【推しの子〜アオの行方〜】   作:ジェナス_j

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Scene9『蒼と紅』

 

 

「おはようございまーす

...って、誰も居ないか」

 

居残り稽古の翌日。

蒼人は稽古開始よりも、早めに稽古場に来ていた。

あまり眠れなかった為どうせなら、

早く稽古場に行こうと考えたのだ。

 

「さって、始めますか」

 

蒼人は稽古場の掃除を始めた。

稽古場の空気に慣れたいということや、

綺麗な状態でみんなに使って欲しいと思っていた。

 

「んーっと!お掃除完了!」

 

蒼人は掃除を終えた。

一度掃除用具を片付けようとしたが、来訪者が現れた。

 

「おはようござ...え!蒼人君!?」

 

「ん?あ、あかねさんおはよう〜」

 

「お、おはよう。

蒼人君、稽古まで2時間はあるよ?」

 

「あぁ、俺朝早いからさ。

だから、どうせなら早めに行こうと思って。」

 

「だとしても早すぎるよ!」

 

「それ、あかねさんが言える?」

 

「わ、私は主演だから。

他の人より稽古しないといけないの!」

 

「それなら。

俺は新人だから、早く来て清掃しないといけないの。」

 

「え?掃除してたの?」

 

「うん」

 

「もう、それなら呼んでくれたらよかったのに...」

 

「新人だからね。

少しでも貢献したいんだ。」

 

「...私には、十分過ぎるほど貢献してるよ」

 

「何か言った?」

 

「へ?ううん!何も!」

 

「そう?」

 

「あ、稽古始まるまで時間あるから、

昨日の続き付き合ってくれない?」

 

「いいの?」

 

「うん!」

 

先日に引き続き、

朝早くから蒼人と稽古出来ることを、あかねは喜んだ。

早起きは三文の徳と言うが。

本人からしたら、10倍にも匹敵する程徳していた。

 

朝から蒼人の顔が見られたこと。

朝から蒼人と稽古出来ること。

本人はとても機嫌が良かった。

 

『『『...入りづらい』』』

 

ララライの先輩達が、

入りづらそうにする程に。

 

話し合いの末、

30分は待とうという結論に至り、

しばらくの間2人だけの時間を過ごしていただいた。

その間、蒼人とあかねは稽古をしていた。

 

『あかねさん、流石だな。

白雪そのものだ。

だからかな。

すんげぇ、やり易い。』

 

蒼人はあかねとの演技が、

とてもやり易いと感じていた。

それは、役を作り上げ

本人そのものと錯覚する程の完成度を

誇っていたからだと思っていた。

 

『ひーくんと演技してるのが楽しい。

どう返しても、どう演じても、

成立させられる。

すっごくしあ...え?今、何考えた?』

 

あかねは蒼人との演技が楽しかった。

蒼人があかねの全てを受け入れ、

その上でやり易いように。

楽しくなる様に、

演じてくれているのだと思った。

 

「...あの2人、性格だけじゃなく

演技の相性もいいんだな。」

 

「だよね〜」

 

「あんなに楽しそうなあかねちゃん、

初めて見た。」

 

みたの問いかけに、めいが返すと、

こゆきは過去のあかねの演技を思い出していた。

 

「...正直どう思う?」

 

「多分考え同じだよ」

 

「右に同じ」こゆき

 

『『『2人が組んだ姿を見てみたい』』』

 

劇団ララライ。

ここは、一流の役者が集う場所。

そして、ここにいるメンバーも例外ではない。

だが、この2人のコンビネーションには

勝てないと感じていた。

長い間離れていた。

しかし、演技を通してお互いを知っていった。

2人の間には、確かに存在していた。

 

時間が経過し、稽古開始の時刻となった。

 

「みんな居るな?」

 

『はい!』

 

「ん?

