いいこ・ざ・ろっく()   作:茶蕎麦

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 こそりこそりと書いていました……評価お気に入り、そしてその結果日刊ランキング入れていただけてありがとうございましたー!

 今回はやっとぎゃぐというよりシリアスさんめなお話。
 書いていて改めてぼっち・ざ・ろっくのキャラの素敵さを感じられましたー。
 少しでも、今回メインの虹夏さんにリョウさんの良さを皆様にも覚えていただますと嬉しいです!


★ルート第七話 音の始まり

 妙に当たりが出やすい気がしている自動販売機の隣にて、缶の中身を呷りながら友達と二人。しかし安堵の気持ちまでとはいかないもの。 

 ぱたぱたと走らない程度に廊下を急ぐ一個下の子に、反して三人組の先輩たちはうるさく渡り廊下の一部に屯している。

 それら全てを見つめながら小から大までの等級に関係なく学校とはそこそこ騒がしいところだと、伊地知虹夏は思う。

 

 程度の差こそあれども下北沢高校なんてちょっとした進学校だろうがうるさいのは一緒だった。

 少しガラの悪い人も来るライブハウスを家にしているから忘れがちだが、別に学力と騒々しさが比例するという訳でもなさそうだ。

 そう、隣に居る手の中のジュース缶を意味深に見つめながら多分特に何も深い思索はない(実際残ったナタデココごとどう飲むかしか考えていない)山田リョウを見ながら彼女は考える。

 今日は一本も当たらなかったなあと残念に見慣れた自販機を一度見上げ、虹夏は次に昨日の楽しさの方を思い出してこう呟くのだった。

 

「いやー。昨日はホント楽しかったねえ。まさかリョウが打ち上げまで付き合ってくれるとは思わなかったよ」

「うん。ちょっと気になることがあったから」

「あーそれって、井伊ちゃんのこと?」

「そう……いいこは少しミステリアス」

「あははー。ミステリアスな子って初対面で地元の美味しいラーメントークからはじめたりするかなー?」

「いいこが教えてくれたところ、値段も安いらしいし楽しみ」

 

 昨日のファミレスでの一幕を思い出してケラケラと笑う、虹夏。そして思わぬお得情報入手に内心ホクホクとした様子のリョウ。

 まさかの初手ラーメンマ●プアプリの映ったスマートフォンを差し出しての後輩の自己紹介。

 無駄にあるらしき語彙力を駆使して力強く地元ラーメンの魅力を語った井伊直子のせいで、改めての自己紹介の度にオススメラーメン店を語る流れになったのは、愉快な誤算だったと彼女らは思う。

 しかし、お陰でラーメンの口になってしまい出てきたたらこスパになんか違うなあ、となってしまったのは残念だったとも虹夏は考えたりもするが。

 

 ナタデココジュースを最終的に振ってから飲むことにしたらしいリョウは左右に缶を動かしながらこう続けた。

 

「でも本当に、分かりやすい郁代と違っていいこはよく分からない」

「うーん……まあ、確かにちょっとふざけ過ぎなところはあるけどさー。なにか隠すためって訳でもないんじゃない?」

「……いいこは多分、殆どふざけてないよ」

「え? なら動物に好かれないトークからとんぶりやじゅんさいを食べに旅行した秋田でクマに襲われたけれど最終的に熊の手を雑巾絞りみたいにしたら痛みに逃げてった、ってホラもふざけてなかったってこと?」

「まあ、それは流石に私も嘘だとは思う」

 

 どこまでが虚実か判断つかず首を傾げるリョウに対して、しかし虹夏は大体が冗談でしょと肯定で返す。

 ましてや、森の中熊さんとそれこそグラップラーしていた経験なんて聞いていれば尚更に。

 結果、直子が語った貴重過ぎる実体験の殆どは哀れにも、うそっことされた。

 

 ゴクリと飲み込めたナタデココ。水分の残量足りず、喉に引っかかったような感を最後に覚えてしまったのが、残念。

 違和感残る喉元にこれなら今自販機に当たりがあったら気にせずもう一本飲んで解消できるのに、と万年金欠気味な彼女は思う。

 

 まああの子が変に話を盛る場合があるのは間違いないだろうけれどでも、と改めてリョウは呟いた。

 

