空崎ヒナは幸せでなければならない   作:rilu

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舞台から除けられた者

 

随分と無理をした。光の中、ぱらぱらと自分が崩れている。

ここで私の役目は終わりか、なんて思いながらその運命を受け入れんとす。

 

そんな中、自分のようにここを漂っている魂を見つけた。

心当たりがある。今、ここで終わってしまう人に。

 

私は一心不乱に手を伸ばし、それを掴んだ。

 

 

 

 

 

 


 

「“おかえり、セリナ”」

「はい。ただいま帰りました」

 

ここは、どこでもない場所。どこまでも広がっているようで、どこかで絶対に途切れている。

地面は砂浜のようで水平線が見える。

 

「“毎回私の世話をしてくれてありがとね。やっぱり無茶をするから…”」

「いえ、私がやりたくてやってることなので」

 

 

「“セリナ、帰ってきてたんだね”」

 

砂浜の少し奥の方からもう1人が現れた。

 

「“おかえりなさい先生。何かありましたか?”」

「“いや、何も無かったよ。でもこうやってゆっくり探検とかするのも久しぶりだから、ちょっとすっきりしたかも”」

 

2人は砂浜に座り込み、海を眺める。

 

「“やっぱり、そうですよね…私の残った部分では、これが限界でしたか”」

「“無理はしなくていいんだよ?”」

「“大丈夫です。それに、向こうが落ち着くまで…向こうの私がこっちのセリナの居場所を作れるくらいまでは、ここを居場所にして欲しいから”」

「“ちょっと過保護じゃない?”」

「“親心…というより、わがままです。少しぐらい先生らしくしたっていいじゃないですか”」

 

そう言って白髪の彼女はセリナを撫でる。セリナは満更でもないようだ。

 

「“…あなたこそ大丈夫なんですか?ずっとこんな場所に居て”」

「“大丈夫だよ。多分。ただ向こうに行ったら、『どこで道草食ってたんですか』…なーんて怒られちゃいそうだけどね”」

 

はははと軽く笑う。2人はここに来て長いのか、軽い調子で会話を続ける。

 

「“それに、1人は寂しいでしょ?”」

「“……それも、そうですね”」

 

セリナもずっとここに居させるわけにはいきませんし…と付け足す。

 

「“…ここで私の寂しさを紛らわすためにできることはあります”」

 

そう言っていつの間にか手に持っていたピンク色の欠片を掴む。

ヒナの、アコの、イオリの、マコトの、ミカの、ホシノの、チナツの、ユウカの、ハスミの、スズミの────

様々な生徒の()()()を感じるそれがぽろぽろと地面に落ちる。

それらは地面に落ちる前に青とピンクの何かによって回収されていく。

 

「“きっとこれを使えば、生徒をここに生み出すことはできるでしょう…いいえ、できます。すぐそこに、『できた』例が居るから”」

 

セリナはニコニコと笑っている。

 

「“でも、でも…それが、彼女たちの本当の幸せになるようには思えない。この箱庭に閉じ込めて、私のような偽物と一緒に消えてしまうことが幸せだとは到底思えない”」

 

ぽつりぽつりと悲しそうな声で話す。

 

「“私は、どこまで行っても偽物でしかありません。シャーレの先生(先生)のようにはなれないし、プレナパテス(先生)のようにもなれません。きっとあなたたちのようなことがあったら…私はきっと逃げ出してしまう”」

 

「“臆病者で、変わるのも変えるのも怖くて、それでも変えようと決めて分かれた私。覚悟も意思も、なにもない”」

 

「“だから私はあまり、これを使いたくありません。いきなり産まれて見るのが偽物なんて…嫌でしょ?”」

 

 

 

 

 

「“…ヒk「先生、怒りますよ?」

 

ずっと横で静かにしていたセリナが先生の言葉を遮って怒気を含んだ声で話しだす。

 

