パラディ・ガストロノミック〜食を愛せしもの、神ゲーに食を求めんとす〜 作:エピキュラ
職業ギルドとかスキルガーデナーがどんなのなのか分からない……ッ
「ふぅ、あとは武器屋かな……」
始まりの街、ファステイアをふらりふらりと歩く。石と木とで出来た家々はまさにファンタジーなもので、所々出店のようなものもあってつい寄ってしまう。
「焼き立てのパンはいかが〜?」
「一つください!」
香ばしい小麦の香りが漂ってきて、ついその香りの元へと駆け寄って声を掛けてしまう。
「はいよ、食べ歩きでいいかい?」とニコニコしながら、最後の仕上げにバターでも塗ったのか、艶の良いふっくらとしたパンをトングで挟むおばちゃんに、コクリと頷く。
「まいど〜!」
「ありがとね、おばちゃん!」
いくらかマーニを支払って、紙に包まれたパンを食べ歩きながらこれまでやってきたことを整理する。おわ、バターのいい匂い。これもしかして十字の切れ目の部分にバター塗り込んでるな? 絶対美味しいやつ!
……ごほん。ええと、まずヴォーパルバニーを倒した後、わたしはこの始まりの街、ファステイアに来てまずは宿に泊まってリスポーン地点を更新した。ぶっちゃけそのまま休憩しようかとは思ったけど、まだまともなご飯を食べれていないので取り敢えず街を散策。その先々のNPCで情報収集すると、何でもこの世界では職業ギルドで登録しなければ正式にそのジョブになれないこと、サブジョブを一つ選べること、特技選定所というところでスキルを合併させられることや武器や防具などには耐久値があって、何度も使えば壊れてしまうことなどを知った。
だから取り敢えず職業ギルドで料理人を登録してみたし、サブジョブは傭兵(片手剣使い)にした。一番慣れてるからね、片手剣。多分包丁もそのジャンルでしょ。
それと道具屋で色々物資を調達。火打ち石と焚き火と、あと体力・状態異常回復系のアイテム。この時点でかなりマーニが減った。いや、本当にお金稼ぎしないとまずいなぁ。
……手持ちのマーニが少ないのにパンを買ったのは、まぁ確かめたいことがあったからだ。
「……う〜ん、やっぱり、変だ」
そう、味覚に関してだ。
先ほど森で果実を食べたときから思ってはいたけど、どうも味覚だとか、食べ物の食感がおかしい。
こんなにもおいしそうなパンなのに、妙に味が薄い。本来ならきっと一口かじればバターと小麦の香ばしい風味が口いっぱいに広がって、ふわふわ食感のパンの奥にあるじゅわっとしたバターの旨味をじっくり味わえる。そういうタイプのおいしいパンなはずだ、これは。わたしの経験上、この香りとこの見た目なら間違いない。
しかしながら今わたしが感じているのは、何かを食べている、という感覚とうっすいなにかの味。一体どうなってるんだ、わたしだけバグってるのか?
まぁ取り敢えず、これは後で絶対に調べよう。
「っと、ついた」
そうこうしている内に、今の目的地である武器屋へとたどり着く。カン、カンと鉄を打つ心地の良い音が微かに聞こえて、ほんの少しだけ口角が上がる。
わたしは料理も食も好きだけど、何かに夢中になっている人も好きだ。
そっと、武器屋の扉を開けて入り込む。今はちょうど武器を作っているんだろう。邪魔するのもアレだし、待っておくか。
カン、カン。
カン、カン。
一定のテンポで打ち込まれるその音が、静かな武器屋によく響く。まるで子守唄でも聞いているかのような気分になって、思わず微睡んでいると、突然その音色が打ち止められた。
「なんだ、来てたのか。声をかけてくれりゃ直ぐ来たってのによ。わりぃな」
部屋の奥からいかにもついさっきまで作業していました、といった格好をした渋めのおじさんがゆっくりと出てきて、軽くわたしに向かって頭を下げてきた。
「いや、全然大丈夫です! むしろわたし、そういう何かにのめり込んでいる人を見てたりするのが好きなので!」
「ほぉ?」
慌てて頭を上げさせようとすると、おじさんが片眉を釣り上げてニヤリと笑う。あれ、もしかして好感度とかある感じ? えっ、結構面倒じゃない?
