空崎ヒナは幸せでなければならない 作:rilu
色々やってて遅れました
...あの後に一応現ゲマトリアメンバーに挨拶をした。
いやまぁ、全員話が難しすぎてよく分からんかった。私は小難しいペラ回しは得意だが考察は苦手なんだ。
一応マエストロから『それっぽい話』は聞けたのだが。
「しかし、黒服から聞いていた通り興味深い。このキヴォトスのどこにも属していない文字通り浮いている存在か…紡がれる物語をただ観る者。なるほど、なるほど。表層でも深淵でもなく、我々の知る理から外れた者。故に観測者と」
らしい。
なるほど、だいたい分かった。
曇り空の中で目を開く。
仮眠室で眠ったことを思い出し、着替えていつも通り書類仕事をこなそうとする。
そんな1日のルーティンの中、モモトークに3件の通知が来たことに気づいた。
ただならぬ雰囲気を連絡から感じ取り、すぐに着替えてゲヘナへと足を運ぶ。
到着した風紀委員会本部はどこか物々しい雰囲気に覆われていた。
中に入ると、物々しい雰囲気を出していたのはヒナではなくアコだということが分かるのだが。
連絡をしてきたヒナは俯いていて顔が見えない。
「来たのね。先生」
「“うん、何があったのか教えてもらえる?”」
「…今朝、ヒカが居なくなったの」
「“ヒカが…?”」
居なくなった、という点に疑問を覚える。
彼女は意識が集まってできた人格。そう言っていた。それを考えると、もう『時間』がきただけでは、と。そう考えてしまう。
「確かあの時、消えるとか言っていましたが…ヒカさんがそう簡単に消えるはずがありません」
「“そ、そこまで断言するんだ”」
「当然です!これでもヒカさんとは長い付き合いなんですから」
アコの言う通りだろう。
あそこまで自分の状態を把握して相談までして方法を見つけ出せる。そこまでできる彼女が何も言わずに消えてしまうとは考えにくい。
「“もしかしたら…ヒナ、今までにヒカが学校のルールとか規則を破ることってあった?”」
「記憶の限りだとそうそう無かったわね。この前までは無所属だったけど、あからさまな破壊とか無断欠席はしなかったはずよ。無断欠席は…だけど。一応風紀委員会所属になったし、そこからは特に何も」
一つ手がかりを見つけられるかもしれない。もう半分私の中でやった奴は決まっているが、それを確定にするためのものが。
「“私は万魔殿に行ってくる。何かしらの情報を得られるかもしれない”」
「分かった…ごめんなさい、私たちには力になれそうになかった」
俯くヒナを背に万魔殿へと向かう。喧騒はいつも通り。たまに声をかけられるので挨拶を返しながら建物へ入り、扉を開く。
「キキキ…来たか先生。風紀委員会から連絡は来ている。『部員が失踪したから捜索をしてほしい』、とな。まさかヒカが失踪したとは思わなかったが」
「“もう話は聞いてるんだね”」
部屋で待っていたのはマコト。
周りのデスクでは部下達が資料…おそらく比較的最近のものをペラペラとめくって確認しているのが分かる。
「見ての通り、何かしら手がかりを探して調査中だ。あくまで万魔殿は組織…『失踪』が事実でなければおいそれと人員を動かすわけにはいかない。風紀委員会からの要請だが、別に戦闘中の失踪などではないようだしな」
「“風紀委員会からの案件にしては手をかけているようだけど”」
「当然だ。あいつにはまだ返してもらっていない貸しがある。このマコト様から借りパクなぞできると思うな」
「“か、借りパク…”」
マコトは軽く辺りを見回し、私の目を見据えて口を開く。
「まぁ、成果が出次第こちらから連絡させてもらう。先生は先生にしかできない捜索を頼んだ」
「“任せて”」
ひとまず情報収集に区切りをつけ、次の捜索へ向かう。
「“アロナ、プラナ、監視カメラでヒカが通っていたであろうルートを割り出せる?”」
『おまかせ下さい!』
その間に私は住宅街辺りで聞き込みをする。夜中、風紀委員長のような姿を見なかったか?と。
「いやぁ、その時間は寝ていたなぁ」
「特に誰とも会わなかったよ。ここら辺りは風紀委員長の家が近いってことで治安も比較的いいからね」
「あー…でもなんか人影は見たかも。真っ暗だったからぼんやりと人影が見えただけだったけど、誰かに抱えられていたような?」
そういった証言が得られた。誰かに抱えられていた、ということから誘拐の線も考えられたがヒナがそう易々と連れ去られるとは考えにくい。
いや…あまりこの考え方はよくない。
どれだけ強く見えても生徒だ。万が一のこともある。
自分の中では半分決定された犯人であったが、まだ確定ではない。
…万魔殿から…マコトからの連絡だ。
『先生、聞こえているか?』
「“うん、大丈夫だよ”」
『それなら良かった。万魔殿には今日から1週間、治験のバイトのために授業及び委員会を欠席する旨の書類が提出され、受理されていた』
「“ということは…”」
『今回の件、万魔殿は動けん。最悪の場合は私が人員を無理矢理動かすこともできるが、面子というものがある。万魔殿の議長が急に風紀委員会に肩入れしだしたなどと…ゲヘナ内部で気にするような奴は居ないが他校に気取られると不味い』
「“そう…”」
『それともう一つ。ヒカが治験に向かったという企業、存在しない…というより、営業実態が存在しないペーパーカンパニーだった』
汚い大人の手口だ。あの時彼女が言っていたことも考えるともう選択肢は一つしかない。
「“ありがとうマコト。参考になった”」
『それは良かった。ヒカを頼んだぞ』
通話が切れた。それと同時にアロナ達も入っていった建物がわかったという。
