バーンアーカイブ   作:議連・座備

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プロローグ

──余は……余は敗れたのか……。

 

 意識が薄れゆく中、バーンは己の敗北を受け入れつつあった。

 

 数千年にも渡って力を蓄え、地上を消滅させる事で我が故郷たる魔界に母なる太陽をもたらさんとした。

 

 だが、その計画は人間の勇者達によって砕け散った。

 

 ──しかし……それでよい……。

 

 生物はすべからく弱肉強食。

 

 ならば、余を倒した者たちが新たな世界を創るというのもまた真理。

 

 滅びるべきは滅び、生きるべきは生きる。それこそが、自然の摂理というものだ。

 

 だが──

 

(……余が滅びるべき存在であるのならば、なぜこの意識は消えぬ……?)

 

 鬼眼王となり、ダイに敗れた事で消え去ってゆくはずだった魂は、なおも存在を保ち続けていた。

 

(……いまだ余にやるべき事があるとでもいうのか……?)

 

 ──その時、不意に脳裏をよぎる映像があった。

 

 アバン。

 

 かつて自らの弟子たちを鍛え上げ、彼らに未来を託した男。

 

(あやつは万能の勇者とでも呼べる能力を持ちながら、その力を後進の育成へと注ぎ、導く道を選んだ……)

 

 余とて、力を与え、育てることを完全に否定していたわけではない。

 

 だが、アバンのように「何かを育てること」そのものに意義を見出したことはなかった。

 

(もし、余が何かを育てるとしたら……)

 

 その思考が終わる前に、視界が光に包まれた。

 

『シッテムの箱』へようこそ、バーン先生。

 

 そんな声が聞こえた気がした。

──意識が浮上する。

 

 微睡の中、聞き慣れぬ声が響いていた。

 

「……先生、起きてください」

 

 眠い。

 

 余は今、死を迎えているはずである。ならば、この声は何なのだ?

 

「バーン先生!」

 

 不意に、体が大きく揺さぶられた。

 

「ぐ……?」

 

 思わず声が漏れる。

 

 なぜか、余の肉体は健在であった。 (……余は、滅びたはずではなかったのか?)

 

 確かに、ダイとの決戦の果てに消え去ったはずだった。

 

 だが、こうして確かな手応えと共に現世の感覚を取り戻しつつある。

 

 ゆっくりと瞼を開く。

 

 目に映ったのは、紺の髪をした少女だった。

 

 白いコートを羽織り、鋭い眼光を宿した少女は、困惑したようにこちらを見つめていた。

 

(……なんだ、この少女は?)

 

 彼女の頭上には、見慣れぬ紋様が浮かんでいる。まるで天使の輪のような、不思議な装飾。

 

「……お前は誰だ?」

 

 余の問いに、少女は一瞬目を瞬かせ、やがて静かに口を開いた。

 

「七神リンです。連邦生徒会所属の幹部を務めています」

 

「……連邦、生徒会……?」

 

 余の知るどの組織とも異なる響き。

 

 魔界でも人間界でも聞いたことのない名称だ。

 

(……余は、いったい何処にいるのだ?)

 

 ぼんやりとした意識を振り払うように、余は立ち上がろうとする。

 

 すると、傍らに見慣れた光魔の杖があった。

 

「ふむ……?」

 

 杖を手に取り、確かめるように握る。間違いなく、これは余が長年愛用していたものだ。

 

(ここは……余が生きていた世界ではないのか?)

 

 違和感ばかりが募る。

 

「……先生、もう目は覚めましたか?」

 

 リンと名乗った少女が、じっとこちらを見つめていた。

 

「どうやら、余は存外深く眠っていたようだな……」

 

 軽く咳払いし、意識をはっきりさせる。

 

「……それで、余を起こしたということは、何か用があるのだろう?」

 

「はい。先生には、これからキヴォトスでの役目を果たしていただきます」

 

 リンはまるで当然のように言った。

 

 だが、余にはわからぬことばかりだ。

 

「待て。まず聞かせてもらおう」

 

 杖をつきながら、ゆっくりと立ち上がる。

 

「余は、何故ここにいる?」

 

 その問いに、リンは少しだけ困ったように目を伏せた。

 

「……私も、先生がここに召喚された理由を詳しくは知りません。ただ、間違いなくあなたは私たちが呼び出した教師です」

 

「教師、だと……?」

 

 余が、教師?

 

 長きにわたり、魔界の王として君臨し、強者のみを求め続けたこの余が?

 

「……ふむ」

 

 なんとも奇妙な話だ。

 

 だが、今の余には理解すべきことが多すぎる。

 

 まずは、状況を把握することが先決か。

 

「よかろう。案内を頼む」

 

 余の言葉に、リンはわずかに安堵したように微笑んだ。

 

「ありがとうございます。では、こちらへどうぞ」

 

 彼女の後を追いながら、余は思う。

 

(……教師、か)

 

 それもまた、一興かもしれぬな──。

 

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