第二のシンザンと呼ばれたくて!   作:DUN.ネコノカンリニン

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入学―――『神バ』の子

 ―――入学式。

 トレセン学園は、多くの来場者で賑わっていた。もちろん、そこにいるのは各ウマ娘の家族や親戚であり、部外者は一切入れていない。

 無論、院長先生も来てくれた。他の来場者は名家の出身が多かったようなので、少し緊張したそうだ。

 挨拶も無事に終わり、俺達は寮に移動することとなった。

 

「……それじゃあ、行ってくる」

「ええ……いつでも、帰ってきていいのよ」

「はっ―――バカ言え。そん時は、俺が夢を諦めた時だ。帰ってきたら―――院長先生、あんたは泣くだろ」

「そうね。―――それでも、あそこはあなたの家だもの。いつでも迎えるわ」

「ありがと。そう言ってくれるだけで十分だ」

 

 俺は歩き始めた。

 

「行ってらっしゃい」

 

 後ろから声が聞こえた。

 俺は、院長先生に振り返って言う。

 

「ああ……行ってきます」

 

 コツコツと、ローファーがタイルにあたって心地いい音がする。

 母の気配は、いつまでもすぐそばにあった。

 

 

 ……寮につくと、寮長らしきウマ娘が挨拶に来た。

 

「やあ、こんにちはみんな。私はアンバーシャダイ。この寮の寮長をしている者だ。これからみんなをそれぞれの部屋に案内するから、私の言うことをちゃんと聞いて行動しよう」

 

 その寮長らしきウマ娘―――アンバーシャダイが一人ひとり誘導していく。流石は寮長と言ったところか。新入生の扱いに慣れている。

 

「―――と、次の子は……最後かな。アナザーミタケくん」

「あ、はい!」

「それじゃあ部屋に行こうか」

 

 そうして俺はアンバーシャダイに着いていく。

 廊下を渡っている時、急にアンバーシャダイはこのような話を振ってきた。

 

「そういえばさ、違和感ってない?」

「違和感?」

「そう。まあ、話しちゃうんだけど……今の時点で、君、二人部屋を一人で使うことになるんだよね」

「え」

 

 どうして?!

 

「うーんと、まあ、一言で言っちゃうと……同室の子が、結構な気性難っぽくて。それでね―――今、その子学園側から、ね」

 

 アンバーシャダイは意味ありげに言う。

 それを聞いて俺は察してしまった。

 

「え、そんなに?」

「そうなんだよ。一応名前を言っておくとニシノライデンっていうんだけど」

「ニシノライデン……」

 

 ニシノライデン。どっかの記事で読んだことあるぐらいではあるが、おぼろげに覚えている。

 確かアレは大学の教授が競馬好きだったからほぼ趣味みたいなもんで出されたレポートを書く時の話だ。

 ネットで何か面白いものでもないかなと漁っていた時、ふと「降着制度の生みの親」という記事が目に入った。

 その記事のタイトルに目を引かれ、リンクを踏んでみると、そこに書かれてあったのは。

〝ニシノライデン〟という名前だった。

 それで確か……斜行を何回もしたっていう。そんな話を読んだことがある。なるほど、ウマ娘の世界ではこの斜行を何回もした、という事実が「不良少女」という要素に置き換えられているのだろう。

 

「ここが、君の部屋だ」

 

 結構きれいめな部屋が現れた。

 ベッドが二つあり、そこからも二人部屋だということがわかる。

 

「ありがとうございました」

「いやいや良いんだよ。これも寮長の仕事だしね」

 

 それじゃ、ごゆっくり〜、とアンバーシャダイは去っていった。

 まったりとした時間が流れていく。

 だけれどもいても立ってもいられず、俺は外へ走りに行った。

 なぜならば、そう―――

 

「―――選抜レースだ!」

 

 一回目の選抜レースが、開かれる。

 入寮から一週間ほどたった日のことである。その日、一回目の選抜レースが開かれた。

 俺が選択したのは1600m―――マイルの芝だ。

 これを選んだのには理由がある。

 この芝1600という構成、これは―――シンザン記念が行われる、京都競馬場の外回りと同じなのである。

 俺は、ターフに上がり、ゲートに入る。

 まずはこの選抜レースを勝ち抜かなければ、シンザンを超える土俵にすら上がれないだろう。俺はそんな思いで、ゲートが開くのをただ待つ。

 だが、上手く集中できない。

 それもそのはずである。なぜならこのレースには―――

 

「楽しみね、アナザーちゃん!」

「……もうちょっと集中しない? ニシノ」

 

 なぜか、ニシノライデンが出走しているのである。

 ニシノライデン―――トレセン学園から目をつけられている問題児、とは聞いていたが、そのイメージから来るいわゆるヤンキーのような正確とは真逆であった。

 どちらかというと、箱入り娘的な。

 そんなほわほわとした雰囲気に、俺も飲まれていたのであった。

 ―――それを、俺は激しく後悔することになる。

 バン、と音がなり、ゲートが開く。

 それに合わせて走り出したのだが―――

 

(……ウソだろ、シンザンが見えない!)

