空崎ヒナは幸せでなければならない 作:rilu
独自設定モリモリ
『端的に言いましょう…ゲマトリアは解散しました』
「…」
『おや、驚かれないのですね』
「契約の時に言ったでしょ?“知ってる”って。まぁ、ここから私だけでどうこうするつもりは無いよ」
『えぇ、あなたはそういう方でした』
「納品された物はとりあえず受け取ってある。多少の賭けにはなるが、先生の手助けにはなるだろう」
『それでは、我々もやらなければならないことがあるので』
「あぁ、契約に関しては遅らせた方がいいか?」
『...そうしていただけると』
「了解────誰?あれ」
『ただのビジネスパートナーだよ』
シャーレは奪還され、アコがシャーレに招集された。
この世界の一つの分岐点…あまねく奇跡の始発点が始まった。
『さて、正念場だ。気合い入れていこう』
「うん。それにしても、大丈夫かしら?台風みたいな風が吹いてるけど」
虚妄のサンクトゥム。各地に出現したそれの破壊のため、各学園の上澄みも上澄みが集められ…いや、このメンバーに入り込めるゲーム開発部って一体。彼女ら一般ゲーム開発者だよね?
いや、功績を考えると割と妥当なところがあるのだが。
「き、来た!とっても強い仲間その2…!ゲヘナ風紀委員長、空崎ヒナ…!」
ピンクのヘッドセットをつけた少女がそう呟く。
その1はRABBIT小隊のことだろう。
「狙撃手、そこから目標への距離。それと銃は?」
『え、えぇっと、わ、私ですか?距離はここから約950m。銃はRABBIT39式、狙撃ライフルです…弾は…』
「もう大丈夫よ...聞いてた通り、凄腕ね」
『ふぇぇ…そ、そう…でしょうか…?』
「聞いたって、どこから…」
「私のお姉ちゃんがね、色々と教えてくれたの」
「…何者なんでしょうか…?」
「それで、こっちが…天童アリス」
「パンパカパーン!レベルカンストのガチ勢がパーティメンバーに加わりました!!」
「ちょっとアリス!?」
「ご、ごめんなさい!アリスちゃんは時折変なことを言うんです…!」
『良かったなヒナ、頼りになるってよ』
「アリス、ゲヘナ風紀委員長の話を先生に聞いたことがあります!」
「私の話を、先生から?」
「ゲヘナの風紀委員長って、すっごく怖くて、気に入らない人は消すって噂のある…」
「ひぃっ…怒られたらどうしよう…」
「先生は、風紀委員長はとっても優しくて、頼りになるって言ってました!」
「…」
「すっごく頼もしい!と」
「…うん、わざわざありがとう。こちら第3サンクトゥム、作戦準備完了。RABBIT小隊およびゲーム開発部が待機中。作戦担当、応答願う」
インカムからは気弱そうな少女の声が聞こえてきた。
『う、うぅ…どうして私が…』
「頑張ってユズちゃん!」
『…そういえばですけど、ヒナさん』
「どうしたの?」
『あの、ヒナさんのお姉さんが作戦に参加するとあるのですが、どちらに…?まだ来ていないみたいですけど…』
「…あぁ、うん。大丈夫よ。ごめん、今呼ぶわ」
さて、出番だ。引っ張られるように意識を浮上させ、体に入り込む。
「はじめまして、でいいのかな?──時間が無いから、やっても手早くお願い。──はいはい。私は空崎ヒカ。ヒナのお姉ちゃんだよ」
さて、久々の共同作業といこう。
「お、おぉ、二重人格ってやつ?」
「うーん、ちょっと違うかなぁ。私が居候してる感じ?」
「アリス知ってます!こういうキャラクターは重要人物…RPGの賢者って決まってます!」
「アリスちゃん、初対面の人にその言い方はどうかと思うよ…?」
連邦生徒会と先生から作戦概要が伝えられた。いよいよ開始である。
ヒナは手袋を整えて銃の最終確認を済ませる。
『それじゃあみんな、準備はいい?』
「「「「はい!」」」」
「私たちも始めよう────作戦通りにね」
「それじゃあ、ボスの前で会いましょう!」
「う、うん。気をつけてねアリスちゃん…」
そんな中司令官のユズの号令の下、あるロボットがギャリギャリと履帯の音を鳴らし姿を表す。
「あれは…!?」
「あれはこの前仲間になったアバンギャルド君です!」
『あれはアバンギャルド君!しかもMk-Ⅲじゃないか!』
「なんなのあの変なロボット」
おい言われてるぞビッグシスター。
「…お姉ちゃん、知ってるの?」
『少なくとも、性能面では多分完璧だよ。性能面では』
