空崎ヒナは幸せでなければならない 作:rilu
爆破と怒号をバックミュージックに家に帰る。
ずっと鳴り続けるそれも家に近づくにつれ段々大人しくなる。普段だったら安息を与えるその静寂も今となっては忌々しい。
頭の中で声が流れる。ここ数日は1人でいるとずっとだ。
ぼふんとベッドに横たわって、ぎゅっと目を閉じる。別に寝ようと思ったわけじゃない。こうしたら夢が覚めてくれないかなって思っただけ。
そんな都合のいいことがあるわけがなく、ため息を一つ吐く。
別にお姉ちゃんが見つかったから仕事に戻ってもいいんだけど…まぁ、別にいいでしょ。マコトにもしばらく帰れなくなりそうなこと言っておいたし。…言ってたよね?まぁ、どうでもいいや。
正直に言って無気力だ。今も外着から着替えてすらいない。
…おまえのせいだ。おまえが繋ぎ止めていれば。
あぁもう、うるさい。
私はこんな傷物にされることはなかった。不自由になることはなかった。
ついこの前までは励ますようだった声もずっと私を責め続けている。
こんなことを思っているわけがない。私がハグをしたあの時の笑顔を私は見たはずだ。
それでもガンガンと頭に響く声は止まらない。1人の時にはずっとこれが響いている。
助けてという考えもそんな権利があるのかという音に掻き消される。
カーテンが閉まったままの部屋の中で縮こまるしかなかった。
「連絡来たよ。『帰る』って、一言だけ』」
「そっかぁ…そっかぁー…」
…こうなると厄介、というよりシナシナになることはみなさん原作でご存知だろう。いや、大丈夫だと思ったのだ。
ヒナって強い子だし。
「おじさんはどうしよっかな。このまま帰ってもいいんだけど…」
「…だったらサオリと一緒にゲヘナのホテルに泊まってくれないか?」
鳩が豆食らったような顔をしておられる。いや別に
「一体全体どうして?おじさんが枯れてるからあてがおうってわけじゃないよねぇ?」
「私そんな下衆に思われてたの?ほぼ初対面とはいえ酷くない?」
「今日一日のヒナちゃんの様子を見てればそうなると思うんだけど」
「すまない、勝手に話を進めないでくれると助かるのだが…」
「あー、つまりだな。今回のような大暴走をまた他所で起こされると困るからゲヘナで護衛をしてほしいのよ」
「なるほどな。確かにこういうのを何度も1人でとなると厳しいものがある。だが…」
「大丈夫だよ。おじさん、こう見えても強いからね」
「多分そういうことじゃないと思うんだが…宿泊料は気にしなくていい。私が払うよ。グレードは…まぁそこそこになるね。一応各地の宿泊事情は把握してるから。それとゲヘナ側の被害は気にしなくていい。ゲヘナだし。ちょっと規模が大きいだけだから」
便利屋への支払いもあるから出費が嵩むなぁ…困った。
「それじゃあゲヘナに行こう。ただ通帳だけ取りに行かせて?それとセリナは…」
振り返ると消えている。いない。まぁセリナだしいつかひょっこり出てくるでしょう。もう既に2回ほどひょっこり出てきたんだし。
銃弾、爆発、怒号。うーん数日しか経ってないがこの鼓膜への無慈悲さにはもはや懐かしさすら感じる。
「あのー、その、大丈夫なのか?ここ」
「いつもの1割増しってところかな。まぁ全然普段通りだね」
「学園として大丈夫なのこれ?ちょっと健全なようには思えないんだけどなぁ」
「大丈夫じゃないからヒナが過労になっています」
「はぁーーー…」
いや、どうにかしようとした時期も一応あったのだ。
はっきり言って無理。あまりに無理ゲーすぎる。無法地帯が政治家でもないただの生徒にどうにかできるはずも無かった。FreedomとLibertyの違いというものを痛感したよ。
その暴の校風で集まった生徒の気質は皆同じ。強いのが正義、勝てば良かろうなのだ。
そしてあまりにもその問題児達の母数が多すぎる。昔は全体の半分でも驚いただろうが今となっては8割ぐらいでもまぁそんなものかで済ませそうな気がする。あまりにここゲヘナは魔境すぎた。
「今後とかどうするんだこれ…」
「これからどうするんだ?通帳が無いんだろう?このままだとホテルに泊まれないし私達は一体どうしたら…」
「何、手はある。ちょうど壊されてもいないし電話線も切られていなさそうな公衆電話がある。これを使おう。ホシノ、50円貸して」
「えぇ…もう、仕方ないなぁ。今回だけだよ?」
ホシノにお礼を言い公衆電話で電話をかける。
片手しか使えないので少々手間取ったが無事に連絡をかけることに成功した。その相手は…
『こちら万魔殿議長羽沼マコト。公的な仕事は窓口の方に…』
「もしもしマコト?私だよ私。金貸してくれ」
『なんだ詐欺か…』
