戦姫異譚シンフォギアAnother   作:暁真

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陽だまりの狭間で

 

「……大体2年ぶりかな、背、伸びたね」

「響こそ……響は雰囲気もだいぶ変わっちゃったけど、やっぱり私の知ってる響だね」

「どこら辺を見てそう思ったの?」

「全部」

「そっか」

 

 ……小日向未来、私の幼馴染。2年前に引っ越して以来会う事も連絡を取る事も無かったけど……律姉と同じくらい大切だった私の陽だまり。なんで盛岡に引っ越した彼女が此処に居るのかはわからないけど……ひとまず2人で歩きながら話していた。

 

「どうして未来は此処に?盛岡に引っ越したんじゃ……」

 

以前なら会ってもただ拒絶するだけだったろうに、自然と話ができている。やっぱり……律姉に会って、助けられたからだろうか。

 

「……ええっとね、その……響を探しに」

「私を?」

「うん……最近になってようやく響のお母さんと連絡が付いて、響がリディアンに進学したって話を聞いて、それで……」

「……母さん……」

 

……あの後。

 

お父さんに続いて律姉まで行方を眩ませて母さんはもう限界で……安全のために引っ越してからは完全に魂が抜けたような状態になってしまった。私がリディアンに進学するまでもずっと様子は上の空で……生きながら死んでるようで、それが未来と話せるぐらいには……そっか。

 

「よかった、母さん……」

「響?」

「ううん、こっちの話……それでなんで私を探しに?わざわざ母さんに連絡を取って、それにこっちに来てまで」

「……謝りたかったから」

「え?」

「あの時、何も言えずにそのままお別れしちゃって……響が1番辛い時に側に居られなくて」

「それは未来が悪い訳じゃないよ……仕方なかったんでしょ?」

 

あいつらに比べれば未来が居なくなったことに怨みつらみなんてない。家の都合っていうのはわかってたし……下手に未来が残っていれば寧ろ未来にまで被害が出ていたはず。だから……あの時私の側からいなくなってよかった、とすら思ってた。

 

「そうだけど……でも、見ちゃったんだ、あのニュース」

「……」

 

私の前で「あの」と付ける時点で何かは大体察した。ただ……どう反応すればいいものか、下手に律姉が生きてるなんて言えないし、気にしてないと言い張るのにも無理があるし……

 

「それで私どうにかして響に会いに行かなきゃって思って、連絡しようとして……繋がらなかったから自分でお金貯めて戻ったの。その時にはもう引っ越しちゃってたから会えずじまいけど……」

「……よく諦めなかったね」

「諦められる訳ないじゃん!そもそも私が2人をライブに誘わなかったら……響の家族が滅茶苦茶になる事も……律さんが死ぬ事も……!」

「……未来のせいじゃないよ。あの時悪かったのはノイズと……全部終わった後に囃し立てた奴らだから」

「……やっぱり響は優しいね。でも……それでもこうやって直接会って……っ!」

「未来……?」

 

……何か対応を間違えてしまったのだろうか、未来は顔を俯けて私に抱きついてきた。

 

「……ごめん、響。私が、私が……!」

 

……下手に否定してしまえばさっきの焼き直しだ。黙って未来の思いを聞き届けよう。

 

「私のせいで響の周りが滅茶苦茶になって、なのに私、何もできないまま離れちゃって、何の関係もなくのうのうとしてて……!」

「ずっと謝りたかった……!謝って許されるなんて思ってないけど、それでも、私……!」

 

「……」

 

「……大丈夫、さっきも言ったけど、未来は悪くないし……」

「私は未来の事、逃げたとか全く思ってないから。だから大丈夫だよ、未来」

「ひび、き……」

「……とりあえず、さ。こんなんじゃおちおち話もできないし、何か食べにいく?」

 

……大丈夫だ、私はもう逃げない。逃げ続けても何も良くならないし、何より逃げるってことは死からも逃げて……結果的に残るのは何をすればいいのかすらわからなくなった空っぽの器だけ。

だから逃げないよ、私。生きて、未来を選び続ける。

それが私の……世界へのささやかな復讐だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから何度も何度も何度も言ってるよな!?お前は自分を蔑ろにし過ぎって話!」

「……返す言葉もありません」

「フェンリルを勝手に使った所まではまあ許容するとしても絶唱まで使いやがって……幾ら妹が危ないとは言え我が身を犠牲にしようとする奴があるか!?というかクリスも合流してたんだからクリスを頼ってやれよ……」