『調べたはいいのですが、この建物は数ヶ月前まではただの廃ビルだったと…』
『完全に今回のためだけに作られたようです。従業員などの出入りも確認できませんでした』
「“それだけ分かったのなら十分だよ。それじゃあ行ってくるね”」
『行くって、どこにですか!?』
「“そのビルだよ”」
『危険です!どんな人が居るのかも分からないんですよ!?』
その心配もごもっともだ。でも、今回ばかりは大丈夫。
「“あいつは、真っ先に殺しにくるような奴じゃない”」
外見は小綺麗なビルの中。一応は製薬会社という体だが、設備はほとんどが研究用と思われるものである。
「ククク…やはりここに来ましたか」
「“御託はいい。早くヒカを返してもらうよ、黒服”」
「まぁ落ち着いて。少しアイスブレイクといきましょう」
薄々勘付いていた通り、ここで待っていたのは黒服。デスクに座っていたがコーヒーの用意を始めた。
あ、こちらコーヒーです。と言って黒服はカップを差し出す。もちろんだがそれには口をつけない。
「“なんで、ヒカに手を出そうとしたのかな?”」
静寂を破り口を開く。
「えぇ、まぁ…これは私からの取引ではなく、ヒカさんから持ち込んできた取引ですので」
ヒカから?なぜ?という疑問が残るものの、そのまま話を聞く姿勢に入る。
「確か…ベアトリーチェを回収してしばらく後でしたかね。ヒカさんから接触をしてきたんですよ。取引をしないか、とね。私は確かにその内容に同意しましたよ。彼女に本格的に興味を持ったのはその後です」
「“…いいよ、続けて”」
「それでは続けて。その後はギブアンドテイクの関係ですよ。彼女はヒナさんから分離する方法を探し、私はヒカさんがどのような存在かを調査する。とはいっても本人の口から説明していただいた方が早いでしょう。入ってきて構いませんよ」
「“え?”」
思わず声が漏れて後ろを振り返る。そこには辛うじて人の形を保っているような真っ黒い靄があった。
「おや先生。やはりここに来たか…来ると思ったよ」
「“…君は、空崎ヒカ、なの?”」
「もう察しているだろう?まぁ今は観測者と名乗っているが」
なんでもないかというように彼女は笑う。いや、笑っているのだろうか。
声質はノイズがかかったようで聞こえにくく、表情も読み取れない。
「そうだな先生。ゲームは好きという話だったが、ホラーゲームは好きかい?」
「“…好きだよ。今の状況も、十分ホラーだと思うけどね”」
「それは良かった。まぁ、現状については仕方ないと割り切ってくれたまえ」
…暗い部屋で頭が異形なのと黒い靄と私だけって割とホラーだな、などという思考は置いておいて。
「ホラーゲームの中でもノベルゲームがある。そういうやつの演出にはこういうのがたまにある」
そう言って銃をこちらに向けてくる。銃の種類もペイントもヒカと同じものだった。
「こんな感じにいきなり読み手、プレイヤーに銃を向けたりファイル名を読み上げたり…いわゆる次元を超えた干渉というやつだ。いきなりやられるとヒヤッとするだろ?」
銃を下ろす。銃を持っていた手にはヒナとアコからプレゼントされたという指輪が付けられている。
「でも、それはヒヤッとするだけだ。明確な命の危機は感じない。その仕掛けを知っていればなおさらね」
…私はそれでちゃんと不安になるタイプだってことは黙っておこう。
「話が逸れた。私はいわゆるそういう演出を『される』側であると同時に、そういう演出を『する』側でもあるんだよ…ふむ、少々話をややこしくしてしまったかな」
「“そんなことはどうでもいい”」
そうだ。私は、そんなことを聞きにここへ来たわけじゃない。
「“私は、どうしてみんなを心配させるようなことをしたのか聞きに来たんだ”」
「…ははは、やっぱり先生には勝てないなぁ」
観念したように彼女は言う。
「説明といっても簡素なものだがね。私は…私はね、ただ死を受け入れたくなかったんだよ。ただ死にたくなかったんだ」
何も読み取れない状態で彼女…いや、彼女なのかも分からない。彼なのかもしれない。
「緩慢な死より、リスクのある生を…私はそれを選んだ。それだけだよ」
「“…そう。やっぱり戻るつもりは無いんだね”」
「しばらくはね。その時が来たら戻るさ」
そう。その答えが聞けたなら十分だ。
「“うん。それじゃあ私は帰るよ。こう言うのも癪だけど黒服、ヒカを頼んだ”」
「ククク…お任せください。私もここまで稀有な例を乱暴には扱いませんよ」
…まだ信頼はできない。だが信用はできる。こいつはこういう奴だ。
建物を出ようとすると、ヒカから声をかけられる。
「最後に一つ、いいか?私は先生に半分騙すようなことをした。それでも私に、手を伸ばしてくれるのか?」
「“当然だよ。私は先生だからね”」
「そうか、それじゃあ」
左手を差し出される。私はその手を握り返そうとした。できなかった。私の差し出した手はヒカの手をすり抜けた。
「この手が握れるようになった時に、また」
「“…それじゃあ、またね”」
無力感を感じながら外へ出る。それが彼女の選択ならば…
私は無事を祈るしかできない。
これの後に投稿するのは過去編(最終章)になるのかなぁって…思いました
評価と感想をくれると作者が喜びます
番外編(メインストーリーと関係ない過去、掲示板、if等々)は
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ほしい
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本編書き終わってからでいい