パラディ・ガストロノミック〜食を愛せしもの、神ゲーに食を求めんとす〜 作:エピキュラ
リアルが忙しくなってきたので1週間だけ休ませて下さい!!!!!!!(湧き出る新作のアイデアから目を逸らしながら)
「ごめんくださーい」
「おう、嬢ちゃん。戻ってきたか」
満腹になった腹を擦りながら武器屋に戻っておじさんに話しかける。もちろんさっきのコックタイをつけて。
「実はもうすぐ次の街に行こうと思ってて」
そう、さっき戻ってきてくれと言われたこともあるが、今ここにいるのはおじさんに別れを告げるためでもある。セカンディルに着いたらログアウトするつもりだし、まぁ急ぎってわけじゃないが、特定されてしまうのが正直怖い。名前がバレたらそれこそ終わりだ。あ、やっぱ急ぎではあるか。
暫く目を瞑って突っ立っていたおじさんは、ゆっくりと頷いた。
「……そうかい、あの蛇に挑むか。まぁ真紅の襟巻を倒したんなら大丈夫さ。蛇のが弱ぇからな」
「そう……なんですか」
まさかのここで情報ゲット。おじさんありがとう、好感度高くて良かった!
「えと、じゃあ、行ってきますね」
取り敢えず要件は済ませたので、おじさんにそっと声をかけて足を動かそうとする。正直おじさんには今後もお世話になりたいけど、流石にファステイアじゃあ戻るのが面倒だ。きっとこれが最後の別れになるだろう。
「……待ちな、嬢ちゃん。これ、受け取りな」
ぽん、と投げ渡された本をあたふたしながらも受け取る。なんだこれ、結構分厚いぞ、この本。
「それぁ、嬢ちゃんのために考えた俺考案の装備一式の製造レシピみてぇなもんだ」
「ぶっふぉ?!」
思わずむせ返ってしまう。いやおかしい。やばい。わたし専用の装備一式を考えて、しかもそのレシピをくれると。つまりこれを見せればどこでも作ってもらえるってことなわけだ。ど、どれどれ……
真紅のコック装備の製造法の書:ユニーク武具「真紅の厨房服」シリーズの製造法が記されたレシピ。武器屋にて鍛冶師に見せると素材を集めれば製造可能。ただしその武具はユニークシナリオ「真なるシェフへ」でそれぞれ開放する必要がある。
「こ、これ、本当に良いんですか?!」
「ああ、構わねぇよ。本当は俺が嬢ちゃんのモン全部作ってやりたがったが、俺ぁここから動くわけにゃいかねぇ。せめて嬢ちゃんの武具は全部、俺が考えたモンであってほしいのさ」
はえ、と情けない声が口から滲み出る。どうしよ、おじさんめちゃかっこいい推しになりそう。
「あ、あああありがとうございます!! が、がんばりますぅ!」
久しぶりのガチ職人に興奮が止まらず、ついヤベェオタクみたいな反応にはなってしまったが、取り敢えず感謝の意を伝える。挨拶大事。
「おうよ、あと嬢ちゃん、これも持ってけ」
おじさんはそっと近づいてきて、あばば、と口を抑えていたわたしの手を取って、キレイな鉄の剣を握らせた。アイアンダガー? え、これタダでくれるんですか?!
「ああ、持ってけ持ってけ。既製品だから有り余るほどあるんだよ」
ありがとうございました! と勢い良くお辞儀をしてわたしは店を飛び出す。
呆れた顔をしてひらひらと手を振るおじさんを一度振り返って見た後に、わたしは一直線に跳梁跋扈の森へと向かった。
***
昼時を過ぎだんだんと人手が戻ってきた時分に、尋常ではない速度で森を駆け抜ける。道中ゴブリンやらオークやらがいたような気がしなくもないが、まぁいいだろう。人が増える前にセカンディルについておきたいのだ。とっとと仮面か何かを買わないとなぁ。あー、認識阻害系のアイテムとか無いのかぁ?
