パラディ・ガストロノミック〜食を愛せしもの、神ゲーに食を求めんとす〜 作:エピキュラ
やっぱり戦闘描写難しいよぉ……
「ヴォーパルバニーちゃーん、出ておいで〜」
再び跳梁跋扈の森へとやってきたわたしは、おじさんに教えてもらった地点でひたすらヴォーパルバニーを探していた。道中、レベリングも兼ねて大量のモンスターを蹴散らしながら。
先程のユニークシナリオ「真なるシェフへ」はもちろん承諾、結果として今わたしはここにいるわけだ。いや、ほんとにユニークシナリオが出てきてびっくりした。一応最初にシナリオ関連について調べておいて良かったぁ。
「っと、いたいた……ってなんかマフラーあの時のヴォーパルバニーよりマフラー赤いし長くない?!」
視線の先には、熟れたトマトのように赤いマフラーを靡かせる真っ白な兎がいた。どことなく、こないだのヴォーパルバニーよりも強そうに見える。
そっと遠巻きに観察していたら、ふとそのヴォーパルバニーと目線がかち合った。
「……やっべ」
直後、ヴォーパルバニーが力強く地面を蹴って此方へと駆け出した。その速度は明らかにこの間のヴォーパルバニーよりも早く、また長いマフラーのせいで次の挙動が見えにくくなっていた。くっそ、どう攻撃してくるか分からない!
「ぉぉおおお! あっぶなぁぁい!!」
目の前に真っ赤な刃が突き出され、咄嗟にパリィで受け流してカウンターを入れようとする。が、そのままぴょんと後ろに跳ねて避けられた。
いやいやいや! おかしいでしょ、あの時のヴォーパルバニーと別物じゃん!! 跳ねるんじゃなくて走ってくるし、マフラーのせいで予測が難しいし!
うっそでしょ、と焦っていても、ヴォーパルバニーは容赦なくわたしへと再び駆け出す。まずいまずい、このままだとやられる!
「っ……こいつぅ」
ひたすら攻撃を避けては再びカウンター。しかし全て回避される。心做しかヴォーパルバニーがニヤリと笑っているような気がして腹が立つ。
どうしたものか、と頭を悩ませていると、先程まで縦横無尽に駆け回っていたヴォーパルバニーがふと立ち止まる。なんだ、今度は蹴りか何かか?
「って、はぁ?! 普通に跳ぶの?!」
力強い蹴り出しに、土埃が舞う。真紅のマフラーが揺らめく中、その濃ゆい赤の包丁を大きく振りかぶってこちらを目掛けて落下してくる。
これなら、と思って視線を合わせ、
取り敢えずナイフが首に当たる寸前に、横にぴょんとステップして避ける。
「さぁて……こいつは曲者だぞぅ」
ごくり、と唾を飲み込んでヴォーパルバニーを見つめる。絶え間のない多種多様な攻撃、それに加えて速度・威力ともに非常に高い。ああ、いつぶりだろう、この緊張感。繊細な飴細工の仕上げの瞬間のような、そんなピリピリとした雰囲気。ああ、本当に____
ヴォーパルバニーが再びわたしの方へと突撃してくる。それをあらかじめ把握していたわたしはスルリと横へと避け、流れるようにヴォーパルバニーの方を向く。すでに二度目の攻撃の準備をしていて、相変わらず酷いもんだ。
スキル、目利き。
「へぇ、なるほど。対して変わらないじゃん、弱点」
ヴォーパルバニーの視線が此方に向いた瞬間、わたしは致命の包丁を強く握り込む。
「
避けることはできない連続攻撃が、ヴォーパルバニーを襲う。その勢いの良さはわたしの敏捷の高さも相まって、風を切り裂き滅多に聞くことは無いであろう音をビュンと鳴らす。
しかしそれは、阻まれる。ヴォーパルバニーはわたしの攻撃を、その立派な足で地面を踏みしめて受け止めた。
「っ! くそっ____
しっかりと足を力ませたヴォーパルバニーは咄嗟に動けない。目の前の兎に、真っ赤なターゲットが浮かび上がる。そう、この隙を生むための
「
「っかーらーのぉっ!