「はい……」

 

……響を帰してしまってから少し、次の来客はツヴァイウイングの2人。

まあ当然と言えば当然だが、私は現在進行形で勝手にフェンリルを解放した挙句絶唱まで使って死にかけた事をこっ酷く怒られていた。

 

「まあでも……旋璃が生きてて良かったよ。もし死なせでもしていたらオレ達は今度こそ響に顔向けできなかった」

「自分でもよく生き残れたものだと思ってます。私が異様なまでにフェンリルとの適合係数が高いという話は了子さんから聞いていましたから一か八かでやってみましたが……」

「だから一か八かで気軽に命を賭けるなっての。お前はほんと昔っから……あのライブの時からそうだ、響のためなら容易く命を賭ける。家族だからってのもあるだろうけど……なんでそこまで響のために尽くせるんだ?」

 

……尽くす、尽くす、かぁ。

 

「……私、その、姉ですから」

「姉?」

「そりゃあ響を、家族を守らなきゃっていうのは勿論あります。けど……多分1番根っこにあるのは」

 

()の目の前で情けない事をしたくない、響に誇れる自分でありたい……だから響の前で逃げるなんて事はできないししたくない、それが私です」

 

「……」

「……」

 

「……なんですか、2人して微妙な顔して」

 

ちゃんと本音なのに。

 

「いや……やっぱりお前達、姉妹なんだなぁって」

「はい?」

「……その、だな。響にも戦う理由を聞いた時、旋璃と似たような事言ってたんだよ」

「響が?」

「ああ、お前が復帰するまで代わりになるって張り切ってな。理由聞いたらずっと姉の背中を見てるだけじゃいられない、それに知らないフリをしてたら命を賭して自分を守ってくれたお前に見せる顔がないって……ほんとそっくりだよ、お前達姉妹」

「……」

 

思ったよりも妹は大きく、強くなっていたらしい。けど……それはそれとして、響がまた傷つくのを受け入れろというのはやっぱり受け入れ難い。

 

「私の代わりになんて、なって欲しくはなかったんですけど……」

「勿論オレ達だってクリスの推薦があったとはいえ最初は止めたさ、でも……」

「……ガングニールの破片、ですよね」

「ああ……すまない旋璃。私達の2年前精算しきれなかったツケが……またお前とお前の家族を巻き込んだ」

 

……ネフシュタンの女性は響を「融合症例」と呼び狙っていた。響の話と纏めると今の響は人間と聖遺物が融合した特異な状態で……それ故ペンダントなしでもシンフォギアを纏えるし、だからこそ狙われる。

下手に関わらせないよりは二課に居てもらった方が安全だというのもわかる、わかる、けど……

 

「……分かっています、理屈の上では。けど……心が受け入れられるかは、別問題みたいですね」

「旋璃……」

「……響には、できれば関わらないでほしかった。あんな思いをしたのだからせめてこれからは理不尽な痛みとは無縁の生活を送ってほしかった」

 

……文字通り、「世間」が敵になったあの時期。響はもう一生分の苦しみをあの時味わった筈だ。だから……だからせめて、これ以降は理不尽に押し潰されない普通の生活を送れて良いんだと、そう言いたかった。

 

「でも響は人間と聖遺物が融合した特異体。例えあの女をどうにかしたところでその身柄を狙う者はあちこち……それこそ国外にだってごまんといる。ええ、分かっています、分かっていますよ……二課が1番安全なんだと、響自身が戦うことが最善なんだと」

「旋璃、落ち着け」

「落ち着いていられる訳ないでしょう!?できるだけの精一杯をやって響を守ったと思ったのに……それなのにどうやっても響が平穏に生きられる訳がないって叩きつけられて、だって、それじゃあ……」

 

 

「「立花律」は……何のために死ななきゃ行けなかったんですか……!?」

 

……言ってしまった、嘘偽りのない本音。

 

「ええ、確かに「緒川旋璃」を選んだのは私です、私ですとも!でもそれはそうしなければ家族を守れなかったからです、それが最善だと信じたからです!」

「……」

「だから「立花律」は死にました、家族を守るために……けど、こんな、こんな今更になって響の異常が分かって、しかもそれは立花律が死ぬ前から仕込まれてた爆弾で……」

 

ダメだ、感情の制御ができない。抑えておくべきものがポロポロ溢れでてくる。

 

