空崎ヒナは幸せでなければならない 作:rilu
独自設定と独自設定を足して独自設定を掛けたみたいな話がしばらく続くと思います。なんとか耐えてください。
赤く染まったゲヘナ自治区。散乱する死体。地面を流れる血からは鉄のような匂いが漂ってきている。地獄のような様相ではあるが、そこを歩く1人は何も気にせず道を行く。
「“墓でも建ててやりたいんだが、流石にこの数だとね…”」
空崎ヒカ…ではない。賢者と名乗っている、普段はどことも分からない場所でペラ回しをしている人間…人間?まぁ人間だろう。
「“最近はここに来る回数も増えてきたな…もうそろそろ、私もここの仲間入り…って感じかな?”」
周囲を見回せば死体、死体、死体。建物の屋根。道路上。街頭に突き刺さったもの。置かれている車を叩き潰すように投げ出されたもの。頭が潰れていたり、焼け焦げていたり、体に穴が空いていたり。
精神性はイカれているが根は善人な彼女ならば、この状況に多少なりとも動揺を見せるはずだ。だが、それはない。動揺も、焦りも。ここに『招かれる』ことでの精神的な揺らぎは一切ない。
死体の全てには、全て共通する特徴がある。青い目。長く白い髪。色白の肌。比較的高い背。
…この空間で斃れている遺体は、全てが空崎ヒカのものであった。
「“夢を追い、道半ばで斃れた者達の墓場。託され、託し、バトンを繋いだ者達の安寧を。貴女達の記憶を継ぐ、ほんの少しのお手伝いを”」
「“今を生きる彼女に幸あれ…と、願っておきましょう。きっとその先に、空崎ヒナの幸せはあるから”」
その言葉と同時に、賢者と勇者に名付けられた彼女は光に包まれて消えた。ここに残されたのは、血で染まったゲヘナのみ。
今日も、明日も、明後日も。この物語の終わりまで、歩みを止めた者達の墓場としての役目を果たし続けるのだろう。
「あれは、なんなんだろうか」
正義実現委員会からの取り調べを終え、開放された補修授業部。その内容は言ってしまえば当たり障りのないものであったが、あの化け物についてのことは特に多かった。
ちなみにコハルは居ない。一応、一応正義実現委員会所属なので対ベアトリーチェのために招集されている。
「…アズサさん」
「あれについて私は話せることは話したつもりだ。だが…私があの時見たあれは…私の知るものではなかった」
「大丈夫…大丈夫です!コハルちゃんも行ってくれてますし、きっとなんとかしてくれます!」
「…あ、ここに居たんだ」
「「「!?」」」
「ちびシロコからお誘いが来たから、せっかくだしと思って…あ、そっちの2人もどう?」
本格的に作戦が始まる前に、各人員の配置場所を確認しておくことにする。
…Aチーム、錠前サオリの護衛と、現れる対象物の撃滅を目的に組まれている。こちらは主にゲヘナ学園風紀委員会と万魔殿から軍事演習の視察…の名目で配置された虎丸が配置されており、アリスを除いたゲーム開発部もここにいる。
Bチー厶はアツコ、ヒヨリ、ミサキの護衛と対象の撃滅のため。ハスミ率いる正義実現委員会と対策委員会の一部の面々が参加している。
そして1番の要のCチーム。こちらは空崎ヒナ、剣先ツルギ、小鳥遊ホシノ、聖園ミカ、天童アリスなど、精鋭揃いの遊撃チーム。ベアトリーチェが出現した場合の足止め、そして最終的には討伐が目的になっている。私、空崎ヒカもここの前線指揮のためここに配置された。
先生は全体の指揮のため後方へ。正直あの人は下手に出張ってきて死なれたら困る。いや私たちに何かあったら絶対いの一番に駆けつけるのだろうが。
また、救急医学部や救護騎士団などのメンバーも一部参加している。
『────先生、来ました!』
『“Aチーム、Bチーム、状況は!?”』
『そんなに声を荒らげなくても聞こえてるよ先生』
『こちらAチーム。正面に多数の軍勢を確認しました、どうぞ』
『Bチーム、前方に異常なし…いえ、この感じは…!』
ここからでも分かる。嫌な気配だ。
「先生、おそらくBチーム側にベアトリーチェが来る。Cチームを動かす許可を!」
『“許可する!急いでCチームはBチームの援護に!”』
許可が出た。各メンバーに指示を伝え、急ぎBチームの援護に回る。
作戦開始の号令と共に現れたアリウス生の迎撃を行うことになった風紀委員会とゲーム開発部。とにかくBチーム、そして主戦力たるCチームに余計な負担がいかないように。
幸いにも風紀委員会にはアリウス生との交戦経験がある人物も多い。正義実現委員会ではなくこちら側にアリウス生の集団が出現したのは幸運だっただろう。
そして、この作戦にAチームで参加している銀鏡イオリも戦闘経験がある。ある、が、前の戦闘とは確実に違うことを感じ取っていた。
(こいつら、連携が取れている!?)
