……あの日律姉に会いに行って、帰りに未来と再開して。戦う事に自分なりの答えを出した。
クリスからは心なしか顔が凛々しくなったとか言われたし、奏さんと翼さんには少し複雑な顔をされたけど……律姉と腰を据えて話すため、だとかでより一層訓練に付き合ってくれるようになった。と言っても私はシンフォギアを纏えばどんどんガングニールの侵蝕が進んでしまうらしく生身を鍛える事がメインだけど。
それと未来の事なんだけど……できれば毎週来たいと言ってくれたのはいいんだけど最近のノイズ出現率の増加、そして私と律姉を相変わらず狙ってるあの女の事を考えてたまにでいいよ、と言わざるを得なかった。
それに単純に未来の懐事情もあるし……リディアンに転校できないかどうか掛け合ってみるとか言われたけど、私のためにそこまでしてくれるほど私は未来に何かしただろうか?
いやまあそれは今どうでもいいのだ、それより目下の問題がある。
「……響、考え事?」
「ちょっと……ねっ!」
現在はクリスと組み手の真っ最中。最初こそ簡単に倒されてばっかりだったけど今では10回に1回ぐらいは善戦できるようになってきた。
「……少しは工夫するようになったけど相変わらず動きが直線的すぎる、そこっ!」
「っ……!」
避けられて無防備になった脇腹に蹴りが1発。突きを躱されたこの姿勢で受ければ踏ん張れるはずもなく空中に投げ飛ばされる。
「だとしてもっ、これはどうっ!?」
とはいえそれを想定していない訳ではない、即座に姿勢を変えてバク宙。踵落としを決め……
「……だから動きが直線的すぎるって」
「躱されっ……つぅ!?」
……ようとしたのだが避けられ、カウンターの一本背負い。敢えなく私の敗戦。まあその……善戦できる、と言っただけで勝てるようになったとは一言も言ってない。
「10分……持った方かな」
「最初の付け焼き刃に比べればね。1/3旋璃さんってとこかな?」
「それどういう基準?」
「旋璃さん相手に3分相手できればいい方って感じ」
「……3分かぁ」
相変わらずまだ律姉の背中は遠いらしい。
「……クリスは律姉に勝ったことはあるの?」
「手加減されてる状態でなら、2回」
「手加減……」
「本気を出した旋璃さんには一度も勝ててない。生半可な攻撃は見切られるしようやく一撃打ち込んだと思ったら空蝉だったり分身したり……忍者って凄い」
「……ぶ、分身……?」
「うん、「4人が限界かぁ」なんてぼやいてたのは覚えてる。たまに緒川さんと一緒に練習してるから旋璃さんが復帰したら見れるかもね」
「何をどうしたらそんなことできるんだ……」
……遠い所か更に全速力で離れて行った。この2年間の間に律姉は人間を卒業でもしたのだろうか?
「緒川さん曰く旋璃さんは天才肌?らしくてさ、2年で家の技術を殆ど覚えたとかなんとか」
「……私もできるのかな、それ」
「私も一度付き合ってみたけど……やっぱりどういう原理かは分からなかった。旋璃さんも緒川さんも当然のようにクナイに炎を纏わせるし……」
「……真似しようとしてできるものじゃないってのは分かった」
うん、やっぱり人間辞めてる。忍術なんて本当にあったんだ……
「……それより此処でのんびりしてていいの?今日は旋璃さんの退院予定日でしょ」
「分かってる……付き合ってくれてその、ありがとう、それじゃ」
……面と向かって感謝の言葉を伝えるのにはやっぱりまだ抵抗があるらしい、顔を見ずに礼だけ伝えてそそくさとその場を後にした。
「……ほんと、素直じゃないんだから」
「迎えが来るとは言っていたけど……」
……絶唱の負担が思ったより少なかったのか、私の身体が特別治りが早いのか、はたまた別の理由か。
思ったより入院とリハビリの期間は短く済み気付けば退院、ただツヴァイウイングのお二人は次のライブの打ち合わせで忙しいらしく叔父様も同様。二課の皆はあのネフシュタンの女性……女性?を追って忙しいしで……迎えが来るとは言っていたけど流石に装者は1人待機させるだろうし。
さて、となると来れる人で手が空いているのはクリスちゃんと……
「……響」
響は多分まだ戦い慣れていない。緊急時に出動できる装者を残しておくなら当然クリスちゃんだから多分迎えは響だろう。
私はちゃんと響と向き合って話せるのだろうか、そもそもまともに顔を見れるのだろうか……不安ばかりが脳内を渦巻く。
いや、此処で私がこんな事ばかり考えていてはこの前の焼き直しだ。せめて外面くらいは保て立花……じゃない緒川旋璃……いや、響の前だしあくまで「立花律」として居た方がいいのか?
