空崎ヒナは幸せでなければならない 作:rilu
総合評価が555を見られて少し嬉しかったです。
「救護騎士団と正義実現委員会の皆様、お待たせしました。この後の救助活動はシスターフッドが引き継ぎます」
倒壊した一時保護施設の瓦礫撤去などは到着したシスターフッドに任せ、救助されたアリウス生の方へ向かった。
「“セリナ、容体は大丈夫そう?”」
「はい。擦り傷や切り傷はほぼ治りかけ、火傷なんかも軽いものは治ってきています。ですが意識は未だ戻らず…」
「“そっか…”」
ベッドに寝かされているアリウス生を見ながら、セリナは続ける。
「不可解なのはやはり、今まで要救護者が全く見つからなかったことです。あそこは一応トリニティが公的に運営している施設なのでそれなりの数の入居者がいました。一部の生徒は保護されずブラックマーケットへ行ったそうですが…」
「“聞いていなかったけど、あそこって元々どういう施設だったの?”」
「あそこは保護された元アリウス生達に学業支援、それとバイトの斡旋などを行っているいわば社会復帰支援施設なんです」
「“なるほど”」
「一応あそこに入居するかどうかは任意なので、一度保護しましたがそのまま別の場所へ行った人も──」
「“…?ごめん、連絡だ”」
着信音。先生の持っている端末からだった。さすがに病室で電話をするのはよろしくないということで廊下に出て、今日はよく電話がかかってくるなぁなどと思いつつ通話開始のボタンを押す。
瞬間、耳をつんざく爆発音が響く。
『せ、先生聞こ──か!私で──ヨリです!』
「“ヒヨリ!?何があったの!?”」
電波が悪いのか音割れしているのか音声が途切れ途切れだが、その声とさっきの爆発音から兎に角切迫した状況なのだと分かる。
『聞こえて────ら良かった─す!実はついさっ────よくわからないものに襲われてて…!』
『ヒヨリ、もうしばら──りそう!?』
『あ、え、えぇっと…!トリニティ郊外のプロケルビルっていう廃ビルの中で…あっスマホ────』
「“ヒヨリ!?ヒヨリ!?”」
連絡が途切れると同時に電話先から鳴り響いていた爆発音と銃撃の音はぱったりと止み、さっきまで電話で騒がしかった廊下はしんと静まり返る。
『プロケルビル…ありました!ここから少し距離がありますが比較的近くです!』
「“ありがとうアロナ。走れば間に合いそうかな”」
病室のドアが勢いよく開かれ、セリナが顔を出す。
「何がありましたか!?急患ですか!救護ですか!」
「“ある意味そうかもしれない”」
「分かりました!救急車を出します!」
セリナは急遽引き継ぎの連絡をし、それを済ませると救急車のエンジンをかけて乗り込む。続いて先生も乗り込む。
「場所はどちらですか?」
「“トリニティ郊外のプロケルビル!ナビは私がやる!”」
ペダルがベタ踏みされ急発進する救急車。シートベルトをつけていなかったら危なかったかもしれない。
見事なドライビングテクニックで車道に躍り出た救急車は、道を私のナビ通り右に左にと曲がり、しばらくすると青白い爆炎が窓から見えるビルへと到着した。
「“セリナ、突入するよ!一旦路肩に…”」
「はい!お任せください!」
ドライバーはハンドルを思いっきりビルへ向けて切った。それも恐怖も躊躇もないアクセル全開で。
「“ちょっと待って突入ってそういうことじゃないよ!?”」
「突入します!」
救急車は入り口周りの壁を打ち壊し、入り口近くで戦っていたアリウススクワッドの頭上を飛び越えて敵を轢き潰した。それでも救急車が擦り傷少々で済んでいるのは
どこぞの赤いバイクのように横を向いて止まった救急車から降りてアリウススクワッドの面々と合流する。
「お待たせしました!支給品が届きましたよ!」
「“死ぬかと思った…助けにきたよ、みんな”」
セリナの医薬品で消耗したスクワッドの傷を癒やし、すぐに戦闘体制へと移る。相手は体の節々から青白い光が漏れていることからユスティナのように見える。
「“あれは…ユスティナ聖徒会…!?”」
「いや、違うね。あれは何かがあった『アリウスの生徒』だよ」
「“アリウスの!?”」
「うん。みんなどこかしらで見たことがある顔だから…」
アツコはガスマスクを被っていても顔が分かるのだろうかという疑問は胸の奥にしまい込み、すぐに指揮の体勢をとる。
装備などをよく見れば、あの時アリウス分校に制式採用されていたものと装備の種類が同じだ。確かにあれはアリウス分校生のように見える。
