空崎ヒナは幸せでなければならない   作:rilu

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私はマコトのことをデデデ大王ならぬキキキ議長と認識している節がある。
うーんこれはエアプマコト。
あ、お気に入りが220件を突破しました。ありがとうございます。なんで200件じゃないかって?休んでる期間に突破したから祝うタイミング逃しちゃった。

ヒナちゃんメイン回です。



顔も姿も知らないけど

 

先生がここを出発してからしばらく。

補佐官が居なくなっても仕事は増える。

 

目の前の書類は普段と変わらない量だし、問題児の報告もひっきりなしだ。

…ただ、頭の中の響く声は無い。

打てば響くような会話はできないし、休もうと思って交代することもできない。

 

「委員長、大丈夫ですか?参っているようですし休みをとっても…」

「大丈夫よアコ。それに最近休みを多くもらっていたし、これ以上休めないわ」

 

書類が無くならない。いつもだったらこのぐらいすぐに終わったのに…

いや、甘えてなんていられない。みんなはこれぐらい1人で片付けていたんだ。

私だってやらないといけない。

アコや周りの風紀委員が筆を走らせる音が部屋に響く。お姉ちゃんが居れば代わってくれたんだろうけど…

 

そんな中、一報が入る。

便利屋68が市街地で起こったゴタゴタを鎮圧し、その後に逃亡したという。

騒動を片付けてくれたのは助かるが、それはそれとして指名手配犯をみすみす見逃すわけにはいかない。

 

「私は鎮圧に向かうわ。アコは周辺の地形情報を送っておいて」

「あ…はい。気をつけてください」

 

車を出す…いや、距離を考えるなら走ればいいだろう。

道は混んでいるのでビルの上まで跳んで、飛んで、パルクールのように進んでいく。

 

しばらくすると部下たちが今回の下手人…便利屋じゃない方を捕縛している場面を見ることができた。状況を見た感じ、まだ遠くまで逃げきれていないだろう。

 

しばらく上から探索をしていると、特徴的な格好の4人組。

 

「見つけたわ、便利屋68」

 

ビルから飛び降りながら威嚇射撃も兼ねてデストロイヤーを連射する。

 

着地して便利屋を見つめてみる。

 

「ひ、ひぃぃ!風紀委員長に見つかっちゃったわよ!?どうするのよ!」

「大丈夫ですかアル様!?よくもアル様を…!」

 

なんとまぁ…騒がしい連中ですこと。でも今はその騒がしさが少し羨ましく感じる。

 

「大人しく投降してくれると助かるのだけど」

「するわけないじゃない!それとこれとは話が別よ!」

「くふふ…やっぱりそういうところはさすがだねぇ、アルちゃん」

 

「そう、だったら」

 

デストロイヤーの調子を確認する。返ってきたのは好調の返答。

 

「無理矢理にも捕縛するのみ」

「来るわよ!」

 

 


 

風紀委員長と便利屋、先に仕掛けたのは便利屋であった。

社長、陸八魔アルが銃弾を放つ。ヒナは即座に横っ跳びをして避け、銃撃。周囲のゴミ箱や車を吹き飛ばしながら進むそれをハルカはいなしながら突っ込む。

 

「よ、よくもアル様を…死んでください死んでください!」

「っ!」

 

突っ込んでくるとは思わなかったのか一瞬驚いた表情を見せるも、腰のリボルバーが入ったホルスターに手を伸ばす。

…無い。

 

「ここからなら…!」

「まずっ」

 

ハルカのブローアウェイは直撃。衝撃でよろけるもすぐに体勢を立て直し、カウンター気味に銃撃を放つ。

 

激しさを増す戦闘の傍ら、カヨコはあることに気づく。

 

(おかしい…普段だったらあの場面、腰にあるリボルバーで反撃していたはず。それにハルカの突撃にも一瞬反応しきれていなかった)

 

疑念を確信へと変えるため、カヨコは一つの提案をする。

 

