「なんで……嘘……どう、して……?」
「……」
……立花響、多分今年で15歳。私の最愛の、大切な妹。自分を捨ててまで守りたかった陽だまり……なのに、なのに、なんで……?
「律姉、なんだね?」
「っ……」
「……そっか、そうだったんだ」
一度は此方の存在に驚いた響だったが、すぐに表情は元に戻る……凍てつくような瞳と、マフラーで覆い隠されて口元が見えない仏頂面へ。
「……生きててよかったよ、律姉」
「響……」
どうせファーストコンタクトの反応でバレバレだ、わざわざ隠す必要もない。そして響も再開を喜ぶような素ぶりはない……とどのつまり、そういうこと。
「ねえ律姉。それを纏ってるってことは……律姉もノイズと戦ってるんでしょ」
「……うん、そう、だね」
「なんでノイズと戦ってるの?なんで誰かを守ろうとしてるの?」
「……」
……ああ、やっぱり。
「誰かを守ったってその誰かは私達を助けてなんかくれない、私達が苦しい時に手を差し伸べてくれる人なんていやしない。律姉だってよく知ってるでしょ」
「……私は」
妹は……響は。
「私は許せない……家族をバラバラにして、勝手に人を疫病神扱いして、その癖律姉が死んだと思ったら掌返して善人のフリをしてくる。そんな奴らを許せる訳がない」
「……」
「思いやりだとか助け合いだとかそんな薄っぺらい言葉、二度と信じない。本当にそんなことをしようと思っている人間なんか……いる訳がない」
掌返した、というのを聞くに私の選択が間違いだった訳ではない、ただ、私が響の前から消えた事で彼女に手を差し伸べられる人間が居なくなってしまったこと……それは当時13歳の少女を人間不信にするのに充分すぎる理由だろう。
「……じゃあ逆に聞くけどさ」
「何」
「それじゃあ響は、なんでノイズと戦ってるの?」
「……それ、は……」
……でも、性根はずっと変わっていない。無意識でも誰かのためにで身体を動かすことができる、優しい子だ。
「……やっぱり響は優しい子だよ。なんで
「今更姉貴面しないで!」
「……」
ダメ、か。少なくとも今の響に……私の言葉は届かない。
「ある日ふらりと行方を眩ましたと思ったら突然死んだって伝えられた時の私の気持ちがわかる!?確かに律姉が死んだって思われてから私や母さん達への嫌がらせは無くなった、代わりに気持ち悪いくらい掌を返して善人の面してきた!1番戻ってきて欲しい人はもう戻ってこないのに!」
「ずっと律姉が死ぬ訳ない、何かの間違いだって信じて探し続けた!今日やっと生きてたって、ようやくまた会えたと思ったらそれ……!昔みたいに律姉がやっておくから私は指を咥えて見てろとでも言うの!?」
響の独白は止まらない、溜まっていたであろうものが滝のように流れ出てくる。
「……これは素人が首を突っ込んでいいものじゃない。それに響までこっち側に来てしまったら私は「そんな方便聞きたくない!じゃあ何、律姉はもう私達の所に戻ってくる気はないってこと!?」……そうだね、今の私は……もう「立花律」じゃないから」
「ふざけないで!私はもう律姉の背中を見てるだけの子供じゃない!こうやってノイズを倒せる化け物……に……」
「響……?」
「ああそうだ……私……化け物なんだ……」
「違う、響は化け物なんかじゃない。血の通った人間だよ」
「じゃあこの力は何?なんでノイズを倒せるの?ノイズは人間には対処できないんでしょ?」
「……ギアじゃ、ない?」
これまでの仮定では出処不明の2つ目のガングニールがあって、それをどうやってかは知らないけど手に入れた響が使っているものだと思っていた。ただ、独白を聞くにそれは違うらしい。シンフォギアじゃないのなら、それは……何?