「私は……どうすればよかったんですか?どうせ避けられぬというのなら「立花律」として響の側に居てやった方がよかったんでしょうか?それとも少しでも日常に戻れるようにと「緒川旋璃」になった今の選択が正解だったんでしょうか?」

「……正解なんてないさ、お前があの選択をした事を誰にも咎める権利はないし、響にガングニールが融合していたことだってついこの前ようやく分かった事実……ただ、お前の選択は決して間違いなんかじゃない」

「でも、結果は変わらなくて、私は、響を、1人にして……」

「あーもう、なんでこう旋璃は強がりをやめたらやめたでこう面倒くさい事になるんだよ……いいか?」

「……え、つ、翼さん……?」

 

思考が纏まらなくなって訳が分からなくなっていた所に唐突な翼さんの接近、一周回って頭が冷えた。

 

「何度も言うがお前は何も悪くない、悪いのは私達と……お前達生存者をいいように扱ってきた奴らだ。だから自分の選択を今更後悔なんてするな、責任なら私達が背負ってやる」

「でも……」

「でももかももない、確かにお前は響や他の家族のために名前を捨てて二課に入った。オレ達だってそれを歓迎した訳じゃない、今回……響の時だって同じだ」

「……」

「全くなんでこうも似るんだか……旋璃は響のため、響は旋璃のために二課で戦うことにって、オレ達は悪の組織じゃねえんだけど」

「……なんかすみません」

「責めてる訳じゃない……ともかく、起きたことは変えられない。それだけは事実だ」

 

……そう、響が二課に入ったのも、私が名を捨てたのも、今更変えることはできない。

 

「だからこれからについては巻き込んでしまった張本人であるオレ達が責任を負う。憎みたければ幾らでも憎んで貰って構わない、だけど……お前達姉妹の安全と日常だけは保証してやれる。だから1人で気負うな、もっとオレ達を頼れ、いいな?」

「……翼、さん」

「……」

「なんだよ奏、オレ珍しく真面目に話してると思うが?」

「いや、なんか告白みたいだなーって」

「……へ?」

 

……確かに言われてみれば完全に雰囲気はそうだ。いやまあ翼さんに限ってそういう万が一はないだろうけど……

 

「……」

「せ、旋璃?」

「……今、だけ」

 

「今だけ、こうしてても、いいですか……」

 

……また纏まらなくなってきた思考をどうにか誤魔化そうと翼さんに抱きついて顔を埋める。状況だけ見たらあらぬ誤解をされそうな気もするがもう別に構わない。そもそも私が入院してる身なのだから大したスキャンダルにもならないだろう。

 

「分かった、別に好きなだけこうしてくれていいというか、そもそもオレの許可なんていらないというか……」

「……クリスが居なくてよかったな、翼?」

「う、浮気じゃねえし!?というかそもそもオレにとって2人はそういうのじゃなくて妹みたいなもんというかだなぁ!?」

 

……いつものこの流れも妙に安心する……ちょっとからかってみようか?

 

「……私とは遊びだったんですね」

「旋璃!?そんなの何処で覚えてきた!?」

「はは、調子戻ってきたな」

 

……ああ、いつもの光景だ。不思議なくらい落ち着いてくる。

 

「……まあ、落ち着いたようで何よりだよ旋璃……まずはゆっくりとリハビリして身体を治せ。響とのあれこれはそれからだ」

「……分かってます。まだ整理は付いてませんけど……それまでには私なりの答えが出せれば、と」

「ならいい……それじゃあ私達もそろそろ時間だ。1人になった後で勝手に病室抜け出すんじゃねえぞー」

「やりませんって……もしかして昔やったりしました?」

「あー、いや、その……」

「……やったんですね」

「ギクッ」

「……よし奏、此処はお互い痛み分けって事で手を打とう」

「何がだ……また来るよ旋璃、早く退院して元気な顔を響に見せてやれ」

「はい……ありがとうございました」

 

あまり激しく身体を動かせないのでどうにか笑顔を作って2人を見送る。私を仲間として見てくれていること、それが不思議と嬉しい……妹扱いは少々疑問符だけど。

 

……さて、色々と考えることはあるけどひとまず。

 

まずは身体を治して退院、響と改めて話す。これが当面の目標。

それまで響の身に何かないか、とかは不安だけど……響だってもう15だ、私が心配しすぎるのもよくない筈。

 

まずは目の前の事から1つずつ、ゆっくりと片付けていこう。

 

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