空崎ヒナは幸せでなければならない   作:rilu

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この小説は大体1話5000文字を目標に書いてます。私にとっては結構長いので多分この投稿頻度ぐらいが限界です。

お気に入り300件ありがとうございます。あと評価の方が20件突破しました。こちらも合わせてありがとうございます。
最近毎回ビクビクしながら新規投稿するのやめたいなぁって思ってます。思ってるだけです。


舞台装置は糸を張る

 

廃墟。その中にいる何人かの少女達。彼女らは日々をなんとか過ごすため毎日が過酷だった。しかしそれなりに満足した生活を送っている。

 

「ご飯買ってきたよー」

「おぉ助かる。今日は少し贅沢ができそうだな」

 

5人程度の集団で生活し、食事や衣服などはお金を出し合って過ごす。貧乏ではあったが昔に比べたら億倍マシで幸せな生活だった。

しかし視界の端に映る赤い影。

 

「っ!誰だ!」

 

見慣れぬものに対し即座に臨戦体勢へと意識を切り替える彼女ら。すぐ各々の愛銃を手に取って応戦しようとする。

元は少年兵としての教育を受けた彼女たちの技能は悪夢のような生活が終わっても衰えることなく、決して警戒を切らさない。

 

赤い影は人形をとる。とはいえ完全な人の形ではない。腕は枝のように細く、頭は萎れた花のよう。足はどろどろに溶けているかのように蠢いている。

そして頭の花びらのような器官には夥しい量の目玉がついていた。確かに形は人だが、その姿を見ようと誰も人とは言わないだろう。

 

「ひっ」

 

全員をぎょろりと睨みつける目玉達。

瞬間、彼女達を圧倒的な恐怖が襲った。氷の柱を背中に突っ込まれたように体全体が冷え切って動けない。冷や汗と震えが止まらない。視界がグラグラと揺れ続けている。指先に力が入らず、銃を取り落とす者もいた。

 

「な、ぁ、ぁぁぁあぁぁ…!」

 

過去の恐怖に囚われた瞬間、その場にいた彼女達…元アリウスの生徒は青色の光に包まれる。その中から現れた姿は服装などアリウスの兵のようでありながら、過去調印式などで見たミメシスのようにところどころは青白く輝いている。

 

「……」

 

廃墟から出ていく赤い影の後ろに追従する兵達の姿はブラックマーケットの奥へと消えていった。

 


 

「とりあえず、便利屋への支払いは頼んだ」

「分かったって。それじゃあ私はヒナの方へ顔出してくるから」

 

ヒカ…のような影が退室した万魔殿。

依頼料云々の話は確かに大切ではあったが、それそのものの重要度は低い。反応を見てあの影が空崎ヒカなのか、それとも空崎ヒカを名乗るなにかなのかという判別のための一種の質疑応答だった。

 

「どうだったチアキ?」

「うーん…これに関しては私からは何とも言えません。ヒカさんって元々口調とかはころころ変わってましたし…」

「そうか」

 

確かに先生とヒナはあれをヒカだと断定したが、私たちも信じた場合は何かあった時に詰む。保険も兼ねて万魔殿はあれを信用せず、嫌疑が全て晴れてから改めてあれがヒカだと断定する流れとなった。

この決定はヒナ、そして先生とも共有済みである。

 

「全く…あいつが動くと碌なことにならんな」

 

ドアが開き、先生が入ってきた。

 

「“そういうものなの?”」

「まぁ…ヒカが活動的になると大体何かしら問題が起こる。エデン条約も、あの赤い空の時も、あいつが砂漠に行った時も…な。にしても急にどうした?ヒカだったらヒナの方に行くと言っていたが」

「“え?ヒナと待ってたけど来なかったよ?”」

「……ヒカに連絡をしてみてもいいか?」

「“ど、どうぞ”」

 

マコトはすぐにメッセージを送るが、既読すらつかないことに豪を煮やし電話をかける。

…繋がらない。

 

「どういうことだ?流石に連絡機器を手放すとは思えん」

「“事故に遭った、なんてことはないよね?”」

 

不穏な空気が漂う中、また扉が開かれる。

 

「議長。部屋の前の植え込みから音がしたので探してみたのですが、中に議長から着信の入っているスマホが」

「何?…貸してみろ」

 

即座に手元の電話を切ると、部下が持っていたスマホも着信が切れる。画面を覗けば、マコトが電話を送る前に送ったメッセージがロック画面に表示されていた。

 

「あの馬鹿…また逃げ出したか?」

「監視カメラとか使っちゃいけないんですか?」

「どうせ写っていないか写らんように動いているだろう。風紀委員会としての活動歴は短いが、その実学校内での仕事はヒナ以上にこなしている。さすがのあいつも監視カメラの位置ぐらいは把握している」

