Zによる被害が爆発的に増えており、ゲヘナ学園もまた被害を受けている場所の一つだった。ゲヘナの生徒数が可愛く見えるほどの数がいるZは、ゲヘナにとって危機的状況を引き起こした。
圧倒的に数で不利を強いられているゲヘナは、エデン条約を結んでいるトリニティと先生からの援助を待つも、混乱によってインフラが麻痺しており時間がかかるとのことだ。援助班が来るまで何としてでも奴らの侵略を止めなければ。
絶望的な防衛戦
「めんどくさい…」
空崎ヒナは不良生徒を成敗しながらそうボヤく。毎日のように問題を起こした生徒を捕らえ、問題を解決し、万魔殿からの追加書類を処理し、家に帰って眠りにつく…結局今日もそんな日だろうと思っていた。
「でも、先生に褒められるなら…」
本当ならヒナは今すぐにでもこの座を降りたいが、先生に褒められるため未だに鎮座している。
一仕事終えてさあ戻ろうとしたところに、ある一通のメールが届いた。
「緊急事態宣言…?レイダー自治区から大量の未確認生命体が出現…?」
ヒナは情報部にいた頃、レイダー学園という存在は知っていたが、正確に何をしているのかは知らなかった。
「既にレイダーを含む2つの自治区が崩壊しており、現在進行形で他の自治区にも被害が増大中…!?」
その一文は、ヒナを驚愕させるには十分すぎる内容だった。
「まだ被害の受けていない中、大規模自治区は戦闘準備を、小規模自治区は最寄りの自治区に避難…確かレイダー自治区ってここから比較的近かったわよね……急がないと」
ヒナは万魔殿へ走って向かっている最中にアコに電話をし、命令を出した。
「アコ、さっきのメールは見たわね?」
『ええ。一体全体なにがなんd―「話は後、とにかく今は防衛準備と避難してきた住民の保護準備をして。私はマコトと話してくる。」―ちょ、ちょっと委員t』プツッ
ヒナはアコがなにか話していたが問答無用で通話を切り、更に足を速めた。
「アコちゃん…?」
一方その頃アコ達の方では、いきなりヒナから電話が来たことに困惑しつつも、ヒナからの命令を受けたアコからの指示を待っていた。
「…総員!直ちにレイダー自治区がある方向に向けて防衛体制を築いてください!―「はい!」養護がメインの人は避難民の保護準備を給食部と救急医学部の人たちと協力して進めてください!―「了解!」―情報部はドローンを偵察させて自治区周辺の情報を限りなく集めてください!―「わかりました!」私はトリニティに連絡をします。イオリは防衛準備を、チナツは先生に連絡をしてください。―「「わかった(わかりました)」」では行動を開始してください!」
各員が散開し、各々が割り振られた仕事をこなしていく。
「アコちゃん、ヒナ委員長は?」
「委員長は今万魔殿にいます。」
万魔殿についたヒナは、ズカズカと歩きながらマコト達のいる部屋へと向かった。
「マコト。」
ヒナは勢いよく扉を開け、目的の人物の名を呼ぶ。
「ヒナか。キキッ、文句でも―「今茶番をしている暇はない。さっさと本題に移るわ」…さっきのメールか」
「ええ、そうよ。そこで、防衛戦に万魔殿にも協力してもらいたいのだけど。」
「キキッ、なるほどなるほど。ついに風紀委員会g―「いいから、してくれるのかしてくれないのか。どっちなの?」…やたらと切羽詰まってるな。」
「当たり前でしょ。もしかしたらゲヘナが滅びるかもしれないのだから。マコトにとっても、ゲヘナが消えるのは不本意なんじゃない?それに、イブキにまで被害が行ったら、それこそあなた達はこれまで以上に機能しなくなるでしょうしね。仕事が更に増えるのは勘弁。だから私も本気なの。」
イブキが例に上がったことに少し顔を強張らせたが、直ぐに元に戻る。
「…確かに貴様の言う通りだ。わかった、協力しよう。」
ヒナとマコトはお互いに握手をして、計画を練り始める。
「じゃあここに…
50分ほど経った今、防衛体制を築き終え避難民の保護も完了しつつあった。その時だった―
『こちら情報部!自治区に未確認生命体の侵入を確認!た、大量です!ざっと見積もって…500はいます!更に後ろからも来てます!』
500と更に増える数は、皆が身じろぐのには十分すぎる数だった。
『500でしょうが1000でしょうが、こちらは完全に防衛体制を築いています。総員、戦闘を開始してください!』
アコが命令を出すと、全風紀委員と万魔殿の戦車が攻撃する。撃つたびに血を出して死んでいくZに気を悪くした人もいたが、それでも処理速度の方が早く、Z徐々に数を減らしていき、そのまま削り切れる――なんて話は無く、多数の特殊感染者までもが現れた。
スモーカー*1、チャージャー*2、ガスバック*3、スクリーマー*4、ブル*5などが前線を荒らした。