 

 いつもなら俺の前にいるシンザン(の幻影)が、どこにも見えないのだ。

 その代わり、その位置にいるのは―――

 

(ニシノライデン?!)

 

 予想外だった。ニシノライデンが、こんなにも速く走るとは思っていなかった。俺は油断していたんだ。あの雰囲気に飲まれて。

 ニシノライデンは、顔は見えないが、どこか斜行気味に走っている。……なるほど。これがトレセン学園から目をつけられている本当の理由か。

 ―――危険な走行。

 だが、実力は本物だ。トレセン学園としては、危険な走行だからといって実力のあるウマ娘の将来を潰したくないのだろう。ゆえに、除名処分などはされていない。

 少しペースが上がり、俺もその波に乗る。

 俺はどちらかというと「差し」の要素が強い。そして、このコースも最後の直線だ。最初は出し抜かれたが―――ここで一気に抜く!

 そして一気に加速し、俺はニシノライデンと並び―――抜く。

 その時に見た顔は。

 獣のように勝利を掴みに行く、狂気に満ちた顔であった。

 

(……なるほど、ハンドル握ると人格変わるタイプの人的な?)

 

 俺はそのまま一着でゴール―――する直前。

 

(ニシノライデン、上がっていたのか?!)

 

 クビ差で、俺はニシノライデンに負けた。

 

 

 ―――レース終わり。

 一着となったニシノライデンは様々な人に声をかけられている。斜行癖があるとは言え、選抜レースを勝ち抜いたウマ娘ともなれば一定の勝利が見込める。

 俺の方にはあまり来なかった。

 だが、退場しようという時に、その人は俺に声をかけた。

 

「すまない、ちょっといいかな?」

「あ……はい―――って、何して?!」

 

 俺は思わず蹴ってしまった。

 そりゃそうだ。なぜなら、その人にいきなり足を触られたのだから。普通に痴漢で訴えても良いかも知れない。

 だが、その人は蹴った俺の足を素手で掴む。

 ……ウマ娘の蹴りやぞ? そんな簡単に受け止められるものなのか?

 

「コツさえ掴めばね。ま、しかも私はコレだからさ」

 

 そう、俺の思考を読み取ったように答えると、その人は帽子を脱ぐ。

 そこには―――

 

「耳……ってことはあなたもウマ娘?!」

「そう。私は今はトレーナーをやっているが、昔はここに通っていたのさ。おっと、自己紹介を忘れていたね。

 ―――私の名前はスーパーシンザン。『神バ』シンザンの娘で、今持っている担当は一人。親戚なんだが、ミホシンザンという。私は、君をスカウトしに来たのさ」

「シンザンの、娘!?」

「あっははは! いい反応するねぇ! そうとも。まあ、私は母上と比べればまだまだだけどね。それで、だ。どうだい? スカウトに応じる気はあるかい?」

「―――それなら、一つ聞きたいことが」

「何か」

「なんで、俺をスカウトするんですか? 二着ですよ? 普通、一着のニシノをスカウトするんじゃないんですか?」

 

 その問いに、スーパーシンザンは少しばかり考えて言う。

 

「……そうだね。普通、ニシノライデンをスカウトするだろう。彼女は、期待の新星だからね。だけど―――まあ、私は戦績には困っていない。ミホも良い走りするし、なんたってGⅠにも出走しているし。なんなら勝ってるし」

「それじゃあ、なんで俺を」

「……簡単に答えようか。―――私はね、君に母上、シンザンの影を見たんだ。君の走りは、限りなくシンザンに似ている。だから鍛えれば、最強のウマ娘になれる。そうだな……『第二のシンザン』とも呼ばれるかもしれないな」

 

 その言葉に、ピクリ、と俺は反応する。

 そして、俺は言った。

 

「わかりました、俺を育ててください。トレーナー!」

「……ふふふ、いい返事だ。それじゃあ行こうか。ミホも待っている」

 

 そう言って、俺達はあるき出した。―――ここが、思えば俺の人生の分岐点だったのかもしれないと、改めて思う。

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