戦姫異譚シンフォギアAnother   作:暁真

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咆哮

 

「……響はともかく、私……!?」

「方や融合症例、方やあのグレイプニルと適合できる装者……主は欲張りでしてね、どちらも欲しいようなのです……よ!」

「っ……!」

 

 目の前でネフシュタンの女性が振るう鞭が音を立てて響を襲う。間一髪避けてはくれたようだがあの身のこなし、間違いなく戦い慣れている……ノイズとの戦いで少なからず疲弊してるだろう今の響には分が悪すぎる。

 

「いい反応です。やはり融合症例、まるでギアを自分の手足のように動かしている」

「……何のことだかよく分からないけど、お前が敵だっていうのは分かった。さっさと倒して律姉を離してもらう……!」

「それは出来ない相談です……今の貴方が私に勝てる道理はない。実力でも……」

「杖……?」

 

女性が何処からともなく取り出した杖のような物。徐にそこから光が放たれたかと思えば……

 

「……数でも」

「っ……ノイズ!?」

 

光の照射された先から現れたのは他でもないノイズ……

 

「……まさか、此処最近のノイズ出現は……!」

「流石にこれだけ手掛かりがあれば分かりますか。ええ、その通り。私がやりました」

「っ!」

「響!?」

 

簡単に自分が黒幕である事を告白した女性に響は鬼の形相で殴りかかった……だが。

 

「危ないじゃないですか、話している最中だというのに」

 

……鞭を盾がわりに受け止め防御、あまりにも、手慣れている。

 

「黙れっ!お前が……お前がやったのか!?2年前の……あの時も!」

「……!」

 

……確かに、あれがノイズを使役する聖遺物だとしてあの日使われたというのならあまりにも狙ったようにドームの中心からノイズが溢れ出てきたのにも納得は行く、だが……

 

「そうだと言ったら……どうします?」

「殺す!!」

「ダメ!怒りのままに動けばそいつの思う壺……!」

 

彼女の目的は響を消耗させることだ。事実響は怒りに呑まれて動きが単調に……

 

「お前がっ!お前さえいなければぁぁぁぁぁ!!!!」

「……ほう、興味深い。融合症例の症状の1つでしょうか?」

 

……響の顔が比喩ではなく黒く染まり、瞳が赤く明滅している。明らかに異常な状態だ。早くこんな拘束抜け出して救援に行きたいが……

 

「ぐっ……ご丁寧にアームドギアの発射口まで塞がれてる……」

 

相手もそう易々と逃がしてくれる気はないようだ、固まった粘着質の糸は私に動く自由すら許さない。アームドギアを使おうにも腕部脚部それぞれの発射口まで綺麗に塞がれているときた。

 

「……確かに出力は上がっている、しかし付け焼き刃の戦闘技術では」

「黙れ黙れ黙れェ!!!!お前さえいなければ、律姉も、お父さんもっ!私の居場所がバラバラになることなんて、なかったんだァァァァ!!!!」

「やはり怒りというのは人を獣にする、か」

 

目の前では響が1発でも殴ろうとラッシュを続けているがそれが女性に当たることは1つ足りともない……このままでは先に響の身体が限界を迎えてしまう。

 

……この状況を打開する手段は1つだけあるにはある。ただ、これは本当に最後の手段。このまま使ってしまえば周囲の被害は確実に甚大な物になる、しかしこの状況で出し惜しみする訳には……

 

「……これでチェックです」

「ガアァ!?」

「響……!」

 

……そう悩んでいる内にノイズと女性に袋叩きにされた響は呆気なくノックアウト、地面に転がり込んでしまった。

 

「少々梃子摺らせてくれましたが概ね予定通り、2人とも回収させて……」

 

っ、もう出し惜しみしている場合じゃない、やるしか……!

 

 

Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)

 

……!

 

「この聖詠……クリスちゃん!?」

 

上を見上げれば夜空から落ちてくる赤い星。

 

「……おや、時間をかけすぎたようですね」

「間に合った……旋璃さん!」

 

落下と同時にギアをまとったクリスちゃんは流れるように私を拘束しているノイズを射抜き撃破……ただ、大元が消えてもこの糸はまだ残るようだ。

 

「旋璃さん、今助け」

「大丈夫ですクリスちゃん……それと、今から1つお願いがあります」

「……へ?」

 

やはり手段は選んでいられない。元から知っている翼さんだったのなら多少は早く済んだけどそれはそれこれはこれ……今回の万が一はクリスちゃんに頼むしかない。

 

「万が一彼女が撤退した後も私が戦闘を続けるようなら、多少強引にでも止めてギアを強制解除させてください」

「……どういうことですか、旋璃さん?」

「……こういうことです。クリスちゃん、私より響をお願いしますね……!」

 

……ギアを装着しているにも関わらず、胸に浮かぶもう一つの詠。

 

「ごめんなさい……司令、了子さん、奏さん」

 

「でも、今使わないでいつ使うんですか……!」

 

Verderben Fenrir tron(呪縛からの解放)

 