「そうかいそうかい、珍しい嬢ちゃんだ。で、何をお望みだい?」
「えっと、武器と防具を買いたくて……まだこの街に来たばかりなんです」
「へぇ」と関心しながらじいっとわたしを見つめるおじさん。まるでその瞳は、まるで価値あるものかどうかを確かめる裁定者のように思える。……この人、何でこんな始まりの街なんかにいるんだ?
「あんた、料理人の割にゃやるなぁ。一人でここまで?」
「まぁ、はい」
「ふぅん」と何かを納得したらしいおじさんが、再び店の奥へと戻っていった。というか、今のってなんかフラグだったりするのかな。めっちゃくちゃ意味深な反応なんだけど。やっぱり何か試されてたり?
うーんと頭を悩ませていると、いくつかの剣や防具やらを手にしておじさんが姿を現した。
「今うちに作り置きしてあんのじゃあ、嬢ちゃんには着いてけなさそうだ。ほれ、一旦見てみな」
どれどれ、と物色してみるも、中々良さげなものが見つからない。これなら致命の包丁の方が使いやすそうだし、それに防具も少し値段が高い割にそこまで防御力も高く無い。わたしのプレースタイルを考えるとこのままじゃ損だ。確かにこれは合わないなぁ。
「……うーん」
「な? だがまぁ、素材があれば新しく嬢ちゃんに作ってやれるぜ。正直嬢ちゃんみてぇなヤツは久しぶりだからな。俺も魂が疼いちまってんだ」
なんと、どうやら武器や防具やらを作ってくれるらしい。これは中々ありがたい! 正直最初の街だし期待してなかったけど、作ってくれるのなら性能はそれなりにいい……はず。
「この辺りの素材ほぼ全部集めてますけどどうですか?」
「ほぉ……嬢ちゃん、ヴォーパルバニーも倒したのか」
わたしが素材を持っているもの全てを出してみると、おじさんは暫く腕を組んだまま固まってしまった。なにか考えているのだろうか。彫刻のように眉間に深くシワが寄っていて、ギュッと目を瞑っている。はぁ、とため息を吐いたかと思えば今度はゆっくりと口を開いた。
「……やっぱこのあたりのモンスターじゃ嬢ちゃんには着いてけねぇな。ただまぁ、防具というか、アクセサリーなら作れるぜ」
「本当ですか?!」
正直武器や本格的な防具が欲しいが、まぁ序盤の街だしクォリティーを求めるなら我慢したほうがいいだろう。アクセサリーも一つはつけれるはずだ。あれかな、クリティカル補正とかそういうの。
「まぁ、今思い浮かんだモンだから正直あてにはならんかもだが、構わんか?」
「あなたほどの人なら、ぜひ!」
即興でわたしを見て思いついたのか、そりゃあ凄いな。こういう不安定かつ不確定要素には普段は乗らないけど、来た時のあの鉄を打つ音、あれを聞いたから分かる。多分この人、凄い人だ。
わたしの発言が想定外だったのか、おじさんは目を丸くした後に軽く笑って口を開いた。
「おう、そんじゃあ新しく素材を取ってきてくれねぇか。
目の前に、見たことのない画面が表示される。
思わず声が漏れる。それくらい、驚きの出来事だった。
ユニークシナリオ「真なるシェフへ」
とある条件を満たすことで発生するユニークシナリオ。じつはこのクエストはベラブーシュが初。だって条件が物凄く厳しいから。多分条件はそのうち載せます。