「っと、一旦休憩するか」
スタミナが尽きそうになったので取り敢えず大きめの木に上って休憩する。ここならモンスターもそんなに襲ってこないはず。今のうちにステータス確認しとくか。
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PN:ベラブーシュ
Lv:18
JOB:料理人
9,800マーニ
HP(体力):30(+5)
MP(魔力):15(+5)
STM (スタミナ):35(+5)
STR(筋力):10(+5)
DEX(器用):10(+5)
AGI(敏捷):40(+5)
TEC(技量):15(+5)
VIT(耐久力):10(+5)
LUC(幸運):55(+5)
スキル
・
・
・目利き
・タップステップ→スライドムーブ
・
・フラッシュカウンター
・アクセル
・ジャストパリィ
・一艘飛び
・ペティナイフ
・ポシェ
装備
右:致命の包丁
左:なし
頭:皮のベレー帽
胴:皮の厨房服
腰:皮のベルト
足:厨房靴
アクセサリー:真紅のコックタイ
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こう、なんというか。スキルに関して、漸く料理に関するものを習得できた。それが、ポシェ……調理時の煮込みにおいて、このスキルを使用した際に旨味成分が爆増する、というものだ。ただ、どうもMPが必要だったので取り敢えずスキルポイントは軽く振っておいた。
しかしまぁ、料理に使える点は有り難いのだけど、なんとこのスキル、戦闘時にも使用できるらしい。ナ、ナンダッテー?!
効果としてはスキル使用から一分間、体力・筋力・敏捷が上昇、一方で魔力・器用・技量が低下するというバフだ。なに、やっぱり公式は料理人を戦闘職にでもしたいわけなのか?
同じ料理系の名前を冠するペティナイフも突き系の攻撃スキルみたいだし、もうなんなんだよ本当に。
「まぁ使えるもんは使うけどさぁ……はぁ、行くかぁ……」
取り敢えずスタミナも回復したのでもう一度エリアボスを目指して走り出す。確か推奨レベルは10で三人だったか……まぁいけるだろう。毒を使ってくるそうだし、気は抜かずに落ち着いて対処しないとな。
走って、少し休んで、また走って休んで。
その繰り返しの果てに、わたしは森を切り裂くように存在する渓谷の目の前へとたどり着いた。
***
セカンディルへと繋がる、一本の吊橋。その前に、まさに番犬のように、いや番蛇のように立ち塞がる巨体がいた。チロチロと舌を出しながら、付近を警戒するその様は、確かにエリアボスの風格を纏っていた。いやぁ、にしても神秘的な毛をお持ちのようで。ドロップアイテムなら高く売れそうだぞぉ。
「ふふふふふふ……あ、やっべ」
わたしの気が緩んでいたのか、口から溢れる笑い声に気付いたのか。いや両方だなこれ。
とにかく、例の蛇さん——貪食の大蛇と視線が交わってしまった。エリアボス、貪食の大蛇。確かエリアボスに挑戦すれば他者に乱入されることは無いんだそう。つまりその分、わたしはたっぷりと経験値を独り占めできるわけだ。
蛇、蛇ねぇ……アオダイショウとか食べたことあるけど、こいつも食べられるかなぁ。あ、ハブ酒みたいにも出来たりして。まぁでもアレくらいのサイズなら骨を取るのも楽そうだし、肉厚ジューシーだったりで美味しかったりしないだろうか。唐揚げとか美味しいと思うんだけど。
二股に分かれた舌を伸ばして何とも言えない鳴き声を放ち威嚇してくるそいつに、わたしはにんまりと笑みを浮かべる。
「さぁ、料理の時間ですよ?」
***
「どぅわあああ!! めんっどくっさい!!」
ぎゃんぎゃん叫びながらも、迫りくる大蛇の尻尾を華麗に飛び躱し、そのまま重力に従って地へと落ちると同時にその鋼鉄の尾を斬りつける。
が、カキーン、という金属音とともにその一部が砕けたのは、紛れもないわたしのアイアンダガーだった。
実のところ、コレほどの大きなヘビ型モンスターの相手をしたことが一度もない。故に攻撃パターンが分かっていても、身体があまりついていけていないのだ。あとアイアンダガーを使い慣れてないのもある。なんだよこの尻尾といい噛みつき攻撃といい! 明らかに動き鈍い見た目してるじゃんかなんでそんな素早いの?!