「あの見た目は?」
『開発者の趣味』
「…私にはよく分からない領域ね」
向こうではコトリがあれについて力説している。
作戦通り、ヒナとアリスは廃墟の遊園地を正面から進む。
途中には黒服の言っていた通り、プレナパテス御一行がゲマトリアから簒奪した色々が立ち塞がる。
私とヒナ両方が表に出てもあんまりいいことはない。疲れるし、何より…こう…窮屈なのだ。まぁ考えてみれば当然だとは思う。本来1人分しかない器に2人が入ってるんだから。
だが、今回わざわざ両方が表に出てきたのには理由がある。
「2人とも、敵は正面のみ。前方に火力を集中させて突破するよ────了解」
「はい!わかりました!」
こうして口に出して周囲に指示を飛ばせるのだ。ヒナに思考で伝えることなく周囲に共有できるというのは存外便利…なのだが、私の存在が知らされていない場所で急にこれをしても困惑されるだけだろうということで封印していた。
今回ばかりは緊急事態なので他のメンバーに参加することを共有したのだが説明が足りてなかったな。RABBIT小隊とか多分まだ混乱してるぞ。
あとおまけ程度に回復力が早くなる効果もある。でもヒナが強すぎて傷が付かないんだよなぁ。
『さて、こっちは順調かな。向こうも問題なく進んでいるみたい』
「もうそろそろ合流地点ね。私たちも用意を」
しばらくシロ、クロが居る場所の前で待機していると、別ルートから侵入していたRABBIT小隊やゲーム開発部も合流する。
「さあ、一気に行くぞ!」
『は、はい!みなさん前進してください!』
中に入るとそこは体育館のような施設。元々は体感型のアトラクションか何かだったのだろうか。その中央には玉乗りをしているネズミを思わせるキャラクターが鎮座している。
…さぁ、総力戦のお時間だ。
「とりあえず玉乗りをしてる奴を攻撃!指示はその都度出す!」
そうこうしてる内にシロがいくつか爆弾を投げてくる。
「爆弾!走って爆風から逃げて!」
「うわぁ!」
「くっ…これで!」
ミヤコが自走式閃光ドローン…面倒なのでEXとしよう。そのEXはシロの足元で炸裂するも転倒させるには至らず、よろけさせるのみに収まった。
『向こうも伊達にエンターテイナーやってないみたいだね』
「次は何が来るの!?何あれボール!?」
「よしきた!ヒナ、アリス、“打ち”返せるね?RABBIT3は火力投射の用意を!──分かった」
「はい!任せてください!」
『了解!ヘリを移動させておくよ!』
ヒナは銃口部分を持って綺麗なフォームでフルスイング、アリスは光の剣を大きく振りかぶり転がってくるボールに叩きつけた。高速で跳ね返ったボールは2つともシロへと叩きつけられる。
姿勢が崩れ、シロはボールから投げ出される。
これを好機とし全員から総攻撃が叩き込まれる。特にヘリからの火力支援…RABBIT2、サキとRABBIT3、モエからの攻撃は圧巻の一言であった。
「これで、とどめ…です!」
RABBIT4、ミユの狙撃で脳天を撃ち抜かれ動きを止める。
「これで終わり?案外あっけないのね」
『おいヒナそんなこと言ったら』
「ふ、フラグが…」
「建っちゃった!」
「…なんか、やらかしちゃった?」
さて、フラグというものは得てして回収されるものでございまして。シロは2体で1ボス扱いという割と稀有な扱いでもあります。
つまりは…
『うん…?気をつけて、何かがそっちに向かってるよ!』
「烏の羽…ですかね?一体なぜ急にこんな量が…」
「さて、もうじき答え合わせだ…上から来るよ!気をつけて!」
「おぉ!そなたは赤い扉を選ぶのだな!」
「今する話じゃないってアリス!」
上から翼をはためかせて降りてくるのは2体目のボス、クロ。第二ラウンドの開始である。
「ひぅ…遊具が…浮いてる…?」
「当たったら絶対に不味いですね」
「飛んでくる烏には気をつけてね──どう倒せばいいの?──烏とコーヒーカップを避けつつひたすら攻撃!それしかない!」
幸い私にはコーヒーカップの動線が見えるが、ヒナを含む他のメンバーには見えていないようなので逐一指示を出す。
「ミヤコとミドリが狙われてる!横に避けて!」
「っ!」
2人とも横っ跳びしながら銃撃を行う。しかし、大して効いている様子は見せない。一気に火力を叩き込みたいが、おそらくヘリの方は再装填が済んでいないだろう。なら…
