いいこ・ざ・ろっく()   作:茶蕎麦

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 急ぎ書いてみました☆ルート……やっぱりこっちのほうがシリアスさん近いですね!
 ただ、結局こっちの方がぎゃぐさんに結果的になる予定ではあり……難しいですー。

 また、ちょこっといい子ちゃんの正体がぽろりする回ではありますー。

 もし何か反応いただけたら続き頑張りますね!


☆ルート第四話 妖怪とライオン

 地べたに走る光の数々に満足するほどあたしは大人じゃなければ、高みのほうが好き。

 でも黒黒とした都会の空には星がちっとも見えず、奈落が浮かんでいるみたいな心地だ。

 ただ、それでも高層建築物の合間から伺える吸い込まれそうになるくらいの暗黒って意外と気持ちを浮かべるのに丁度良かったりする。

 

 今なら面倒くさいなあ、って嫌気をそこにぼーんとしちゃえばいい。そうすれば後はやることやって寝るだけの現実が待ってるだけ。

 お約束のレッスンを酒呑みでぶっちしたおねーさんを取っ捕まえてやろうと燃えてたあたしは、ひとまずおっきく息を吐いて落ち着くことにした。

 

「ぷわー。夜の空気ってやっぱおもろいねえ」

 

 酒の匂いっていうか、濃い味の飯の匂いが鼻を突く夜の街をとことこ歩くあたしは、現状ノット制服ガール。

 結構シックなの着込んでるけど補導されるのはちょっと怖いなあ、と思いながらも下町飲み屋街をうろついてる。

 

「んー。きくりさん金欠継続中だしなるべくボロいとこかなあ? ってもどこも旧いっちゃふるいよねー」

 

 覗かずとも、感覚にて見つけようとあの酒浸りの臭いを酒類の聖地みたいな場所にてあたしはくんくん。

 前にきくりは新宿ゴールデン街を探せば見つかる生き物なのよと銀ちゃん(FOLTの店長)に教わっていることもあり、ただいま初捕獲刊行中。

 せんべろってなんじゃらほいとしながらも、あたしはお上りさん感を出さないようキョロキョロはしない。

 いや、あたしみたいな美少女さんが目立たないって無理だけどそこに昔のひとりちゃんみたいな突飛行動も足しちゃえば通報一直線なのは分かりきってる。

 

「おえー……」

「おう……」

 

 だから道端でゲロゲロしちゃってる女の人とか見かけても直ぐに寄っちゃダメだよねと自戒。

 いや本当なら辛いだろうし背中擦ってあげたくなっちゃうんだけど、夜の街は魔境って聞いたこともある。

 あれが誘いゲロで実はいやんなことを狙ってたり、或いは弱ったふりしたスリなのかもしれない。

 

「ごめんよ、キミー……ひっく。随分かけちゃったねえ」

「あー、大丈夫です?」

 

 そんな風に理性的な頭は思うのだけれど体は勝手に動いて、そのスカジャン姉さんの元へと脚は伸びてく。

 普通はゲロゲロに近寄りたくなんてないし、そもそもしこたまもんじゃ風にした電柱になんか謝ってる人間なんて前後不覚に決まってるし、面倒だ。

 でも、そんなのを好き好んで関わってしまうからこそあたしであって、だからいい子ちゃんって言われちゃうんだろうなとは分かってた。

 

 あたしは、小さく声掛け。吐瀉物って皆どう片付けてるのか分からず、とにかくこの女の人を汚いのから離さないとと意識の有無を尋ねてみた。

 しかし、そこであれと気づくあたし。ちょっと暗くって酒の匂いたっぷりでなんかゲロゲロな臭いプンプンですらあるけど、ほのかに匂うこの妖怪みたいなニオイは。

 

 首を傾げたあたしに、そのおねーさんは口の端にゲロゲロを一筋残した赤ら顔を向けて正体を表すのだった。

 

「うえい?」

「わあ。きくりさん」

 

 そう。それは年がら年中キャミと下駄スタイルな酒浸りのダメな大人のおねーさん。

 そして、我らが師匠インディーズバンド「SICK HACK」のリーダー廣井きくり。

 なんか今は酒の限界付近でふらふらしているのかちょっとぽやぽやだけれど、実際はとんでもない天才。ベーシストとしてもボーカルとしても輝く一等星だった。

 

「よよ? いーこちゃんじゃない。あれ、キミって分身とか出来たの? なんだか四つ子くらいに見えるよー」

「わあ。酒に飲まれるってこういうことなんだねー。ねえきくりさん、この指何本だと思う?」

「えっとー……七本!」

「うーん。正解はグー出してただけなんだけど……これは相当酔ってるねえ。ほら、ほっぺ汚れてる」

「うむう……」

 

 何時もよりマシマシでとっても愉快なきくりさん。あたしはそのほっぺのもちもちを台無しにしてるゲロゲロをハンカチで拭いてあげる。

 いいようにやられてる子供のようで愛らしいけれど、実際この人は殆ど妖怪みたいなもの。

 ぶっちゃけ放ってこのまま置いといても多分翌日頭痛いとか言いながら向かい酒しつつケロッとふらっとどこぞに出没するのだ。

 

 全く、こんな人を師匠として時に音楽のバイトをして貰っているあたしは、正直アホだと思う。

 でもまあ、あの子の隣の星になるために手段なんて選んでいられなければ、狂っていたほうが世の中楽しいことだってあった。

 

