Scene1『アオ』
Scene1『アオ』
『もし、芸能人の子どもに生まれていたらと
考えたことはありますか?』
1人の少年は、愛に導かれた。
『容姿やコネクションを、最初から持ち合わせていたらと』
1人の、少年は憎しみに導かれた。
『『この芸能界(世界)へのチケットが、初めから、その手にあったなら』』
【推しの子〜アオの行方〜】
京都の田舎にある病院にて。
「ん〜、調子は良好。これなら、予定日通りに産まれそうですね。」
1人の青年は笑顔で、妊婦に語りかけていた。
その笑顔は優しく、父親のようだった。
「本当ですか!よかった〜。あなたもうすぐお兄ちゃんよ」
母親は、優しく息子に語りかけた。
「おにいちゃん?」
息子は、何のことかわかっていないようだった。
しかし、母の笑顔につられて笑った。
「そうだよ。君はお兄ちゃんになるんだ。
お兄ちゃんになるってことは、家族が増えるんだよ」
青年は優しく、子どもに語りかけた。
その優しさが嬉しかったのか、帰りまでずっと笑顔だった。
診察を終えて、しばらく仕事をし昼に差し掛かる頃、
青年は休憩スペースで一息入れていた。
「あ゛〜〜、疲れた〜。ほんっと、疲れた」
青年の名は綱井優介(つないゆうすけ)
先程の爽やかスマイルは何処へやら、雑に腰掛けていた。
「もう〜、先生何してはるんですか?休憩やからって、
そんな気ぃ抜いたらあきまへんよ?」
看護婦に注意されていたのを気にしたのか、少しだけ姿勢を正した。
「人生には、休息が必要なのだよ?ワトソン君?」
優介は、仕事の時はきちんと仕事をするが、
その分休憩時にはとことん手を抜くのだ。
「はいはい、そんな冗談言うとらんと、休憩終わったら仕事してくださいね?」
青年はテレビを付けて、ドラマを見ていた。
「あ〜〜、愛しの星菜姫!あなたの笑顔が私の生きる糧となります!」
「もぅ〜、言うたそばから。何見てるんです?」
青年は、元気よく答えた。
「よくぞ、聞いてくれた!これはな!かの有名な、星菜(せな)が主演のドラマだ!」
「星菜って、あの有名な女優さんですか?」
「そう!美しい美貌に、卓越した演技力。
その上、ファンサを怠らない、女神様。あぁ〜、愛しの星菜姫〜!!」
優介は身体を捻り、時折身体を激しく動かしながら喜んでいた。
「先生、めっちゃきもいわ〜」
「おい、ストレート過ぎるぞ」
「大体、そないに好きでも、星菜はんと付き合えるわけあらへんやないですか。」
「んぐぅ!そ、そんなはっきり言わへんでもよかですやん。」
「エセ関西弁、やめとくれやす。」
「はいはい、まったく。これだから、関西人は。」
「なんやて?」
「何でも、ござーせん。」
「はいはい。休憩終わったら、戻ってくださいね?」
看護師は少々手厳しいツッコミを入れて、休憩スペースを後にした。
「はーい。あぁ、可愛い。めっちゃ、可愛い」
看護師が行った後でも、星菜に目をやり続けていた。
その後、一本の着信が入った。
「はい、もし「おい、優介!!大変だー!!」あぁ、もう。
うるせぇな、何だよ吾郎(ごろう)、大声で」
「お前、ニュース見たか!?」
「何だ?アイドルの隠し子に、おっさんが転生したか?」
「馬鹿!そういうのじゃねぇ!まぁ、アイドルってのは合ってるけど・・・」
「あぁ。アイに何かあったの?」
「あったなんてもんじゃない!アイが、アイが・・・」
「何だ?けっ「活動休止したんだ!!」はい?」
「アイが活動休止したんだ!!」
「・・・それで、電話したのか?」
「そうだ。」
「死ね」
「待て待て!確かに、アイの件で電話したのは確かだが、他にも話しはある!」
「何だ?早よ言え。」
「その・・・元気か?」
「ん?あぁ、元気だ。」
「そっか・・・」
「そっちは?」
電話の相手は雨宮吾郎(あめみやごろう)という、優介の友達である。
2人は他愛もない話しを続けていた。
何年も会ってはいなかったが、2人の間には確かに絆が存在していた。
「何だ、あの看護師さんにいびられてんの?お前、先輩なのに」