「ユズ、前に突っ込んでヘイト取れる?」
『やってみます!』
ユズのアバンギャルド君を囮にして翼を狙う。これが多分一番早い。
予想通り、ユズの操縦でアバンギャルド君に烏は当たらない。
「ミユ、ミドリ、翼を狙って!」
指示の通りに2人の銃撃は翼へと吸い込まれていく。
目の前で爆走するアバンギャルド君に気を取られていたクロは銃弾を避けきれずに堕ちる。
「体勢が崩れた!いくよー!」
「いきます!」
モモイの乱射とミヤコの連射が相手の体を貫く。その後ろからいつの間にか移動していたユズが全身の火器を撃ちながら突撃、体当たりでクロを上空に吹き飛ばす。
「追撃します!光よ!」
「私も…よし、当てる!」
アリスとヒナが上空に打ち上がったクロを狙う。姿勢が整う頃には2本の光がヤツの目の前に迫っており…
光が体を包んでいった。
「…倒したみたいね」
「はい!アリスはボスを倒しました!」
「なんとかなりましたね。指示はこのまましばらく待機とのことですし、待ってみましょうか」
一旦の休憩、弾薬の補給や軽食を済ませる。
…しばらく後、本部から虚妄のサンクトゥムが復活したとの報せが入る。
それと同時に目の前に再び現れるシロとクロ。
「やることは変わらない。勝つよ、みんな」
私の一言と共に皆が前へ進む。士気は最高潮であった。
「勝った、わね」
天を衝く巨塔は折れた。ここでの戦いは終わった。じきに他の虚妄のサンクトゥムも折れ、空はいつもの様相を取り戻すだろう。
『さて…ヒナ、ちょっと一回完全に交代してくれる?』
(分かった。しばらくそのままでもいいのよ?)
『それじゃあ、お言葉に甘えて』
ヒナは交代していき、両目が青色になる。
「おお!完全に変わるとそうなるのですね!アリスとお揃いの目です!」
「おお、確かにそうだ!…さて、ここからはちょっと大事なお話」
懐から花を模った金属製の飾りが付いているブレスレットを取り出す。ヘアゴムとしても使えそうなデザインにしてある。
「これは…?」
「ちょっとしたお守り。君に決断が迫った時、ここ一番って時、きっとそれは力を貸してくれる。ま、腕に付けとくと、ちょっといいことあるかもよ?」
「クエストで賢者からもらえるキーアイテムですね!分かりました!」
「よろしい」
そう言って頭を軽く撫でてやる。しばらく後に上を見上げると、空は赤色から見慣れた青色に戻っていた。
賢者…賢者か。悪くないかもな。
…さて、ここからしばらくは私たちはここで待機になる。ゲーム開発部はウトナピシュティムの本船へ向かうだろうが…しばしの休みだ。ゆっくりするとしよう。
動かなくなった左手の小指と薬指を撫でながら少し目を閉じた。
アトラ・ハシースの方舟。ある兵器、否。少女に宿る武器。
それを巡り、少女の精神世界では2人の影が言い争いをしている。
アリスとケイ。
アリスは与えられた使命から、存在理由から、ケイを救い出そうと言葉をかける。
「世界を滅亡に導く鍵であることが、ケイの存在理由なら…きっと、苦しかったと思います」
一言ずつ
「自分のなりたい存在は、自分で決めていい、と先生が教えてくれました」
心を込めて
「…アリスは、アリスが誰かを助けられるような存在なのかは分かりません。アリスは見習い勇者ですから…でも」
想いを重ねて
「誰かを助けたいと思う気持ちこそ、"勇者"の資格であると、信じています」
勇気を持って話すのだ。勇者とはなんたるかを。
あの時に受け取った腕輪が光る。分かっていたが、存外早く出番がきたものだ。
光に包まれて形作られる。本体から分離されただけの実体を持たぬ魂だが、精神世界の中ならば形を持てる。
「…さて。ついこの前ぶりだね、アリス」
「賢者!」
「け、賢者…?いえ、なぜここに?」
「ちょっとズルをして、ね」
そう言ってアリスの腕を指差す。渡しておいたブレスレットは、私の魂を入れておいて保存する箱…ゲマトリアに頼んで作ってもらった物だ。
まぁ魂を切り取って入れる必要のある未完成品であったが。
多少の賭けは入っていたものの、無事に成功した。
「さて、私はここから出られない。行ってらっしゃい。そしておかえりと言わせてね」
「はい!行ってきます!」
ここから居なくなる2人を見送る。今から彼女達は勇者へとなるのだろう。ならば私はその剣を守ろう。