おい、ゼンとオビはどうした?」

 

金田一は2人の役者を探していた。

しかし、誰も状況を把握していなかった。

そんな中、蒼人は疑問があったのであかねに尋ねた。

 

「ねぇ、あかねさん。」

 

「なぁに?」

 

「ゼンって誰なの?」

 

「え?知らないの?」

 

「キャスト一覧見てなくて...」

 

「もぅ〜台本だけじゃなくて、

キャスト一覧も見ないとダメだよ?」

 

「すみません、先輩」

 

「まったく。

ゼン役の人はね、

野島類(のじまるい)さんだよ」

 

「野島さんって、最近ホットな?」

 

「そうだよ。

売り出し中の若手俳優」

 

「へぇ〜」

 

蒼人はあかねから説明を受けていた。

だが、彼には違和感があった。

 

『何でだろう。

あかねさん、そんなに楽しくなさそう。』

 

あかねの表情は少し曇っていた。

それを蒼人は見逃さなかった。

 

「ん?どうしたの?」

 

「いや、何も」

 

考え事をしていた為、

咄嗟に目を逸らしてしまった。

だが、だんまりは許さないとばかりに、

頬を包み顔を向けさせた。

 

「蒼人君。

先輩の顔を見ないのは、感心しないな〜」

 

「先輩、首痛いっす」

 

蒼人は急に顔を向けさせられて、

首を痛めた。

 

「え?あ、ごめ...!?」

 

「ん?」

 

あかねは気づいた。

顔を向けさせたが、とても距離が近いことに。

ほんの少し顔を近づければ、触れられる距離にある程に。

 

「うぇ、あ、えっと...

(近い近い!近づけすぎた!)」

 

彼女はパニックになっていた。

10年前に会った時ですら、

この距離で顔を合わせたことはなく。

今、目の前には美少年と呼べる程に

成長した、少年の顔があるからだ。

 

「あかねさん?」

 

『...間近で見ると、肌綺麗。

髪サラサラだし、綺麗な眼。

それに...ほっぺ柔らかい』

 

普段はこの距離で見ることが無い上に、

顔のパーツ一つ一つが美しく、

見ていても飽きることがなかった。

そして、蒼人の頬の柔らかさに魅了され、

遂に遊び始めた。

 

「...あふぁへふぁん?

ふぁふぃ、ふぃへんほ?」

訳: あかねさん?何してんの?

 

「え?あ!ごめん!つい...」

 

あかねは自分の行いを振り返り、

顔を真っ赤にしていた。

それは、幼馴染の距離ではなく。

最早、恋人の戯れでしかなかった。

 

残念に思いながら、手を離した。

蒼人は離れた拍子に首をさすった。

 

「あかねさん、

俺の首から上に恨みあるの?」

 

「な、ないよ!

ただ...柔らかかったから」

 

「柔らかい?

あかねさんの方が柔らかいよ」

 

「そんなことないよ!

蒼人君のほっぺの方が柔らかいもん!」

 

「そう?

絶対あかねさんだって」

 

「絶対ひーくんだよ!」

 

その後もどちらの頬が柔らかいか

触り心地が良いか、延々と議論していた。

 

「おはようございます。

遅れました!」

 

「おはようございます。

申し訳ありません。」

 

「おぉ、来たか。遅いぞ」

 

「すみません。

撮影押しちゃって。」

 

2人の若い男が入って来た。

1人はサーモンピンクの髪をし桃色の瞳をした青年。

もう1人は紅い髪をしていた。

 

「なら、連絡しろ。

主演の自覚を持て。」

 

「はい、以後気をつけます。

...ん?」

 

ピンクの髪をした青年が

蒼人とあかねに目をやった。

まだ2人は言い合っていた。

 

「あ、そっか。

何で気づかなかったんだろ」

 

「ん?何が?」

 

「俺の頬が柔らかいんじゃなくてさ。」

 

蒼人はあかねの手を取り、指に触れた。

すると、一本ずつ指を揉み出した。

 

「え?あ、え?!」

 

「やっぱり。

俺が柔らかいんじゃなくて、

あかねさんの指が柔らかいんだよ」

 

笑顔で、今明かされる

笑撃の真実を告げた。

手を握られているだけでも

ドキドキしているのに、

蒼人の笑顔まで食らったものだから、

あかねの心臓は破裂しそうになっていた。

 

「ちょ、ちょっと!