今までとは明らかに様子が違う。
無秩序に…いわば、目的だけを伝えられて戦っていた集団という印象であったこの前と違い、明らかに何かしらが指揮を執っている。
調印式の時と違い統率が取りきれていないから前は付け入る隙がありそこから崩せたのだが、今はそれがない。リロードの隙を待機していた人員が潰し、盾を持った人員が前線を作り、一部は爆弾などで破壊工作を行っている。間違いなく組織化された兵士達のそれだ。
風紀委員会もそれに対応している。バリエーション様々多種多様な問題児を相手にしている彼女らにとってはその程度の変化はなんともない。
しかし、そもそものスペックの差によって若干押されつつある。
「そこっ!…大丈夫か!?」
味方を襲おうしていたアリウス生の頭を撃ち抜き動きを止める。先程からイオリは遊撃に徹しており、その健脚で戦場を縦横無尽に駆け巡って銃弾を次々とプレゼントしていた。
『イオリ、突出しすぎている右翼の援護に向かってください。チナツは中央で傷病者の対応と状況報告を引き続きお願いします』
「オッケー!」
そのままアコに指示された場所へ走る。狙えそうな敵を見つけ次第撃ち倒し、リロード中なら蹴りで注意を引く。
「そっちか!」
駆ける。駆ける。駆ける。
「次ィ!」
ただひたすらに。我武者羅に。
「風紀委員会のスナイパーをっ、舐めるなッ!」
狙いを付けて。
『────リ!イオリ!突出しすぎです!』
「…んぁ、あ、ごめんアコちゃん!」
『カバーに虎丸と戦車隊、あとゲーム開発部…?も向かわせます。砲撃が始まり次第引いてください。殲滅が可能なら攻勢に移ってもいいですがくれぐれも無理はしないように。あとは補給にチナツも向かわせます』
「了解。しばらくここを抑える。それにしても、随分手厚いね?」
『当然です。あなたがやられたら総崩れも十分にあり得ますから。下手なことしないでくださいよ?…サオリさん、中央部の迎撃に回って下さい。空いた分、お願いします』
思考を落ち着かせ、狭まった視野を広げて前を見る。…青白く光る敵が無数に揺らめきこちらを見据えた。改めて見ると圧倒的な人数差だ。風紀委員会の数も相当だが、それでもあちらの方が多いように感じる。
「ああ、でも────」
背後から砲撃の音が響き、目の前の集団が蹴散らされた。虎丸だ。そしてそこから口火を切ったように次々と続けざまに砲撃が行われる。
「キキキ!待たせたなぁ銀鏡イオリ!」
「はぁ…まったく、なんでマコト議長まで乗ってきてるんですか?」
「ここ!?すごーい!さっきまでとは段違いの数!」
「お姉ちゃん、あまりはしゃぎすぎるのもどうかと思うよ…」
「ひぇ、あの数…が、がんばります!」
「イオリ、怪我はありませんね?弾の補給です。受け取ってください」
「────やっぱり、負ける気はしないな」
「こちらCチーム、Bチームに合流した」
『“了解。そのまま待機を………待って、反応を確認した!すぐに来る!出現まで────”』
緊張が走る。
『“5!”』
息を呑む。
『“4!”』
それぞれの得物が正常に動くか、チェックする。
『“3!”』
大きく息を吸い、そしてまた吐く。
『“2!”』
戦闘態勢を取り、身構える。
『“1!”』
恐怖はない。あるのは意思。そして闘志だけだ。
『“0!来るよ!”』
その言葉と共に、その場に居た全員を大きな重圧が襲った。恐怖に震える者。覚悟を決める者。より一層戦意を滾らせる者。
そして、地面から滲み出るようにゴボゴボと悍ましいものが現れる。花のようで、ヒトのようで、異常な長身で、肢体は枝のように細く、そして冒涜的な化け物。
「…こちらCチーム、ベアトリーチェの出現を確認した。みんな、行くよ!」
その号令とともにCチームはそれぞれの得意距離で攻撃を仕掛け、Bチームはその援護に回ってもらう。
ヒナとアリスは後方に回って弾幕を形成し、ツルギとホシノで注意を引く。ミカはホシノ達の一歩後ろで柔軟に立ち回っている。
