重を支えきれないような、不安定なイメージを連想させる。
「うるさい!私は大佐を守れるくらい強くなったのに!アンタなんか嫌いだ!図々しいからっ!」
「きゃっ!なにこれ…!」
アマテは少女から強いプレッシャーを感じると同時に、平穏な世界が戦場に切り替わるかのような浮遊感を覚えた。
あの時、軍警ザクが攻めてきた時のような…。
気が付けばアマテはジークアクスのコクピットに乗り込んでいた。
同時に着ていたハズの制服も白を基調としたパイロットスーツとニット帽になっている。
そして、目の前にいたハズの少女もまた…。
「何アレ…。大きすぎる…!」
それはアマテが知らない兵器だった。
全長は100メートル近くあるだろうか、モビルスーツよりなお大きく、無骨かつ兵器然とした姿をしていた。
機体の色も相まって土か岩から削り出した巨人のような印象をアマテに与えた。
「みんなして私をいじめるんだ…!いけっ!ファンネルたちっ!」
土色の巨人…α・アジールはスカートアーマーから大口径のファンネルを射出した。
このままではまずい…!
「やらなきゃ…やられる!」
ジークアクスのオメガ・サイコミュがアマテの意思に反応しロックが外れる。
ボルトの拘束が外れ仮面のようなV字アンテナが展開し、新たにメインカメラとツインアイが起動した。
「墜ちてよ!」
「こんのぉーーー!」
ジークアクスは有機的な動きでファンネルのビームを紙一重で回避していく。
しかしジークアクスには現在ヒートアックス以外の装備がない。
このままではジリ貧、反撃は絶望的である。
「それなら!」
アマテは初めてジークアクスと赤いガンダムが戦闘している場面を思い出した。
あの時ジークアクスのパイロットはファンネルにどう対処していたか?
「とりゃあっ!」
ファンネルにファンネルを激突させてしまえばいい。
デブリを蹴って加速、ファンネルを無理やり掴んだジークアクスは勢いのままファンネルを投げ飛ばした。
まとめて二つのファンネルが火花と化して空に消えた。
「そんな男の子みたいに乱暴な動きで!」
α・アジールのメガ粒子砲がジークアクスを狙う。
しかしジークアクスはファンネルとデブリを盾にメガ粒子砲を回避した。
「うおおぉぉぉぉっ!」
ヒートアックスがα・アジールのメインカメラを狙う!
「来るなーー!」
腕部に該当する有線式メガアームがヒートアックスと激突しビーム砲が破損する。
α・アジールのバルカン砲が苦し紛れにばら撒かれるが、冷静さを欠いた砲撃は自身のファンネルを盾にしたジークアクスに防がれた。
「それなら…!」
クェスは無事な有線式メガ・アーム砲を射出した。
その狙いは砲撃でジークアクスを撃墜することではない。
「くうっ!」
ジークアクスの脚部をアーム砲のワイヤーが捕えていた。
ヒートアックスで断ち切ろうにも常にアーム砲を動かすことでジークアクスの動きは阻害されている。
「やっちゃえ!ファンネル!」
ビーム砲がジークアクスのコクピットを狙おうとしたその刹那!
ーさせないわー
「誰っ!?」
「いやな女…!」
突如として何者かがワイヤーを狙い撃ち、ファンネルを破壊した。
ファンネルを破壊したその正体はヒョウタンのような形をしたビットだった。
それはアマテが赤いガンダムを初めて見たとき装備されていたものと瓜二つだった。
「シュウジのビット…?」
「邪魔しないでよ!私はあんたの身代わりなんかじゃない!ガンダムを倒して証明してやるんだから!」
ーアマテ…そのビットをあなたに貸すわー
「よくわかんないけど…なんか分かった!」
アマテはその兵器を知らなかったが、それはさしたる問題ではない。
ジークアクスに初めて乗った時と同じだ…私が望めば、世界が応えてくれる!
「どうしてアンタがビットを使えるのよっ!」
アマテは初めて使うはずのビットを使いこなしていた。
ファンネルとビットの撃ち落とし合いと同時にジークアクスは宙を駆ける。
「おおおりゃああーーー!」
速度を乗せたヒートアックスがα・アジールのコクピットの下…首を斬り飛ばした。
「…負けちゃった」
いつの間にか二人は最初の場所に立っていた。
モビルスーツもなく、服も制服に戻っていた。
ただ、少しだけアマテはこの少女を理解できた気がした。
「君のことはよくわかんないけどさ、シャア・アズナブルじゃなくっても君を見てくれる人はいなかったの?」
「いたわ…でも私が拒絶しちゃったの」
「そっか…」
二人は先ほどまでの気迫が嘘のように穏やかに話し合っていた。
「バカよね私…図々しい子供は私のほうだった。こんなんだからみんな離れていっちゃうんだ…」
「君くらいの年ならフツーだよ。私なんてこの間モビルスーツ盗んだよ?」
「さすがに引くわ…」
「ちょっと!」
殴り合いで友情が深まるなんて男の子だけだと思っていたが、二人は少し距離が縮まったように感じていた。
「ねえ…もしあなたの世界で生まれてたら私、あなたの友達になれたかな…?」
「なれるよ。もうなってる。もう友達だよ」
「そっか」
緑色の髪の少女は嬉しそうに笑った。
「でもあなたは自分の世界にもどらなきゃ…もし会えたらまた遊ぼうね!」
「ちょっと待って!まだ私、あなたの名前聞いてない…!」
「おはようマチュ」
「おわっ!?」
一足先に起きていたシュウジはアマテが起きるのを待っていた。
ヤバい…!寝顔見られた…変な顔してなかったかな…?
「どうだった?キラキラは見れた?」
「うん…アレは、確かにキラキラしてたよ」
アマテはあの少女を忘れないよう強く思い返した。
「シャア…お前一度クェスに殴られた方がいいぞ」
「私もそう思います」
「ぬう…そうか」
続く