そんな恥ずかしいこと言わないでよ!」

 

「え?恥ずかしいの?

綺麗な手だし。

指先まで手入れ行き届いてて、

あかねさんらしくて好きなのに。」

 

「え?好き?」

 

「うん。

俺、あかねさんの手好きだよ」

 

先程とは比べ物にならない程の光を纏い、

あかねの心を壊しに来る程の、

破壊力を持った笑顔を向けていた。

 

「ふぇ...わ、私も、

ひーくんの手好き」

 

そして蒼人から向けられた、

『好き』の一言で、

彼女の脳内はパンクしていた。

顔を真っ赤にし、俯きながら応えた。

 

「そうなの?」

 

「うん...」

 

演技をすれば、鬼の如し。

その立ち振る舞いは、

正に大女優と言って

差し支えないが、蒼人の前では

ただの女の子になってしまった。

 

「...金田一さん、彼は?」

 

「ん?...すまん、うちの新人だ」

 

「へぇ〜ララライの新人さん...」

 

その後も青年2人が入って来たことに

気づいていなかった為、蒼人とあかねはまだ話し込んでいた。

その間も青年は彼らを見ていた。

話している最中のあかねは、青年が見たことない優しく幸せに満ちた、顔をしていた。

 

「挨拶してきても、よろしいですか?」

 

「なら、こっちからさせよう。

おい、バカ。

こっちに来い」

 

「ん?金田一さんバカなんて言うんだ。

意外「お前だ、バカ」え!?俺!」

 

「お前以外に誰がいる」

 

蒼人は抗議の意味も込めて、

金田一の元へ向かった。

 

「金田一さん!

俺のどこが、バカなんすか!」

 

「昨日から何乳繰り合ってんだ、バカもんが」

 

「「うぇ!?」」

 

「あ、いや...あかねさんが悪いです!」

 

蒼人は今回の件は、向こうに非があると、

あかねを指さして告げた。

 

「何で!?

ひーくんが私の指に...

こ、今回もひーくんのせいでしょ!」

 

あかねは蒼人の元に駆け寄り、

抗議していた。

 

「元はと言えば、

あかねさんが俺の頬で遊ぶのが、原因だろ!!」

 

「そ、それはそうだけど...

でも、ひーくんが顔逸らすから!」

 

「そ、それは。

い、色々あったんだよ!!」

 

「ほら、ひーくんのせいじゃん!」

 

「だから、あれは

「そこまでだ」いってぇ!!」

 

金田一から拳骨を喰らっていた。

喰らった蒼人は、頭を抑え悶えていた。

脳天のちょうどいいところに

当たってしまったのだ。

 

「痛っい!

な、殴ることないじゃないですか!」

 

「これ以上、事務所の恥を晒すなバカもん」

 

「あぁ!!いふぁい、

いふぁいふぇす!!

ふひふぁへん、

はんふぇいふぃふぁふ!!!

(訳 痛い、痛いです!!

すみません、反省してます!!!)」

 

金田一に思い切り頬を引っ張られていた。

その姿は、演出と役者ではなく。

父親と息子の様にも思えた。

 

「今日の所は勘弁してやろう。

おい、八神。

今回の主演とメインキャストだ。

挨拶しろ」

 

「え?あ、はい」

 

蒼人は表情を切り替え。

2人に挨拶した。

 

「ご挨拶が遅れ、

大変申し訳ございませんでした。

劇団ララライ新人の八神蒼人です。

今回は門番兵として

参加させていただきます。

よろしくお願いします」

 

