空崎ヒナは幸せでなければならない 作:rilu
なんで…?
「ところでヒカさん」
「なんだい?」
「先程死にたくないからこうした、と言っていましたが…嘘ですね?」
「そりゃあねぇ?別に私としてはヒナが幸せならなんでもいいし…そこで私が生きてるかどうかは関係ない」
「えぇ、やはりそうでしたか。あなたらしい答えですね」
ヒナが寝る前まで、少し時間は巻き戻る。
「“うーん、どうしたものかな…”」
ヒカについてヒナに連絡しようとしたが、なぜか連絡が繋がらない。一旦電話を切って別の…とりあえずアコかマコト…アコにしておこう。
「“もしもしアコ?”」
『どうかされましたか先生?なにか進展でも?』
「“うん、そのことについて”」
…とはいっても、彼女からの話はほとんどが抽象的なものだった。正直完全に理解できたかと聞かれれば怪しい。
でもこれだけは言える。
「“しばらく風紀委員会には帰らない…って”」
『はぁ…全く、あの馬鹿…ヒナ委員長がどれだけ心配しているか分かっていないんですかね!』
「“お、落ち着いて。ヒカにも何か考えあってのことだと思うから…多分”」
『何が多分ですか!…少しマコトと協議しなおします。何か対処が必要な可能性がありますから』
アコはそう答えて電話を切った。
…どうしよう…
しばらくその場で立ち往生していると、アコから折り返しで連絡が来る。
『先生、今ゲヘナに居ますよね?』
「“うん、居るけど”」
風紀委員会から息も絶え絶えで逃げ切った便利屋68は、路地裏に座り込み休憩をとっていた。
「危なかったね社長」
「ほんとよ!まさかあんなに早く風紀委員会が来るとは思わなかったわ」
「あれ、あそこに居るのって先生じゃない?おーいせんせー!」
声に反応した先生は、振り向いて路地裏に入っていく。
「久しぶりね。全く、今日は酷い目に遭ったわ」
「“久しぶりだねみんな”」
…とはいってもここから話すのはありがちな世間話。
「…本当に、ヒナが来た時はどうなるかと思ったわ」
「“そう、逃げられたんだね”」
「見た感じ少し不調っぽかったから助かったわ」
「“不調、不調か…”」
少し考え込む仕草をした後、先生はこう提案する。
「“みんな、今度一つ頼みたいことがあるんだけど…”」
「任せなさい!依頼だったらいつでも受けるわよ!」
「社長、そんなに安請け合いしない方が…」
「いーじゃん楽しそうだし!ねぇ、報酬はどうなるの?」
「“報酬は…ごめん、明日にならないと分からないかも。とりあえず、明日にここに来てくれる?”」
先生はそう言って地図のある場所を指す。
次の日。
アル達便利屋は指定された地図の場所に向かっていた。
「ここでいいのかしら。見た感じただのちょっと大きい屋敷って感じだけど…」
「社長、これ多分怪しい依頼だよ」
「なにかあったらこの身に代えてもアル様をお守りします!」
「先生からの依頼だし大丈夫でしょ!早く行こ?」
その屋敷の中から先生が笑みを浮かべてやってくる。先生じゃなければ確実に怪しい案件に案内する大人に見えることだろう。
「“みんな来てくれてありがとう”」
「先生、今回の依頼は大丈夫なんだよね?」
「“う…ま、まぁ、ちゃんとしたところからの依頼だよ。それは保証する”」
…なぜそこで一瞬詰まるのか、問い詰めたいところではあるのだが…現在便利屋の経済状況は非常に困窮している。
来月の家賃がまずいのだ。それはもう目の前に美味しい餌がぶら下げられていれば遠慮なく食いつくぐらいに。
今回は紹介してきたのが信用できる先生からというのも重なって即座に受けた。
まぁ当然、美味しい話には裏があるのだが。
「“それじゃあ行こうか。案内するよ”」
「先生?ほ、本当に大丈夫なのよね?」
「“…”」
「何か言ってちょうだい!」
屋敷の中の一室に案内されるが、その中は真っ暗。
さすがの便利屋といえど臨戦態勢をとる。
「わざわざここまでご足労ありがとう、便利屋の諸君」
「「「「!?」」」」
部屋の電気が点くと同時に背後の扉が閉められた。
その部屋の奥で堂々と手を組み出迎えたのはみなさんご存知万魔殿が議長、羽沼マコトである。
それ以外にも空崎ヒナ、天雨アコ、棗イロハ、丹花イブキ…ゲヘナ風紀委員会と万魔殿の主要人物に複数の風紀委員と万魔殿所属生徒達。
アルは、この瞬間死を覚悟した。
いよいよ万魔殿と風紀委員会が真正面から潰しにきたのか…ということではなく、今現在進行形で銃をカタカタと鳴らし始めたハルカのことであった。
