空崎ヒナは幸せでなければならない   作:rilu

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空崎ヒナは幸せである

 

 

呼び出した計5人の後ろ姿を認識し、即座に視線を()()にする。見慣れた指揮画面がシッテムの箱に展開された。軽くタッチすれば攻撃指示、移動指示、その他諸々がまとめてこれ一つでできるという代物で、シッテムの箱がオーパーツたる一端を感じられたが今考えるべきはそれではない。

 

さっき私の腕を引き抜いたベアトリーチェを見ると、敵愾心たっぷりの視線をこちらに向けてくる。大穴が空いた腹はそのままにゆらりと立ち上がり、こちらに向き直る。

だが、こちらは殴られ吹き飛ばされた身。今まで居た陣地側とは反対方向へと吹き飛ばされた…つまり、あいつは今私達が展開していた陣地に、堂々と背を向けたのだ。

 

私が目線で合図を送ると、即座に先生が一斉攻撃の指示を出す。こちらも呼び出した生徒達に指示を送る。ヒナ達3人には射線の被らないように散開。セリナはさっきの打撃で腹部に食らったダメージを回復して私の後ろに待機。アコはセリナ、ひいては私と一緒に行動。そしてホシノは…

 

「呼んだー?」

「“ナイスタイミング、ホシノ!”」

 

早速EXスキル(防御姿勢強化)を使用して私達の前に遮蔽物を展開させる。ホシノやツルギの散弾。ミサキやシロコ2人が放ったミサイル。ノノミやセリカ、サオリの銃弾。アリス、ヒナのもののような神秘の籠ったもの。挙げ句の果てには虎丸やクルセイダーちゃんの砲弾まで。ベアトリーチェを撃ち損じた物の悉くを弾き返しても未だ動かぬ城壁が如し背中がそこにあった。背中どころか前側も壁みたいなもんだけど。

 

「“あっぶな!?”」

 

瞬間、私の真横を散弾のペレットが通過していった。ホシノの防御も抜けてきたらしい。改めて前を向けば、向こう側に居るホシノが鋭い目付きでこちらを見ている。

 

「“ねえホシノ絶対こっち狙ってたよね!?”」

「狙ってないよ。たまたまずれちゃったのかな?」

「“いやでも確実に…”」

「狙ってない。いいよね?」

「“はい…”」

 

乙女って怖い。心なしか背中に刺さる目線が一回り冷たくなった気がする。

 

「風紀委員会からの支給品です」

 

さて意識を切り替えて。多少体力を消耗した臨戦ホシノをノーマルスキル(補給プランB)で回復してヒナ達に攻撃指示を出す。三者三様の方向から紫色の光条が叩き込まれ、ベアトリーチェとその周囲の地面をクレーターへと変えていく。

それでも即座に肉塊にならないのは、やはり僅かに残ったシッテムの箱の残滓からか…残滓でもアレが私のアロナとプラナの力を使ってるのは気に入らないな。可及的速やかに疾く消滅してくれ。

 

…動いた。未だ射撃は続いているものの、それをものともせず近寄ってくる。どうやら、ようやく論理的思考ができない獣らしくなったらしい。ほんと、各地のアリウス生達に襲撃をかけたり、そのくせしてこうして短絡的に姿を現す。なんというか、こう、らしくない。

 

すぐにSPECIAL組と共に移動を始める。目指すのは先生達の方への合流。実質的に挟撃できる今の状況も悪いとは言わないが、いかんせん手が足りない。臨戦ホシノが居れば防ぎ切ることは十分可能とはいえちょっと私の心臓が保たないので遠慮する。

シッテムの箱を操作し、EXスキル発動の準備を済ませた。この状況を打破するために火力が欲しいからこの2人を選ぶ。ぶっちゃけこいつの防御属性とか分からんけど赤いから軽装備だろ。

 

「風紀委員の情報収集能力、お見せします」

「拙い音だけど……心を込めてあなたに……!」

 

右側に展開していた美しいドレスを着たヒナが集中射撃体勢に入ると同時にそのすぐ傍にアコのホログラムが現れる。

 

「ma non troppo!」(しかしあまりはなはだしくなく)

 

今にもこちらに飛び掛かろうとしていたベアトリーチェが横向きに吹き飛ばされた。

後ろの2人を連れてドレスヒナとは反対方向を経由するように走り出す。忌々しくこちらを見上げながらもドレスヒナを最大の排除対象としたようで、そちらに向かおうとする。…警戒すべきは当然、そちら側だけではないというのに。