「いびられてない!フレンドリーなんだ、俺は。」
「フレンドリー?オタク絵に描いたような、お前が?」
「うるせぇ!そんなこと言ったら、お前なんかチャラ男の化身だろうが!」
「は?言ったな?言いやがったな!?言ってはならねぇ、一言を!」
「はん!何だ?やるのか?かかってこい、舞子はん!」
「上等だ、おら!首洗って待っとけ、マンゴー!!」
「登った太陽、沈まなくなんぞおらぁ!!」
「やってやるよ!!」
「「ここ、試合決定だ!・・・ぷっ」」
2人は笑い合った。
日々の疲れを忘れる程。
そして、友が元気であったことに
喜びを感じていた。
「元気そうでよかったよ。」
「お前もな。・・・なぁ、何年になるっけ?」
「・・・4年だな」
「4年か、早いもんだな。」
「あぁ」
優介は過去に、吾郎と同じ病院に勤めていた。
優介と吾郎。2人とも、性格は正反対だが、お互いを大切に思っている友達なのである。
「・・・生きてたら、16歳か?」
「あぁ、アイと同い年だ。」
「そっか。」
「その後か、お前が京都に行ったのは。」
「あぁ・・・辛かったろ?」
「何が?」
「さりなちゃんの件。辛かったよな?」
「・・・この仕事やってんだ、慣れてるよ」
吾郎は未だ、患者だった女の子。
さりなのことを思っていた。
12歳にして、重い病を患いながらも懸命に生きていた少女のことを、忘れてはいなかった。
そして、その思いを彼は継いでいた。
「バカ言え、本当に慣れてたらアイの推しなんて続けねぇだろ?」
「そ、そんなことはない!確かに、昔はそうだった。しかし、今では本当に推しだ!」
「はいはい」
「お前は、相変わらず星菜推しか?」
「おぉ!星菜姫は今日も美しく、可愛く。俺の理想のお姫様だ!」
「相変わらず好きだな〜」
「まぁな!!あぁ、愛しい。今もテレビに・・・何ぃ!!?」
ふと、テレビに目をやった優介は、思わぬニュースに驚愕していた。
「お、おぅ。どうした?」
「ご、吾郎!大変だ!!」
「どうした、優介?」
「・・・星菜が活動休止」
「そうなのか?」
「鬱だ、死のう」
「よーし、精神科に転向だな?」
「何でだ、何で活休!?先生ギザカナシス!」
「懐かしいな」
「・・・お前の気持ち、よくわかった」
「だろぉぉ!!!わかってくれたか!!!!」
「わかった、よくわかった!!!もうアレだ、今度宮崎行くから、飲み明かすぞ!」
「ありがとう、優介!!」
「この愚痴を吐き出せるなら、吾郎、あんたでもいいよ」
「よし、店は行きつけのポアロ決定で」
「居酒屋なのに、可愛い名前だよな」
「それな!!」
「楽しみだよ、お前と飲めるの」
「あぁ、俺もだよ」
「俺と飲むまで、死ぬんじゃねぇぞ?」
「バカ言うな。それじゃ、待たな」
「あぁ、またな」
こうして、2人の会話は終わった。
そして、優介は仕事に戻った。
これが、物語の始まりだと知らずに。
「お待たせしました、担当の綱井です。」
優介は、休憩を終え診察室に入った。
そこには、帽子を目深まで被っていた、
妊婦と男性がいた。
「初めまして、八神です。」
「初めまして。八神さんは初出産ですよね?」
「はい、そうです」
優介は女性と会話をしていた。
その中で、彼は考えた。
『お腹の具合を見た所、20周か。しかし、かなり遅いタイミングでの初診だな。
・・・19歳、かなり若いな。恐らく何かあったんだろうな』
「お隣の方はお父さんですか?」
「えぇ、そうです」
『親子で診察、なるほど。パートナーに認知されなかったか、やり捨てか。
どちらにせよ、大変なのは』
「こら、ちゃんと帽子を取らないか」
「あ、そうだった。ごめんね、お父さん」
そういい、女性は帽子を取った。
そして、そこには美しい女性がいた。
「・・・」
「先生、どうなんでしょう?あの、今更ですが、赤ちゃんがいるのでしょうか?」
「お父さん、このお腹で赤ちゃんじゃなかったら、私人間じゃないよ?」
「・・・一度検査してみましょうか、少々お待ちください。」
『ちょいちょいちょい!!まって、まってまってまってまってまってまってー!!!!