「……そっか、律姉のそれとも違うんだ、私のこの力」
「早合点しないで響、まだそうと決まった訳じゃ」
「もういいよ。やっぱり私……化け物になっちゃったみたい」
「だから違うって」
「違わないよ……もう私人間じゃないからさ、放っておいてよ律姉」
「妹を見て見ぬフリをしろとでも!?」
……迂闊な発言だった。響の眉は更に険しくなり、明確に私から距離を取る。
「律姉」
「……「立花律」が死人の名前なら、「立花響」も死人の名前だよ。私……もう人間じゃないんだから」
「っ……待って、響!」
……妹に手を振り払われた動揺で対応が一瞬遅れた。無理矢理捕まえようと両腕の鎖を伸ばすも既に遅くて。
「ぁ……」
長い間
『旋璃君……聞こえるか、旋璃君!』
「……大丈夫、です。もう現区域のノイズは掃討しました。他の地域へ……」
『ダメだ、一旦本部に戻れ……今の君を戦わせる訳にはいかん』
「なんで、ですか?」
『その口調が全てを物語っている、それに装者の視界はギアを通して此方でも把握済みなのを忘れたか?』
「見られちゃったんですね……はは」
『……とにかく一度戻ってこい、他は翼とクリス君に任せろ』
「……了解、緒川旋璃、現時刻を以て二課本部へと帰投します」
私の精神状態に影響されたらしいギアは自然と解除され、1人破壊の痕が残る市街地に取り残される。
凄く肩が重い。なんでかは分かりきってるけど、理由を求めて空を仰ぐ。
「……どうして」
……丁度夕方から夜へと移り行く空模様は不気味な程綺麗で、思わず吸い込まれてしまいそうなほど近く感じた。
「……どうして、こうなっちゃったのかなぁ」
私の呟きはそのまま人知れず空へと消えていく。どうせならこのまま自分も消えてしまえればいいのに、なんて一瞬思ってしまったのだけれど……きっと周りはそれを許してはくれないだろうし、私もそうする訳にはいかない。
「……かえろ、何も考えたくない」
誰にも聞こえないようこっそり本音を漏らしてぐちゃぐちゃになった頭の中を整理しながら、私は二課へ帰投した。
「まさか件の2つ目のガングニールが皆と同じ高校生、しかも旋璃ちゃんの妹だったとはねぇ。こんな偶然あるものなのかしら」
「偶然にしてはあまりにも話が出来すぎている。彼女のギアの出処さえ分かればもう少し事態は進展するのだが……今はそれどころではないか、旋璃君は?」
「あおいちゃんからコーヒー貰った後奏ちゃんに連れられて休憩室へ……相変わらず我慢が上手いわねあの子は、一見ケロっとしてたもの」
「彼女をそうさせてしまったのは我々の責だ。事後処理に追われて周りに目を向ける時間が無かったことのツケがこうして回ってくるとはな」
「しょうがないじゃない、あの時期は隠蔽に事後処理に紛失したネフシュタンの捜索、おまけに鎌倉からの圧力まであったもの。弦十郎君は充分よくやった方だと思うけど?」
「確かにできる事はやったつもりだったさ、だが被災者への対応は政府がやってくれると何もせず任せてしまった。そのツケが……彼女だ」
「じゃあ何、旋璃ちゃんと最初に接触した時無理矢理にでも保護しておくべきだったとでも言いたい訳?もしそうだったら私は全力で否定させてもらうわよ」
「そういう訳じゃあない……全くままならないものだな」
「社会っていうのはそういうものよ……さて、こんな無駄話をしている場合じゃないわね」
「ああ、まずは彼女……「立花響」について調べられる所まで調べる。これは彼女の行動パターンの把握、ないし協力打診のためだが……」
「……旋璃君が文字通り自分の存在を消してまで守りたかった家族だからな、それを無碍にするほど俺達は人でなしじゃない」
「そうね、ただ……確実に面倒な事になるわよ?」
「無論承知の上だ」
「落ち着いたか?」
「多分……?」
「明らかに疑問符が付いた言い方するなって。お前の場合表情貼り付けてるから余計分かりにくいんだよ」
「あまり心配させてもと思って」
「そういう所だぞ……まあ、気持ちはわかる。痛いほどな」
時間が過ぎて多分深夜になるくらいの時間。本部に帰還した私はあおいさんからコーヒーを貰ったかと思えば奏さんに連れられ休憩室へ直行。まだ纏まりきってなかった脳内をようやく整理し終え、いつものように奏さんと接していた……奏さんの表情は凄く深刻だけど。