「平常心平常心……」
ともかく今すべきは落ち着くこと。私が誰かとかはもうこの際関係ない、「立花響の姉」としての自分で居よう。多分それが響が一番安心する私だから。
「律姉」
噂をすればなんとやら、病院の待合から聞こえてきたのは間違いなく響の声。以前のような慌てた様子ではなく落ち着いた感じ……多分心の整理はとっくに終わっているのだろう。
……ほんと、あの響が強くなったなぁ。
「……まだ私を「立花律」として見てくれてるんだね、響は」
「名前とか関係ない。律姉は私のお姉ちゃん、でしょ?律姉は私がお姉ちゃんを呼ぶ時の名前だからこれまでもこれからも変える気はないよ」
「そっか……ほんと、大きくなったね」
リディアンの制服に身を包む彼女はもう私が知る2年前の立花響じゃない、私の思っているよりずっと大きくなって……強くなった。
「近所のおばちゃんみたいな言い方……たった2年だよ?身長もちょっと伸びたくらいだし」
「身長だけじゃないよ、色々と、ね」
「……むず痒い」
……照れ隠しなのか頰を掻いている、やっぱり根底は変わってないみたい。
「昔は素直に喜んでくれたのに……」
「昔は昔、今は今……ああもう、なんか調子狂うな……」
「……なんかごめん」
「謝らなくていい……それより」
「?」
一瞬両手を広げる素振りを見せたが、流石に病院ということもあって気恥ずかしいのか響は遠慮がちに私に向けて手を伸ばす。
「お帰り、律姉」
「……どっちの意味で言えばいいかな」
「どっちも」
「……分かった」
二課として、そして家族として。
「……ただいま、響」
私はようやく、響の手を取った。
「ねえ律姉」
「何?」
「分身できるって本当?」
「……何処で聞いたかな」
「クリスから」
「クリスちゃんかぁ……」
退院後、何処へ行くかという話になったけど特に予定もないし響も非番だし、ということで現在は適当にアイスを買って公園で2人きり。久しぶりに腰を据えて何を話そうかと思えば……
「……あんまり見せびらかすものじゃないけどね」
「否定はしないんだ」
「嘘付く理由もないし……というか話題本当にこれでよかったの?」
「昔からよくやってたでしょ、何もやることが思い浮かばない時にこうやって変な事話すの」
「大概響が宿題を溜め込んで考えるのやめた時だったね」
「……今はちゃんと終わらせてる」
「……本当に?」
「本当」
……またコミュニケーションを失敗したかもしれない、宿題の事を追求した瞬間微妙に顔を逸らされてしまった。さっきみたいな照れ隠しという訳でもなさそうだし……やってしまったのだろうか。
「何、また私の課題一緒にやってくれるの?」
「いやぁ……自分で全部終わらせられるならそっちの方がいいんじゃないかな」
「……流石に律姉でもそこまで甘くないか」
「もしかして期待してた?」
「うるさい……もう締め切り過ぎて泣きついてた頃の私とは違うから」
「未来ちゃんと2人がかりでどうにか終わらせた時もあったね」
「……うん、懐かしいね。私が中1の時までずっとそんなだった」
また地雷を踏んだ訳でもなかったらしい、寧ろ響の方から会話を繋げてくれる……ああ、本当に懐かしいなこの光景。
またこうやって響と無駄話ができるなんて夢にも思っていなかった、奇跡と呼ぶには事情が事情だけど……少なくとも今こうやって隣に居れることは素直に喜んでも良い筈だ。
「そういや律姉」
「今度はどうしたの?」
「この前未来に会ったんだ」
「未来ちゃんに?」
「うん、わざわざ盛岡から此処まで来て……」
「……どうだった?」
「変わらなかったよ、2年前から。私と律姉のよく知ってる小日向未来、ちょっとあれこれあったけど……もう大丈夫」
「そっか……良かった」
あれこれっていうのが少し気になるけど……響と未来ちゃんの仲が元通りになったのなら一安心。ちょっとずつだけど響が日常を取り戻せているようで何よりだ。
「ただ、その……」
「何か問題が?」
「……律姉の事、どう説明したものかなって」
「あー……」