「私にとっての先生はあなた達です。今、キヴォトスで奮闘している先生も。今、ここで頭を悩ませている先生も。私に…いえ、私達にとっては本物の先生です。偽物、なんて言ったら悲しむ人が出てしまいますよ!」

 

息を大きく吸って続ける。

 

「だから、だから────」

 

 

 

「──臆病でもいいんです。先生は、とっても優しいんですから。先生は先生です。それだけは変わりません」

 

「“…言いたいこと、大体言われちゃったな。でも、これだけは私からも言わせてもらうよ…君は君だ。(先生)ではないし、私が託した人(先生)でもない。君の道は、決定は、自分でするべきだ”」

 

 

 

しばらく彼女は俯いていた。

 

…顔を上げる。

 

「“そう…そうだね。やれるだけやろう。あー、こんなことで悩んでた自分がバカらしくなってきた”」

 

すっと立ち上がり、海に胸を張って話す。

 

「“指2本の残り滓しかない私にどこまでできるのかは分からないけど…消える前に足掻けるだけ足掻くさ。…共犯になってもらっても、いいかい?”」

「“もちろん。生徒の我儘を聞くのも先生の仕事だからね…とはいえ、私もどこまでできるから分かんないなぁ”」

「行きましょう、先生!」

 

 

 

しかし、しばらくすると立ち止まる。

 

「“今動いてもやれることが無いね…”」

「“そうだね…あ。じゃあ、ヒカの細かい生い立ちとか…私、知りたいかも”」

 

「“…しょうがないなぁ…まぁ、話題も尽きかけてたしちょうど良かったかも。ただ、あまり具体的にすると()()()()()()()()()()()から、考察と比喩がかなり多くなるけど…いい?”」

「“うん。色々と聞かせてほしいな”」

 

彼女は地面に座って砂浜に落書きを始める。

 

「“ある人が、本の生る木を植えました。その木は立派に育って沢山の実をつけました”」

 

砂浜に描かれた大きな木に吊られた本が描き足される。

 

「“立派に育った木からは、立派な本が収穫されました。その本を、沢山の人が読みました。題名(タイトル)は様々です。『対策委員会』。『時計仕掛けの花のパヴァーヌ』。『エデン条約』。『カルバノグの兎』。『百花繚乱』…『あまねく奇跡の始発点』。様々ですが、そこお話はどれも素晴らしいものでした”」

 

かくいう私もその物語に魅せられた者の集まりですがね、と付け足し話を続ける。

 

「“ある人は本の感想を語り合い、ある人は本を元に絵を描き、またある人は新たな物語を作り…皆、またどこかで本の生る木を植えました”」

 

もう一本の木が描き足される。もう一本、もう一本と増えていき、最初の大きな木の周りを囲んでしまった。

 

「“それは皆が見られる場所かもしれませんし、誰にも見られない頭の中かもしれません。でも、みんな何かしらの願いを持ってお話を作っていたはずです”」

 

周りの木から線を引いていき、線の先をある一点に集める。

 

「“その願いが集まったのが私です。つぎはぎで歪な、私の魂の形。きっと忘れられない、私のたった一つの願い、原点。それが、たまたま本に入っただけ”」

 

「“だから私の存在はこの世界で不安定です。本に挟まれるだけの栞みたいなもの。どこまで行っても余所者なのは変わりありませんから。栞は本を開けば落ちてしまう、その程度の物です。それに私は栞の切れ端にすぎません。簡単にはらりと落ちてしまう…”」

 

「“私にはもう、直接物語に関わることはできません。そんな力は残っていないので…だから、私はできることをやります。そっちは頼みましたよ、私”」

 

「“あなたの託した仕事はやり遂げました。次はあなたの番です…私の妹を、よろしく”」

 

そこに残っていた3人は空を見上げる。

空には、指揮が終わり大きく息を吐く空崎ヒカの姿が映っていた。





本編にはあんまり関係ないけどちょっと個人的に書きたかった。

なんだこの話わけわかんねぇ
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