どうも私の負傷はそこまで重いものでもなかったようで、2ヶ月もすれば退院できました……響はあれだけ重症だったのに同じ時期に退院できたのはちょっと気になりましたが。
特別身体が丈夫だったとか?
さあ……少なくとも私が知る響はただの一般人ですから。ともかく……退院して家族の元に戻って……その後です。
「……何、これ……」
……当時の週刊誌の情報ですが、犠牲者12874人の内ノイズによる死者は全体の1/3、残りの2/3は人災によって亡くなったそうです。
……
そしてあの事件の生存者、遺族には政府から補償金が配られていました。側から見れば……人を犠牲にしてのうのうと金を貰って生き延びている人間、という認識だったのでしょうね。生き残った人間全員。
酷い、そんな訳がないのに……
それでも大衆の認識は変わりません。次第に認識は「生還者」から「人殺し」へ、「ただの人間」から「何をしても文句を言われない標的」に変わりました。
「律姉……」
「……響」
「……律姉も?」
「……響には隠してもバレちゃうか、うん、そうなんだ」
いじめはその代表的な例です、私も響もまあ思いつく限り大半のことはやられました。意図的な無視、教科書の紛失、机の落書き……派手にやってる分先生も気付くと思うんですが、多分分かってて放置されてましたね。
……当時私達は他の事にかかりきりで生存者へのバッシングが始まっているのに気付かなかった……情けない話だよ、ほんと。
全くだ、オレ達が何か声明の1つでも出していれば少しは良くなったかもしれなかったのに……リハビリやらにかまけて何もしなかった所か事情すら知らなかったんだからな。
まあそれだけなら……よくはないけどよかったんですが。
「母さん、父さんは……?」
「……父さん、は……」
「……」
「……ごめん、母さん。やっぱりあの時……死んでればよかったのかな、私」
「っ……違う!絶対に……絶対にそんなことはないから!」
「母さん……」
「ごめん、ごめんね、律……!」
……バッシングの矛先は生還者だけではなくその家族にも向けられました。父はそのせいで会社内での立場が悪くなって……ある日、家出して、それ以降帰ってくる事はありませんでした。少なくとも私の記憶の限りでは。
待て、初めて聞いたぞそれ。
今まで言う必要がなかったので……というか元々立花律の事情を
……ひとまず今は続けてくれ、話はそれからだ。
あの、奏さん?なんか顔が
い い か ら 続 け ろ 。
……はい。
「……教科書、これで全部ダメになっちゃったか」
「バイトもクビになっちゃったし……はぁ、八方塞がりかな、私が標的になる分にはまだいいけど」
「問題は……響と、母さんと、おばあちゃん」
「……最悪響だけでも、守らなきゃ」
暴走した正義はただの一般人がどうにかできるものじゃありません、というか私が何か言っても火に油を注ぐだけです。私に被害が出る分は割り切って、響達への被害をどうにかできないか……それを最優先で考え始めました。
……割り切っちゃダメでしょ、それは。
昔司令にも言われました……けど、それくらいどうしようもなかったんです。何をやっても、何を言っても誤解は解けないし、魔女狩りにも似たバッシングはどんどん激しくなっていきました。
「律姉……学校行かなくていいの?」
「今日は午後からしかないからね、ゆっくり行くよ……気をつけてね響」
「……無理しないでね、律姉」
学生1人の身で出来ることなどたかが知れています、精々が家族に危害が及ばないように目を光らせておく程度でした。この頃になるともう学校に通うことすら稀でしたね。
褒められたことじゃないが……原因の一端である以上、強くは言えないな。
まあもう進学も就職もまともにできないんだろうなって半ばヤケクソになっていたのもあります。だからせめて響の将来だけは守ろうと。
……
あの、奏さん?さっきから目が怖いんですが。翼さんも。
……鈍感。
クリスちゃんまで……
「……どうすれば響をこれ以上酷い目に遭わせずに済むんだろうな」
「どうにかして響の認識を加害者から被害者に……」
「……あ」
……まあそういうわけで……父さんが蒸発してからもう1ヶ月程経った頃です。私は司令に連絡を入れました。
「……お久しぶりです、弦十郎さん」
『……答えは決まったか?』
