戦姫異譚シンフォギアAnother   作:暁真

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ルナアタック(戦姫絶唱シンフォギア)
再開の鼓動


 

 始まりは、本当に些細な事だった。

何気ない日常に舞い降りたささやかな幸運、それが地獄への片道切符だと、知らずに手を伸ばした。

それを後悔した訳じゃない、だって当時の私は何も知らなかったのだから。

ただ、きっと選択を間違えたのだろう。間違えて、間違えて、また間違えて……

 

 

そして私は、今此処に居る。

 

『旋璃君、聞こえるか?』

「ええ、通信妨害の類はありません……まあ人が相手ではないのだから当たり前ですけどね」

『通信機に異常がないようで何よりだ、状況は?』

「目視3km地点でノイズの集団と一課が交戦中、一課に目立った損害は今のところ無し……到着次第降下、交戦を開始します」

『わかった、一課と連携しつつ迅速に対応してくれ』

「了解……とはいえこれ以上無駄弾を使わせる訳にも行きません、可能な限りこちらで対処します」

『やれるのか?』

「此処でやらずして何のための訓練ですか」

『……了解、無茶はするなよ』

「ええ」

 

プロペラの音と開いた扉から吹き込む風、ついでに銃撃音が喧しい。見える景色はこんなにも静かな夜なのにあまりに似合わないものである。

 

「降下準備、よろしいですね?」

「私が降りたらすぐに戦闘宙域を離脱してくださいよ?帰りのエスコートがないのは困りますから」

「分かってますよ……では、突入!」

 

こんな状況だというのにパイロットと気さくな会話を交わし、たどり着いた地点……自衛隊特異災害対策機動部一課とノイズの交戦現場へと上空から足を踏み出す。側から見ればただの自殺行為だけど……

 

Zerstorung dass well Gleipnir tron(伸ばした鎖で未来を手繰る)

 

身体が自然と胸に浮かんだ歌(聖詠)を口ずさみ、それと同時に湧き上がる燃える様な感覚と光。

全身を縛り付けるような窮屈さを少し感じながら、降下する私は変わっていく。

小さい頃によく見ていた変身ヒロインのような、でも所々機械的な、そんな姿。

 

「……!」

 

降り立つと同時に変身……もとい装着は終わり、今まさに一課に飛びかかろうとしていた前線のノイズを両腕から伸びる鎖で殴打し撃墜……やっぱり一課は下がらせた方がよかったんじゃないだろうか、無駄に被害が増えるだけだし。

 

「特機一課へ、こちらは特機二課」

 

……ともかく、今の仕事は今目の前に群がるこのノイズ達を1つ残らず排除すること。

 

「現時刻を持って現場はこちらが引き継ぎます、一課の皆さんは撤退を」

 

それが私、特異災害対策機動部二課所属「緒川旋璃」の役割だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「只今戻りました」

「お疲れ様旋璃ちゃん、相変わらず手際がいい事で」

「伊達に緒川の名は背負っていませんよ」

「あら、まだ若いのに言うわねー?」

「若いからこそ責任も重く感じる物ですよ」

 

 慣れさえしてしまえばあの程度のノイズの相手は単調な作業だ。迅速に対処を終え帰りのエスコートの元私は二課本部へと無事帰還、櫻井了子女史による労いを受けている最中……正直この人苦手なんだよな、なんかこう、グイグイくる感じが。

……あーそうだ、グイグイ来ると言えば……

 

「お帰り旋璃!1人で大丈夫だったか?身体平気か?」

「つ、翼さん……いつも言ってますけどいきなり抱きつくのはやめてください。分かってても少し慌てますから……」

「いーだろ減るもんでもねぇし、オレなりの労いだぜこれ?というか旋璃も旋璃でさん付けはやめろっての、翼でいいぞ、つ・ば・さ」

「仮にも先輩なのと、国民的ボーカルユニットの片割れを呼び捨ては気が引けますって何回言えば……」

 

……案の定だ、彼女は同じ二課所属の風鳴翼さん。私と同じシンフォギア装者で……国民的ボーカルユニット「ツヴァイウイング」の片割れ、王子様系キャラで人気を博している。

 

「そこまでにしとけっての翼、旋璃が余計疲れるだけだぞ?」

「奏さぁん……」

「でもよぉ、毎回毎回無茶し過ぎなんだよ旋璃の奴。心配の1つや2つしたくなるだろ?」

「なら行動じゃなく言葉で示せって……毎度毎度翼が迷惑かけてごめんな、旋璃」

「いえ……まあ悪い気はしないのは確かですし……」

 

そしてこの状況を見兼ねて救いの手を差し伸べてくれたのがそのツヴァイウイングのもう片方、天羽奏さん。昔シンフォギア装者として戦っていたらしいんだけど……2年前ある事件の後遺症でシンフォギアが纏えない身体になってしまって今は裏方。彼女のギア「ガングニール」は今も後継者が見つかっていない……多分。

 