星菜?え!?星菜ちゃん!!?何でいんのーーー!!?』
優介は、確認の為、再度室内を覗いた。
しかし、真実とは無情だ。
『亜麻色の髪に、綺麗なイエローの瞳。間違いない、星菜だ!!!』
「まったく、帰ってきたと思えば、何だこれは?星菜」
「授かりものだから」
「あのな、相手は誰だ。何故黙ってた。」
「内緒」
お腹を優しく撫でながら、女性は答えていた。
そう、この女性。
優介が推して止まない、星菜本人である。
また、本名を八神星菜(やがみせな)という。
『可愛い!!内緒じゃ仕方ない!仕方ねぇよ!』
こうして、検査が進んで行った。
そして、検査の結果が出た。
「・・・妊娠してますね、20週です」
「あ、赤ちゃん」
妊娠しているという事実に、星菜は表情こそ変わらなかったが、眼が輝いていた。
「それと、もう一つ。これは検査でわかったことですが・・・」
優介は、検査結果を丁寧に伝えた。
そして、これから先の運命も。
「そ、それは本当ですか?」
「えぇ、検査の結果です。」
「そ、そんな・・・どうするんだ、星菜」
父である、八神隼人(やがみはやと)は結果を聞き、愕然としていた。
「・・・先生」
「何でしょう?」
「時間をくれませんか?」
「わかりました」
星菜と話し、しばらく時間を置くこととした。
その後、診察を終え、優介はしばらくしてから1人屋上に向かっていた。
『・・・神様って、残酷なんだな』
「あ」
「あ、先生」
屋上に着くと、先客がいた。
星菜がいたのだ。
「ここに居たんですか?」
「えぇ、気分転換に。」
「身体冷やしたらダメですよ」
「大丈夫、すぐに戻りますから」
「まぁ、それなら」
「京都の空気は私に合うな〜。私、京都の生まれなんです」
「そうなんですか?」
「はい」
「・・・それだけですか?」
「へ?」
「ここは、田舎で人もそれ程多くない。だから、選んだんでしょ?」
「・・・やっぱり、バレてましたね」
「すぐ気づきました」
「女優なのに、残念。気をつけないと」
バツが悪そうな顔をしていたが、星菜は、夜空を見上げながらお腹を撫で続けていた。
「・・・女優、続けるんですか?」
「はい、やめません」
「でも、それは「先生」はい」
「・・・私ね、この子に会うの楽しみなんです」
「え?」
星菜は話し出した。
自分の思いを、そして、願いを。
「・・・だって、望んでたんです。
こうなったらいいな、こうなればいいなって。
ずっと望んでた。」
「・・・」
「きっと、大変なことも多くなる。たくさん迷惑をかけると思う。
でも、この子を産みたい。
この子の未来を見てみたい。
どんな子になるのか、どんな人と結ばれるのか。
この子が大きくなる姿を、この子が幸せになる姿を見てみたい。
今になって、ようやくわかりました。
私の両親が、どれだけ私が産まれたことを喜んでくれたのか。
そして、その愛をこの子に渡せる。それが、嬉しいの。」
子どもについて語る彼女の顔は、正に幸福そのものを表していた。
「・・・子どもは産む、旦那もわからない上に、女優も続ける?つまりそれは」
「・・・私、嘘って嫌いなんです」
「え?」
「嘘って、人を傷つけて、苦しめてただどん底に突き落とす、残酷なもの。
でも、真実だけじゃ守れない。それも、事実。」
「・・・」
「だけど、この子の為に嘘を吐きます。家族を守る為なら、幸せにする為なら。
幾らでも、嘘をつける。だって、お母さんだから」
「!」
「お母さんは、待ってるからね」
彼女は決意した。
いや、決意していた。
それがどれだけ苦しい道だろうと。
その結果、自分がどれだけ辛かろうと。
この子を守ってみせると。
「・・・あぁぁぁ!!!くっそ!!!」
「え?先生?」
「君は、何で茨の道を行くかなー!!まったく、はっきり言う!俺は勧めない!
確かに決めるのは君だ!でも、こんなリスク背負ってまでやる必要は無いし、
医者としては絶対勧めない!」
「それでも、私は」
否定されていると感じた星菜は、決意の強さを表そうとした。
「最後まで言わせて」
「先生?」
「医者としては勧められない。でも、ファンとしては応援する!」
「え?」
「はっきり言う!俺は君のファンだ!」
「え?え?」
星菜は困惑していた、お説教をされていたと思ったら、急にファン宣言されたのだ。
「俺にとって、君は誰よりも輝く1番星で、何よりも美しい存在だ!
そして、今まで見た君の笑顔で、最高の表情を見せてもらった!