「ええ、やろうと思います。シンフォギア?って奴の適合者として戦うこと」
『本当に、いいんだな?』
「はい……ただ、一つだけ条件を付けさせてください」
『聞こう』
「私を……」
「「立花律」を、死人にしてください。政府の人なら死亡届の偽造とかできますよね?」
シンフォギア装者として戦う事の条件として私は「立花律」の死を提示しました。
どうして?それに何の意味が……
……全く同じ事を司令にも言われましたよ。
『……どういう事だ、一体何を』
「流石にライブ生還者へのバッシングについてはご存知でしょう?あれを終わらせる……とまでは行かなくても、せめて家族だけでも守れないかと考えたんです」
「その結論です。
『だが君はどうなる!?今の身分を捨てるという事はつまり……!』
「……もう進学も就職もまともにできないっていうのは分かり切ってますし、家庭も半ば崩壊気味です。だからもう、私1人消えた所で大した影響もありませんよ」
『馬鹿を言うんじゃない!妹と離れ離れになるのは君が1番恐れていた事だろう!?それを自分からなど……!』
「……このまま響が……妹が一生苦しんだまま生きていかなきゃ行けないというのなら」
「そしてそれを私の身1つでどうにか出来るなら喜んで身を捧げます。どうせ無駄に消える命なら少しでも有効活用した方が得でしょう?」
『……!』
……立花律が死ぬ事で立花響は迫害のせいで家族を失った被害者になる。それは同時に迫害を続ければ自分達も加害者になるかもしれないという心理を植え付ける。至極単純な話です、魔女狩りは安全圏にいる奴らがするものですから止めたければ引き摺り降ろすしかないんですよ。
だからってそこまでやる事……
司令もクリスちゃんと同じ考えだったようで……自論を伝えた後に壁を殴る音が聞こえてきたのは今でも覚えています。
「……人手、足りないんでしょう?私は響への迫害をどうにかして止めたい。貴方は自由に使える手駒が欲しい。利害は一致しています」
『……』
「……弦十郎さん?」
『……すまない、俺は……君に辛い選択を、結果的に強要させてしまった』
「強要じゃあありません。私は自分でこの選択肢を選びました……それに悪いのはノイズです。生還者の皆にも、貴方達にも責任はない」
『……分かった、話を受けよう。「立花律」の死亡はこちらで偽造する……報道を全国区で流せばバッシングもある程度は収まるだろう』
「ありがとうございます。それじゃあ」
『だが話は終わりじゃない。君はまだ未来ある学生だ……間違っても俺達が消費していいものではない』
「……どういうことです?」
『君の新たな戸籍をこちらで用意する。新しい名を得て……表の世界にまだ居て欲しい』
「そこまでされる理由が分かりません」
『前に言ったろ?勝手な理由で君の自由を奪う程俺達は落ちぶれちゃいない。罪滅ぼしというわけではないが……もう一度、学生としてやり直してみないか?』
「……そこまでされるとかえって断りにくいですね。わかりました」
『迎えは明日寄越す……準備とやるべき事は今のうちに済ませておけよ』
「ええ、ではまた……」
……まあ、そう言うわけで交渉は無事成立。私はいい感じに故人を特定できそうな物を詰めて家を出ました。
「……律姉、こんな時間に何処行くの?」
「ん、ちょっと散歩。夜なら人目を気にしなくていいかなーって」
「……」
「……響?」
……ちょっとした誤算は、蒸発する前に響が起きてきちゃった事ですが。
「……律姉は、帰ってくるよね?」
「急に、どうしたの?」
「お父さん、もう戻ってこないってお母さんが言ってた。お父さんも朝早くに出て行って、そのままだったから……」
「……響は優しい子だね」
「誤魔化さないでよ律姉……帰ってきてくれるんだよね?」
「……多分」
「多分じゃないよ、未来も、お父さんも居なくなって……律姉までいなくなったら、私……!」
「……分かった、じゃあ私が私の問題を解決できたら……その時、帰ってくるよ」
「律姉……」
「ま、案外散歩してるうちに解決するかもしれないし、早めに戻って来れたらそうするよ」
「……絶対だよ」
「分かった……それじゃあ行ってくるよ」
「……響、ごめん」
どうにか荒事にはならずに家を抜け出して私はそのまま迎えの案内で此処に来ました、持ってきた荷物は全部渡して死亡事故の偽装に。
……辛くは、なかったの?
