空崎ヒナは幸せでなければならない   作:rilu

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更新止まる前の...(ピリオド3つ)を…(3点リーダー)にしようとしましたが面倒になってやめました。
めんどくさかったです。縦書きじゃなければ問題なく読めると思います。

それにしてもお気に入り290件突破…290!?ちょっと前に220件突破を祝ってた気がするんですけど…


黒いやつと例の赤いやつ

自室のベッド。昨日と変わらず静かなまま。

 

「分からない…私はどうすればいいのかなんて」

 

丸くなって自分の中に籠ろうとするが、あの時のマコトの言葉はずっと頭の中で反響している。

 

『いつまでお前の姉におんぶに抱っこで生きていくつもりだ!あいつが居なくなる度にそうするつもりか!?』

 

そうじゃいけないのは分かってる。でも、これ以外にはやり方が分からなかった。

 

『いつまでも殻に入ったまま寝転んで、あいつが帰ってくるのを待つつもりか!?』

 

頭が『このままではいけない』と言う。心が『このままにしたい』と言う。体は動かない。

ドアが開き、光が差し込んだ。

 

「“ヒナ、大丈夫?”」

「せん、せい…?こんな時間になに?」

「“さすがに心配になってね。色々あってこうやって2人きりでちゃんと話せてなかったから”」

 

そう言って明るく笑う。

 

「それじゃあ、ちょっと聞いてもらえる?」

「“うん。いっぱい話そう”」

 

先生の言った通りに心の中を曝け出す。

寂しかったり、不安だったり、怖かったり。

頭の中でずっと声が響いていることも。

 

「いっつも2人でいたから、お姉ちゃんが居なくなってぽっかり穴が空いたみたいだった」

 

「1人だけで急に真っ暗なところに放り出されたみたいで」

 

「私だけが置いていかれたみたいで、ずっと、ずっと、ずっと!…怖かった」

 

「もう歩くのをやめて、ここでずっと止まっていたい…」

 

「“うん。ありがとう。色々なことを話してくれて”」

 

ぽつりぽつりと先生が話しだした。

 

「“私、ヒカに一回会ったんだ。ヒナに頼らずに1人で自分の事をどうにかしようとしていて…今のヒナと同じようにね”」

 

「“でもヒカがそうだからって、ヒナが自分1人だけで抱え込まなくていい。辛いなら辛いって、寂しいなら寂しいって言って。その重圧はきっと1人で抱え続けるものではないから”」

 

「“ヒカは絶対に帰ってくる。だからその時にいっぱいの笑顔で出迎えてあげよう”」

 

「“ヒナ、今まで頑張ってくれてありがとう”」

 

「……私からも、ありがとう。そうね…帰ってきた時には笑顔で出迎えて思いっきりぶん殴ってやるわ」

 

「“…うん。少し元気になったようで良かった”」

 


 

「さて、仕事を始めるわよ!」

「了解。周囲の地形情報はクライアントから送られてるから参考にして」

「派手に行こっか!」

 

ムツキが目標のビルに向かって爆弾を投げ、扉や窓などの障害物を破壊していく。

 

「うーん、ここまで綺麗にいくと気持ちいいね!」

「む、ムツキ?もう大丈夫だか…ちょっと投げすぎじゃない!?」

「そう?風紀委員会を出すにはこれぐらい要ると思うなぁ」

「止まってムツキ。クライアントから風紀委員会出動の連絡が来た。内部へ突入するよ」

「えー、もう終わりー?」

「せ、先行します!」

 

ビルの中へ侵入していく便利屋。

救出作戦が始まった。

 


 

「予想よりも早かったな。もう二日ぐらいは保つと思っていたが」

「ククク…ちょうどいいです。私は無くなった『箱』のサンプルの調査を続けるためにここを放棄します。ヒカさんはそのまま風紀委員会に保護されてください。ついでに先生と調査のため…いえ、緊急時のためのパイプを繋いでおいてください」

「了解。私のスマホでいいね?」

「えぇ。連絡端末はそちらで問題ありません。調査に進展があり次第連絡します」

 

黒服は建物を何らかの方法で出ていった。

…どうやって出たんだ?