「社長、私は一度横に回る」

「何か策があるのね!分かった。ムツキ、爆撃を!」

「おっけーアルちゃん!いっくよー!」

 

ハルカは一度吹き飛ばされて気絶しているが、しばらくすれば復活するだろうと当たりをつける。

 

ムツキが投げた爆薬入りのバッグは目眩しに。爆発で煙を巻き上げ、カヨコが横に向かう時間を稼ぐ。

爆発ダメージが与えられるとは考えていない。今はカヨコの思いつきを実行させるために。

 

「くっ、次は爆は______」

 

瓦礫に身を潜めたカヨコはヒナに向けてデモンズロアの引き金を引く。その銃弾はヒナの頭に当たるも、大したダメージにはならなかった。

しかしカヨコの目的はそれではない。確かに彼女の疑念は今、確信へと変わる。

 

(あの異次元の予測と勘は無くなっている!これだったら狙撃ができる!)

 

…ヒナのあの異常な回避や場所の特定、反撃。それらは現在何かしらの事情でできないということを。

轟音とともに煙を切り裂き迫る銃弾を間一髪で躱す。辺りの煙が晴れたことを確認したカヨコはハンドサインで便利屋たちに指示を飛ばす。

 

カヨコのしたいことを理解したメンバーはそれぞれの位置へ移動し始めた。

 

「そこ」

 

カヨコを追って銃撃を続けるヒナ。銃弾が直撃して吹っ飛ばされる。

 

しかし、そこまでは作戦通りである。

ヒナ、ムツキ、そしてアル。この3人が直線上で、アルがヒナと向き合う形にすること。それが目的であった。

 

「今!」

「りょうかーい!そーれ!」

「ふふふ…社員からの信用には応えなくちゃ!撃ち抜く!」

 

ムツキが爆弾を投げ、アルがワインレッド・アドマイアーを放つ。

 

アルの放った銃弾はムツキの爆弾をピッタリ射抜き爆発させ…ヒナの片目に直撃させた。

 

「っ、!」

 

「今よ!総員撤退!」

 

視界を一瞬塞がれたためか本能的なものからか、ヒナは目を強く閉じる。

その一瞬の隙を突いてアルの号令とともに社員達は走って逃げていく。吹き飛ばされたカヨコはハルカが回収していき、残されたのは大量に破壊痕が残された道路にぽつりと佇むヒナのみだった。

 


 

便利屋を逃し、1人とぼとぼ本部に帰る。

後始末は部下達に任せて、私は事後処理の書類なんかを書くためだ。

 

なんだか、いつもより足取りが重い。こんなに1人で居ることが初めてだからかもしれない。お姉ちゃんか、アコか、先生か…誰かがいつも近くに居てくれた。

何かに失敗しても励ましてくれたあの声は聞こえなくなっている。

アコはヒカが消えるはずがないと言っていたけど、今となってはそれすらも分からない。

 

空崎ヒカなんて最初から居なかったのでは?私にとっての都合のいい姉なんて存在は幻想なのでは?アコも先生も、私の話に合わせていただけなんじゃないのか?

 

もう、なんだかよく分からなくなってきた。

 

「キキキ…随分とこっ酷くやられたようだな」

「…マコト。わざわざ何?皮肉でも言いにきたなら帰って」

「はぁ…そうじゃない。ヒカの件についてだ。それについて万魔殿側からの調査は終わっている。こちらの見解としては、あいつは治験のために一時的に授業、及び委員会に出席していないという扱いになっているそうだ」

 

…え?

 

「治験って、なに?知らなかったんだけど…」

「ペーパーカンパニーの治験のバイトに応募し、合法的に抜け出す。お前の体からこうもあっさり居なくなっているのを見るに計画的だろうな」

 

なに、それ。私は捨てられた?置いて行かれた?今までのはなんだったの?

