Scene2.5『もう一つのプロローグ』
星菜の出産から4年程が経過し、
蒼人は4歳になった。
「ひーくん、お着替え出来た?」
「あい!できた!」
「はい、よく出来ました〜。
幼稚園楽しい?」
「うん!たくさんおともだちつくるの!!」
「あなたなら、すぐ出来るわよ〜」
「へへ〜。
でもね、
ぼくおかあさんだいすきなんだー!」
蒼人の言葉に感極まり、
星菜は蒼人を抱きしめていた。
「ん〜、本当いい子ね〜、かわいい〜」
「ひひ〜、おかあさんあったかい」
大好きなお母さんに抱っこされたのが
嬉しい様で、
蒼人は満足そうな顔をしていた。
「あぁ、もう。
この子、本当に可愛い!
何で、こんなに可愛いの!
・・・神様からのギフトテッド?」
「馬鹿なことを言うな。」
八神星菜はそれはそれは、
かなりの親バカになっていた。
蒼人が可愛らしいのもあるが、
それを差し引いても
大層な親バカになっていた。
「お父さん、それは酷いわよ!
見てよ!ひーくんのこの可愛さ!
正に神様からの贈り物よ!
今世紀最大の天使よ!」
「何故こいつは、
こんな親バカになった」
蒼人にとって、
祖父にあたる隼人は
深く項垂れていた。
「おじいちゃん、
おげんきない?
だいじょうぶ?」
「蒼人・・・いや、大丈夫。
おじいちゃんは元気だ」
「ほんと?」
「あぁ、本当だ」
「へへ〜、おじいちゃんだいすきー!!」
「おじいちゃんも蒼人が大好きだ。」
蒼人は祖父に抱きついていた。
隼人は、先程自分が言ったことは
忘れたと言わんばかりに、
デレデレの表情で、
蒼人を甘やかしていた。
「・・・お父さん?(ジト目)」
「!(咳払い)まぁ、何だ。
星菜もそろそろ、
行かないといけないんじゃないか?」
「へ?あ、もうこんな時間!
お父さん、ひーくんお願い!」
「おかあさーん!」
「はい、どうしたの?」
蒼人は出かけようとする母の元へ行き、
期待する様に手を広げた
「いってらっしゃい!!」
「はい、いってきます」
「ひひ〜」
そして、母から抱きしめてもらい、
とても満足そうな顔をしていた。
星菜は、家を出て現場に向かっていた。
蒼人が幼稚園に行っている間、
映画の撮影を行う予定だったのだ。
「おはようございます。
星菜です、よろしくお願いします。」
「おぉ、星菜。よろしくな」
「はい!五反田(ごたんだ)監督の作品に、
また呼んでいただけて嬉しいです。」
星菜は現場に着くなり、監督である
五反田泰志(ごたんだたいし)の元へ
挨拶に向かった。
「寧ろ、こっちの方が有難いくらいだ。
お前のネームバリューを
使わせてもらえるなんて、
こっちとしては
正に神様からのギフテッドだよ。」
「まぁ、口が上手いこと」
「監督だからな、これぐらいは」
「流石、大物監督」
「お前、馬鹿にしてんのか?」
「てへ?」
「可愛子ぶるな、可愛くないぞ。」
「酷い!
これでも、可愛い芸能人
ランキングNo.2ですよ!」
「No.1じゃないなら、可愛くないな」
「ひっどーい!
そんなこと言うから、
結婚出来ないんですよ?」
星菜は五反田の言葉に頬を膨らませていた。
しかし、2人ともどこか楽しそうであった。
「関係ねぇ!
ていうか、出来ないんじゃなくて、
しないだけだ!」
「あら、それは失礼しました」
「まったく。
幾つになっても、変わんねぇな」
「変わった方がお好き?」
「バカ言うな」
「ふふっ。
監督だから、
こんなに無邪気なんですよ?」
星菜は、屈託の無い笑顔で、言い切っていた。
その表情は、見る人が見たら、
恋人と話しているかと思う程に
可愛らしいものだった。
「・・・お前、
見た目に反して性格悪いよな?」
「ひっどーい!!
監督にそんなこと言われるなんて、
私本当に泣きそうに
なりそうになりそう」
「結果的に泣いてないから、
何も問題ねぇな」
「ちっ、薄情な監督」
「おい、本音出てるぞ。
可愛くない芸能人」
「ぶぅーだ!