「初めまして。

かぐやプロダクションの野島類です。

よろしく」

 

蒼人と野島は握手を交わした。

しかし、蒼人の中には

どこか引っかかる所があった。

だが、それにまだ気づけていない。

 

「野島は今回の主演だ。

学べることも多いだろうから、

しっかり見とけ。

そして、こっちが」

 

「初めまして。

野島さんと同じく、

かぐやプロダクション所属。

九条紅音(くじょうくおん)です。

よろしくお願いします」

 

もう1人の若い男が挨拶をした。

紅い髪に、赤い瞳。

蒼人には、全てを燃やし尽くすような

炎に見えた。

 

「初めまして、八神蒼人です。

よろしくお願いします。」

 

「...」

 

九条は蒼人の顔をじっと見ていた。

まるで、何かを思い出す様に。

 

「あ、えっと...何か?」

 

「いえ、何も」

 

「九条は今回、オビをやる。

お前と同い年だ。

同年代から学べることはとても多い。

それに、九条はかぐやプロの

若きエースだ。

色々学ばせてもらえ」

 

「はい、九条さん。

よろしくお願いします。」

 

「よろしく」

 

こうして、挨拶を終え、

稽古が始まった。

 

稽古は進んでいき

野島と九条、

そしてあかねを加えたシーンの稽古に

移っていた。

 

『白雪にゼン、

それにオビが出るシーンか』

 

蒼人は紹介された時のことを、

思い出していた。

 

『売り出し中の俳優に、若きエースか。

...あかねさんと組めるぐらいだから、

相当なのかな』

 

蒼人が考えている中、

九条の演技が始まった。

九条演じるオビは、

雇われの何でも屋である。

王子ゼンと庶民の子、

白雪の関係を快く思わない家臣より、

城から追い出すよう依頼されたのだ。

 

「赤髪の女の始末か。

了解、それじゃ取り掛かるとしますか。」

 

オビは、様々な手を用いて、

白雪を城から追い出そうとしていた。

しかし、白雪はそれに屈せず

ゼンの元へ向かった。

途中でオビは、

白雪を止める為に矢を放った。

しかし、白雪は止まらなかった。

 

そして、ゼンを探し続けた。

 

「白雪!?」

 

「ゼン!」

 

白雪はやっとの思いで、

ゼンを見つけた。

 

『...あれ?』

 

白雪は追われていたこと。

そして、

自分がどうしたいかを話していた。

 

野島の演技は、

まだまだ荒削りではあったが、

主演に抜擢されるだけのものはあり、

しっかりと形になっていた。

 

だが、蒼人には違和感があった。

 

一度シーンは止まり、

演出がダメ出しをしていた。

 

「九条、いいぞ。

そのまま作ってこい」

 

「ありがとうございます」

 

「野島、悪くは無いが

もっと相手と合わせろ。

まだまだ、出来るはずだ。」

 

「はい、そのつもりです。

あかねちゃん、後で話さないか?」

 

「え?あ、わ、わかりました。」

 

「黒川、お前もだ。

もっと2人で作ってこい」

 

「は、はい...(やっぱり、やりづらい)」

 

蒼人は2人の演技を見ていた。

九条の完成度は、

新人の目から見ても高いのは

明らかだった。

同い年で、自分を遥かに超える完成度。

このレベルに合わせなければならないのかと、

蒼人は苦悩していた。

 

しかし、彼にとっての

問題はもう1人だった。

 

『...組んだことがないのか?

周りの反応見るに、

息が合ってないことは

ないんだろうけど。

何でだ?