「旋璃!」
「旋璃さん、大丈夫!?」
「2人とも……もうノイズの処理は大丈夫なんですか?」
「そりゃあ終わってなかったら来てない、というか今はノイズよりお前の心配だ、お前の!」
「同じく、司令の話を聞いた翼が血相変えて旋璃さんの所へ向かったから付き添いで」
「……はは、ありがとうございます」
気づけば他区域のノイズを担当していた2人も帰還し休憩室に装者が全員集合、私が心配だからって理由ですぐ来てくれるというのだから思わず乾いた笑いが出てしまった。多分この場にツヴァイウイングのファンが居たら間違いなく私は後ろから刺されるだろうな。
「聞きたいのはお礼の言葉じゃない、二つ目のガングニール……あれ、お前の妹だったんだろ?叔父様は言葉を濁してたが……立花ってことはあの時の」
「……どう、言えばいいんでしょうね。私はもうあの子とは関係のない身です、下手に関わってしまえば今此処に居る意味がない。だから遠ざけてきたのに……どうして……」
「それでもお前はあの子の家族なんだろ?事情はどうあれガングニールの装者として現れたのは事実、だったら彼女を1番知ってるお前が手を伸ばしてやるべきだ」
「ええ、あの子は……響は化け物なんかじゃない。ちゃんと血の通った人間で……私の大切な妹です。ノイズと戦って欲しくなんてなかったけど……」
「現に此処にある筈のガングニールを纏って彼女はノイズと戦っている……あのガングニール、どっから出てきた奴なんだ……?」
「確かに、奏の奴は了子さんが保管してるし、シンフォギアを開発できるのも了子さんだけ……横流しとかされてないよな?」
「んな訳あるか、ちゃんと確認しに行ったぞ?」
……やっぱりあのガングニールは奏さんのものではない、それにシンフォギアそのものを知らない様子だった。疑問の解消には本人に聞くのが手っ取り早いけど……
「……そもそも今度会った時にちゃんと話せるかなぁ……」
久しぶりの再会でバッドコミュニケーションを取ってしまった以上次は最初から距離が離れていることは間違いない、自分のヘマとはいえ……厳しいものになるだろう。
「大丈夫、さっきも言ったけどお前は姉なんだ、だったら信じて歩み寄ってやれ。私達の中であの子を1番知ってるのはお前で……お前を1番知ってるのもあの子なんだから」
「ま、そうだな。事情が事情な以上、オレやクリスが行っても大して響かない……1番効くのは家族の言葉だろうよ」
「奏さん、翼さん……」
……暖かくて、眩しいなぁ。
「……」
「どうしたクリス?何か考え込んでるみたいだけど」
「気になったことがあって」
「おう、言ってみろ」
「あの子の苗字は立花で……旋璃さんの苗字は緒川でしょ?」
「それに旋璃さんは緒川さんを叔父様って呼んでるし……事情を知らない私からするとなんで旋璃さんと彼女が姉妹って言われるのか不思議で」
「……」
「……」
「……」
……クリスちゃんの疑問と同時に広がる沈黙。
私は言っていいものかと目を泳がせているし、奏さんと翼さんは揃って天を仰いでいる。
「……その、話しちゃって……大丈夫なんですか……?」
「私にそれを決める権利はない……当事者じゃないクリスが知らないのは当然だが、かと言って話すかどうかはお前次第だ」
「……辛いなら話さなくていいぞ。旋璃にあの決断をさせた原因はオレ達だ。強要なんてできる訳がない」
「……」
……困った、どう切り出したものか。私だっていらぬ疑問を残したい訳じゃない……けど。
「……その」
「旋璃?」
「クリスちゃんは……知っておきたい?私の事情」
困りに困って出た言葉は決断を他人に委ねるもの。いつか話さねばならぬことではあったけど……なんと優柔不断なことだろうか。
「私は知っておきたい。旋璃さんは一緒に戦う仲間だし……何より、少しでも頼れる先輩の助けになりたいから」
「……分かった、じゃあ話すよ」
「なあ奏……オレもしかして案に頼りにならない先輩って言われた?」
「流石にそれはないだろ……普段の態度で所々マイナスになってるだけで。というか多分クリスにとってお前は気の合う同僚くらいだぞ」
「それはそれでショックだ……」
「……全ての始まりは2年前、ツヴァイウイングのライブ」
「当時私は緒川家の「緒川旋璃」じゃなくて……」
「ただの一般人、「立花律」だった」