ヴォーパルバニーの、マフラーで隠されていた筈の腹がちらりと見える。そこに、周りの時を置いてしまっているかのような速さで、致命の包丁が深く差し込まれる。
真っ赤なポリゴンがそこから吹き出る中、逃がすまいとそのまま差し込んだ包丁を横へと大きく引き割く。
ヴォーパルバニーは、確かに腹に大きな切り傷が刻まれていて、そのままばたりと地面へと倒れた。
「っらァァァ!! っしゃぁぁぁ!!」
真っ白な兎はいつの間にか消えていて、そこには真紅のマフラーと、先程のヴォーパルバニーの魂でも吸い込んだかのような深い輝きを放つ致命の包丁が落ちていた。
『今、ここに「
『時に、それは兎らの自由を開放する』
『称号「
『称号「
『ヴォーパルバニーの出現率が僅かに上昇しました』
***
「ごめんください!」
「はいよ……って嬢ちゃん、もう取ってきたのか?!」
真っ赤なマフラーを手に、武器屋へと足を入れる。おじさんはわたしの姿を見て目を見開き驚いていた。確かに強かったっちゃ強かったけど、そんなに驚くことかなぁ。
「あはは、でも強敵でしたよ」
「嘘だろ……すまんな嬢ちゃん、正直舐めてた。今の嬢ちゃんにゃせいぜい3日は掛かると思っていたんだがな」
ふぅ、と眉間を押さえながら謝罪するおじさんを前に、その発言に思考を回す。今のわたし、ってことはステータスかレベルが足りないはずだったのかな。
「いえ、そんな。正直戦う料理人とか、おかしいですもんね」
「いや、そんなこたぁ無ぇさ。少なくともこれまでに料理人で戦ってる奴らは見てきた。ただ嬢ちゃんほど強いやつはいなかったがな」
へぇ、てことはプレイヤーには案外料理人でやってる人もいるってわけか。なんというか、安心。……いや待てよ、その分ライバルもいるというか、食材持ってかれちゃう可能性もあるというか。やっぱ良くないかも。
「じゃ、ちょっと待ってな。直ぐ作ってきてやんよ」
「あっ、はい……って、そういえば素材って買い取ってもらえたりしますか?」
「おう、できるぜ……ちょっともらってくな。ほれ、マーニだ」
できる、と言われたので素材の山を出せば、おじさんはその山から何個かわたしに「これはゴミだ、捨てておけよ」と渡した後にポイとマーニを支払ってくれる。うっわ、値段ヤバ。
「やっぱ嬢ちゃんやるなぁ。まぁたこんだけ集めてきてるとはよ。……うし、俄然湧いてきた。座って待ってな」
スッと椅子を差し出されたのでそこに座って大人しく待つ。なるほど、鉄を打つ訳ではないから時間はかからないのか。一体どんなのができるんだろう……?
わくわく、そわそわと胸を弾ませて待っていると、再びおじさんが現れた。
その手には、今までに見たことのないくらいに真っ赤で滑らかなコックタイが握られていた。
「おわぁ……キレイ……」
「ほれ、さっそくつけてみてくれや」
そっとコックタイを手にとって、色んな方向から眺めつつその内容を読み取る。
どれどれ……ユニークアクセサリー:真紅のコックタイ。ジョブ・料理人が着用した際、全てのステータスを5上昇、刃物での攻撃時0.5%の確率で出血状態を付与。
「ってめちゃくちゃ強いじゃないですかぁ?!」
「ああ、そりゃあそうだ。あの『
「なんですかその名前?! 知らないんですけど?! そうですよ受けてないですよダメージ!!」
またしても嘘だろ、と項垂れるおじさんに対して、わたしも嘘だろ、と驚く。ネームドとか絶対やばいやつじゃぁん!!
「すまん、取り乱した……あのヴォーパルバニーは『
がはは、と大笑いをするおじさんを前に、突然告げられた大量の情報郡にフリーズする。
「まぁ、今度それつけてもう一回きてくれや! もう遅ぇから帰んな!」
「あ、はい」
ぽい、とわたしは店の外へと投げ出されたように飛び出る。
目の前で浮かぶ文字列を前に、わたしの頭は完全にショートしてしまった。
『ユニークシナリオ「真なるシェフへ」をクリアしました』
『ヴォーパルバニーを討伐時、
『ユニークシナリオ「真なるシェフへⅡ」を受注しますか?』
ぱさ、と帽子がずれ落ちたのことすら気にならない程に、わたしの脳は驚愕で一杯だった。
真紅の襟巻
それはどのヴォーパルバニーよりも強い兎。その証が、何よりも赤いマフラーと包丁だ。それは他を牽制し、ただただ己が為に生きてきた孤独な者。ユニークシナリオ「真なるシェフへ」を受注しなければ出会えない。長いマフラーと真紅の致命の包丁が特徴。推奨レベル30。しかしシナリオ発生の関係上相当のプレースキルがなければ初見では勝てないため数日掛かるので実際運営もそういう風に予想してた。だからおっちゃんは驚いたんですよね。
称号「致命の料理人」
真紅の襟巻を倒した料理人に送られる称号。それは、ヴォーパルバニーを開放せし者。
称号「無傷の料理人」
真紅の襟巻からいっさいダメージを受けずに初見で倒した際に送られる称号。それは、傷一つない真なる強者。
真紅のコックタイ
それは真なるシェフが身に纏いし襟巻き。メインジョブが料理人の場合、全ステータスを5上昇、また刃物での攻撃時に0.5%の確率で出血状態を付与。
ユニークシナリオ「真なるシェフへ」の報酬。致命の襟巻が素材として必要。