「ほら、ぎゅー」

「おう、いーこちゃん手あったかいねえ。わらし、体温低くてさー。ぬくぬくー」

「で。その反対の手に持ったおにころは預かるね」

「わー! 私の酒ー! いーこちゃん本当は冷たいよ、この鬼!」

「はいはい。鬼のあたしよりきくりさんはいい子だから、お酒はお家まで我慢してね。そう……私は、大丈夫だから」

「うー」

 

 おてて握って、ぐずった様子だけれどこれで取り敢えずきくりさんゲット。

 しかし今の彼女の身なりにどうしたって足りないものがあるのに、あたしは一言申さずにはいられない。

 今更ながらちょっとゲロゲロかかったワンピースの端を確認してばっちーとかやってるけれど、実際この問いは彼女にとって何よりも必要なものかもしれないのだ。

 あたしは首をかしげる。

 

「それでねえ、きくりさん、スーパーウルトラ酒呑童子EX君はどこにやったの?」

「……あれ?」

 

 廣井きくりのトレードマーク。その身には大きすぎるのではというような立派なベース。

 そんなものを失った状態だからこそ、あたしも彼女を彼女と認識できなかったところはあった。

 いや、この人からあの子を取ったら本当にただの酒飲み妖怪だよ。

 

「えへへー……わらし、どこやったっけ?」

「わあ」

 

 可愛らしくあたしに首を傾げる25歳。十歳違いのおねえさんがこんなにダメダメだと、まるでこの都会の空のように未来は暗いと思っちゃうけれど、違うよね。

 未来が分かんないほど色々可能性入り混じっちゃってるとこの世を礼賛するほうがきっと楽しくて明るい。

 そして、ビッグにだってなれたろうにただ隣人のための太陽を続けてるこの人の為になるのだって、あたしは好きで。

 

 ため息はいらない。手は繋いだまま真っ直ぐ前を向いて。

 

「きくりさん、探そうか」

「分かった! よーし、れっつごー!」

「あ、きくりさんそっちは壁」

「ひでぶ!」

 

 ただ、今夜も前途は多難。おねーさんの唐突な壁抜けチャレンジなんてお茶目を前に、あたしもにっこり。

 とはいえ愛されてる彼女の酒呑童子EX君は雑に扱われてる筈もないだろうという安堵の心もあるから、焦りも特になく。

 

「ま、これでいいなら、あたしも大丈夫でしょ」

 

 また私にとって、きくりさんは、そんな風に悪い鏡を見つめて安心するのと同じような効果もあるのだった。

 

 

 

 

 さて。そんな夜の次の朝。

 あたしには見えないおばけさん達に助けて貰いながらキレイキレイにして寝かしてあげたきくりさんは、連休だからと事情連絡後に動画見ながら一徹してたあたしの存在を自らの賃貸にて発見し、仰天。

 事の次第、ボーカル講師のすっぽかしに飲み過ぎ、その上命とも言えるベースの紛失騒動まであったと聞けば、迎え酒も控えめとなるもの。

 曰く幸せスパイルを決めきれていないきくりさんは、酷く申し訳なさそうにあたしの前で手を合わせるのだった。

 

「うう……いーこちゃん。ほんっと、ごめんよー……私ったら昨日は随分やらかしちゃったみたいで……」

「んーん。あたしは別に気にしてないよ、きくりさん。確かにちょっと面倒だったけど、それだけだし」

「うー……いーこちゃんは眩しい! おねーさん浄化されそう! ぐびっ」

「言いながらおにころは飲むんだね……まあ、あたしとしてはむしろきくりさんはダメダメな方が安心できちゃうかも」

 

 酒は百薬の長らしいけれど、薬もすぎれば毒になるっていうからまあ、そういうことだよね。

 あたしはその弱さから酒に浸るしかない彼女をしかし、否定しない。

 天才である、妖怪的なこの世に当てはまらない、つまりハミダシモノ。廣井きくりはそういうものであって、それは私のある種反対側にあるお手本でもある。

 

「えっと……どういうことかな?」

「その方が可愛いから」

「っ! いーこちゃんはホント上手いねー! おねーさんにそんなこと言って、何して欲しいのかって……」

「ん」

「わ」

 

 そして、あたしは違うからこそ嫌えないという面倒な生き物であり、そして本当は怪我してほしくないから誰にも何もしてほしくないけれど。

 でもそれって全然いい子じゃない勝手だよねとも識っているから、こんな妖怪さんに懐いてしまうんだ。

 あたしは荒れた畳に座るきくりさんに寄っかかって肩をかりる。力なく、反発もないこの頼りなさが、あたしには本当に心地よい。

 

「ど、どうしたのさ。急に私なんかに甘えて……いーこちゃん?」

「ねえ、きくりさん」

「……なに、いーこちゃん」

 

 きくりさんの世話に甲斐甲斐しくなるのも、それは当然。ここはあたしの居場所じゃなくて、でもだからこそ守ってあげたくなるから。

 

――――キミって、星に手を伸ばすため限界まで縮こまったライオンみたいだね。

 

 この妖怪じみたセンスの塊は初対面にてあたしをそう見抜いた。

 そしてきくりさんのそんな台詞を腑に落として、誰より動物的に優れちゃってるあたしは故に加減が分からないから全てを優しく愛するしかなくって。

 

「この世があたしたちが全力になっても壊れないものだったら良かったのにね」

「……そう、かもね」

 

 こんな本音だって、こんなどうしようもない人にしか言えない。

 きくりさんが撫でる手は酷くぎこちなくて、でも優しかった。

 

 

 ああ、あたしは星じゃなくて、でも何時かはこの爪でも()()()()()()()に届かせる。

 そう瞳の裏の暗黒の空に夢を見続けているのだ。

 

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