「早速だが本題に入ろう、君の妹……立花響君の身辺調査が終わった」
「……もうですか?」
「公権力を舐めるな……と言いたいところだが、今回は意外な所から情報が出てな」
「意外な所……?」
「ああ、灯台下暗しという奴か……」
響との邂逅から約1週間ほど。二課に呼び出された私はノイズ狩りに赴く訳でもなく司令から手渡された資料に目を通していた。
「立花響、15歳、私立リディアン音楽院高等部1年生……リディアン!?」
「ああ、言ったろう?灯台下暗しと」
「……なんでここに居るかが分かりませんでしたが、まさか進学してたなんて……でもそれならなんで今まで……」
「それなんだがどうも彼女は俗に言う一匹狼気質のようでな。特段授業態度が悪い訳でもないが……それ故悪目立ちすることもなく、かと言って特段誰かとつるむような事もなく、目立たない学園生活を送っている。クラスメイトへの聞き込みでは「他人を寄せ付けない圧を感じた」だとか……」
「納得は、しています。未来に、父さんに、私……響は2年前、あまりにも失いすぎましたから」
「……当時13歳の少女がとても耐え切れるとは思えん、こうなるのも必然、か……」
最後の引き金は、きっと私が居なくなったことだろう。私が死んで周りが掌を急に返したと響は言っていた。
……取り返しが付かなくなってからやっとことの重さに気づいた奴らを、響は信じる気がなくなったのだろう、周りにそんな人しか居なかったから他もそうだろうと思ってしまうのは道理で。
「響がああなってしまった原因は……多分、私なんでしょうね。結局こうして名を捨てたのも、我が身可愛さだったのかも知れません」
「そんな事はない……君がどんな覚悟で此処に来たかは俺が1番知っている。決してその決断は我が身可愛さで選んだものじゃあない」
「……ありがとうございます、司令」
「話を戻そう、現状こちらから彼女への接触はしていない。これは下手に関わってしまえば我々への不信感が増すだけなのが1つ……」
「……そして誰よりも、家族である君の言葉が1番効果的だろうというのが1つだ。我々は彼女の事情を書類の上でしか知らないが……君は此処に来る前までずっと響君の側にいた。誰よりも彼女の気持ちを理解し、手を差し伸べられる筈だと俺たちは信じている」
「……それ、奏さんにも言われました」
「だろうな」
「だから私、やります。これ以上響を1人になんてさせない。例え腕の一本くらい失っても……絶対に、もう一度手を掴んでみせます」
「その域だ、今後響君への対応は君に一任する。大事な家族を……取り戻してこい!」
「はい!……ああでも、私今は立花律じゃなくて……」
「家族に名前という符号が必要か?」
「……それもそうですね、変なこと言いました」
こんなことを言ってしまう辺り、やっぱり響に対する負い目は強いのだろう。
……けど、だからといってそれが響を諦める理由にはならない。絶対に非日常から日常へと引き戻す。引き戻して……もう一度、あの子の純粋な笑顔が見たい……いや、これはただのエゴか。
「翼達から話は聞いている、これから旋璃君はガングニールの反応に最優先で出動。その他のノイズ反応は基本的に翼とクリス君に対応してもらう」
「分かりました……しかし本当にいいんですか?」
……やっぱりツヴァイウイングの2人はちょっと私に対して過保護な気がする。なんでだろうか。
「感情論以外にもちゃんとした理由はあるぞ?グレイプニルは敵性対象の捕縛に特化したギアだ。最終手段ではあるが……響君を無理やり確保して帰って来ることもできるからな」
「……それは本当に最終手段になりそうですね。流石に響の意思を無視して連れ帰るとか……余程の事が起きてからになりそうですし」
「こちらとてそれを望んでいる訳ではないが……」
「やむを得ない場合は、でしょう?……そんな事にならないよう細心の注意を払います」
……問題はそう都合よく響が現れてくれるかだけど。
「頼んだぞ……今日の要件はそれだけだ。後は」
「司令!周辺地域にノイズの出現反応アリ!」
「なんだと!?」
「フラグを立てた訳でもないのに全くこううじゃうじゃと……」
「待て旋璃君!まずは反応を絞り込んでから」
「確か今日翼さんは奏さんとアルバムの打ち合わせでしょう?クリスちゃんもまだ部活の途中で……だったら今動けるのは私だけ。響を優先してくれとは言われましたけどそれはノイズの襲撃に間に合わない言い訳にはできません!」
やっぱりノイズはお行儀よく待ってなんかくれない。幸か不幸か今日は他の2人は動くにしても少し遅れる……私が行かない理由はない。
「……分かった。藤尭、反応絞り込めたか!?」
「駅構内に反応多数……待ってください、アウフヴァッヘン波形を確認!」
「何だと!?」
「……まさか」
他の2人が動ける訳がないこの状況……なら答えは1つしかない。
「パターン照合……っ、ガングニール、立花響です!」
「噂をすれば何とやらか……!」
「余計私が行く理由が増えましたね……司令、射出お願いします」
「ああ、可能ならばガングニール……響君と協力してノイズの掃討を。その後の対応は君に一任する」
「ありがとうございます……緒川旋璃、行きます!」
早速やってきたチャンス、みすみす見逃す訳がない。
覚悟を決めてペンダントを握りしめ、私は現場へと向かった。
「っ……随分と派手に……」
現場である駅構に着く頃には既に戦闘痕があちこちに見られた。内部からは戦闘音も聞こえる……間違いない、響はまだ此処で戦ってる。
「……今更顔なんて見たくないかもだけど、我慢してね、響……!」