彼女たちに背負わせてはいけない。その重い重い咎は、世界を作っていく私たち大人が背負うべきものだ。
いつの間にか戻ってきたケイとアリス。アリスは昏倒しており、ケイはその横に付き添っている。
どうやら彼女たちの仕事は終わったらしい。だったら次は私の番だ。
「私を…皆を救うためであれば、死をも恐れないのでしょうか。それが、あなたの勇気……それが、"勇者"なのでしょうか」
「いや、それは違うと思うな」
歩きながら、そう答える。原作では彼女はここでダメージを肩代わりし、バックアップへと移行する。だから、これは私の個人的なわがままだ。
「勇者の持つ勇気は死を恐れない勇気でも、強敵に立ち向かう勇気でもない。勇者が持つのは、誰かを助けるためにあと一歩を踏み出す。たったそれだけの勇気なんだよ」
アリスの存在が消えかけている。早く処置をするべきだろう。
「私は…私は、アリスを消えさせません。私はそれを拒否します」
「消えるべき存在は、勇者ではなく。世界を滅ぼす"道具"であるべきなのです」
「でも、勇者には道具が要る」
「…止めないでください。私は…!」
「“この理不尽が世界に押し付けられたものなら、その責任を負うべきは君たちのような生徒じゃなくて、この世界を作った大人であるべきだよ”」
…いつの間にか羽織っていた真っ白の連邦生徒会の制服。その内側には確かに重さを感じた。
“大人のカードを取り出す”
「それは」
「“大丈夫。ここに来た時から覚悟はしていたから。私については謝らないで、ね?”」
大人のカード。私自身の寿命を前借りして奇跡を起こす不思議な物。どうやら私は、『先生』になれたらしい。
アリスに寄り添い、傷やダメージを私に移していく。
「“…多分これで最期だから、言いたいことを。ケイ、アリス。君たちは人として、生徒として、まだ生まれたばかりなのだと思う。君たちの目の前には無限に道が広がっている。努力で、選択で、何本でも増やすことのできる道が。それは可能性だ。自分に決められたから、と決めつけないで”」
見るだけしかできなかった私が、ようやく手を伸ばしたんだ。せめて、願いを…
「“夜空の綺羅星よりも美しく、広大な深海よりも未知数で、どんな物にも代え難い未来を、可能性を”」
足から痛みを感じる…いや、全身かもしれない。
「“君たちならきっと掴めるから”」
最後にアロナ達と話せたら良かったんだけどな…
全身に罅が入ると同時に鋭い痛みが全身を襲う。
「“それじゃあ、またどこかで私に会ったら『初めまして』って言ってあげてね、ケイ。それじゃあ、さようなら”」
「待っ___________」
それだけ言い残して私の体は光となって消えていく。アリスのブレスレットについていた金属製の花は割れ、結晶となって辺りへ散る。
私の役目は終わった。意識は霧がかかったようになり、だんだんと考えが纏まらなくなる。
最後にアリスの穏やかな寝顔が目に入った。
…あぁ、今日はなんていい日なのだろう。
ウトナピシュティムの本船で起こった、勇者と武器の物語。
そこに居た大多数の人は被害はアリスの付けていたブレスレットの飾りが割れただけだと記憶しただろう。
しかし、ケイとアリスは確かに覚えている。
あの時には先生とプレナパテス、そして彼女らの中に、確かにもう1人の先生…賢者が居たことを。
先生たちは無事に帰ってきて、またいつもの日常に戻る。
キヴォトス人は皆逞しいもので、サンクトゥムタワーの修復や各自地区の復興などはつつがなく進んでいる。
しかしゲヘナは平常運転である。休みなど無い。
この自治区に関しては大体毎日どこかしらぶっ壊れているので特に普段と変わりがないのである。
いやまぁ、あの時防衛を頑張っていた委員には多少の休みを出しているが。逆に言えばその程度しかできていない。
「次は?」
『西住宅街で不良グループの抗争、仲裁だね』
…今日もゲヘナは荒れています。
番外編(メインストーリーと関係ない過去、掲示板、if等々)は
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ほしい
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本編書き終わってからでいい