「違うって!私だよ私!空崎ヒカ!」
知らない番号とはいえ知人の声を聞いて即詐欺判定とは中々にやるじゃねぇの。今度その喧嘩高価買取してやんよ。
『いや、むしろヒナと拗れるから詐欺の方がありがたかったんだが…』
「そうじゃなくてさぁ…本当に必要なんだって」
『キキキ…分かった分かった。お前との仲だし数万程度は貸してやろう。いくら要る?』
ビジネスホテルの相場を大体1万5千とすると…。
「3万」
『利息は?』
「トイチ」
『キキキ…いいぞ、気に入った。後で部下を向かわせよう。集合場所は?』
「場所は────」
『────だな?分かった。すぐに契約書付きで向かわせる。完済しろよ?キキキ!』
「ご安心を議長。私はあなたの信頼を裏切るような趣味はしておりませんので」
ガチャリと受話器を置いて電話を切る。いやーなんとかなって良かった。
「大丈夫なのか?」
「問題なし。ちゃんと金は手に入るよ。借りただけだけどね」
マコトの部下の到着を待ってしばらく。虎丸が集合場所にやってきた。
「お待たせしました、風紀委員長補佐官。こちらが契約書となっております。ご確認を」
「あれ、イロハじゃん。こうやって出てくるなんて珍しいね」
「普通に仕事しているよりは楽なので」
契約書を受け取り、色々細工されていないか確認する。裏、小さい文字、透かし、かるーくその辺で燃えてる火で炙っても変化なし。
「信用されてないですねぇ…」
「うん、うん…よし、問題なさそうだね」
「それではサインをお願いします」
「あ、ちょっと下敷き持って。今は見た通り片腕だからさ。空中で何かを下敷きにして書けないのよ」
イロハから差し出されたペンを持ちサインを書く。片腕だから多少もたつくが、別に問題があるわけではない。無事に書き終わった。
「それにしても、そんな姿になったんですね。ヒナと一緒に居た時と同一人物とは思えませんよ」
「それはねぇ…うん、ソウダネ」
身長とか髪質もヒナとは大違いだからなぁ…身長は大体170ぐらいあるのではなかろうか。髪質?モップからブラシぐらいになったよ。
「はい、確認しました。これが約束の3万円です…全く、この程度にこんなガチの契約書は要るんですか?」
「保険だよ保険。議長とただの1生徒が私的に物を送りあったとか結構なスキャンダルだよ?」
「昔からあなたはそういう変なところで律儀ですね…それでは、私はこの辺で失礼します」
「わざわざありがとうなー」
行きと同じで虎丸に乗ってイロハは帰っていった。
「よしよし。それじゃあ早速ホテルに行こう」
「わざわざ契約書まで作らなくてもいいのに…」
「なに、こういうのはちゃんと証明をしておいた方がいいからね。こういうのは」
「さすが、その辺はちゃんとしてるんだね。ところで利息とかは?」
「トイチ」
「おっけー分かったちょっとそこに正座しなさいおじさんが説教してあげる」
「待て待て2日で返せるから」
「それは!!返せない人の言い方!!!!」
「いやー大目玉食らった」
あの後ホテルのロビーで怒られた。まぁ法外な利子で借りたのは悪いと思うしそっちの学園がその方向で苦労してるのは知ってるけどさぁ…そんなこっぴどく叱ることないじゃん。
…さて、ヒナに会いに行こう。そろそろちゃんと私のお姫様と話さないといけない。彼女から逃げてはいけない。
それが私の在り方だから。
ドアをノックする。はーいという間延びした声と共にガチャリと扉が開けられた。
「…何、お姉ちゃん」
「ヒナとお話がしたくて」
部屋に上がる。ヒナは…まぁ、精神的に酷い状態だった。
俯いたまま。
ヒナをベッドに腰掛けさせて、私もその横に座る。
「……」
「…うん、頑張ったね。大丈夫。私は大丈夫…だから、なんでも話してみて」
ぽつりぽつりとヒナが話しだす。
「………私は怖い。怖かった。お姉ちゃんがずっと居なくなるんじゃないかって。いつか置いていかれちゃうんじゃないかって」
「…」
涙を堪えるように目を閉じて話している。
「居なくなった。死んじゃった、みたい、で…」
「大丈夫だよ。傍にいる」
「私は、弱かった…っ!大切な人が死んでも立ち上がれるように、強く…ない…」
絞り出すように言葉を吐く。
「だから腕が無くなってて、私のせいって言われてるように感じちゃって」
より一層俯き、呟くように言う
「色んな物から、逃げたく、なったの」
うん。うん。
「委員長っていう肩書きとか、学校とか、生活、とか…」
「……色んなことを話してくれてありがとう」
「…こんな私でも、いいの?」
「もちろん。大事な大事な、私のかわいい妹だから」
その声が、笑顔が、いつも私を救ってくれる。だったら私も手を伸ばしても許されるだろう?