 

そんな中、先生の端末に連絡が入る。

 

 


 

かちり、かちり。

 

世界から意味が与えられるのか、生まれてから意味がついてくるのかという国語の教科書でありがちな論述文のテーマを実感しているが、今は多分私が意味を与えられている。

存在をこの世界に縫い付けるための意味。

 

かちり、かちり。

 

多分黒服に聞けばテクストが貼られているなどと答えるだろう。

文字通り自分が作られていくような不思議な感覚だ。

おそらく、完全にこの意味を受け取ってしまえば私は晴れてキヴォトス人の仲間入りとなるのだろう。

その前に今回の騒動については済ませておきたいのだが…

 

かちり、かちり。

 

このままいっても1週間…いや、数日と保たないだろう。

端末はゲヘナに置いてきたので先生は黒服との連絡は取り合えるはず。

あの黒い状態で何もできず消滅するよりはマシだが、このままただの生徒に存在が固定されるのも気に入らない。アロナ達にまたねと約束したのにすっぽかして生徒になるとは何事か。

 

かちり、かちり。

 

向かうのはブラックマーケット。先生は先生の、私は私のできることをする。それだけだ。

 


 

ところ変わってブラックマーケット。路地裏に入って仕事の疲れを癒している人影が1人。

 

「今日も疲れた…しばらく収入は問題なさそうだな」

 

見つけた。

 

「やぁ。すまないが隣いいかな?」

「うん?あぁ、問題ない」

「それじゃあ失礼して…」

 

ちょうど隣に座りこんで、軽く息を吐くような仕草をして空を見上げる。ゲヘナでの空とここでの空は同じ。何も変わらない。

 

「ここで会ったのも何かの縁。自己紹介といこうか」

「そういうもの…なのか?」

「アイスブレイク…まぁ、ちょっとした余興だよ。別に言いたくなかったら身の上話なんかしなくていいし、偽名でもいい」

「そういうものなのか。なら自己紹介を。私は錠前サオリ。学校なんかは…すまない、少し控えておく」

「別に構わないよ。私はそうだなぁ…本名を言うのもあれだし、こんな真っ黒だし…カゲって名乗っておくよ。一応ゲヘナ所属の三年生。色々あって学校を抜け出してきた」

 

とりあえずそれから色々なことを話した。ブラックマーケットでの一時の出会い。どうせまた会うことなんてないだろうという思考のもと色々なことを話す。

 

「それにしても全身が黒いし、声が…何か理由があるのか?」

「色々あるんだよ。色々。ま、あんま気にするな。私がなりたくてなったものだからな」

「それならいいと思う」

「そっちも中々いい帽子じゃない。お気に入りなの?」

「あぁ。昔から使っている思い出深い物だ…」

「いいねぇそういうの」

 

生活のこと、昔の学園がどんな場所か、どんな夢を持っているか、そして、何事にも代え難い家族の話。

やはりこうしてゆっくり話をするのも悪くない。

 

「私は色々と世間について学んだりするためにここに居るんだが…カゲはどうなんだ?」

「そうだねー、私は…っ!サオリ伏せて!!」

 

嫌な予感が身体中を駆け巡る。

 

「なにがっ」

 

そう言って頭を下げた直後、背中側…ビルを貫くように真っ赤な影が飛び出してくる。

轟音をあげながら着地をする私のような真っ赤な影。しかし私のそれとは違い各部には白い装飾があり、各部が禍々しい。

 

「マダ、ム…?」

「走れ!いいから逃げるぞ!」

 

私の忠告を聞き即座に身を翻した

サオリが呟いた通り、あれが黒服の言っていた赤いのだろう。しかしなんとまぁ…暴力的だ。

理知的で策を張り巡らせるゲームでの姿はどこへやら。獣らしさすら感じる一心不乱な追いかけ方はかなりの恐怖を感じる。ホラゲの敵キャラいけるよ君。

 

「な、なんなんだあれは!?」

「説明とか事情はあとで話す。今は逃げることに集中しろ!」

 

それなりに賑わっていた大通りだったが、ほとんどの人はこの化け物を見て蜘蛛の子を散らすように逃げていった。私と同じ『箱』を使っているが問題なく見たり物に触れたりとできる辺り、この世界に根ざした存在なのだと分かる。

 

「くっ」

 

サオリは近くのゴミ箱を倒してなんとか足元を妨害しようとするも、簡単にグシャリと潰されて障害物にすらならない。

壁を、地面を、屋上を縦横無尽に駆け回りこちらを追ってくる。

 

「妨害とか考えてる暇はない!捕まったら終わりと考えろ!」

 