夜空にもう一つ、歌が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

「んなっ……旋璃の馬鹿野郎!」

 

「どうしたのかしら奏ちゃん……待って、これって」

 

「ああ、あいつ「フェンリル」を使いやがった!」

 

「何だとぉ!?」

 

「藤尭君とあおいちゃんはカウント準備、奏ちゃんは私とギアのモニター!制限時間を過ぎたら最悪こっちでギアを強制解除させるわ!」

 

「……第六号聖遺物「グレイプニル」、しかしあれの本体はグレイプニルではない、むしろグレイプニルは本来の第六号聖遺物を制御するためのリミッターのような物」

 

「……真の第六号聖遺物「フェンリル」。鎖を引きちぎった狼は例え適合者であっても容易に御せるものじゃない……!」

 

「フェンリルのカウント開始、残り666秒!」

 

「グレイプニル、パージされます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ、うぅ……!」

「ギアが、弾け飛んで……!?」

 

四肢の装甲が音を立ててパーツされ、糸ごと周囲のノイズを弾き飛ばす。

 

「律姉……何を……?」

「……なるほど、使うのですか。神殺しの牙、フェンリル」

 

「あ、がぁぁぁ!?」

 

身体は身軽になりヘッドギアが変形、両端が面頬のように展開し口部を覆う……ただ、身軽になったのとは対照的に私の身体は凄まじく悍ましい何かに襲われている。

 

「……うるさい、うるさい煩いッ!!!!」

 

どうにかしてそれを黙らせ、パージされた装甲の中から鞭のような形状になったグレイプニルを握りしめる。

 

「……ガングニール、いや、違う……」

 

……確かに言われてみれば響のガングニールと見た目はそこそこ似ている。神話で殺し殺された仲故、なんだろうか……まあ今はそんな事はどうでもいい。

 

「拝めるとは思いませんでしたが……お見せしてくれたのならそれはそれで好都合。実力評価と行きましょうか」

「上から目線で、いい気になるなァ!」

 

……悍ましい何かに引っ張られているのかこのグレイプニルをパージした形態……フェンリルでは口調がどうしても荒くなってしまう。それにパージした都合上武器と言えるものは鞭状になったグレイプニル1つしかない……必然的に短期決戦を強いられる。

 

「響から、離れろォォォォォォ!!!!!」

「っ……なるほど、これがフェンリル本来の……」

 

その代わりギアの性能は格段に上がっている。大地を少し陥没させる程踏み抜きネフシュタンの女性へと突撃、文字通り一瞬で距離を詰めたことで対応が遅れたのか初めて拳がネフシュタンの鎧本体に直撃した。

 

「余裕ぶってるんじゃ、ない!」

「反応速度が段階的に上がっている……修正が」

「そこだぁぁぁぁぁ!!!!!」

「なっ……ぐうぅ!?」

 

鞭を振るうのでは遅い、判断と同時にグレイプニルを上空へ投げ捨て格闘戦へ移行。始めの数秒こそ完全に避けられていたが無意識故の軌道の不安定さ故か6秒を過ぎた辺りから段々と擦れるようになり、10秒経過したところでようやくクリーンヒット。派手な音を立ててネフシュタンの女性は盛大に吹っ飛んだ。

 

「……!?」

 

妙だ、確かにネフシュタンの鎧のない腹部を殴った筈なのに人体を触った感触がしない……ただ、今はそれを考える余裕なんてない、ボーッとしていたらそれこそこの悍ましい感覚に身体をもっていかれそうだ。

 

「まだ終わりじゃない!」

「……戦力評価を修正、グレイプニル及びフェンリル、相応の脅威と認定」

「呑気に講釈を垂れてるんじゃないぞぉ!」

「呑気に……いえ、これでも焦っているのですよ?少し」

「巫山戯るなァァァ!!!」

 

ただ一心不乱に殴る、殴る、殴る。鞭の射程は懐に入れば意味がない、むしろ下手に距離を取ってしまえばまた優位は失われる。

 

「……単調に見せかけてある程度のパターンがある。上手く考えたものです」

 

……ただ、あれだけ見せれば当然対策される。相手は鞭を最小限の動きで動かしてこちらの拳を受け止め始めた。

 

「そしてフェンリルには制限時間がある……それまで時間を稼げれば私の勝ちです」

「勝ち負けなんて、最初っから考えてない!」

 

別に今こいつを倒すだとかそんな事は微塵も考えていない。大事なのは……()を守る事!

 

「そうですか……ならこれはどうです?」

「!?」

 

……そうだった、あのノイズを操る杖を忘れていた。けど……!

 

「クリスちゃん!」

「分かってる、旋璃さんの妹は私が」

「……君、は……」

「……旋璃さんの仲間、今はそれだけでいい」

 

響の元へ向かおうとするノイズは全てクリスちゃんに任せる。今1番の脅威はノイズではなくこいつ、フェンリルが制御できるうちに撃破、ないし撤退させる!