「ずっと背負っていてくれてありがとう」
その小さな背中に背負い続けるには重すぎる責任を、今だけは取っ払おう。
「辛かったら頼っても、逃げてもいい。失敗をしても、きっとまたやり直せるから」
放っておくと全部背負ってしまいそうなこの子に、ほんの少しの救いの手を。
「私はこんな風になっちゃったけど…別に何も無くなったわけじゃない。片腕でもできることはいっぱいあるし…そうだね、いざとなったらヒナが片腕になってくれる?」
少しヒナが顔を上げる。
「それに…」
さっとヒナを残った片手で抱き寄せる。
「こうしてヒナと触れ合えてることが私にとってはなによりの幸せなんだから」
「う、うぅぅ…」
あぁ、このままヒナの頭を撫でられないのが残念だ。
「うあ゙ぁあぁぁあ゙ぁあああ゙ああ゙あ゙ッ!!!!」
決壊したように涙が溢れ出す。しばらくそのままヒナを宥めていた。
「大丈夫?落ち着いた?」
「…うん。もう大丈夫よ」
「それじゃあ最後に、一つだけ、いい?」
そう言ってヒナの肩に手を置く。意識を吸い出されるような感覚とともに
視界の先では、さっきまでの私の体がどろりと溶けて真っ黒い液体になっている。
「ひっ」
『大丈夫。大丈夫…私はここに居るよ』
「…お姉ちゃん?」
数日ぶりでも懐かしい。やはり、こういうのも悪くない。
『改めてただいま』
「ふふっ…おかえりなさい、お姉ちゃん」
『…笑えるぐらいの余裕ができたようで良かった』
ヒナは床に散らばった液体に手を触れる。それと同時に意識がその『液体』に移り、人を形作る。
「今度またお出かけをしよう」
「そうね…今までこんな風にできなかった分、いっぱい遊ぼう」
「と、いうわけでただいま帰りましたマコト議長。風紀委員長並びに風紀委員長補佐官、本日付で職務へ復帰します」
「…了解した。だがお前達、無断欠席から復帰までは早すぎないか?ヒナに至っては1日も経っていないぞ」
もう出奔する理由が無いので職務復帰の連絡をマコトにしている。
なぜかマコトからストップがかかった。
「別にいいでしょ?どんな休みの取り方をしようが、私達の自由だし」
「それは…まぁ、そうだが…」
「それじゃあ、私達は仕事に戻るから」
「失礼しました。あ、マコト。これ借りてた3万」
契約書なんていらんかったんや。さて、アコにも挨拶をしなきゃ。
「ただいま、アコ」
「おかえり、な、さ…ヒカ!?」
「ヒカダヨー」
体や腕についてひっきりなしに聞いてくる。それについて答えつつも、私は目的のためにとある表を見ている。
「歩兵第07小隊の隊長は長方…歩兵第08小隊の隊長は天田…」
読める。分かる。記憶の中にある。後方支援という役職に任されるということを考えると小隊の隊長の名前ぐらいまでは覚えておくべきだろうと考え、リストを見ている。アコは書類仕事、ヒナは前線に行った。
今までは記憶にすら残らなかったそれが今はちゃんと覚えられる。これでようやくまともな指揮を執ることができる。
…その日は部隊長達の名前を覚えるのに使った。あと、アコを丸め込んで例のホテルに人員を回してもらうことに成功した。これでなんとかなるだろう。
ヒナと一緒に寝た。いい匂いがした。
ホテルの3階。相部屋にされて宿泊したホシノとサオリ。
「いやー中々のホテルだったね」
「あぁ。機会があればまた泊まりたい」
朝食を食べてチェックアウトをしにフロントへ向かう2人。
「いい経験をしたとは思うけど、これからどうするんだろうね」
「カゲ…じゃないな。ヒカからはチェックアウトをしておいてと…なんだ、地震?」
瞬間、ビルが崩れ始める。
「何がっ」
「──ッ!」
即座にサオリを抱えて落ちてくる瓦礫を避けながら着地するホシノ。盾を展開し瓦礫から身を守る。
幸い、周囲に目立った怪我人は居ないようだった。ゲヘナではこの程度日常茶飯事なので当然である。
周囲を見渡せば青、青、青。
「アリウス生…!?どうしてここに!?」
「うへぇ、これは確かに護衛が必要な数だね」
アリウスによるゲヘナへの侵入…開始。
「補佐官!例のホテルに襲撃が!!」
「05小隊〜11小隊を向かわせます!戦車も空いてるものを投入しましょう!!」
始まった。これを誘い出すために私は餌…サオリを置いておいた。結果は見ての通り。実力的にどうなるかはわからないが、時間さえ持たせられれば良い方だ。
「…やるぞ、ヒナ。やるぞ私」
『08小隊の天田隊長』がやりたかっただけ。
言い忘れてましたが現在開催中のアンケートはどちらを選んでもアズサは出てきます。
白洲アズサはアリウス生一時保護施設襲撃/爆破事件に
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