いいもん。
世間は可愛いって認めてるから、
いいもーん。」
その後も、星菜は剥れながら、
五反田へブーイングを行っていた。
「わかったから、早く準備しろ」
「はーい、わかりました〜」
星菜は、楽屋に向かい、
支度を済ませようとしていた。
「なぁ、星菜」
「何ですか?」
「お前、何かあったか?」
「え?どうかしました?」
「いや。やけに機嫌いいからな」
五反田の言葉に、
家での出来事を思い出した星菜は、
こう語った。
「・・・天使が微笑んでくれたので」
「・・・」
「それじゃ、楽屋行ってますね」
「あ、あぁ」
とても美しくその笑顔は、
全てを包み込む優しさと
愛に満ち溢れていた。
まるで、子を持つ母親の様な。
「おはようございます。
よろしくお願いします」
「あぁ、星菜さん。
今日はよろしくお願いします。」
星菜は楽屋に到着し、
スタッフに丁寧に挨拶していた。
「はい、よろしくお願いします。」
「星菜さんは、
こちらのテーブルお使いください。」
「ありがとうございます。」
「メイク道具も一式ございます。
あと、お飲み物お待ち致しますが、
何がよろしいですか?」
「ありがとうございます。
でしたら、お茶お願いします。」
「かしこまりました。
それでは、失礼します。」
去っていくスタッフに一礼し、
星菜は自分の準備に取り掛かった。
「さってと、メイクメイク〜♪」
「おはようございます!!
有馬(ありま)かなです!
よろしくお願いします!」
「ん?」
星菜がメイクをしている時に、
元気な女の子が入ってきた。
「あぁ、かなちゃん。
かなちゃんはこのテーブル使ってね?」
「はーい!」
星菜の近くの席に、かなが誘導された。
「あ、かなちゃん!」
「え!?あ、お、おはようございます!
お久しぶりです、星菜さん!!」
この2人、過去に共演歴があるのだ。
そして、久しぶりの共演ということで、
星菜は喜んでいた。
「あらぁ〜、久しぶり。元気だった?」
「はい!星菜さんは?」
「私も元気よ。今日はよろしくね」
「よろしくお願いします。」
「少し見ない間に、大きくなったわね。
幾つになったの?」
「5歳です」
「そっか〜、5歳か。
・・・あの子と変わらないのね」
星菜は、かなの年齢を聞き、
愛してやまない息子を思い出した。
「あの子?」
「あ、何でもないの。
気にしないで。お芝居はどう?」
「あ、えっと・・・」
「あぁ、ごめんなさい。
変なこと聞いて。」
星菜は察していた。
現在、かなは大変な時期に
入ろうとしていたことに。
「い、いえ!大丈夫です!」
「そう?なら、いいけど。」
「星菜さん・・・」
「ん?なぁに?」
かなは、言いづらそうにしながら、
星菜に質問した。
「星菜さんって、お母さん好き?」
「え?」
「・・・あのね、
私最近お母さんと仲良くないの」
「何かあったの?」
「え、あ、えっと・・・」
「お話ししたくないなら、
無理にとは言わないわ。」
かなの口振りから、
何かあること。
そして、彼女が
思い詰めていることを悟った。
「ありがとう・・・」
「かなちゃん」
「なぁに?」
「お母さん好き?」
「・・・好き」
「そっか。わかった」
「?」
「いいの、気にしないで。
さぁ、準備終わったら、
撮影行きましょ」
「は、はい!」
星菜とかなは準備を終え、
撮影に向かっていた。
「監督ー!お待たせしましたー!」
「おぉ、星菜。いけるか?」
「はい、バッチリ」
「それじゃ、頼んだ」
「はい。」
作品の内容だが。
名家に引き取られた女の子(かな)が、
虐待にも似た英才教育を受けており、
ただ1人孤独に暮らしいたというものだ。
「ただいま、お母様。」
「お帰りなさいませ、お嬢様。」
女の子が帰ってくると、
使用人の格好をした星菜と
母親が待っていた。
「あら、お帰りなさい。
テストは返却されたのでしょう?
見せなさい。」
「え、えっと・・・」
「どうしたの?早くしなさい」
「は、はい」
女の子はおずおずと、
答案用紙を母親に見せた。
その表情は、
これから起こることを
悟っているものだった。
「な、何ですかこれは!?」
「ひぃ!?」
「あれだけ勉強させて、
名門の幼稚園に入れたと言うのに。
なんて体たらくですか!」
「で、でもちゃんと頑張って
「言い訳なんか聞きたくありません!」いたっ!」
母親は思い切り、
女の子をビンタした。
「奥様!幾ら何でも」
「黙りなさい!この子には、
まだまだ教育が足りないのよ!