とにかく逃げるしかない。次々と破壊されていくブラックマーケットの様相を見ながらひたすらに足を動かした。

 


 

救護騎士団団長蒼森ミネから連絡を受けた先生は、トリニティ自治区へと向かった。

 

「“それで、ここが例の?”」

「はい。アリウスの生徒達の社会復帰のため一時的に住居として開放していた保護施設だったのですが…今はこの有様です」

 

彼女の言う保護施設は現在は瓦礫の山となっており、正義実現委員会と救護騎士団が要救助者の捜索とともに瓦礫の撤去を行っている。

 

「現在まで我々も捜索しておりますが、ここに居た生徒達は皆見つからず…今日は外出届けも一部からしか出されていないのでほとんどがここに残っていたはずなんですが」

「“カメラとか目撃情報は?”」

「周囲で聞き込みをした結果、青い光が建物内部から溢れたと思ったら爆発したと皆口を揃えて言っていました。カメラは途中から映像にノイズがかかったために解析できず…」

「“大丈夫だよ。気にしないで”」

 

先生は瓦礫の山を見遣る。重機なども使い木片を動かしていたが、その中からようやく瓦礫に押し潰されていた1人が発見できた。

 

「う、うぅぅ…」

「ミネ団長!」

 

すぐに要救護者の元へ向かうミネ。意識や負傷の確認を行なっている。

外傷は小さいものだが意識は朦朧としており、酷く震えて錯乱しているようだった。

 

「いや!嫌!離して!嫌だっ!」

「救護ォ!」

 

ライオットシールドで殴りつけて気絶させ、他の団員へ引き渡す。彼女は病院の方へ搬送されていった。

 

「先生、どうかされましたか?」

「“…いや、ヒカの言っていた通り本格的にトリニティとゲヘナそれぞれに応援要請を出さないといけないなって思ってね”」

 


 

「サオリ、まだいけるか!?」

「あぁ、まだ、走れる!」

 

あれからかなり逃げ続けている。それでもあいつは止まる気配を見せない。そろそろサオリも限界が近くなっている。かく言う私も、だ。

 

元々建物が大量にあった地区とは思えないほどのだだっ広さ。キヴォトスに来る前の記憶を覗いても、教科書でしか見たことのないような荒野なってしまっている。

 

「あっ…!」

 

サオリが足を縺れさせて転びそうになっている。追ってきてるやつは好機と思ったのか飛びかかってきた。

意思より先に体が動く。右隣で姿勢を崩したサオリの左腕を右手で引っ掴み私の方へ…左側へと投げ飛ばした。

しかしそれと同時に私は位置を入れ替えるように右へと移動してしまう。半回転し投げ飛ばしたため目の前には赤いのが迫ってきていて…

 

 

待て、どうしてサオリに触れている?どうして動かせた?まさか…

 

 

思考は痛みで中断される。痛みの原因を見れば赤いのが左手を食いちぎっていた。

勢いそのまま倒れそうになるもなんとか残った手で受け身を取る。

 

「腕…!」

「今のうちに逃げるぞ!」

「だが」

「だがもなにもない!生きるためだ…腕程度くれてやる…!」

 

あいつが私の腕に夢中になっている内にまだなんとか残っていた建物の陰へ逃げこむ。

なんとか助かった。

 

さっきいた場所を見ると私の腕を持って辺りを見回している。そのまま私の腕を呑み込んで…

 

「消えた…な」

「なんとかなって良かった…だが、その腕は…」

「気にするな。別に痛みが続いてるわけじゃない。生きるためだったら安いもんだよ」

 

左腕は切られて無くなった。しかし生身じゃなかったことは不幸中の幸いだ。もし肉体があったらスプラッター映画一直線だったろう。

 

…疲れた。

建物に寄りかかりながらしばしの沈黙。

 

「すまない、私はもう動けなさそうだ」

「私もそうだよ。奇遇だね…しばらくここで休むか…」

 

眠気に誘われて視界を閉じる。

 

私は気づかなかった。残った右手に若干の色が付き始めていることに。

 


 

「…どういうこと?」

「ヒカが逃げた…すまない、こちらの落ち度だ」

 

ヒナとマコトが向き合っている。

 

「もういいわ。私は私で動く。しばらく休みをもらうけど…いいわね?」

「場合によってはこちらから補填は出そう」

 

それだけ言ってヒナは部屋から…いや、ゲヘナの校舎から出ていった。

 

 

ゲヘナ中心部の喧騒から離れ、周りに人が居なくなった辺りで足を止めて空見上げて呟いた。

 

 

「…ねぇ、どこへ行ったの?お願い教えて…私を置いていかないで…お姉ちゃん…」

 

少し前、心に差していた光はもう弱々しくなっている。





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