 

「まぁいい。ちゃんと風紀委員に見つかりますかね」

 


 

 

侵入した便利屋。まるで入居後に搬入も何もしていないかのように家具が何も無い様子を見て、まるで心霊スポットに来ているような気分になる。ムツキの爆弾で破壊された場所を除けばほとんどが真新しい。

所々埃が溜まっているが、それはこのビルの一部しか使われていないことを示していた。

 

「不気味ね…足音一つしないわ」

「リミナルスペースってやつかもね。オフィスビルみたいだけどどこか不気味だ」

 

警戒を切らさずにビルを進む一行。そんな中曲がり角から黒い影が見える。

その影はまるでこっちに来いと言っているかのように少しずつ、少しずつ体を見せて角を曲がって奥へ進んでいく。

 

「…さっきからなんなのかしら」

「意外と幽霊とかだったりしてね?」

「怖いこと言わないでちょうだい!?」

 

いやまぁ、割と間違ってはいないのだが。

 

「おー?アルちゃん、クライアントから撤退するよう指示が来てるけど…どうする?このまま追っちゃう?」

「う、うぅぅ…仕方ないわ。気になるけど今回は指示通り撤退しましょう」

「わ、分かりました。さっき裏口を見つけたので、そこから出ましょう」

 

ハルカの先導で裏口まで進む。正面をちらりと見ると既に風紀委員会が包囲し始めているのが見えた。こちらの道を選んだのは正解だっただろう。

 

裏口から出てしばらく走る。

依頼主から守備が甘い部分の情報は来ているので、そこを走る。しばらくは順調に走っていたが、眼前に1人の風紀委員が立ち塞がった。

 

「そこの便利屋、止まれ!」

「このタイミングで…運が悪いね」

 

風紀委員会の戦闘面で実質No.2。銀鏡イオリの登場。

 

「通報は聞いたぞ!お前たちはもう包囲されている!大人しく投降しろ!」

「投降しろ、なんて言われて大人しく投降するアウトローがどこにいるのかしら!」

 

互いに銃を向け合い一触即発の空気が漂う中、イオリに近づくもう1人の風紀委員。

 

「イオリ。」

「チナツか!治療をしてくれると助か、」

 

スタスタと早歩きでイオリの横まで来たチナツはイオリの首筋に向けて注射器を突き刺し、その中身を注入した。

 

「「「「え」」」」

「チナ、ツ、何を…」

 

イオリはその場でばたりと倒れる。よく観察すれば胸は規則正しく上下しており、寝息をたてていることが分かるだろう。

おそらく中身は超強力な麻酔か何かだろうか。

 

「行政官からこのようにしろという指示を受けましたので…それでは便利屋の皆さん、失礼します」

 

そう言ってチナツは倒れたそれを引きずって便利屋の前から居なくなった。

 

「と、とりあえず行きましょう!」

 

困惑しながらもこれ幸いと走って作戦領域から離脱していく。

この作戦での便利屋の役目は終わり。

まだ見ぬ給与に胸を躍らせながらアル達は事前に決められていた合流地点へと向かっていった。

 


 

「便利屋の作戦領域からの離脱を確認。作戦メンバーは風紀委員会はビル内へ突入してください。空崎ヒカ、及びそれに類すると思われる者は拘束。もしくは連行の勧告を」

 

後方に設営されたテントから事前に作戦を伝えていたメンバーへ指示を出すアコ。その後ろでは先生が手持ち無沙汰そうにしている。

 

「“これ、私必要だった?”」

「ここに居ると言い出したのは先生でしょう。もしもの保険としてはいいかもしれませんけど、元々この作戦は風紀委員会だけでできるよう立てていたんですから」

 

雑談をしていた中、通信機に着信が。

部下からの連絡だと思ったアコは、すぐに無線機を手に取る。

 

「はい、こちら本部。状況報告を」

『行政官!ここには、なにか…なにかが居ます!』

 

連絡をかけてきた風紀委員は随分と怯えており、声は震えて息が荒い。

 

「落ち着いてください。何が起こっているか、なにが居るのかを簡潔に」

『み、見えないんです!でも視線は感じるし、絶対に何かが居るんです!あっ、何か黒いものが…っ!お願いします本部、応援を…ひぃっ!』

 

その言葉を最後に通信はプツリと切れた。

恐る恐るという感じでアコは先生に尋ねる。

 

「…今のヒカの状態を再度聞いておきますけど、どんな感じでしたか?」

「“ええっと…確か幽霊みたいな感じだったような…”」

「じゃあ絶対なにかってそれじゃないですか!」

「“でも見えないってわけじゃなかったよ!?”」

 

また言い争いが始まりそうな中、テントの中に入ってくる人影が一つ。

 

「話は聞かせてもらった。私が行く」

 

風紀委員会No.1、空崎ヒナだ。

 

「“ヒナ!”」

「ヒナ委員長!もう大丈夫なんですか?」

「うん。ちょっと私もしっかりしていかないとって思って」

 

隈はまだある。若干の疲れもある。でも動かずにはいられなかった。

 

「“もう大丈夫なんだね”」

「うん。私も迎えに行きたいから」

 

すぐにテントから出ていこうとするヒナをアコが呼び止める。

 

「…それでは、先生を連れて行ってください。もしもの保険にしかなりませんが保険にはなります。ここで腐らせておくのももったいないので使えるものは使っていきましょう」

「“私も行くのね”」

 


 

「あれー…おーい。起きてー」

 

ぺちぺちと頬を叩き、気を失った風紀委員の子を起こそうとする…触れないから叩けてないなこれ。

それにしても不思議なことを聞けた。私の見え方はネームドの方がはっきり見えるのか?少なくともアル達は私が遠くでちらりと見えただけで黒い何か、幽霊みたいなものが居ると認識していた。

しかしこのモブちゃんは通信で話している時に私のことを『声だけは聞こえる何か』と言い、私が近づいてから『何か黒いもの』と言った。

ネームドの生徒なら見えるのか?逆にモブは見えないのか?