…私?私は後方でひたすらに指示を出している。基本的に指揮は先生が行うが、先生だけでは追いきれない部分…例えば戦場での即時の判断だとか、Bチームの陣形だとか、アリウススクワッドへの移動指示とか。あとスクワッドの面々、アビドス、それとハスミに関しては普通に頭数に入れている。こんな戦力を遊ばせておけるほど余裕のある戦いではない。
ホシノの負担がどうしても大きくなってしまうが頑張ってもらうしかあるまい。まぁ、大丈夫だろ。守る時のホシノと吹っ切れた時のホシノってバカみたいに強いし…
だが、事前に共有された情報によるとツルギでも有効打となる攻撃は与えられなかったという。撤退に追い込めたのは腹にアズサのEXで傷を作って、そこをハスミのEXで撃ち抜いてようやく手傷を負わせてようやく、らしい。
…これ、
今ここで片付けたいのならヒナにドレスに着替えてもらうのが一番なのだろうが、生憎そんな事言い出せるはずもなく。
戦況は、なんとか互角。しかし若干こちらが押されている気もする。決定打がない。
こちらの細々な攻撃はまるで効果がないのに、相手の腕の一振りでは十分こっちが致命傷を食らう。既に正義実現委員会は少なくない数の損害を出しており、これ以上の被害は抑えたい。だが手が足りない。ホシノとツルギだけでは抑え続けるのにも限界がある。あの化け物の移動速度は下手なキヴォトス人なら十分に追いつける。あいつとは追いかけっこをしたから知っている。ミネも入ってくれれば非常に助かるのだが、彼女はBチームの救護班だ。今はそこら中を駆け回って離脱者を回収しているだろう。
報告のように腹部を狙っているものの、多少反応を見せるだけ。
…なぜだ?報告によると頭や胸などの急所ではなく、腹部を攻撃されるのに異常なほどの抵抗を見せたらしい。執着する理由が何かあるのか?
「ア゙ァ゙ァ゙ア゙ア゙ア゙ァ゙ア゙ア゙!!!!」
「よっ、ほっ…っと、今だよツルギちゃん!」
「っぐ、ぐおおあああ!!!」
ベアトリーチェの攻撃をホシノがパリィして体勢を崩したところにツルギの連射が叩き込まれ、衝撃でまた怯んだ。
『“ミカ、追撃できる!?”』
「おっけー、任せてよ!」
ミカによる連射とそこへ向かう隕石によってさらに追撃。…あれ、マジで流れ星が落ちてきてんだな。
よし、いけそうだ。もう1発いける!
「ホシノ!ツルギ!射線を開けて!」
「賢者、感謝します!!光よっ!!」
戦場をまばゆい光が照らす。身を翻し射線上から引いた2人の間を極光が如きエネルギーが飛び去っていく。
そして、それはベアトリーチェに叩きつけられていく。
「状況は!」
「あいつがこの程度でくたばるわけがない!各員警戒を…!」
『“待って、何か様子がおかしい!”』
スーパーノヴァが一時的に冷却に入り、その場の明るさが元に戻る。
そこから現れたのは、元の化け物然とした姿ではなかった。細々とした手足は健常者を思わせる肉付きになり、全長は人間の範疇に収まるサイズになった。…顔は相変わらず化け物のままだが。
「まずっ、ホシノ、防御体勢!各員弾幕を絶やすな!!」
「っ…!ぐぅ…!」
目の前の盾もお構いなしと言わんばかりに拳を叩きつける。ホシノは15mほど後退し、地面に跡を付けながらようやく止まった。
「みんな、カバーをっ!!」
「ん、任せて」
シロコのドローンで気を引き足を止めさせ、そこにヒヨリの銃撃を叩き込む。足を止めたのは一瞬だが、ホシノが体勢を立て直すには十分すぎる時間だ。
「ホシノ、何か変化は?」
「あいつの腕力が前の状態よりだいぶある。2倍…いや、多分数倍はゆうに超えてると思う」
「聞いたかヒナ?一度アリスを連れて適当な建物上に登って斜角と安全を確保してくれ。今回は火力投射を頼む」
「了解。アリス、こっちに」
「分かりました!」
ヒナはアリスを抱えてちょうど近くにあった2階建程度の高さの家に飛んでいく。多少の重さはヒナには関係がない。…いや、アリスとスーパーノヴァの重みで若干手が震えている。がんばれヒナ。負けるなヒナ。
「ミカさん攻撃を…いえ、下がって!」
「!」
私が勘で指示したミカはバックステップで下がる。元々居た場所を通っていったのは…青白いレーザー。…なんで赤イメージのベアトリーチェから青白いものが?あの生徒達と同質の物か?