 

「“向こうはまだ準備中か…ヒナ、穴を埋めるよ!一斉射!”」

「実力行使でいく」

「仕方ない…実力行使で!」

 

先生達の側は先程の一斉攻撃後のリロードが済んでいないようなのでこちら側で攻撃し足止めする。こちらから見て左側に展開していた2人のヒナにEXスキル(終幕:イシュ・ボシェテ)EXスキル(絶海:イシュ・ボシェテ)使用の指示を出した。指揮画面に表示されるコストがゴッソリと持っていかれたが、コスト程度であれば問題ない。

 

先程の3方向からの攻撃とは比にならない量の弾幕がベアトリーチェを襲う。アレの周辺は愚か直線上に存在する物体が判別のつかない破片と化している。

 

動きが止まったのを確認し、また指示を出す。

 

「自由に、鮮やかに……!」

 

あいつの体がまたゴム毬のように跳ねる。間髪入れず、また指示を出した。

 

elegante!(優雅に)

 

ヒナが集中射撃体勢を解くと同時にヤツが地面に縫い付けられた。その隙に走って向こう側と合流する。私の後ろのセリナとアコ、護衛として追従していたホシノ、散開していたヒナ達も一度集合させた。合流は問題なく完了した。

 

「“ヒカ!大丈夫!?”」

「“見ての通りピンピンしてます。私の生徒達に関しては…まあ、そういうものだと納得していただければ”」

 

言外にややこしいから後にしてくれと伝えれば、先生は控え目に首肯してくれた。

 

「うへー、遠目から見ててもそうだったけど、ほんとおじさんソックリだぁ。今度代わりにお仕事してくれない?」

 

「…なんというか、こうも同じ顔が並んでると驚きを超えて何も感じないわね」

「“みんな可愛いよ!”」

「お姉ちゃんは黙ってて」

 

後ろで待機していたアコがやれやれと言わんばかりに首を振る。なんだお前なんか文句あるんか。

 

まあアビドス組は同じ顔同じ名前の人が生えてくる経験はすでにしているだろうし、ゲーム開発部は新作のネタになると目を輝かせている。他の真面目メンバー達は…まあ、頑張って受け入れてくれ。

一度セリナに1番ダメージを食らっている呼び出した方ではないホシノを回復してもらい、改めて向き直る。アレは相も変わらずそのボロ布のように変わってしまった肉体に鞭を入れ立ち上がろうとする。

 

「“先生、まるで私達が集団リンチをするヤカラみたくなってますけどいいんですかこれ”」

「“若干心が痛まないこともないけど…”」

 

口に出すことも態度に出すこともないが、その裏には確実に怒りが籠っている。

 

「“先生がそう言うのなら、まあいいか…みんな、攻撃を再開!何もさせずに叩き潰すよ!”」

 

なんというか、その後は酷い戦いだった。いや苦戦とかではなく、リンチという意味で。

そもそも、アレに苦戦していた要因はシッテムの箱から引っ張ってきていたアロプラバリアーであり、私が直接シッテムの箱を起動、掌握したことであの抜け道を使った不正アクセスはそもそもできなくなっている。他人の(指紋)でセキュリティ突破しないでもらえますか。

…話が逸れた。まあつまり、私がシッテムの箱を取り戻してからアレが使っていたのは、なんとか引き込めただけのただの残滓だけなのだ。つまり、使えば消える、時間が経てば消える。長期戦になれば勿論不利だし、逃走は長距離狙撃可能なメンバーが多数投入されているために実質不可能。

…そう、詰みなのである。

 

もうそこからは、もう、酷かった。狭い空間でぶん投げられて四方八方を縦横無尽に飛び回るスーパーボールよりも可哀想だった。

 

常にヒナ達やノノミの弾幕に晒され、空中に吹き飛ばされてもシロコとシロコ*テラーのドローン攻撃で追撃され、地面に這い蹲っているようであればアツコの爆撃とクルセイダーちゃん、虎丸の砲撃が襲い、立ち上がって的が広がるようであれば狙撃組の餌食。反撃を狙えばホシノ2人とミネ団長によって封殺される。近接という部分をアズサとサオリに任せれば、化け物とはいえもうただの1人で状況を打破できるわけではなかった。