 

「ごめん、今は気持ちの整理を付けたい」

「…そうか。まぁしばらくしたら先生から連絡が来るだろう」

 

早歩きでいつもの部屋に戻る。それでも労ってくる声は聞こえない。

 

「ただいま…」

「おかえりなさいヒナ委員長。報告は聞いています。少しお休みになってはいかがですか?」

「大丈夫。この程度で休んでたらみんなに顔向けできない」

 

書類仕事はいい。何も気にせずに没頭できる。今日の出来事もヒカのことも忘れてしまえそうなほどに。

 

代わろうか?休む?大丈夫?なら頑張って

 

…こんな声は聞こえるはずはない。でも、心の中で聞こえてほしいと思っている自分が居る。

 

「…ナ委……ヒナ委員長」

 

…今度はなに?

 

「大丈夫ですか?」

「……ありがとう、チナツ…アコはどこに?」

「今は万魔殿へ書類の提出へ行っています。私はヒナ委員長の目に怪我がないか見にきました」

「そう。それじゃあよろしく」

 


 

「ヒナの様子はどうだ?」

「一言で表せば『かなりまずい』、ですかね」

「やはりか」

 

デスクを挟んで話し合うアコとマコト。その議題はまさに現在起こっている異変の渦中にいる空崎ヒナについて。

 

「それにしても随分とヒナ委員長に肩入れするんですね。心変わりでもしましたか?」

「まさか。私にとって風紀委員会が目障りなのは事実だが、風紀委員会に瓦解されては困る。現在のゲヘナはヒナの圧倒的な力によって学園としての体裁を保てているのも事実だしな」

 

一目見て随分と参っていることが分かったと付け加える。

 

「我々も後進の育成をしないといけませんねぇ…」

「それと、だ」

 

 

「ヒカが居ないとイブキが悲しむ」

「あなたにとってはそれが本音でしょうに…全く、あのバカはどこをほっつき歩いているのやら」

 


 

「…はい、特に目の中の傷なんかもありませんね。仕事を続けていただいて構いませんよ」

「わざわざありがとう。他のみんなも診てあげて」

「委員長も体調にお気をつけて」

 

部屋から出ていくチナツ。

この部屋には私だけが残された。いつもだったらこの状態でも静かになることはない。ヒカが話すから。私が返すから。

 

…ここまで静かなのはエデン条約の調印式後以来かもしれない。

 

不安が心の中を覆い隠す。でもそれは心の穴を目立たせるだけ。

あの時は緊急事態でもあった。だから気にしないこともできた。

でも、今は日常の中。欠けてしまった心を覆って隠せる物は無い。続くのはあなたの居ないとても寂しい日常だけ。

こうやって頭の中で独り言を言ってもそれに応える声はしない。もしかしたらこのまま戻ってこないかもしれない。

声、声、声、声…窓の外から聞こえる声の中にお姉ちゃんの声が混じっているような気がしてきた。そんなわけない。当然だ。

本当の顔も本当の姿も分からない。でもあの声は今でも頭に響く。

 

あぁ、いけない。書類仕事をしなくちゃ。

 

大丈夫?

書類仕事だったら私が…

ほら、もっと補佐官に仕事を…ね?

 

うるさい…うるさい…!もう居ないの!黙って!

 

「ただいま帰りましたヒナ委員長…もう一度言いますが、お休みを取られてはいかがですか?」

「大丈夫…大丈夫よ。補佐官が居なくなったのに委員長まで居ないなんて、問題児のいい的よ」

「…そうですか」

 

ここで私まで居なくなったらゲヘナは大荒れになる。それだけはやっちゃいけない。

お姉ちゃんが帰ってきた時に帰る場所を…

 

 


 

 

仕事はいつも通り…いや、だいぶ遅くなっちゃったな。

重い足取りで自分の部屋に帰る。

 

「ただいま」

 

おかえりとは誰も言ってくれない。

静か…静かだ。うん。自分の部屋っていうものはこれぐらい静かだと思う。

でも寂しい。

 

「…もう寝よう」

 

クローゼットからパジャマを取り出して制服をハンガーにかける。

おやすみなさいと呟いてベッドに倒れこむと、すぐに眠気が襲ってきた。

 

1人の夜は、とにかく静かだった。





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