明らかにあかねさんと

野島さんの息は合ってない。

というより、あかねさんが嫌がってる?』

 

蒼人はあかねと野島の間に、

何があったのか知りたかった。

しかし、踏み込んでいいのか

わからなかったことや、

却って不安を煽らないかと

思ったことで尋ねるのをやめた。

 

『...何かあったら、助けに行こう』

 

稽古は進んでいき、

蒼人の出番となった。

 

みた、めい、清水と共に

門番との一コマを演じていた。

 

しかし

 

「八神、木々への憧れは伝わった。

だが、今だと家族への憧れに近い。

これは別の憧れだ。」

 

「わかりました。」

 

蒼人の演じる門番は、

木々に憧れがあった。

しかし、蒼人の憧れの感情は

友愛や恋愛ではなく、家族愛の様なものになっていたのだ。

 

『憧れか、俺の憧れは母さんだけど。

それじゃないのか...』

 

蒼人は役者として進んでいく中で、

母の偉大さを理解していった。

だからこそ、母への憧れが強くなっていた。

しかし、今求められていたのは

その感情ではなかった。

 

『って言っても、

他に憧れる人って言ったら...』

 

蒼人は考えた。

自分にとっての憧れが誰か。

そして、その人物にどうして

憧れたのか。

 

「よし、再開するぞ。」

 

『はい!』

 

こうして、稽古が再開した。

このシーンは、ミツヒデと木々が

ゼンに差し入れを入れようと

城に行くシーンである。

そして道中にて、門番兵との会話が

起こるというものである。

 

 

「なぁ、木々。

ゼンの奴昔に比べて

柔らかくて笑うようになったよな。」

 

「そうだね、ミツヒデ。

王子だから、

気を張ってた部分もあったからね。

だから、白雪と出会えたのは

幸運だった。」

 

みたが演じているのは、ミツヒデ。

王子ゼンの側近にして、友人で。

とても面倒見がいい、

友達だが兄の様な存在。

 

めいが演じているのは、木々。

ミツヒデと同じくゼンの側近だが、

しっかり者で白雪からも慕われている、

可愛らしい女性である。

 

「だな!」

 

2人は門を通ろうとした。

そして、門番と出会した。

 

「(まぁ、考えてても仕方ない。

やってみるか)

ミツヒデ様、木々様!!!

おかえりなさいませ!」

 

「前に出過ぎだ、馬鹿」

 

「馬鹿とは何ですか!」

 

蒼人演じる門番は、いつも通り清水に止められていた。

そのやりとりを見ていたミツヒデは、笑いながら話していた。

 

「元気な後輩持つと大変だな」

 

「いえ、元気な主人よりは幾分か」

 

「違いない」

 

ミツヒデと先輩の門番は、

お互いに苦労がわかる様で互いを労い合っていた。

 

そんな先輩の苦労を知らず、

後輩の門番は疑問を口にした。

 

「今日はどちらへ?」

 

「あぁ、最近執務室に籠り気味の

ゼンに差し入れ。」

 

「殿下に差し入れ?

羨ましいですな〜。

白雪殿だけでなく、

こんなに美人な木々様にまで、

思われるなんて」

 

蒼人は、自分の中にあった

憧れの感情を乗せた。

その笑顔は、本当に相手を

思っていると思える程に。

 

『え?』

 

そして、その感情は、

1人の少女の心を抉った。

 

「あいつは主人だからね。

これぐらいはするよ」

 

「優しい、優し過ぎる...

こんなに綺麗で優しい木々殿に、

思いやりのあるミツヒデ殿が

近くにいるなんて、殿下も幸せ者ですね」

 

「おいおい、照れるじゃないか」

 

「ミツヒデは甘いだけ」

 

門番の言葉に、ミツヒデは照れていた。

そして、余りに距離が近かった為、

後輩は叱られていた。

 

だが、みんなとても和やかだった。

 

『...何で、そんな顔出来るの?』

 

1人の少女を除いて。

 

蒼人の演技が問題なかった為、

もう一度通そうということになった。

その過程で、役者間で打ち合わせをしようと、

該当の役者達は話をしていた。

 

「...」

 

あかねは蒼人を見ていた。

しかし、その瞳には普段とは違い、

寂しさや悲しさが映し出されていた。

 

「...サブキャラが、

メインヒロインより強すぎる件」

 

「うわ!?

