第二のシンザンと呼ばれたくて!   作:DUN.ネコノカンリニン

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転生―――憧れを見て

 突然だが。俺は死んだらしい。なんでも死因は放置していた盲腸が祟ったとかなんとか。

 だが、俺はこうして意識を保っている。死んだら意識がなくなって無に帰る―――とばかり考えていた虚無主義者であったから、こんな状態になっているのは不思議である。

 そんなことはどうでもいい。いや、死んだことは良くないのだが。

 そんなことより気になるのは、この世界だ。

 意識が薄っすらと浮かび上がってきて、そしてまぶたを開けると―――そこには、一人の幼女がいた。

 ……実際、転生というものには少し憧れがあったが、まさか本当に体験することになるとは思ってもいなかった。―――しかも、まさか人外に転生するとは。

 人外、といっても人間とそれほど姿かたちが変わっているわけではない。というか、どちらかというと人間の要素が強い。

 だが、俺が目をつけたのはそこじゃない。

 鏡に写った自分を見て、その頭部に注目する。

 

「―――なんで、馬の耳が生えてるんだ?」

 

 その特徴に、まったく心当たりがないわけではない。伊達(だて)に情報化社会に生きていたわけではないのだ。この特徴は―――

 

「ウマ娘、なのか?」

 

 ウマ娘―――それは、スマホアプリゲーム「ウマ娘プリティーダービー」に登場する架空の種族。現実世界の競走馬の魂を継いで走る、ヒト型の種族。特徴としては、圧倒的な美貌と、馬の耳と尻尾。そして―――競走馬さながらの超スピード。

 そのスピードは時速60kmに及ぶこともあり、アニメの描写ではウマ娘専用の道路が舗装されてあったほどである。

 

「急にどうしたの?」

「ん?」

 

 見上げると、そこには一人の妙齢の女性がいた。それはそうか。あまり幼女が一人で鏡の前に立つなんてことはない。大人が目の届くところにいるということは当然である。

 それにしても、だ。

 もし、この女性が母親だとしたら、少しおかしいところがある。

 ウマ娘、というのは「娘」と言っているのだから、女性でなければならない。いや、今は多様性の時代だからそのようなことはない、とは思うのだが。少なくとも、生物学的女性ではあるだろう。

 遺伝的な要素から、彼女がウマ娘でなければ俺がなぜウマ娘であるのかわからない。

 つまり言いたいことは―――彼女が、ウマ娘ではないこと。里親、もしくは、

 

(ここが、孤児院である可能性―――)

 

 黙っている俺を不思議に思ったようで、彼女は俺の名前らしきものを呼んだ。

 

「どうしたの、ミタケ」

「ミタケ? 俺の名前か……?」

「……本当にどうしたの? あなたはミタケ。『アナザーミタケ』でしょう?」

「アナザーミタケ……」

 

 その名を呼んだ時、自分の中で記憶が呼び起こされるような気がした。

 ―――俺の名はアナザーミタケ。孤児院で育てられている孤児で、この孤児院に預けられた、ということらしい。年齢は10。まだ小学生であり、成績は人並み。

 足の速さは他のウマ娘も混じる中でクラスで一位。学年では二位だとのこと。

 一人称は、俺。だから、先程この女性―――院長先生に向かって俺、といったのは別に変ではなかったらしい。

 ―――そして、俺には憧れの存在がいたらしい。

 一度、院長先生に見せてもらったあるウマ娘の伝記。その伝記に載っていたウマ娘が、俺の憧れだった。

 ―――シンザン。

 当時出場可能だった重賞レースのGⅠ級競争―――クラシック三冠、宝塚記念、天皇賞(秋)、有馬記念(この世界の表記では有記念)を制覇。デビュー戦から引退レースまでの連続連対数は中央でのレコードである。

 そんなウマ娘が、俺の憧れだった。

 そして、何より彼女と俺が―――

 

「……タケ……ミタケ!」

「―――ッ!」

「……本当に大丈夫? どこか悪いの?」

「……いや、良い。大丈夫だ」

「そう……」

「それよりも、院長先生」

「どうしたの?」

「―――シンザンのレース映像を、見せてほしい!」

「急ね……でもまあ、良いわ。見せてあげる」

 

 意識が戻されて、最初にお願いしたのは、シンザンのレースを見せてもらうことだ。あいにく、伝記となっているということは、もう伝説となっている、あるいは死んでいる、ということであり、どちらにせよシンザンのレースを生で見れる機会はない。

 そんな理由から、俺は視聴覚室へ向かった。

 

「それじゃあ、再生するわ」

 

 ピッ、と再生ボタンが押され、映像が走る。

 その刹那。

 俺の目にも、確かに飛び込んできた。

 ―――雷鳴が。

 ―――激流が。

 ―――火炎が。

 ―――神の、姿が。

 

「わぁ……」

 

 自然と、そんな声が漏れていた。そうか、そうだ。

 俺は、こんな姿を憧れにしていたんだ。

 ―――こんなふうに、俺はなりたい!

 そう願って、月日は過ぎてった。トレーニングを毎日欠かさずやり、シンザンのあの姿を追いかけた。

 地方の自由参加型レースにも出てみた。

 俺は、いつでも一位だった。それはなぜか。―――シンザンの姿が、俺の前にいつもあったからだ。

 あのスピードに追いつけなければ。

 そんな強迫観念に駆られ、俺は無我夢中で駆けていった。

 そして、そんな俺の姿が目に留まったのか、俺は―――

 

「中央トレセン学園に、入学?」

「そう。ミタケのレース結果に目を見張るものがあったから、ぜひ特待生として来てほしい、とのことよ」

「―――ッ! やった!」

 

 俺は、トレセン学園に入学することとなったのである。

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