一触即発の空気の中、次々と青白いアリウス分校生がまるで元々そんな存在居なかったかのように、幽霊のように消えていく。彼女らから放たれていた光で少し照らされて青白かったコンクリートは廃墟らしいグレーの色を取り戻していった。
「えへへ…なんとか助かりました…」
「皆さんお怪我等はありませんか?」
「…私たちには無いよ。ただ、上の方には伸しておいた奴がいるからそっちの治療をしてほしい…まったく、この建物結構気に入ってたのに…」
「ここ、近くのレストランのフリーWi-Fiも使えて結構便利だったよね」
「は、はい!一応トリニティの自治区なのでその辺は心配でしたが…今までなんとかなってたんですけど、このままだとここともおさらばですかね…」
ミサキの言う通りビルの2階以上にはスクワッドが撤退しながら伸したであろうアリウス分校生が倒れている。一人一人ガスマスクを外して顔を確認していくセリナだが、その中の数人は見覚えのある顔だった。
「これって…!」
現在救助作業中の施設に入居していたアリウス分校生がそこに倒れていた。
…ちょっと疲れた。
今日は曇り空。その場の勢いに任せてゲヘナを出ていってしまったけど、若干後悔している。私の居なくなったゲヘナはがたがたになるだろう。
でも…なんだろう。今はどうなってもいいような、そんな気分だ。
お姉ちゃんがそうやって逃げるなら私も一緒に逃げてしまおう。どこか遠く…そうだ、お姉ちゃんの行きたい場所へ。
そのためにはまずお姉ちゃんを見つけないといけない。
「…そうだ」
少し力を借りようと電話をかける。
「もしもし?」
『もしもーし。こんな時間にヒナちゃんがおじさんにかけてくるとは珍しいねぇ』
「そうかもしれないわね。それじゃあ早速本題なのだけれど…」
少し前だったら全部自分でどうにかしようとしてたんだろうけど、マコトにああ言われてしまったし、お姉ちゃんを私1人だけで見つけ出せるとは到底思えない。
「お姉ちゃんを…探してほしいの」
『…詳しく聞こうか』
上司からの罵声にビクビクとしながらいつも通りに起きた。目を擦って目覚ましを止め、見慣れたブレザーを羽織る。窓の外は燦々と日が照っていてとにかく暑そうだ。
見慣れた青いドアを開けると雪景色。あぁもうそんな季節だったかとサングラスと麦わら帽子を身につけて駐車場にある屋根から飛び出す。
地面に足がつけば砂浜。ざりざりという感触が足に伝わってくる。目の前には広い広い海が広がって、地平線の先で空と混ざっている。
そうだ、こんなことをしている場合ではないと目的を思い出して背中側へ広がるマツの林に走る。マツの落ち葉が足に刺さって痛い。いやでも職場に遅れるわけにはいかないのだ。
マツの林を抜けて目的地についた。そこそこな規模の工事現場だ。入り口から入って下駄箱で上靴に履き替える。ワックスが塗られてテカテカの廊下を歩き目的の教室に入る。
部屋の壁はちぐはぐ。アニメのポスターにオフィスのような壁、コンクリート剥き出しの場所もあるし画鋲でぼろぼろになっている漆喰も。木、石、赤、緑、白…パッチワークのように全く統一性がみられない不気味な場所だ。
「おはよう
周りの
「おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。」
なんだか頭がくらくらする。
そんな錯覚をする中、ゲームのバグのように壁が剥がれ裏側が見え始める。
そして1人、また1人と表面が剥がれて消えていく。
ついに、私の足元までそれは迫ってきて…
真っ暗闇に堕ちた。
「はぁっ!はぁ、はぁ、はぁ…夢、か?随分とトンチキな夢だったな…」
なんでだろう、あの夢の全てに見覚えがあって、全てが異質な物だった。懐かしいが途轍もない恐怖も感じた。あれは…
それと私は…そうか、あの後眠ってしまって…今は何時ごろだ?スマホ…はゲヘナに置きっぱだったな。近くに時計とか…あぁ、駄目だ。そういえばあの逃走劇でこの辺りはほぼ壊れたんだった。
「大丈夫ですか先生!?」
「!?」
あぁ、いや、これに関してはもう2回目だしあまり驚かなくていいだろう。
「やぁセリナ。今日もいい天気だね」
「なに呑気に挨拶してるんですか先生!その左腕見せてください!」
「あっ」
むりくり長袖のシャツを脱がされて左腕を診られる。…待ってシャツ脱がした?