「目を見れば分かるよ。いいこ、ずっと頑張ってた」

「ふーん……それはリョウだから分かったのかな?」

 

 目を見て通じ合う仲。そんなの理想的であり、なんともリョウが名付けた我々のバンド名である【結束バンド】に相応しいものではある。

 しかしそれが、あたしとリョウじゃなくて初対面の井伊ちゃんとリョウで起きているのは不思議だなあ、と虹夏は首をかしげる。

 

「そうだね……」

 

 途端に流れを歪めるサイドテール。目に慣れた金に近い黄色の流れを横目に、リョウはしばらく考えた。

 本来ならば、本心を語るのは少し恥ずかしい。けれども、そのために【結束バンド】に悪い影響を与えるほうが望ましくなさそうだった。

 ただやはり直接的に語るのは気が咎めるので少し婉曲した言い方でリョウは続ける。

 

「私が一匹狼だとしたら、いいこは狼に育てられたライオン」

「ええと……あたしにはそれだけじゃちょっとよく分かんないぞー? その心は?」

「簡単だよ。同じ群れから逸脱した存在だけれど、いいこは群れから決して出ない」

 

 きっと似合わないのに教わった狩りの方法ばかりをずっと繰り返してるんだろうね、と他人事のようにリョウは口にするが、実際表情から忸怩たるものが少なからず漏れてはいた。

 リョウはクールと言うか不器用で表情変えるのが苦手なだけだよねと考えている虹夏は、友達のそんな陰りに察すること多分。

 一緒で違うなら、と優しい彼女はこう問った。

 

「そっか。井伊ちゃんって皆と仲良しじゃないと不安になっちゃうリョウなんだね」

「……そうかも」

 

 それが必死なあの子を見て心配になってしまう原因なのかと、ようやくリョウも合点をいかせるのだった。

 

 実は初対面から口が軽いと発しながら何一つ本音を語らずに、むしろこちらの喜ぶことばかりを察して動く直子の様子をそれとはなしにリョウは観察している。

 

 見目は正直なところドラム缶に自ら喩えてしまうのも頷ける胸元の虚しさを除けば、満点に近いだろう。

 緑の長髪から覗く瞳の怜悧なところは本性に近いのだろうが、それにしたって身長もあり黙っていれば中々のクールビューティーに映る(口を開けば全てが台無しだが)。

 

 そんなどこぞの芸能事務所に写真撮って売り込みプロデュースすることで金銭得られるんじゃ、なルックスを持った直子だが当の本人が全くそれを活かそうとしていないようだ。

 いや、その肌艶を見るに薄い化粧すらしているのかもしれないが、本人がやたらと三枚目で居たがる。

 笑顔のために皆の一個下へ。底にたどり着いたところで穴掘ってすら潜りたがるところなんて、最早ライオンどころかモグラだ。

 しかしそれを、実際ライオンのような少女が喜んでやっているのだから、今ひとつリョウには笑えない。

 

 頑張っているのは認められる。だが、それは果たして正しい努力なのだろうかと、己の牙を何より大事にする狼は思う。

 

「井伊ちゃんのこと、リョウは認められない?」

「それは……」

 

 その言に更に、リョウは深く己の内を探る。

 決して静寂に包まれているわけではない、校内。

 しかしこうして向けられた虹夏の優しい表情を受け取ってしまえば、他は見えない考えられない。

 

 結論は存外すぐに出た。でも、どうすればトゲのない言い方となるのかと迷うリョウに、微笑みながら虹夏はこう告げる。

 

「ここに居るのあたしたちだけだし本当のこと、言っていいよ」

「……今のところは、認められないかな」

 

 言いながら先輩としてどうかなとは考えるが、しかし本心としてはやっと言語化出来てすっきりしているのだから仕方ない。

 そう、あの優れている所を隠して一般化を必死に図ろうとしている後輩の有り様が、どうしても彼女には気に食わなかった。

 

 山田リョウという少女は、自分らしさというものを軸として生きている存在である。

 それは時に牙となり他者を傷つけることも是としてしまう可能性すら孕んでいるが、生来の性格からのらりくらりとこれまで彼女はそんな機会の殆どを躱し踏み越え続けていた。

 そんなリョウから言わせてみれば、恐らく直子が考えているだろう自我を貫き通すことによる険の発生は殆ど杞憂である。

 