さらっと部屋の奥側へ移動していた先生へ恨みを込めて睨みつけると、両手を顔の前に持ってきて口パクでごめんねと言っている。
「う、撃ちますかアル様?」
「落ち着きなさいハルカ。どんな時でも余裕を持ってこそアウトローよ」
こんなことを言っているが内心汗がダラダラである。
「まぁそう萎縮するな。ここは商談の場なのだから互いに対等。権力を使って言うことを聞かせるような真似はしない…イロハ、契約書を」
「はいはい…こちら、契約書です。ご不満や文句はマコト先輩にどうぞ」
「拝見させてもらうわ」
依頼内容は襲撃。対象はとある製薬企業。内容は『風紀委員会の出動が可能なほどの破壊活動、及び捕縛されないように撤退すること』
報酬は…
「この『言い値』ってどういうことかしら」
「書いてある通りの意味だ。依頼の達成後、そちらの要求する分の金銭を支払おう」
そこまできて、ずっと考え込んでいたカヨコが口を開く。
「それじゃあ私から質問させてもらうけど、今回の作戦の目的は?わざわざ一企業を潰すために私達のような指名手配犯を動員するわけないでしょ?それに二つ目の内容も不可解すぎる。今回のこの重鎮の集まりようから見て何かしらの厄介事の囮か露払いか…それとも、私達のような犯罪者が動かないといけない案件か…」
まるでその質問…いや、追及が来るのが分かっていたかのようにマコトは応える。
「キキキ…ご明察だ、カヨコ。とはいっても契約もしてないならばその事情を話すこともできん。ただこちらにもそれなりの事情がある、と答えておこうか。まぁ別に帰ってもらってもいいが…不幸な事故に遭うかもしれんなぁ?」
「…だって、社長。どうする?」
この時点でアルは悟った。これ、変に触れちゃいけないところだった、と。
(どうする?社員たちの安全を考えるなら断るのが無難だけど、事故って絶対脅してきてるわよね!?それに今月の家賃も光熱費もヤバいし…ど、どうしよう!?)
そして便利屋68社長、陸八魔アルが下した決断は…!
「…受けるわ、その依頼」
「キキキ…なら、契約書にサインを」
契約書とともに渡されたペンでアルは契約書にサインをする。
「さて…よし、これでいいだろう。写しは終了後に渡す。コピーを頼んだ」
「了解しましたマコト議長」
契約書を受け取った部下はそそくさと部屋を出ていった。
今まで黙っていた風紀委員会側。その行政官、天雨アコが立ち上がって話しだす。
「それでは便利屋68のみなさんは作戦への参加を了承していただいたということで話を進めさせていただきます」
「イブキ、今のうちに向こうでイロハと遊んできていいぞ」
「いいの!やったー!早く行こイロハ先輩!」
「はいはい…それじゃあマコト先輩は頑張ってくださいね」
さっき契約書を持って出ていった部下と同じルートで2人が出ていく。
「…それでは、作戦内容を説明します。先生、送っておいたスライドの用意を」
「“分かった”」
「…よし。今回の救出対象は風紀委員会委員長補佐官空崎ヒカ。先日失踪した彼女が治験のバイトの名目である製薬会社に居るという情報を掴みました」
その部屋に居る大半が「それってただバイトに行っただけじゃ?」という疑問を覚えたが、この真剣な雰囲気の中で言い出せるものはおらずそのままアコは話し続ける。
「今回便利屋68のみなさんに襲撃していただくのはこちらのコクイ製薬。数ヶ月前に起業しましたが特に業績などはない、典型的なペーパーカンパニーです。しかしこの企業はシロでもクロでもない。我々のような公的機関がガサ入れをすれば世間からの心象は悪くなります」
全体を見回すようにしていたアコは便利屋達の方へ向き直る。
「そこで便利屋の皆さんの出番です。我々より先に襲撃を仕掛けてもらい、破壊活動を行ってもらいます。ある程度破壊活動を行った後、建物内部に侵入。それと同時に風紀委員会も動き出します。そこまできたら離脱していただいて構いません」
「なるほど…」
「一応防衛の抜け穴は作るよう指示を出しています。しかし、怪しまれないために一部生徒は今回の作戦内容を伝えていません。そのために風紀委員会に捕まらず離脱していただく必要があったのです。尋問で今回の関係を吐かされてはたまりませんから」
一旦区切りをつけて息を吸う。
「その後は私達風紀委員会の仕事です。便利屋がまだ残っているかも────という名目で建物内部を調査し、ヒカさんを救出、もしくは拘束後撤退します」
皆がその説明を聞きメモを取るなりしている中、手を上げて発言をしようとする人物が1人。
「“あの、一ついい?”」