……響の様子を見るに多分未来ちゃんも
「……未来ちゃんに1発殴られる覚悟はしておこう」
「1発で済むかなぁ」
「確かに……5発くらい?」
「どっちにしろ勝手に居なくなった分の精算はしてもらうからね、律姉」
「……ごめん」
「ほんとだよ……あの時私律姉に嘘付かれたのまだ許してないから」
「仕方なかったで済まされるとは思ってないし、覚悟はしてる」
「別に物騒な事するつもりとかない……また勝手に1人で何処かに行かないでってだけ」
「……」
非常に耳が痛い。仕方なかったという言い訳なんて出来るはずがないし響を孤独にさせてしまったのは事実、あの時死を選ぶなんて選択をせず響の側にいる事を選んでいれば……なんて後悔は再会してから何度もした。
「また勝手に悩んで勝手にダメージ受けてる」
「……やっぱバレちゃうか」
「何年律姉の妹やってきたと思ってるの、15年だよ?律姉の癖は大体把握してるし何考えてるかも大体わかる」
「暗に変わってないって言われてる?」
「うん、毎回毎回毎回自分1人に責任押し付け過ぎ。もう少し周りを頼ってよ」
「……ついこの前翼さんにも言われたなぁ」
「やっぱり変わってないじゃん」
独特の空気とでもいうのだろうか、こうして2人でだらだら話していると自然と本音が出てしまう。なんだかんだ言いながら私も響の側に居るのが一番安心するらしい、やっぱり一番安心するのは家族の……
「……」
「律姉?」
「響、アイス食べ終わってるよね?」
「うん……何かあったの?」
「何か、居る」
「え?」
一瞬で思考が「緒川旋璃」に切り替わる。この2年間で鍛え上げられた感覚は否が応でも此方に向けられた悪意を感じ取る。これは……
「っ!」
「律姉っ……!?」
飛来する初撃の音を聞き咄嗟に響を抱えて跳躍、先程まで座っていたベンチは鞭の一撃で最も簡単に粉砕され辺りには砂埃と木片が舞う……この攻撃は。
「ネフシュタン……!」
「流石に喰らってはくれませんか、融合症例1人だけならまだ可能性はありましたが」
「お前は……!」
「これで3度目ですね融合症例、以前はデュランダルに、最初はそこの女にしてやられましたが……今度こそ年貢の納め時です」
この前絶唱まで使いようやく撃退したネフシュタンの女……いや、その身が機械である以上性別があるかどうかは怪しい。
「……私が療養中の間にまた響にちょっかいをかけてくれたようで」
「それが私の役目ですから」
「迷惑極まりないですね……誰の許可を得て人の妹に手を出しているので?」
地面に降りてから響を庇うように前に立ち、眼前の敵を睨み付ける。
「我が主の崇高なる目的のためならばあらゆる障害を破壊してみせましょうとも」
「目的のために人を攫おうとする時点で崇高でもなんでもないでしょうに」
「売り言葉に買い言葉、やはり本性は獣のようですね、フェンリルの装者」
「……」
否定はしない、私は幾ら取り繕おうがエゴの塊だ。響のためならこの手を血で濡らす覚悟だってある、それを響が望むかどうかはともかく、必要な事ならば……
「律姉」
「……響?」
「言ったでしょ、もう私は律姉の後ろで見ているだけは嫌だって」
「……!」
私の手を押しのけて響が隣に立つ。
「おや、また足手纏いになるつもりですか?デュランダルの力がなければまともに私を撃退できなかった貴方が?」
「もうその時とも、1人よがりだったあの頃とも違う!」
「響……」
「だから律姉……一緒に戦って。私は確かに律姉の妹で、守られるべき対象なのかもしれないけど……それでも、今は「仲間」だよ!」
「……分かった」
やっぱり、響は強くなった。もう私が一々心配する必要なんてないのだろう。
……だから。
「行くよ、響!」
「うん!」
共に聖詠を口ずさみ、ギアをその身に纏う。
「病み上がりとひよっこが2人並んだ所で……」
「それを決めるのはお前じゃない!」
「ええ……装者2人、ただ並んだだけと思わないでもらいましょう!」
全く同じタイミングで大地を踏み締め、私と響はネフシュタンの女に飛びかかった。