助走を付けて駅構内に繋がる階段へと背面跳び。
落下と同時に装着を済ませ内部へ。戦闘音が聞こえて来るのは地下ホームの方向。既に改札付近にノイズの姿はない……駆け抜けよう。
「……にしても何でこんな所に……?」
ホームへ降りる中浮かぶ1つの疑問。偶然かもしれないが、地上にも出ずノイズが地下に発生するなんて珍しい。普通地下に現れたにしても人を襲うため地上に湧いて出るはずだが……
「……いや、細かい事は後で考えよう」
兎にも角にも今は響が最優先。段々と戦闘音が離れて行く感じもする……急がなきゃ、また取りこぼしてしまう。
「此処を降りればホームに……っ、爆発!?」
ようやく合流できる、そう思った刹那に爆発音。ホームが崩落する様子が無いことから小規模なものだけど……
「……っ!」
「響……!?」
音の方向に向かった先で見たのは派手に地上と貫通した穴を駆け上がる響の姿。何かを追うようにしていた……つまりノイズの撃ち漏らしがあるということ。
「間に合え……!」
鎖を穴の側面に射出し、ワイヤーアクションよろしく巻き取って慣性で上昇。響に少し遅れて地上へと脱出、そのまま空中へと打ち上がる。
「響は、何処に……」
「……はあああああ!」
「!」
空中から逃げるノイズとそれを追う響を視認……やっぱり響は何処か戦い慣れていない、逃げるノイズに攻撃が当たっていない。
「だったら……」
空中で脚部のバーニアを吹かし姿勢制御。同時に右手と右目を逃げるノイズに焦点合わせ……
「……!」
……高速で鎖を射出。今1番怖いのは取り逃すこと。鎖で振り回して連撃を加えるのではない、ただ足止めさえできれば……
「……よし!」
打ち出した鎖は見事ノイズに命中、同時に地面に突き刺さって動きを封じる。
「……この鎖……」
「下がって、響!」
「っ……律姉……?」
再び両腕から鎖を展開。落下の勢いに合わせ……
X字に両断。いともあっけなくノイズは塵と化した。様子を見るにこれでノイズは全て……なら、やるべき事は。
「……こんな時間に1人で歩くのは危ないって昔言ったよね、響?」
「放っておいてって言ったはずだよ、律姉」
「年上として深夜徘徊を咎めてるだけだよ」
展開した鎖を収納し戦闘の意思がないことをアピール。響はうんともすんとも言わないけど……後退りしない分、ある程度受け入れてはくれているのだろう。
「年上とか年下とか関係ない。私はもう人間じゃない化け物で……」
「じゃあその化け物はどうして皆を守ってくれるのかな?」
「……」
この前はかける言葉を間違えてしまったし、ちょっとした動揺で余計状況を悪くしてしまった……だから、今回は間違えない。
「ね、もし響が心まで化け物になっていたらきっと誰かを助けるなんて事しない」
「違う、ノイズを倒しているのは憂さ晴らしで……誰かを助けてるつもりなんてない」
「でも、結果的にそうなってる……昔の響もそうだったね。突拍子のない行動をして、結果的にそれが良い事に繋がって……やっぱり響は私の知ってる響だよ」
「……だから何?お姉ちゃんの知ってる立花響はついこの前死んだ。私の知ってるお姉ちゃんだって2年前に死んだんでしょう?赤の他人に私の何が分かる!」
……ああ、変わらない。返す言葉が思い浮かばないと関係ない事柄を無理やり絡めて来る所とか、本当昔のままだ。
「……確かに「立花律」は2年前に死んだ。今此処にいるのはシンフォギア装者の「緒川旋璃」……けど、例え名前や戸籍が変わっても、私が響の姉だって事は変わらない」
「その立花響は死んだって言ってるでしょう!?此処に居るのはただの化け物!だから……お願い、近寄らないで!」
「ううん、例え身体が化け物だったとしても貴方の心は私のよく知る立花響のまま。だったら貴方は……私の妹の、立花響」
「違う!私は……私は……!」
……もう一押しだ。今響の心は揺らいでる。必死に自分を否定したい恐怖心と、誰かに縋りたい救いを求める心。
それを受け止めるためにできることは……
「……響、誰かを信じられないっていうのは分かる。周りを許せないっていうのも分かる……でも、せめて家族の差し出す手だけは、信じてほしい」
「かぞ、く……」
足を踏み出すのではなく、手を伸ばす。
私から行ってしまえば響を余計に刺激してまたこの前と同じような事になるだろう、だから、響が自分から手を伸ばしてくれるまで待つ。
「……今一瞬だけでもいい、もう一度……私の手を」
「……感動展開の所悪いですが」
「周囲の警戒くらいはしておくべきでしたね」
「っ!?律姉っ!」
「響?何……っ!?」
……ノイズを掃討しきって油断していた。響との会話に意識を集中しすぎたあまり突如現れたノイズに気付かず、気づけば粘着質の糸のような物に四肢を絡み取られていた。
「っ……奇襲……何処から……!?」
「律姉を……離せっ!」
私を解放しようと響がノイズに飛び掛かるが……
「貴方の相手はこちらです……予定が狂いましたね」
「っ!?」
突如として振るわれた鞭に阻まれ後退を余儀なくされる。あれは、ノイズではない……
「2人とも生け捕りが主のオーダーだったのですが……まあ1人は確保しましたし、もう1人は私が抑えればいいだけの事」
「……誰だ、お前」
「ああ、私ですか?」
響の目の前に立ちはだかったのは白い鎧を身に纏った女性……あの鎧、資料で見た事がある。
「……ネフシュタンの鎧……紛失した筈じゃ」
「流石に知っていますか、しかしどうやって手に入れたのか、そして私の名前も訳あって話す事はできません」
「唯一話せる事は……」
「私は貴方達の敵であり、私の主は貴方達2人の身柄を所望しているという事です」