なぜ?神秘の関係からか?それとももっとメタ的な部分からか?

素人の考えにはなるが、彼女達に明確な『名前』が無いのが原因なのでは?この世界、ゲームにおいて組織の一員以上の意味が与えられないことによって、本来ここに存在しない存在の私を認識しにくいのではないか?

反対に明確な名前と姿、そして意味を与えられたネームド達は外部…プレイヤーへと意図せずとも触れる機会があった。そしてブルーアーカイブという世界の外部の存在である私を割とはっきりと認識できるのではないだろうか。

 

…これを考えるのは黒服の仕事だな。私のような素人が考えるべきことじゃない。

 

「“ここに居たんだね”」

「来たか」

 

先生が来た。この行動力は誉めるべきだろうが…相変わらず不用心だな。とはいえここには私1人しか居ないので正解ではあるんだが。

 

「お姉ちゃん、迎えに来たよ」

「ヒナも一緒だったか。なら安心だったな」

 

まぁ、ヒナの言っている通り私を連れ戻しに来たんだろう。

多少は私のことで吹っ切れたみたいだし…依存してるような状態からは脱却できた…のかな?

 

そのことに少し安堵していると、黒服から連絡が入る。

 

「はいもしもし」

『もしもし黒服です。調査が進みましたので早速報告を』

「そこまで急ぎってことはかなりまずいな?」

『えぇ。早急の対策が求められる案件です。最悪の場合はトリニティ、ゲヘナ、アリウス、そして場合によってはアビドスまで。放っておけばキヴォトス全域まで影響が広がる恐れがあります』

「おーけーおーけーその学校の並びで大体分かった。赤いやつだろ?」

『えぇ。赤いやつです』

「わかった。こちらから伝える」

 

ほんと碌なことしねぇなあいつ。色彩呼んだこととスタイルぐらいしか誉めること無いぞ。

 

「さて先生。たった今いい知らせと悪い知らせが届いた。どっちから聞きたい?」

「“…悪い知らせから聞こうか”」

「アリウスの元主導者がなんらかの形をもって復活した」

「“!?”」

 

まぁそんな反応にもなるだろう。少なくとも先生にとっては一番忌避すべき存在なのだから。

 

「“それじゃあいい知らせって?”」

「喜べ先生。トリニティ、ゲヘナ、そしてアリウス。それらが協力する時が来た。まぁ、協力できなきゃキヴォトスが滅ぶだけだが」

 

体から殺気が漏れている先生をよそにヒナは聞いてくる。

 

「また忙しくなりそう?」

「多分ね。それにしても、こんな姿でよく私って分かったな」

「当然。雰囲気とかそういうので分かるわ」

「どうやら私は随分と周りに恵まれていたらしい…さて先生。早速対策に入ろうか」

「“うん。でもその前に一旦みんなで帰ろう。みんな待ってるよ”」

 

そういって先生は近くで気を失っていたモブちゃんを担いで外へ歩いていった。

 


 

後方指示用のテント。そこにはアコとチナツ、おまけに眠り続けるイオリが居た。

 

「…はい。はい。お疲れ様です。総員撤退してください」

「行政官、今回はなぜイオリの鎮圧なんて変な指示を…」

「もうじき分かりますよ。イオリの方は…まぁ、今回の目的を伝えても色々あって暴走する気がしたので」

「…?」

 


 

ゲヘナに帰ってきた。予定よりも結構早いお帰りだったな。

 

「ご迷惑をおかけしましたね議長」

「まったくだ。無事…その姿は無事と言っていいのか?」

「物に触れないこと以外は無事でいいと思うよ」

 

マコトも…一応は心配してくれているようだった。

 

「まぁ今回お前を救出するのにそこそこの費用を使った。その分の補填ぐらいはしてもらおう」

「それぐらいなら出そう。いくら出せばいい?」

「知らん。便利屋に聞け」

「は?」

「単純な話、私にはこういうものの相場が分からんからな…面倒になって全部お前に請求すればいいやとなって言い値と提示した」

「はぁ!?」

 

おいおいおいこいつとんでもないこと言い出したぞ。

 

「と、いうことで支払いは頼んだ」

「はぁ…分かった分かった。文字通り口座が触れるようになったら引き出して払おう」

 

 

 

…依頼料支払いが遅れるということでどこかの社長の悲痛な叫び声が聞こえたような気がした。




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