君の全てが、真実を伝えていた!」
「先生」
「だから言わせてくれ。絶対に産ませる。どんなことがあろうと、何があろうと。
君に安全に産ませる。産ませてみせる!」
「せ、先生」
「君の子どもの命は、俺が繋いでみせる!」
「ありがとう、ございます」
星菜は感動していた。
こんなにも、自分に協力してくれる優介に。
自分の為に、手を尽くそうとしてくれている、優介に。
そして、そんな愛を受けて子どもを産めることに。
『こうして、俺は星菜の出産に向けて準備を進めていった。
日が経つにつれ、お腹は大きくなっていった。
そして、大きくなっていくお腹を見ながら、星菜は笑っていた。
この子が大きくなることに、この子が成長していくことに。
そして、出会えることに。だから、俺は全力でこの子を産ませると誓った』
こうして、出産予定日を迎えた。
「星菜・・・」
「お父さん、大丈夫。」
「大丈夫ですよ、お父さん。私が産んだ子ですから」
「お母さん、今日まで色々ありがとう」
出産予定日となり、両親が駆けつけた。
母である、八神詩野(やがみしの)は入院時からずっとお世話をしていたのだ。
「準備はいいですね?」
「はい、先生」
「よく頑張った。必ず俺が産ませる」
「はい。待っててね、もうすぐ会えるから」
『こうして、星菜の出産が始まった。
痛みに耐え、耐え抜いて、自分の子どもを産もうと頑張った。
我が子に会う為に、我が子を幸せにする為に。彼女は頑張り続けた。そして・・・』
「おぎゃぁぁ!」
「八神さん、八神さん!産まれましたよ、男の子です。」
「・・・あ、あぁ」
「はぁ、はぁ、やっと会えたね。やっと・・・会えた」
看護師から、赤ちゃんを受け取り、
星菜は抱っこしていた。
八神星菜は幸福に満ちていた。
愛する我が子に、初めて会えたこと。
そして、我が子が元気に挨拶をしてくれたこと。
全てに感謝していた。
「あぁ、やっと、やっと、あなたを抱っこして、伝えられる。やっと言える。」
「愛してる、蒼人(ひろと)」
1週間後
「先生、お世話になりました。」
「本当に、うちの娘がご迷惑をおかけして、申し訳ありません。」
「いえ、無事に産まれて、何よりです。」
父と母が挨拶を済ませている間、星菜は息子、蒼人と戯れていた。
優介は、その光景に微笑み、星菜の元へ向かった。
「ほ〜ら、よしよし〜お外ですよ〜、お日様がポカポカですね〜♪」
「星菜さん」
「はい、先生」
「お疲れ様、おめでとうございます。」
「先生のおかげです、先生じゃなかったら、私は。」
「君が頑張ったからだ。本当にお疲れ様」
「ありがとう、先生」
星菜は感謝していた。
自分のために、必死に出産を手伝ってくれた優介に。
そして、蒼人を元気に産ませてくれたことに。
「そ、それとなんだけどね・・・」
「何ですか?」
「も、もしよかったら、何ですが。その・・・サインください」
色紙とペンを出し、とてもいい角度でお辞儀をしていた。
「へ?」
「あ、いえ。申し訳ない!これは忘れ「お母さ〜ん」あ!?」
「はいはい、何かしら?」
「ひーくんお願い」
「せ、星菜さん?」
「お世話になったし。それに、復帰前の第1号ってことで」
紙と色紙を優介の手から取り、スラスラとサインを書いていた。
「せ、星菜しゃん!?」
「よし、出来た!はい、本当にお世話になりました。」
「あ、ありがとう!!生きててよかっだぁ!!」
優介は歓喜していた。
推しの出産を手伝えたこと。
推しのサインをもらえたこと。
そして、推しの最高の笑顔が自分だけに向けられたことに。
「大袈裟ですよ」
「そんなことはない!俺の推しから貰えるサインだ、嬉しくないわけがないだろう!」
「もう、大袈裟なんだから。」
「これから、何年先、何十年先でも、俺は君を推し続ける!
君は俺の『推しの子』なんだから!」
「ありがとうございます。では、もう行きますね」
「あぁ、応援してる」
「はい!さようならー!!」
「元気でなーーーーー!!」
こうして、星菜は無事に子どもを産んだ。
そして、星菜は幸福への一歩を歩み出した。
自分の家族と共に。
タクシーが見えなくなるまで、優介は見送っていた。
「行っちゃったか。さて、お仕事お仕事・・・ん?」
優介のスマホに着信が入ってきた。
「はい、もしも「あ、綱井先生!お久しぶりです!」おぉ、君か。久しぶり」
優介の元へ、昔勤めていた病院の看護師から電話が入ってきた。
「どうした、突然」
「あ、あの大変なんです!」
「大変?何が?」
この電話が
「あの、落ち着いて聞いてください」
「どうした?」
「・・・雨宮先生が行方不明になりました」
「え?」
彼等の別れの電話だった。
Scene1『アオ』 end
・各キャラの容姿説明(オリキャラのみ)
八神星菜
容姿: 一色いろは
八神隼人
容姿: ボンゴレ9代目
八神詩野
容姿: 岡崎史乃
綱井優介
容姿: 桜庭薫