ミカはちょっと途中から引いていた。それでも射撃はやめない辺り、お嬢様といってもキヴォトス人だなぁと、思う。

何度かAチーム側のアリウス生を喚ぼうとしたようであるが、そちらの戦闘は順調であるのか、そもそもシッテムの箱から指揮能力の拡充を受けていたただの獣にそのようなことが行えるはずもなかったのか。定かではないが、援軍が現れることは無かった。エデン条約の時はゲマトリア組が間に入ってきたが、今回はそれもない。

いやもう、酷かった。途中から『シテ…コロシテ…』という幻聴が聞こえてきた気がする。総力戦ボスでもこんな目には遭わない。

 

銃撃が再開された後10分も経たずに、ベアトリーチェの残滓は消滅した。先程までの緊張感とは裏腹に、随分とあっけない終わりであった。

 

ただ、一つ言えるのは…アリウススクワッドは、改めてこの大人へ決別の意思を示したことだろうか。

 

数多の神秘により咲き誇った花火は、種火がアレな割には美しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

この地域一帯で鳴り響いていた銃声、爆発音が一斉に鳴り止み、辺り一帯が静寂に包まれる。

 

終わったのだ。辺り一帯を破壊し尽くしたあの怪物も、私達の日常に割り込んできた恐怖も、消えたのだ。

 

『ふぅーー…こちらAチーム、掃討は完了しました』

「Bチーム、戦闘終了しました」

「“Cチーム、目標の撃滅を確認。…先生、締めを頼むよ”」

「“うん”」

 

「“…今、この瞬間をもって、トリニティ、ゲヘナ合同軍事演習を終了する!!”」

 

最初に手を挙げたのは誰だろう。最初に声を上げたのは誰だろう。ただ一つ確かに言えることは…

 

「「「「「おぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」」」

 

今この瞬間、ここだけは、学園の垣根を越え、過去も越え。なんのいざこざも障害もなく、隣に居る仲間と抱き合って勝利を喜ぶ。そういう空気感が広がっていた。

 

「“みんな、お疲れ様!”」

 

その声が耳に入ると同時に、呼び出した5人が光の粒子となって消えていく。それに呼応するように、私の頭上にヘイローが出現した。

私を先生と呼ぶセリナもいつの間にか居なくなっていた。

 

「わざわざありがとう、みんな。助かったよ」

 

そう笑うと、5人も微笑みながら消えていった。

 

「先生も、わざわざ私の我儘から始まった騒動に関わってくださり、ありがとうございます」

「“気にしないで。これぐらい生徒のためだったら安いものだよ”」

 

そういってまた笑う。

 

ゲヘナの一帯は、珍しく笑顔に包まれていた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

…あの後の顛末を話そう。まず撤退したのは覆面水着団達だった。戦闘が終わるや否やクルセイダーちゃんに乗って逃走していた。正実達は歯痒そうにしていたが…それはひょっとしてギャグでやっているのか?

ミネ団長は傷病者達の方へ戻っていった。それが彼女の本来の仕事なのだから当然だろう。

 

私達風紀委員会、そして風紀委員会名義で参加していたアビドス組とゲーム開発部は一旦この場を離れることにした。

とにかく私達は、部下達を労わることを第一に。疲労で倒れている子。抱きしめ合い喜びを分かち合っている子。それぞれに声をかけていく。

 

そして…

 

「アコ、指揮お疲れ様」

「ええ…ヒカさんも、委員長も。お疲れ様でした」

 

アコも労うことも忘れない。地味にこちら側の指揮を一手に担っていたのだ。相当な負担がかかっていたことには違いない。

 

…さて、とだ。

 

「あー、そこの対策委員会とゲーム開発部達、ちょっと待ってくれ」

 

知人との話は終わったのか帰ろうとしているところに声をかければ、すぐに止まって振り返ってくれた。

 

「さて、給与の話になるんだが…」

「え!?貰えるの!?」

 

モモイが食いついた。

 

「当然。急造の名義とはいえ風紀委員会として参加したわけだからね。危険手当と特別給与ぐらいは出るよ」

「やったー!気になってたゲーム買えるかもー!」

 

モモイが特にはしゃいでいるが、それ以外も若干嬉しそうな雰囲気が漏れ出ている。

 

「それじゃあみんなもありがとうね。急な頼みだったのに受けてくれて」

「流石にあそこまで必死に頭を下げられて断れる人はいないでしょー。それじゃあお給料、楽しみにしてるねぇ」

 

改めて頭を下げると、手を振りながら帰っていった。

 