ど、どうしたの?突然」

 

こゆきが音も無く、

後ろから現れ、あかねの耳元で囁いた。

 

「ねぇ、あかねちゃん」

 

「は、はい」

 

「...めいちゃんに嫉妬してる?」

 

突然の一言に、あかねは驚いた。

本人としては、バレていないと思っていたのだ。

 

「あ、してたんだ」

 

「してないしてない!」

 

「本当に〜?

蒼人君とめいちゃんが話してるの、

羨ましそうに見てたのに?」

 

「そ、それは...え、演技の勉強で」

 

あかねは誤魔化していた。

しかし、こゆきには全て見透かされていた。

 

「ふぅ〜ん...蒼人君、

いい演技するよね〜木々への

感情がちゃんと乗ってるもん」

 

「そ、そうだね...」

 

あかねの胸中は穏やかでは無かった。

白雪に向ける物と同じ感情を、木々に向けていた。

演技だとはわかっていても、どこか寂しいものがあった。

 

「ねぇ、あかねちゃん」

 

「な、何でしょう?」

 

「...蒼人君のこと、好きでしょ?」

 

「うぇあ!?」

 

突然の大声にビックリした蒼人が、あかねに目を向けた。

だが、あかねは目を逸らしてしまった。

その後、何事も無かったかの様に、打ち合わせをしていた。

 

「な、何言い出すの!」

 

「違うの?」

 

「あ、いや、その...わかんない」

 

「わかんないの?」

 

あかねは、蒼人に目を向けた。

その瞳には、嫉妬ではなく、

ただ優しさだけが映し出されていた。

 

「わからない。

ただ、ひーくん見てると嬉しくて、

楽しくて、ずっと傍に居たいって思う。」

 

「そっか(あぁ、これ確定だ)」

 

こゆきは全てを悟った。

そして、今のあかねの心境も理解できた。

だからこそ、放っておけなかった。

 

「蒼人君、いい子だよね」

 

「うん、すっごくいい人。

優しいし、あったかいし、

笑顔素敵で、それから...」

 

その後もあかねは話し続けた。

蒼人がどれ程素敵な人なのか。

どれだけ優しいか。

 

「そっか〜

そんなにいい人なら、

すぐにいい人と出会いそうじゃない?」

 

「え?」

 

こゆきの一言で、理解してしまった。

再会して数日。

当たり前の様に一緒にいた。

当たり前の様に隣にいた。

だが、もし彼に好きな人がいたら?

好きな人が出来たら?

そう考えると、胸が苦しくなった。

 

「ねぇ、あかねちゃん。

当たり前って、

いつまで当たり前なのかな?」

 

こゆきはゆっくりと話し出した。

一つ一つ、思い出す様に。

 

「ずっと、そこにあるから当たり前?

そこにあるのが当たり前なの?

...当たり前って、

すぐに消えるものなんだよ。」

 

「こ、こゆきちゃん?」

 

あかねは困惑していた。

普段の優しいお姉さんとしての

雰囲気ではなく、

そこには人生の先輩としての

こゆきが居たからだ。

 

「いつまでもあるわけじゃない。

いつまでもないわけじゃない。

ある日突然消えるし、突然現れる。」

 

「...」

 

「その時になって後悔しても、

もう遅いの。

だって...もう無いんだから」

 

「こゆきちゃん...」

 

こゆきの眼には悲しさと寂しさが

映し出されていた。

それが現すものがなんなのか、

あかねは、わからないわけではなかった。

 

「だからね、あかねちゃんには

ちゃんと選んで欲しいの。

後悔しない道を。」

 

「で、でも...」

 

「今すぐに何かしろってことじゃないの。

自分で考えて、自分で決める。

だって、あかねちゃんの人生だから。」

 

「こゆきちゃん」

 

「それに、その感情は悪い物じゃないよ。

だから、ちゃんと大切にしなきゃ。

じゃないと、自分が楽しくないよ」

 

彼が自分にとって、どういう存在なのか。

彼とどうありたいか。

そして、自分の感情は何なのか。

あかねは、自分と向き合っていこうと思った。

 

「うん。ありがとう」

 

あかねとこゆきが話し終わったと同時に、

蒼人達も出番を終えて戻ってきた。

 

「八神君、君は最高の門番だ!!