ちなみにアイアンダガーを使っている理由はシンプルに性能が気になったからだ。だって多少は他の武器も使っておきたいんだもの。
「ううう、もういいや! 速攻で決めてやる!」
よっしゃこいや相棒っ! と心の中で叫びつつ、欠けたアイアンダガーと致命の包丁を交換する。背景を美しくその刃に宿していた銀色が、これまで倒してきた血を全て吸い込んだかのような深く鮮やかな赤に移り変わる。あー、やっぱコレ好きだなぁ。普通にかっこいいしなんか馴染む。
一度に距離を詰めて、刃を大きく振りかぶる……と見せかけて、一艘飛びで頭上へと飛び込み、その脳天を目掛けて降り立つ。
「そのキレイなアンバーアイ、ぶっ潰してやんよ! ペティナイフ!」
鋭く、まるでそれはカワセミのような速さで突き刺さる。金色の瞳からは赤いポリゴンが吹き出て、クリティカルの文字が浮かぶ。ザマァ見ろ、と思っていると大蛇は大きく上半身、いや頭を振り始める。ははーん、わたしを振り落とすつもりだな?
「ばーか、させないよ」
何も持っていなかった左手に、あの真紅の襟巻を討伐した時の致命の包丁を出現させる。大きく振りかぶり、そのまま勢い良く片方の目も斬りつけると、ぐちゃ、となんともいえない気味の悪い触覚が包丁越しに伝わる。うぇ、目玉を潰すのはあんまりしないからちょっと気持ち悪いかも。
とはいえど、目的はヤツの目つぶしなので、念入りに深くナイフを差し込んだ。両方とも抜き取ってうち片方をインベントリにしまう。真紅の襟巻の方はちょっとお休みでオネシャス。
すると、抜き取った瞳の刺し傷から赤いポリゴンが勢いよく吹き出て大蛇はのたうち回る。へへ、いい気味だぜ。これはアイアンダガーの恨みだから、ちゃあんと覚えときな。まぁどうせわたしが倒しちゃうから意味ないだろうけど!
あはは! と嘲笑っていると、なにやら大蛇の尻尾の先がモゾモゾと動いているのが視界に映る。なんだ、一体。一応距離とるか。
「お……? って、毒?! うわぁ、初見殺しだな」
まぁ目が潰れてるから全く当たってないんですけどね!
グツグツと煮えたぎる、あられもない方向へと跳んでいってしまった毒を傍目に、貪食の大蛇を見つめる。未だに苦しそうに蠢くその姿を見て、もはや無意識の内に口角が上がった。
「取り敢えず、トドメ行きますか」
念の為、先程の毒にやられてしまわないように意識しつつそっと近寄る。アクセルを使って、一度にその胴体へと詰め寄った。その大きな音に気がついたのか、大蛇はぐんと此方に振り向く。ぐちゃぐちゃにされ、一部が赤く染まってしまった金色の蛇眼と目が合ったような、そんな気がした。
その瞳には、まだ確かに闘気が宿っていた。
詰め寄るわたしをいざ襲わんと、その大きな口を広げて迫りくる。まだ死なない、もしくは死んだとしても相打ちに。そんな覚悟が詰まった気迫だった。
ああ、本当に。
「
シャンフロって、最高だ!
鋼鉄の大蛇はとめどなく真っ赤なポリゴンを噴出しながらも、最後までわたしを見つめ続けていた。
わりと主人公も戦闘狂だったりそうじゃなかったり。