「どうかしましたか先生?何か質問でも?」
「“いや、ちょっと言い忘れていたことがあって”」
まるで忘れ物を言い出せない子供のような雰囲気でおずおずと発言するのは先生。
「“あー、その…今のヒカ、触れないんだよね”」
「は?」
アコの一言で空気が凍ったような感じがする。
「はぁ…今冗談を言っても面白くないですよ」
「“冗談じゃないって!ほんとだって!こう言っちゃ悪いけど幽霊みたいだったんだって!黒いもやもやみたいなのに包まれてて!”」
「じゃあなんで今言うんですか!報告!連絡!相談!大人なんですからこれぐらいできて下さい!どうやって拘束して連れてくればいいんですか!?」
「“はい…”」
横でアコがキレているのを横目にマコトは締めにかかる。
「さて、一通り今回の作戦については分かってくれたか?弾薬費なんかはこちらが負担しよう。後は契約書の写しを受け取ったら帰ってもらって構わない。作戦開始日は明日を予定している。今日は準備に利用して当日完了し次第連絡をしてくれ」
それと同時に写しを取っていた万魔殿のメンバーが帰ってくる。
「それではこちらを」
「ありがとう。改竄なんかもされていないわね」
写しをバッグにしまった便利屋達は屋敷を出ていった。
「はぁ…緊張したわ」
「かっこよかったよアルちゃん?」
「それにしても、また厄介なのに巻き込まれたね…多分、ここしばらくは荒れるよ」
「“よ、ようやく許してもらえた…”」
「随分と仲良くやっていたようだな先生」
「“マコト!?変な言い方しないでほしいな!”」
「キキキ…とはいっても、触れないとは厄介だな。簡単に逃げられてしまう」
「“そうだね…でも、今はそれよりヒナを”」
ヒナは朝からずっと元気がない。心ここに在らずという感じで、あまり話すこともしない。ここに来てからも何かを考え込んでいる。
「すまんが少しヒナを借りていくぞ」
マコトはヒナを屋敷の別室へ連れてきた。ヒナは無気力なのかあっさりと連れてくることができた。
「…ヒナ、いつまでもそうしているつもりだ?」
「マコト…?なに、笑いに来たの?」
「違う!いつまでお前の姉におんぶに抱っこで生きていくつもりだ!あいつが居なくなる度にそうするつもりか!?いつまでも殻に入ったまま寝転んで、あいつが帰ってくるのを待つつもりか!?」
「…」
「いいさ、お前がそのままでいいというならそのままでいろ。勝手にそこらの地面で腐っておけ!」
「…ちが、私は…!」
「何が違う!お前1人で何ができる!戦闘はおろか日常生活までその様か!?」
「なにが…なにが分かるの!?」
いくら不調でもヒナのフィジカルは健在。ヒナに掴みかかっていたマコトは簡単に吹っ飛ばされる。
「私だって、私だってこのままじゃいけないことぐらい分かってる!でもどうしたらいいのよ!」
「…」
「死んじゃうんじゃないかって、死んでるんじゃないかって、ずっと、ずっと怖くて…すぐに手の届かない場所に行っちゃうんじゃないかって…ずっと、ずっと怖い!」
「そうか」
「私は、どうすれば良かったの…ねぇ」
ヒナはまた座り込み、マコトは立ち上がる。
「いい加減もっと周りを頼れ。お前が今までヒカにしてきたように、な。私は仕事に戻る。サツキとチアキに任せ続けるわけにはいかんからな」
そう言ってマコトは部屋…いや、屋敷から出ていく。
残されたヒナ。しかしその顔は晴れず…だが確かに彼女の心には光明が差していた。
場所は変わる。ここでは黒服達があるものに頭を悩ませていた。
「…さて、まさかこうなるとは思いませんでした。これに関しては私の責任ですね」
「何があった?面倒事か?」
「えぇ。我々のアジトが襲撃された際に置いてきたあなたの現在の肉体のプロトタイプ…それが無くなっていたのです。容器は残っていたので恐らく…」
「何かに使われた、か」
「少し調査が必要そうですね」
害意は、このキヴォトスの喉元まで迫っている。
高評価付いたりお気に入りして下さった方がいっぱいいて「素敵だ…」となりました。
このような辺境の小説までお越し頂けるとは…感激だ。
高評価、感想、お気に入り、ここすきとかしてくれると作者が喜ぶのでよろしくお願いします
番外編(メインストーリーと関係ない過去、掲示板、if等々)は
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ほしい
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本編書き終わってからでいい