「あらあらお熱いわねぇ、痴話喧嘩?」

「断じて違うぞ了子さん、単純に旋璃が迷惑そうなのと……翼がクリスにゴミを見る様な目で見られない様にするためだ」

「か、奏、クリスの話題を出すのは反則じゃないか?確かに前クリスが居る時にやったら飛んでる蝿を見るような目で見られたのは確かだが……」

「自覚してんなら尚更やめろよ、後私が止めなきゃ多分緒川さんが無理矢理止めに入るぞ」

「……すまん旋璃、そんなに嫌だったか……?」

「嫌って訳じゃないです、ただ流石に疲れてる状態だと勘弁してほしいのと……いつか翼さんがファンに刺されないかが心配で」

「其処!?」

「叔父様がツヴァイウイングのマネージャーをやってるとはいえパパラッチには充分気を付けてくださいね?」

「全くだ……ついでに釘刺しとくが、表に出る可能性がない場所じゃ何やってもいいって訳でもないからな?」

「ぐ、ぐうの音も出ない……」

 

完全にノックアウトされたらしい翼さんからようやく解放されほっと一息、此処に来てから半ば日常になりつつあるが……やっぱり慣れないものは慣れないものだ。

 

「というか今深夜ですよ?明日も平日ですし……現場には私が出てましたし翼さんが起きてる理由も特にないと思うんですが」

「万が一ってのがあるだろ?有事に備えて待機してたのさ、最近多いからな」

「成程……じゃあクリスちゃんも?」

「ああ、ただもう時間が時間だし今頃は寝「翼」……て……」

「……起きてましたね」

「あーあ……だから私は言ったんだ」

 

噂をすればなんとやら。気づけば最後の装者、ついでに私唯一の後輩である雪音クリスまで合流、綺麗に二課の装者全員集合だ。

 

「……なあクリス」

「何?翼」

「何処から……見てた?」

「最初から」

「……終わった……」

 

クリスちゃんの全部見てた発言を聞いた翼さんはorzの姿勢に。半分自業自得な気もするけど……うん、私悪くないよね。

 

「いやぁほんと痴話喧嘩って側から見る分には面白いわね、昼ドラが視聴率伸びる理由がよく分かるわぁ」

「だから痴話喧嘩じゃねえって了子さん」

「でも貴方はともかくあの3人は完全にそうじゃないかしら?」

「あれの何処をどう見れば三角形に見えるんだよ……」

 

私もそんなんじゃないと思う。

 

「旋璃さん」

「クリスちゃん?」

「次があったら翼をグーで殴っていいよ」

「クリス!?」

「あ、あはは……流石に暴力は……ちょっと影縫いするくらいで……」

「旋璃も旋璃でやる気満々じゃないか!」

「流石にそろそろやり返しておかないとケジメが付かないので」

「畜生オレの味方が誰も居ない!」

 

翼さんは元気づけようとしてくれてるのはわかるんだけど、なーんか空回りしているというか……接し方がなんかこれじゃないというか……

 

「戻っていたか旋璃君」

「ええ司令、つい先程……それでどうでした、2つ目のガングニール」

「生憎今日はさっぱりだ。今日のノイズ出現に反応するかと思ったが……時間か場所か、もしくはその両方か」

「顔さえ分かれば接触のしようもあるんですが……」

「カメラを把握しているのかご丁寧に顔が映らないよう戦っているからな……ただ活動範囲は市街地、これだけはハッキリした」

「……次に現れたらその時は私が行きます」

「頼む……と言いたい所だが状況次第だ、グレイプニルは対人向けで最適な選択なのは確かだが場合によっては翼やクリス君に向かってもらう事もあるだろう」

 

騒がしいのを感じ取ってか司令……弦十郎さんも気付けば来ていた。合流ついでの話は最近の悩みの種……「2つ目のガングニール」。

 

ここ最近になって突然ノイズの出現地点に未確認の装者が出現、こちらが現着するまでにノイズを殲滅してそのまま帰っていくという事態が多発している。それでその装者が纏っているっていうギアが……他でもない奏さんのガングニール。でも奏さんのガングニールは今も二課に保管されているし、了子さんの話によれば2つ目のガングニールが強奪されたこともましてや製造されたこともないとのこと。余計謎は深まるばかりである。

 

「……2人に余計な負担はかけさせませんよ、ほら、翼さんはツヴァイウイングとしての活動がありますし、クリスちゃんはまだ学業が」

「学業なら君もだろう?」

「それは……はい」

 

こんな秘密組織に所属していながら私の身分は一応女子高生である。二足の草鞋は結構疲れるがやれないことはない……というか二課に入ってからの2年で否応無しに慣れてしまった、今ではすっかり睡眠時間の調整もできる。

 

「ともかく今は休め、こんな深夜に出動させてしまってすまなかったな」

「平気ですよ、この程度なら全然「旋璃」……奏さん?」

「私いつも言ってるよな、痩せ我慢はやめろって」

「……いや、全然痩せ我慢とかしてませんよ。確かに疲れてはいますけど今だけですし、少し休めば元に戻ります。下手に倒れて迷惑かける訳にも行きませんし体調管理はしっかりしてるつもりです」