 たとえばリョウの場合先バンドの解散の遠因が自分の狭量だと理解はしていても、己の道を信じ切れれば迷惑をかけたことだって間違いないのだと次のステップを踏めた。

 何より、挑まないことこそ勿体ないと、隣で直子のその自分よりデカくてだからこそ普通を居場所にしたら窮屈になってしまうのだろう牙を見た彼女は、思うのだ。

 

 そして何時かは、私みたいにもう頑張らなくていいのに、と言ってあげたいなとリョウは考え至るのだった。

 

「ふふ。そっか。今のところは、かー」

「虹夏?」

 

 虹夏の含み笑いによって、そんな理想から空の缶を何時までも握って下を向いていたちょっと間抜けな現状に戻ったリョウ。

 ぱっと、空き缶を分別ゴミ箱に正しく棄ててから、スチールの少し重めな音を耳にしつつ彼女は笑顔に問った。

 すると表情笑みに輝かせたまま、虹夏は友達の結論にはなまるをつけてこう断言するのである。

 

「ならリョウは井伊ちゃんに変わって欲しくって、それに期待しているってことだよね。いいことじゃん!」

「あ……」

 

 まるで天使の神託を聞いたかのように、これっぽっちも思いも寄らなかった虹夏の優しい言葉に彼女はぽかんとする。

 どうしてこの子に光輪の輪っかがないのだろうと今更ながら不思議がるリョウ。

 驚きに二の句を告げれない彼女に、虹夏は指先を頬に当て、こういたずらっぽく続けた。

 

「勿論さ。リョウの期待した通りにならない可能性もあるし、そもそもあたしは今の井伊ちゃんだっていいと思うよ? でも、実際それでもそんだけしか気になるところがないならさ」

 

 実際は他に気になるところがない、とは違うかもしれない。

 だがそこさえ直してくれれば、と心より思えてならないなら、或いは似たようなものか。

 当の後輩みたいにふざけた茶々を入れることもなく黙し考えて先を促すリョウに、虹夏は。

 

「多分、リョウと井伊ちゃんの相性って相当良いんだと思うよ」

 

 そんな断言をして、きらりと三角アホ毛を揺らすのだった。

 

 思わぬ言葉の連続に、リョウは頭を傾げてカランと音を立てるけれど。

 

「そうかな?」

「そうそう!」

「うん……」

 

 満面の笑顔で頷かれてしまえば、そもそもあまり考えるのに向いていない彼女はそうなのかもしれないなと思うようになり。

 そして、ならば同じ音楽を志すものとして、私は一つ教えてあげられることがあるな、とリョウは気づく。

 優しい彼女にあてられたのは間違いないが、それでも似て非なる嫌いになれない後輩のためならと、ココだけの話として少女は小さく呟く。

 

「そう、私はいいこのために、あの子と一緒に彼女の音楽を探してあげたくなっているのかもね」

「おおっ、それってめっちゃ先輩らしくって格好いいよー。あたしも手伝うね!」

「ふふ」

 

 それに諸手を上げて賛同してくれる友達。こんな素敵な我がバンドのドラマーが景気よく今を賑わしてくれるのだからリョウも楽しくなり口角をついつい上げてしまう。

 

 一人ぼっちでバンドは出来ない。だから他人が必要なのは違いなかった。そして【結束バンド】に虹夏は必要だ。

 とはいえ、自分が今彼女の隣に居るのはただ友達だからというそれだけであり、音楽性の一致はその後に付いてくるものでしかない。

 

 改めて聞いてみれば校内で耳に入る大体は、自分たちのもののように友誼によるざわめきばかりだ。

 うるさいのは、黙っていられないくらい楽しいから。もしそれが音の始まりだとしたら、なるほど学校だけでなくこの世は中々幸せなものなのかもしれなくて。

 

「ありがとう」

 

 だから気恥ずかしさに大きくならないこんな小さな本音にだって。

 

「どーいたしまして!」

 

 こんなに元気な返事が返ってきてくれたのはリョウにはとても嬉しかった。

 

 

 

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