いいですね?
今日から、
あなたの勉強時間は2倍にします。」
「そ、そんなことしたら、
お嬢様が「黙りなさい!使用人如きが、
口を挟むんじゃありません!」」
「大体、私は嫌だったのよ。
どこの馬の骨ともわからない女から
産まれたゴミを拾ってくるなんて」
「え?拾った?」
「あら、何も知らなかったのかしら?
いいわ、この際だからはっきり
言ってあげる」
「お、奥様それ以上は!」
「黙りなさい!!」
「うぁっ!」
母親は、邪魔だと言わんばかりに
使用人を殴りつけた。
まるで、ゴミを見るかのような目で。
そして、女の子に
向き直りこう言い放った。
「いいこと?あなたは、
私の娘じゃないの」
「え?そ、そんな。
お母様じゃないの?」
「えぇ、そうよ。
大体、私の娘ならこんなに
馬鹿なわけ無いわ。
もっと、賢い筈よ」
「じゃ、じゃあ、
私の本当のお母さんは?」
「知らないわよ。
ただ、あなたが主人の血を引いてるから
連れてきただけ。
こんなゴミを引き取るとは。」
「そ、そんな・・・」
「いいこと?
今日から、あなたは
寝る間も無いと思いなさい。」
「・・・ひっぐ、うぅ」
「泣いてる暇があるなら、努力なさい。
使用人、後は任せるわ。
私は、家庭教師の手配をします」
母親は、2人を一瞥することなく、
部屋を後にした。
「お、お嬢様!!大丈夫ですか?」
「・・・う、うぁぁぁん!
何で、何で私のお母さんは
私を捨てたの?」
「お嬢様」
「何で?私が、ゴミだから?
いらないから捨てたの?何で?」
「・・・」
「私のこと、嫌いなの?愛してないの?
何で、なんで、おかあさん・・・」
娘は自問自答を続けていた。
自分の産まれた理由。
自分が捨てられた理由。
自分は、愛されているのかと。
「愛してる」
「へ?お姉さん?」
「・・・捨てたんじゃ無い。
取られたの、子どもが居ないから、
この子を跡取りにするって」
「え?何で、お姉さんが知ってるの?」
「・・・」
「ま、まさか。
お姉さんがおかあさんなの?」
「・・・本当は助けたかった。
でも、あなたが生きられるならと、
この家で暮らさせてきた。
でも、間違いだった」
「え?」
「私が守る。
あなたの笑顔も、人生も。
全部私が、守っていく。愛してるわよ」
「・・・ほ、本当にお母さん?」
「えぇ、待たせてごめんね。」
「お、お母さぁぁぁん!」
「ごめんね、待たせてごめんね。」
「お母さん!お母さん!!」
「やっと、やっと言えた。
言わせてあげられた。」
「私も、やっと言えた。」
母は泣きながら、娘を抱きしめた。
過去の寂しさを埋める様に。
娘への決意を伝える様に。
「もう、1人になんかしない。絶対に」
「へへっ」
母は一度、向き直ると娘の頬を撫でた。
そして、再度抱きしめこう囁いた。
「よく頑張ったわね。大好きよ・・」
「・・・わ、私も、大好き」
そう言った娘は、
母の胸で泣き続けていた。
そして、その姿を見て優しく抱きしめ、
ずっと頭を撫でていた。
こうして、撮影は終了した。
星菜の優しさに満ちた姿と
かなの演技み見た者は、
まるで本当の親子の様だと語っていた。
「監督〜!お疲れ様でした!」
星菜とかなは着替えを終え、
五反田の元へ戻ってきた。
「おぉ、お疲れさん。
お前等、今日めちゃくちゃ良かったぞ。」
「本当ですか!?
よかったわね、かなちゃん」
「ち、違うの!