これからも城の門を頼むぞ!」

 

「僕、すぐに負けそう...」

 

「大丈夫!

そうなったら、みたさん囮にして

みんなで逃げよ!!」

 

「それは酷いぞ!」

 

その後もめいとみたは、

楽しく話し込んでいた。

途中で蒼人も巻き込まれたりしていたが、

そこには笑顔があった。

 

「ひ、蒼人君」

 

「ん?あぁ、あかねさん。

ただいま」

 

「ふぇ?...お、おかえり」

 

あかねは誰よりも先に、蒼人に話しかけに行った。

だが、蒼人の言葉で俯いてしまった。

 

蒼人は、俯いたのを他所に

あかねに質問した。

 

「どうだった?俺の芝居。

憧れの感情を全面に出した

つもりだったんだけど。」

 

「え?あ、凄く良かったよ!」

 

「本当に!?

良かった〜」

 

「...本当に憧れてるみたいで」

 

「あぁ...憧れてる人がいるからさ。」

 

その表情には、年相応の照れと幼さが見えた。

まるで、子どもの様な表情をしていた。

 

「そ、そっか。

ねぇ、誰かきいてもいい?」

 

「え?...な、内緒」

 

蒼人は恥ずかしさから、顔を背けた。

憧れてる人が誰か知られたくなかったのだ。

 

「ふぅ〜ん。

言えない様な人なの?」

 

「や、役者とだけ...」

 

「...演技の参考にしたいから、

教えて欲しいんだけど...ダメ?」

 

「さ、参考にならないと思うよ?」

 

「そんなことないよ!

だって、蒼人君が憧れる人でしょ?

私気になるな〜」

 

「...」

 

蒼人は顔を背けて、何とか誤魔化そうとした。

しかし、スイッチが入っていたあかねは止まらなかった。

 

「誰?誰なんですか〜?」

 

あかねは蒼人に詰め寄っていた。

交わそうとしていたが、蒼人は観念したのか、ゆっくり話し出した。

 

「...ラ、ララライのエース」

 

「え?」

 

「...そ、その。

真面目で頑張り屋で、

誰よりもストイックな姿が良いなって」

 

「そ、そうなの?」

 

「うん...」

 

あかねは恥ずかしくなった。

嫉妬していた対象が、自分であったことに。

そして、蒼人が自分をそんな風に

考えてくれていたことを嬉しく思った。

 

その後稽古は進み、

その日の稽古は終了した。

 

「よし!今日はここまで。

解散!」

 

『お疲れ様でした!』

 

この日は解散となった。

しかし、野島は先日居なかったこともあり、

演出より残された。

それに伴い、あかね、みた、めいの3名。

そして、主演との絡みも多い為、

こゆきも残ることとなった。

 

「九条、お前はどうする?

昨日居なかったろ?」

 

「僕は、帰ります。

野島さんの稽古の方が

優先度高いですし、帰って詰めて来ます。」

 

「そうか、わかった」

 

「いえ、失礼します」

 

九条は一礼すると、そのまま去っていった。

その後、伺う様に蒼人の元へあかねがやって来た。

 

「ね、ねぇ蒼人君。

今日はどうするの?」

 

「今日はララライのレッスン室借りて、稽古するよ。

メインキャストの邪魔するわけにはいかないし。」

 

「邪魔じゃないよ...