「…さて、それじゃあ、ヒナ。帰ろうか、私達の居場所に」

「ええ、帰りましょう。…みんな、無事だったんだから」

 

ヒナの右手と私の左手を繋いで、少し早く歩く。顔が熱いのは沈みかけの夕陽のせいか、それとも。少なくとも今の私には、わからないものだった。

 

 

 


 

 

作戦地域から離れ、どことも分からない場所で腰を下ろす4人組が居る。

 

「サッちゃん、すぐに帰っちゃったけど良かったの?」

「…ああ、私達は指名手配をされている身。あまりあそこに居るのも良くない。それに…」

 

ふと、周りを見てみる。少し傷がついてしまっているが、みんなここに居る。それでいい。

 

「…アズサが元気にやっている姿を、見られたからな。私としてはそれで十分だと思った」

「…そうだね」

 

それだけ言って、アツコは意識を落とした。

…頭をそっと撫でる。そのまま私も意識を眠りに落とした。

 

 


 

 

昨日までよりほんの狭く感じる部屋。手を繋ぐ。頭を撫でられる。お姉ちゃんが今までできなかったことをしてくれる。楽しく、嬉しく。

今日は結構ハードなものだったが、その疲労が吹き飛んでいく。

 

……不思議なことが起こった。ヘイローが消えたり、いつの間にかタブレットを持っていたり、私やアコ、ホシノと同じ顔…いや、同一人物を呼び出したり。

でも関係ない。どんな姿でも、どんな声でも、何が起こっても。空崎ヒナは…お姉ちゃんは、お姉ちゃんなのだ。

 

微笑みながらベッドに入る。2人で入るから少し狭いが、その狭さすら愛おしい。

 

幸せという感情に流されるまま、眠った。

 

 


 

 

 

翌日。ゲヘナ風紀委員会はあいも変わらずであった。強いて言うのであれば、合同軍事演習関係で書類関連の量がいつもの3割増なところだろうか。

 

「あー、そうだ。便利屋から請求書来てるか?」

「こっちはまだね。万魔殿に来てるんじゃない?」

「マジ?もうすぐ月替わりだぞ?私がうだうだ色々やってたからちょっとこれで事務所追い出されたら心が痛むんだが。まあ、後で内線使って万魔殿に聞いてみるか」

 

かちゃかちゃ、さらさらと書類を処理していく。私が両手をちゃんと使えるようになったりしたことでこの辺の速度も上がり、今日からは若干帰るのは早くなりそうだ。

 

…ああ、そうだ。トリニティ側でも何があったかも話しておこう。どうやら向こう側はアリウス関連の動きも大きかったようだ。保護施設が破壊されている関係で、洗脳下にあったアリウス生の大半が路頭に迷うことになり、改めて自治区に戻って復興を目指す道を選んだ生徒も多いそう。その先でどんな扱いを受けるかは分からないが…まあ、うまくやるだろう。

一応、多少は自治区の方への支援も考えられているそうだが、まあ、まだまだ難しそうだ。

それと、風紀委員会と正実の多少の関係改善も大きいだろう。治安維持組織同士の犯罪者も受け渡し業務は少なくない。融和まではいかずとも、軋轢を多少は軽減できたと考えれば、まあそれなりの成果ではないのだろうか。

 

合同軍事演習の場所はシャーレ管轄の場所を借り受けていた形であったため、そちらに押し付けてある。

 

「んー…ヒナ、ちょっと休憩しようか」

「うーん…まだ、この書類を一区切り…」

「定期的な休憩、大事。無理する前に休もうね」

 

ぐしゃぐしゃと多少雑に頭を撫でてやれば、にへらと可愛らしく口と目元を蕩けさせた。

 

…無くなった物も、少しはある。救えなかった人も沢山いる。でも、これだけは確かに言える。

 

「…ふふっ」

 

私も、ヒナも。この瞬間は幸せであると。

 





本作はこれで一区切りとなります。読者の皆様、私の妄想の書き殴りにここまでお付き合い頂きありがとうございました。

空崎ヒナは幸せです。皆様がここまで見守ってくれたおかげです。評価、感想、お気に入り登録、ありがとうございました。

随分と薄味の最終話になってしまいました。これからはぼちぼち番外編などを書いていきます。

空崎ヒカや黒服の言っているペラ回しが

  • 司祭A「理解できる」
  • 司祭B「ニュアンスは掴める」
  • 司祭C「理解できぬ」
  • 司祭D「なんとなく読んでる」
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