「そっちじゃない、精神面だ」

「そっちは余計に心配することないじゃないですか。特に何かあった訳でもないですし」

「……だったらいいんだが、とにかく無理だけはするんじゃないぞ」

「分かってますって、というか精神面なら最高に良いですよ?何せ明日はツヴァイウイングのニューシングル発売日じゃないですか、私も微力ながら売り上げに貢献してきます」

「お、買ったら持ってこいよ?サインしてやる」

「じゃあ私の分も」

「勿論だ、いいよな奏?」

「はぁ……ま、それくらいならいいか。特別だぞ?」

「よし!」

 

なんというか……奏さんも翼さんもやけに私に対して過保護な気がする。翼さんはちょっとスキンシップが激しいけど純粋に私を心配してくれてるし、奏さんは……面倒見の良い父親みたいな感じ。面倒くさいとか嫌とかそういう訳ではないんだけど気を使わせてしまっているようで申し訳なさを感じてしまう。

 

「ガングニールの反応は引き続きこっちで探っておくわ、近くに現れたら優先的に向かってもらう……それでいい?」

「ええ、それで構いません……それじゃあ失礼します」

 

了子さんに一礼し、二課を後にする。去り際クリスちゃんが翼さんに虚無の視線を送っていたのは気のせいだよね……多分。

それはそれとして明日はツヴァイウイングのCD発売日、何もなければ放課後ゆっくり買いに行こう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……なんてそう物事は簡単に行く訳がなくて。

 

『旋璃君、市街地にて複数ノイズ出現の報告!今から向かえるか!?』

「大変都合の良い事に現在バッタリです……このまま対処に移ります、他区域は?」

『クリス君と翼がそれぞれ向かっている……そちらは頼んだぞ!』

「分かりました……あーあ、やっぱり私呪われてるのかも」

 

案の定でフラグ回収、CDを買いに走った矢先ノイズにバッタリ。なーんでこういう気分が上がった日にこうなるのやら……

……まあなってしまったものは仕方ない、大事なのは今どうすべきかだ。

 

「……CD発売日を邪魔してくれたお代は高く付くよ、ノイズ!」

 

Zerstorung dass well Gleipnir tron(伸ばした鎖で未来を手繰る)

 

胸に浮かんだ歌(聖詠)を口ずさみ、昨日に引き続きギアを装着。開幕両腕から垂らした鎖を憂さ晴らしついでに叩きつける。

 

「相変わらず数だけは無駄に多い……!」

 

ノイズの厄介な所はその性質もだが一度に大量に出現する事だ。一度に大量の敵を薙ぎ払えるこの鎖はそういう意味では対ノイズにうってつけである、相変わらずどういう理屈でこんなに伸縮するのかは分からないけど。

 

「ああもうキリがない……昨日の比じゃないし……!」

 

一体何が違うのか、広域に渡って出現しているらしい今回のノイズ達はとにかく数が多い。3人がかりでも果たしてーーーー

 

『旋璃君!』

「何かありましたか!?生憎こっちはノイズの対処でーーーー」

『ガングニールだ!其方に向かっている!』

「……っ、了解、ノイズへの対処は続行しつつ可能ならばコンタクトを……!」

 

……運が良いやら悪いやら、こんな時に件のガングニール装者の登場だ。まあノイズを一緒に対処してくれる分には有り難いが問題はその後、友好的なのか敵対的なのか、そもそも日本人なのかすら今の私達には分からない。

万が一海外の装者とかだったら国際問題だよな……とかそういうのは今考えない、今ここでノイズを食い止めなきゃ、また沢山人が死ぬ。

そして死んで、残された人は……

 

「……っ!?」

 

雑念混じりでノイズに向けて鎖を振るう刹那、目の前を通り過ぎる閃光。

一瞬で薙ぎ払われたノイズを見るに間違いない、あれが2つ目のガングニール……その装者。

 

「あれが……」

 

ようやく見つけた。周囲に残るノイズを鎖で薙ぎ払い急いで彼女の元へと駆けつける。

最悪話ができなくてもいい、せめて顔だけでも……

 

「……貴方が例の装者ですね、こちらは特……」

 

……そう思ってガングニールの装者の前に立ちはだかった瞬間、文字通り一瞬時が止まった。

当然だ、彼女の顔はあまりにも見覚えがありすぎた。

すっかりと変わり果ててはしまったけど、面影は確かにある。それに彼女も同じく驚愕に満ちた顔で此方に視線を向けているのだから間違いないのだろう。

何せ彼女は……

 

 

 

 

 

 

「……ひび、き?」

 

「律……姉……?」

 

 

……かつて守るために離れることを選んだ、最愛の妹なのだから。

 

 




グレ響とAnother翼が好きです。
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