帰り、気をつけてね?」

 

「うん。ありがとう」

 

蒼人は優しく微笑んだ。

寂しくはあったが、

この笑顔を見られただけでも、

ヨシとしようとあかねの心は満たされた。

 

「八神君、お疲れ様。

道中気をつけてね」

 

あかねと蒼人が話し終わったのを

確認し、野島が割って入ってきた。

 

「へ?あ、ありが「そうだ!

入学祝いにドリンクをご馳走しよう」

え!?あ、ちょっと」

 

野島が蒼人と肩を組み出した。

そして、半ば強引に蒼人を連れ出した。

蒼人は戸惑いながら、連れ出されてしまった。

 

その後、自販機にてドリンクを

奢ってもらい、

蒼人はララライに向かっていった。

 

「何だったんだ、一体。

(なんだろう、野島さんの俺を見る目。

すんげぇ冷たい。

それに、あかねさんの態度。

何かあったのか?)」

 

蒼人は考えていた。

野島のこと、あかねのこと。

本人の周りで、

何か起きているとは思っても、

何もわからない。

それがもどかしかった。

 

そして...

 

「九条の目。

あれは、一体...」

 

初めて会った役者。

しかし、九条から負の感情を感じた。

会ったこともない、話したこともない。

そんな人間がどうして。

蒼人は歩きながら考えていた。

 

「よう、八神」

 

「え?九条さん。

どうしてここに?」

 

先に出た筈の九条が、蒼人を待っていいた。

この場では会いたくなかったが、

出会った以上話そうと思った。

 

「話があってな...10年ぐらい前、

黒川と舞台出た?」

 

「へ?あぁ、出ました。

よく知って「テメェか」は?」

 

「テメェか、コネで役取った卑怯者は」

 

その表情には、怒りと悔しさ。

何よりも、蒼人への恨みがヒシヒシと

伝わって来た。

その上突然のことで、

蒼人は混乱していた。

 

「は?コネ?」

 

「何したか知らねぇけど、

俺から奪いやがって」

 

「奪った?

何言ってんだよ」

 

「とぼけんな。

お前が何かしたんだろ?」

 

「だから、さっきから何言ってんだよ」

 

蒼人は埒が開かないと、苛立ち始めた。

最初こそ穏便に済ませようと思っていたが、

九条の態度に怒りを隠せなくなって来た。

 

「何の努力もしてねぇ、卑怯者が。

教えてやるよ」

 

紅音は蒼人に詰め寄り、語り出した。

彼の過去を。

彼らの因縁を。

 

「お前が出た舞台。

オーディションが行われてたんだ。

何人もの子役が受けてた。

だが、その中の誰も受からなかった。

何でかわかるか?」

 

「え?それって...」

 

蒼人は全てを理解した。

自分が何をしたのか。

自分が何を奪ったか。

 

「お前が奪ったからだ!

何の努力もしてねぇ、テメェに。

俺達は、俺は奪われた」

 

ただ楽しかった。

母からの教えを受け、楽しく芝居をやっていた。

だが、その裏で苦しんでいた人間がいた。

 

「俺はテメェを許さねぇ。

あの日から、テメェをぶっ倒すことだけ考えてきた。

それが、こんなとこで会えるとはな」

 

「その...ごめん。

俺、そんなことがあったなんて知らなくて」

 

楽しかった筈の思い出。

幸せだった時間。

そして、出会えたこと。

 

だがそれは、犠牲で

成り立っていたことを知った。

 

「関係ねぇ。

とにかく、俺はお前がムカつくんだよ。

絶対ぇ、テメェをぶっ潰す」

 

九条は蒼人を睨みつけ、

去って行った。

だが、それを蒼人は直視出来なかった。

 

「俺の、せいで...」

 

蒼と紅。

これが、2人の物語の始まりだった。

 

 

Scene9『蒼と紅』end




・各キャラの容姿説明(オリキャラのみ)
野島類
容姿: アイザック・ニュートン(イケメンシリーズ)

九条紅音
容姿: 天城燐音(瞳の色 紅)
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