辛くなかったと言えば嘘になります、けど……そうでもしなきゃ響の身が危なかった。だから他に選択肢はなかったんです。
「……面と向かって会うのはこれで2回目ですね、弦十郎さん」
「ああ……しかし、本当によかったのか?」
「何度も言わせないでください、無駄に消えるはずだった命の有効活用だって」
「……分かった、そんな目を向けられては俺も黙るしかない」
「「立花律」としての持ち物は全部渡して来ました。新しい戸籍、どれくらいかかりそうですか?」
「それならばもう用意してある。これだ」
「手際がいいですね……なるほど、これが」
「ああ、私立リディアン音楽院高等科1年生「緒川旋璃」……それがこれからの君の名前と身分だ」
「……父と母の記載もありますが、これは……」
「向こうには話を通してある。暫くは彼方の方でシンフォギアや戦闘の訓練を行うことになるだろう」
「……分かりました」
こうして「立花律」は死に、「緒川旋璃」が生まれました。新しい親の元で私は訓練等諸々をこなして……
「紹介しよう、第6号聖遺物「グレイプニル」の適合者……緒川旋璃君だ」
「紹介に預かりました緒川旋璃です、まさかツヴァイウイングのお二人と共に戦う事になるとは思っていませんでしたが……何はともあれ、これからよろしくお願いしますね」
「緒川……!?」
「お前、あの時の……」
「?」
「……ちょっと後で来い。事情をあれこれ話してもらうぞ」
「え、あ、はい……?」
正式にグレイプニルの装者として二課に配属された訳です。配属初日にお二人から質問攻めにあったのは記憶に新しいですね。
そりゃそうだ。あの時の女の子だわ、名前が緒川だわで聞きたいことしかなかったぞ?
緒川さんは事情を知ってたのか苦笑いしてたが……そりゃあ苦笑いしかできないよな。多分全部知ってただろうし。
まあ、今私の戸籍上の父親は叔父様……じゃなかった。慎次さんの兄ですから、当然事情は把握してたと思います。
それでその後正式に装者として活動し始めて、クリスちゃんも合流して……
「……気づいたらあの事件から2年が経ち、響が2人目のガングニール装者として現れた、と言う訳です」
……思ったより長くなってしまった。というか奏さんも翼さんも、クリスちゃんまで目が怖いんだけど……
「……まあ、ひとまずだな」
「奏、言いたい事は多分同じだ」
「私もそう」
「えーっと……え……?」
あんな事もあったなー程度で終わらせようとしたんだけど、なんか翼さんに肩掴まれてる……
「旋璃、お前もう少し自分を大切にしろよ」
「へ?」
「全くだ、旋璃の事情を詳しく聞いたのは初めてだけど……流石に自分を蔑ろにしすぎだ。というかお前がいなくなって周りがどう思うかとか考えたか?」
「考えましたけど……でもあの状況ではあれ以外に響を」
「そういう所。旋璃さんはいつも自分の優先順位が低い」
「クリスちゃん……」
……いつもならこの立場は翼さんなのに、どうしてこう……いや、自業自得か。爆弾が起爆するまで黙ってたの、私だし。
「確かにお前の決断はそうするしかなかったかもしれないってのはわかる。だけど……残された側の人間の気持ちも考えてやれよ。あの響って子がああなった原因の一端はお前にもある」
「……返す言葉もありませんね」
「奏の言っていた通りだが……オレはもう1つ言いたいことがある」
「翼さん?」
なんかこう、地味に壁ドンみたいな形になってて少し恥ずかしいんだけど……
「お前さ、もう少し誰かに頼れ。毎度毎度自分でどうにかしますばっかりで無茶されてるの心臓に悪い」
「……もしかして毎回抱きついてくるのって」
「もう少しオレ達に心を許してくれって事……まあ、ちょっと下心もなくはギャンッ!?」
「最後で台無しだ馬鹿野郎」
「旋璃さんに手出したら2度と翼の事名前で呼ばないから」
「待て待て待て待て!?なんでオレがバッシングされる流れになってる!?」
「……ふふ、なんだかんだいつも通りですね」
なんだかんだ、この光景は見てて落ち着く。これが心を許してる……って訳じゃないんだろうけど、帰る場所って事なんだろう。
……うん、これ以上皆に心配かけてもいられないか。
「……翼さん、クリスちゃん。これからガングニール……響が現れた時、ノイズは極力任せていいですか?」
「勿論」
「ああ……あの子の事はお前に任せる。絶対に手を握って帰ってくる事、いいな?」
「はい……私の言葉が何処まで響に届くかは分かりませんが、やれるだけのことはやります」
「その域だ、私もあの子が何故ガングニールを使っているのか調べてみるよ。了子さん程じゃないけど……これでも異端技術の知識は付いてきたからな」
「ありがとうございます奏さん……それじゃあ時間も時間ですし、私はこれで」
「ああ、気をつけて帰れよ」
落ち着いた足取りで立ち上がり、そっとまだ置かれたままだった翼さんの手を外して部屋を後にする。なんか翼さんがやらかしたみたいな顔してたのは敢えて気にしない。
……まずはどうにかして響が普段何処に居るかを突き止める、それができたらどうにかして響を説得する。
今更私の言葉が届くかはわからないけど……絶対にあの子を日常に戻してみせる。
無辜の犠牲になるのは……もう私1人で充分だから。