スモーカーは機関銃を使っている生徒を巻き上げ、チャージャーとブルはその屈強な肉体で前線を押し上げ、スクリーマーはただでさえ多いZを更に呼び寄せ、ガスバックは辺りにガスを出しながら死亡し、視認性を低下させた。
前線にはヒナとイオリもおり、チャージャーとブルはヒナが、スモーカーとスクリーマーはイオリが対処した。が、特殊感染者による一時的な攻撃は大きな隙を作り、Zの侵入を許してしまった。
しかし、体制を取り直した後、再びこちらの番―そう思っていた。
そんな思考が止まったのは、遠くから車が投げられて戦車に直撃し、爆発した時だった。誰も理解出来ず、一時的に手を止めてしまった。あり得ない、と。
Zの集団から出てきた特殊感染者、タンク*6は、ブルと共に徐々に距離を縮めていった。
「!みんな、来てる!」
ヒナは直ぐに気を取り戻し、皆に声を掛ける。その声に反応し、気を取り直した者もいれば、未だに取り乱した者もいた。そこに、イオリ目がけて飛んでくる者がいた。これまた特殊感染者のハンターだ。*7
イオリは反応出来ず、乗りかかられてしまう。腹から感じる激しい痛みが襲いかかり、もがき苦しむ。ヒナはそんなイオリを助けようとするが、そうしてしまうとブルがこちら側に着いてしまうため、迷ってしまった。
まさにカオスだった。そこかしこで悲鳴やうめき声が聞こえ、ヒナのメンタルは徐々に崩壊していっていたその時、イオリに乗っかっていたハンターがやられた。
「苦戦してますわね。風紀委員長さん。」
「…美食研究会?」
給食部の車にのった美食研究会が現れ、ヒナは目を疑った。
『我々もいるぞ!』
そう声が聞こえ、眼の前の地面が爆発する。
「今のは…」
「ハーッハッハッハッハ!!!何やら爆破しがいのある奴らがいるじゃないか!」
「温泉開発部…」
温泉開発部が列を成して現れた。
「くふふ~本来敵同士の私達が共通の敵を倒す。なんかいい感じじゃない?アウトローって感じで。ねーアルちゃん?」
「ええ。今回は協力してあげるわ、風紀委員会!」
「便利屋68…」
建物の上に便利屋がまでもが現れた。
「さてみなさん。これが終われば食べに行きますわよ!」
「わーい!」
「皆のものよ!この後温泉に行くぞ!」
「「「おー!!!」」」
「真のアウトローってやつを見せてあげるわ!」
「アルちゃん気合い入ってるね~。まあ私もだけど。」
「はぁ…まあでも、こいつらには私も苛ついてる。」
「死んでください死んでください死んでください…!!!」
全員が防衛戦に参加し、Zはその数を減らしていった。
ヒナは感じた。なんて心強いのだろうと。本来であれば敵同士でわかり会えないはずなのに、仲間となった途端にとても安心したのだ。このままならいける、とまで思えた。
数分後、ヒナはこちらの攻撃の数は減っていないのに、徐々に押されていることに気づいた。
Zを注視してみてみると、制服を着た少女の数が増えていた。
勘の鋭い皆様なら既にお気づきだろうが、彼女らはかつてキヴォトスの生徒だった者だ。
それに気づいてしまったヒナは徐々に顔を青くし、攻撃の手を緩めてしまう。
「どうした?ヒナ委員長。」
イオリは気づいていないようだった。ヒナもまた、イオリから話しかけられていることに気づかなかった。
「あ、あぁ」
「…?」
「ああああああああっっっ!!!」
既に心がボロボロだったヒナは突然叫び声を上げて倒れ込む。
「!?ヒナ委員長!ヒナ委員長!」
『どうしました!?』
「アコちゃん!ヒナ委員長がっ!」
ヒナとしても人を殺すのには躊躇いがあり、気分も悪くなる。それがたとえ死んでゾンビになっていたとしてもだ。なんとか我慢していたのが、このことに気付いたせいで爆発してしまった。
「イオリ、風紀委員長を後ろに下がらせて。ここは私達が食い止めるから。」
カヨコはイオリにそう伝える。
「で、でも…」
「いいから!」
「ッ!」
カヨコはあまり出さない大声を出して、イオリに言った。
「私達よりも、風紀委員長のが強い。今ここでその混乱した状態で戦わせても意味がないし、ここに放置するよりかは後ろに下がらせて回復させ、前線に復帰させたほうがいい。」
「…わかった。死なないでよ。」
「死ぬつもりは無いよ。」
カヨコは精一杯笑って見せた。イオリはその笑顔を受け、ヒナを後ろに下がらせた。
「さて…と。社長、ここからが本番だよ。」
「わかったわ。」
ヒナの反応からカヨコはZが生徒であると気づいたが、それでもゲヘナを守るのが優先と考え、戦闘を継続した。
ここまでの時間はおよそ1時間。やっと混乱が落ち着き、列車もやっと動き出した頃であった。
援助が来るまで、残り10分
次回:迫りくる崩壊へのタイムリミット