「シャツ脱がしたよね今!?」
「緊急事態なんですから先生は黙っててください!」
「えぇい少し待て落ち着け一旦離してっ!大丈夫だって!」
しかしキヴォトス人のパワーにただの人間が勝てるはずもなく、私は呆気なく大人しくさせられた。団長式救護法だったら危なかったと思う。
いやそんなこと考えてる場合じゃない。
『私の体に触れている物があった』。それも私を空崎ヒカたらしめる物…明確に私の物であるスマホや、短期間ではあるが存在が私そのものを表した指輪。そしてヘイローともう一つキヴォトス人の魂を表す銃以外の、身につけた記憶のないただのシャツが。
『セリナは私に触れた』。黒服ですら触れないと匙を投げたことをこの私の生徒はなんでもないかのようにやった。セリナがなんらかの方法で、もしくは特別な存在で触れたのか?否。別にどこからともなく現れて救護をしにくるだけで彼女自身は比較的普通である。比較的。
そこから考えられるのは一つ。私の変化…
下を見ればゲヘナの一般生徒にありがちなスカートを履いていて、脱がされたシャツを見れば黒っぽいグレーをしている。
仕事中によく見る典型的なゲヘナの制服だ。
視界の端にチラチラ映る癖のある白髪はヒナとお揃いだった。
まぁ、ああしてごたごたと御託を並べていたが結局のところ私はただのゲヘナの一生徒になったということだろう。そうなると今私の左腕を診ているこの子は一体なんなんだという話だが…セリナだしなぁ。
「うーん…ちょっと私にはよく分からないですね。傷口がこんな黒くなるなんて聞いたこともありません」
「黒くなる、なんて次元じゃないと思うんだけど」
セリナが覗いていた元々左腕のあった場所は黒い。光は通っておらず、手を突っ込めば何か得体の知れないものが得られそうだ。
「うぅ…うん?………」
「「あっ」」
サオリが起きた。
ここで一つ私達が客観的にどう見えるか説明しておこう。私はシャツを剥がされて上は下着だけだ。そしてセリナは私を逃すまいと馬乗りになって私の顔を見つめている。
サオリからしたら知らない人と知らない人が隣で盛りあっていたように見えたのだろうか。すぐに視線をずらして少し黙った後、彼女なりに気を使った結果であろう一言が放たれる。
「その…見てはいけないもの、だったか?」
「待ってサオリ。勘違いだ。私だ。元々真っ黒だったカゲだ。覚えているだろう?」
「いや、私のことは気にせずそのままで。なんか、すまない」
「待って!!本当に勘違い!!!ちょっと話を聞いて!」
なんとか呼び止めて話を聞いてもらうことに成功した。
思っていたよりもあっさりと私がカゲだということは受け入れられた。ブラックマーケットにそこそこ長く住んでいるためか『そういう』ことには慣れているのだそう。
「なるほど、そんなことが…」
「さて、ここから本題といこうか」
ここからが私の交渉のターン。上手くやれよ私。
「私達を追ってきていたあの赤い化け物についてだ」
「…あれか」
唾を飲んで話を聞き始めるサオリ。
「事前に言っておくが、あれは私の不手際で起こったことだ。君に感謝される筋合いは無いし、ましてやこの腕について君は同情する理由も必要も無い。ただ尻拭いをしただけだからね」
「…」
なんだか申し訳なさそうな顔をしている。本当に気にしなくていいのに。
「続きだ。あれは…そうだな。ただの廃棄された舞台装置の怨念だけが抽出され動く人形、と言えばいいだろうか」
「どういう、ことだ?」
「あぁそうか、すまない。サオリにはまだこちらの呼び方の方が馴染みがあるか」
──ベアトリーチェ
その名を出した瞬間、サオリは剣呑な雰囲気を纏う。
「私の使っているこの義体のプロトタイプをあいつが執念だけで掻っ攫っていった。全く、その根性だけは評価したいところだね…最上級の低評価を差し上げたい気分だ。この義体は魂が無意識下でも有意識でも『そうあれ』と願うものの鏡写しとなる。つまりだ、あれはあいつの感情の発露。あいつの復讐心そのものだ」
思わず話しすぎてしまう。想像以上に気が立っているらしい。落ち着かねば。
「あれは悪意そのものだ。意識などない。あれはベアトリーチェでありながらもベアトリーチェではない。あるのは忌々しい記憶、復讐心と最低限の知恵。それだけ身につけた少し賢い獣に過ぎん。」
あれはそういうもの。ただ対象を殺したい、殺さなければならないという破壊衝動の元周囲を破壊し尽くしていた。
「計画を邪魔した先生への、トリニティへの、ゲヘナへの、アビドスの、そして…」
「アリウススクワッドへの復讐。それが奴の最終目標だ」
サオリは目を見開き、直ぐに立ちあがろうとする。それを後ろで控えていたセリナが羽交い締めにして止めた。
「落ち着け。今私達だけで動いても何もできない。今必要なのは戦力だ。お前の家族は先生に任せておけ。あれは信用も信頼もできる」
先生なら大丈夫。根拠なんてない。でも私の知るあの大人がそうそう死ぬはずが無い。そう私は信じる他ない。
それにほら。噂をすれば来たじゃないか。今一番必要な『戦力』が。
「うへぇ、ようやく見つけたよー。この広い中でかくれんぼはおじさんちょっと疲れちゃったかなぁ」
「お姉ちゃん、やっと…ようやく見つけた…!」
私の知る『最強』揃い踏みである。
小鳥遊ホシノ、参戦──‼︎
アビドス3章は原作とほぼ変わらないのでカットします。変えれるのなんてちょっとした会話の内容ぐらいなので。
(追記)
アンケートを設置しました。良ければ回答の方お願いします
白洲アズサはアリウス生一時保護施設襲撃/爆破事件に
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