 

「私が貴方の妹だけではなく貴方も狙っていることもお忘れですか?」

「知ったことか!私は響さえ守れれば、それでいいっ!」

「高潔なのか愚かなのか……しかし、貴方の行動パターンは全て把握しました。これ以上貴方の攻撃を受けることはありません」

「戯言をォ!」

 

……そうか、あいつはまだ私が何故グレイプニルを上空に放り投げたのか気付いていない、なら……!

 

「グレイプニルッ!」

「グレイプニル?今貴方が纏うのはフェン……っ!?」

 

ラッシュの合間合間に隙を伺い距離を取り、上空のグレイプニルを女性の影に向けて射出。

 

影縫い

 

「これは……!」

 

叔父様(慎次さん)義父(総司さん)直伝の現代忍法、影縫い!

 

「これ以上時間はかけない、一撃で終わらせる!」

「身動きを封じたくらいで、調子に乗られては困りますね……!」

 

動けば動くほど対策される、このまま戦っていてもフェンリルを完全に制御できていない私に勝ち目はない。

 

「調子になんて乗ってない……」

 

……なら、捨て身覚悟で全身全霊の一撃を叩き込む。

 

「私は、守るべきものを守りたいだけだ……!」

 

ごめん、皆。

 

早速約束……破る事になっちゃった。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

「それは……!?」

「絶唱!?ダメッ、旋璃さん!」

 

……クリスちゃんの静止を無視してネフシュタンの女性に向けてゆっくりと構えながら、唄う。

 

Emustolronzen fine el baral zizzl

 

「絶唱……?」

「……絶唱はシンフォギア最大の奥の手、だけど今の旋璃さんが使えば……!」

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

……絶唱は本来アームドギアを介してそのエネルギーを解放するもの。グレイプニルをパージした私が今使えば……バックファイアを100%その身に受ける。

けど……これ以外に手段はない。

 

「……最悪、死んで……!」

「っ……律姉ェェェェ!!!!!」

 

……ごめん響。

 

Emustolronzen fine el zizzl

 

「……おぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

……フェンリルの絶唱特性はエネルギーの増幅、そして固着。

膨大な出力を両手に固着し巨大な爪として形成、余剰エネルギーをスラスター代わりにし……飛び掛かる。

 

「これが主の最も欲しがった……!」

「ふ、き、と、べぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

振り下ろした一撃はネフシュタンの鎧ごと女性の身体に傷を付け、吹き飛ばす。

 

「っ……ぐ、う……!」

 

……そして私の身体にもバックファイアが直撃、まだなんとか立っていられるが……持ってあと少し、ってところだろうか。

 

「……ぐっ……」

「まだ、起き上がって……!?」

 

……だというのにネフシュタンの女性はしぶとく起き上がってきた、それだけでも驚くべき事なんだけど。

 

「……ネフシュタンの鎧に助けられましたね」

「人間じゃ……ない?」

 

……絶唱が直撃した腹部から弾ける火花、それは暗に彼女が人ならざる者であることを示していて。

 

「……とはいえこの体たらくでは無理か。また会いましょう」

「まっ……っ……!」

 

身体を圧縮するような痛みに事実確認も追撃もできず、彼女は悠々と空を飛び逃げ去った。

 

「旋璃さん!」

「律姉っ!」

 

……ノイズを掃討し終わったのだろう、クリスちゃんと響が此方に近寄ってくる。

 

「……そっちは、終わり、ましたか……?」

「そんな事より旋璃さんの身体の方が大事です!なんで絶唱なんか……!」

「……」

「っ……律姉……?」

 

どうにか身体を動かし、近寄ってきた響を抱きしめる。

 

「無事で……よかっ、た……」

「っ……なんでっ!?私は、私は……!」

「言った……でしょ?例え、身体が、化け物でも…。私の、名前が変わっても……私は、響の、お姉ちゃんで、響は、響なの……」

「……酷い、酷いよ律姉!これじゃ、あの時と……あの時と一緒!」

「あの時……?」

「全部1人で背負って、私の分まで傷付いて、また勝手に私の前から消えようとしてる!」

 

……そっか。

やっぱり……響をこうしてしまったのは、私、なのか。

 

「……ごめん、ね、響……」

「謝って欲しくなんかないっ!私は……私はっ!」

 

 

「もう二度と大切な人を失いたくないから……だから誰も信じないって……1人になるって、決めたのに……!」

「……」

 

……何か、言葉を返すべきなのに身体が限界だ。もう絞り出すようにしか声が出せない。

 

「だいじょう、ぶ……」

「何が!?律姉は本当に死ぬからもう失わないとでも言いたいの!?」

「ちが、う……」

 

「……もう、1人に、なんて、しない、か……ら……」

 

……限界だ。ギアが解除され、響を支えにどうにか立っているような形になる。

 

「律姉!?嫌だっ、死ぬなんて許さないっ!」

「旋璃さん!……響さん手伝って、旋璃さんを!」

「旋璃さんじゃない!律姉は立花律だっ!」

「今はそんなことで争ってる場合じゃないでしょう!?」

 

……響とクリスちゃんの怒声を聞きながら。

 

私の意識は、ぷつりと途切れた。

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