星菜さんの演技が良かったから」
「かなちゃんが上手だからよ。
流石、天才子役ね」
「・・・そ、そんなことないもん」
「ん?どうしたの?」
「な、何でもない!」
かなは被っていた帽子を目深に被り、
顔を隠していた。
照れている所を、
見られたく無かったのだ。
「そう?なら、いいけど。」
「有馬、そろそろお迎えじゃないか?」
「え?あ、本当だ。
星菜さん、
今日はありがとうございました。」
「はい、ありがとうございました。」
「あ、あのね」
「ん?どうしたの?」
かなは、恥ずかしそうにしながら、
小さな声で紡ぎ出した。
「・・・もいっかい、ぎゅってして?」
「えぇ、いいわよ」
星菜はかなからの申し出に、
快く応じた。
「・・・ありがとう」
「・・・どういたしまして」
星菜は、かなからの言葉で
心がいっぱいになった。
「今日はありがとうございました。
お疲れ様でした」
「待って、かなちゃん」
「なぁに?」
「はい。帰りに食べなさい」
星菜は、飴玉を渡した。
それを見たかなは、
とても嬉しそうだった。
「あ!ありがとう、星菜さん!」
「またね、かなちゃん」
「うん!!またね、星菜さん!」
かなは、元気に手を振りながら
帰っていった。
かなが帰ったのを見送って、
五反田が星菜に問いかけた。
「・・・お前、
さっきのシーン何やったんだ?」
「え?何のことですか?」
「とぼけるな。何かやったろ?」
「・・・何でそう思うんですか?」
「役とは違う泣き方だったからな。
お前が何かしたんだろ?」
星菜は観念した様に、
答え合わせをし始めた。
「流石に、監督にはバレちゃいますね。
まぁ、なんて言うか。
少し、感情を解放させただけ」
「ほぅ?感情解放?
それで、あぁなるか?」
「・・・あの子、お母さんからの愛に
飢えてると思ったの。
だから、ほんの少し、
あの子の気持ちを吐き出させたんです。」
「なるほどな。」
「えぇ」
星菜は、あの時のかなの涙は演技ではなく、
真実だと思っていた。
『よく頑張ったわね。大好きよ【かな】』
「流石、天下の大女優星菜だな。」
「あら、こういう時は
褒めてくれるんですね?」
「いい演技する役者は褒めるさ。
真実を演じる大女優、星菜だからな。」
「私にとって、
演じることは真実ですから」
「普通演じることは、嘘なんだがな」
星菜は、少しだけ表情を
曇らせながら呟いた。
「・・・嘘って、好きじゃないの」
「そうか」
「えぇ。
今日はありがとうございました。」
「いやいや、こっちこそ。」
「それじゃ、帰ります。
迎え来たので」
「おぉ、気をつけて帰れよ」
「はーい!」
星菜は、五反田に一礼し、
現場を後にした。
「・・・真実か。
それなら、お前が演じた母親も真実か?」
星菜は車で迎えに来た、隼人の元へ向かい、
後部座席に乗り込んだ。
「ありがとう、お父さん」
「おぉ、終わったか?」
「えぇ、ばっちり」
「おかあさん、おかえり!!」
「ひーくーーん!ただいまー!!!」
「ひひー」
蒼人は、母が乗り込んでくると、
直ぐに抱きついた。
星菜も、抱きしめ返していた。
「あぁ、ひーくん可愛い。
ほんっとに可愛い!!」
「ひゃぁー」
「嫌がるでない、嫌がるでない」
星菜は蒼人と戯れていた。
蒼人は嫌そうな声を出していたが、
声とは裏腹にとても嬉しそうだった。
「どうした、星菜。やけに機嫌いいな」
「えぇ。可愛い天使に
2人も会えたんだから」
「てんし?」
「そう、天使」
そう言うと蒼人の頭を撫で出した。
もう1人の天使のことも
思い浮かべながら。
「ひひ」
こうして、星菜とかなの撮影は終了した。
しかし、かなと星菜が会うことは、
これ以降無かった。
11年後
「はぁ〜、あの現場、後何回続くのかしら。」
少女は溜息を吐きながら、歩いていた。
「・・・あぁ!ダメダメ!
頑張らないと。・・・こんな時は」
少女は、コンビニに入った。
雑念を振り払う為に、
買い物をしようと思ったのだ。
「んっと〜。
あ、あった!これこれ!
これが無いと始まらな」
少女は飴の袋を取ろうとした。
しかし
「「あ」」
少年と取るものが被ってしまった。
「ご、ごめんなさい」
「いえ、こちらこそ。
あ、先にどうぞ」
「い、いえ、そっちこそ。」
「なら」
少年は袋を2つ取り、
1つは少女に渡した。
「え!?あ、ありがとうございます。」
「いえ。それじゃ、失礼します」
少年は、少女に一礼し去っていった。
「へぇ〜、いい子ね〜」
少女はお会計を済ませ、
袋から飴玉を取り出し見つめていた。
「・・・星菜さん」
少女は思い出していた。
『・・・もいっかい、ぎゅってして?』
『えぇ、いいわよ』
『・・・ありがとう【お母さん】』
「私、大好きなの」
Scene2.5『もう一つのプロローグ』 完