「先生!正実の生徒達を下がらせてくれ!このままじゃ無駄に消耗しちまう!」
『“分かった!みんな撤退して!”』
後方に設営されたテントで戦況をモニターしながら適宜指示を出す。
そうしていると、急に隣から声がかかった。
「…厄介なことになりましたね」
「“黒服!?なぜここに…”」
「ククク…契約者の安否が気になりましてね。少々お邪魔させていただきました」
そう言ってどこからか取り出した椅子に腰掛ける。
「それにしても、ああなってしまいましたか…ええ、厄介。非常に厄介です。そうですね、一つ質問をしましょうか、先生。あなたはあの姿を見てなんと思いましたか?」
「“なんだか…ヒトに近い?”」
「ええ、それも中途半端に。あれは、傍観者という彼女の『意味』を取り込んでしまったためです。しかし、一介の登場人物にすぎない我々にそれは重すぎる…それも、取り込んだのが舞台装置の
「“ごめん、よく分からないから手短にお願い”」
「いわば爆発寸前の爆弾です。アレの存在とは相性が悪く消費できない神秘、エネルギーがオーバーロードを起こし体外に放出されることで一時的にですが異常な身体強化が行われているようです」
「“具体的にはどのくらい?”」
「暁のホルス…いえ、瞬間的な力で言えばこのキヴォトスにおいて敵う相手は居ないと断言しましょう。なぜ相性の悪いはずの神秘がここまで出力を高めているのかは分かりませんが…こういう時は根本から絶ってしまえばいいのです。先生、ヒカさんへの通信を繋いで下さい」
「“…分かった”」
「こちらヒカ、どうした先生」
『私です。黒服です』
「うわでた」
こっちは突破口を考えるのに忙しいってのに…なんだ、何が必要なんだ?ブルアカのボスには大抵攻略法がある。何だ?何が要る?そもそも必要なギミックは揃っているのか?それともプレナパテスのような先生が居ないと詰むタイプのボスか…!?
分からない。何も…ああくそ、こういう時に俯瞰視点での指揮さえあれば何かしらの情報が分かるのに…今はコハルやセリナ、アツコ達によってなんとか前線を保たれているものの、いつ瓦解してもおかしくない状況だ。どうするどうするどうする…
『ヒカさん、落ち着いてください』
「この状況でどう落ち着けって…!」
『あなたは、何かを感じているのでしょう?』
「…!」
確かにそうだ。私はあいつに惹かれている。…あれに惹かれるという言葉を使うのは生理的に無理だな。
だが確かにあれから何かを感じる。
『恐らくそれがベアトリーチェがあの状態になった原因です。それを摘出すればあれは収まる筈です』
「だが、摘出する方法が…」
『腹部の傷。』
「!!」
『執着心が強い彼女のことです。きっと本能的により力を求めているのでしょう。恐らく腹部を守って居たのも自分の復讐へ向けてより力を高めるため…では、その腹の先にその原因があるとは考えられませんか?』
「…ふ、はははは!!!」
「お姉ちゃんどうかしたの!?」
「上等だやってやろうじゃねえかこの野郎。あいつの
一歩ずつ前に進み、前線組に合流する。
「…ホシノ、ツルギ、ミカ。あれの注意を引き続けて、指定したタイミングで引いてくれ」
「…何をするつもりだ?」
「なに、あの状態をなんとかする策を思いついただけだよ」
「ギグア゙ァ゙ァ゙ア゙ア゙ア゙ァ゙ア゙ア゙!!!!」
「来るよ!備えて!」
「っ!!」
最前線に行ってしまった。
私は何をやっている?見ているだけでいいのか?
こうして安全な場所から見ているだけで?
いけない。認められない。だが、あと一歩が踏み出せない。ここから出たら、お姉ちゃんを裏切ってしまいそうで。失望されてしまいそうで。
「ヒナさんは、行かなくてもいいんですか?」
「…でも」
「行かなくて、後悔はしませんか?」
「…」
「何かで躊躇しているなら、アリスが背中を押します。怒られるのが怖いなら、アリスが一緒に怒られます!」
素直すぎる目で彼女はこちらを見つめてくる。
「行ってきてください。アリスはまだ見習いなので、こんなことしか言えませんが…」
「アリスは、いつも信じています!みんなが無事に帰ってきてくれる明日があることを!だから後悔がないように行ってきてください!」
…迷いなし。曇りなし。これからの行動に、もはや一片の躊躇もなし。
「ありがとう。行ってくるわ」
「はい!アリスは待っていますよ!」
建物から飛び降り、そのまま滑空。そのまま狙いを付けて1発。
「挨拶代わりよ。受け取りなさい」
そのまま弾を撃ち尽くすまでトリガーを引き続ける。薬莢が次々と地上に落ちていく。
そして撃ちきると、ふわりと羽をたなびかせて着地。
「待たせたわね」
「…ヒナが来てくれたならどうにでもなる」
愛は何にも勝る力なんだぜ、と小さい声で聞こえた気がした。