【推しの子〜アオの行方〜】   作:ジェナス_j

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Scene3『始まり』

インタビュー【監督編】

 

【金田一敏郎監督、

最優秀作品賞のノミネート、おめでとうございます。】

 

「あくまで、ノミネートだ。受賞じゃない。

何より、あのキャストで取れなかったら

俺の責任だ」

 

【今回のドラマは、一体どの様な作品になるのでしょうか。】

 

「15年前に放送されたドラマのリメイク。

それに、キャストを一新してるから、

新しい面も見られる筈だ。」

 

【メインキャストの皆様は

監督のご指導を受けた方もいたとか】

 

「子どもの頃から面倒見ている奴らもいた。

だから、俺にとって子どもの様なもんだ。」

 

【最後に一言頂けますか】

 

「愛だ!!」

 

 

 

 

Scene3『始まり』

 

「わぁー!おかあさんだ、おかあさんだ!!」

 

「こら、ひーくん〜、

あんまり騒いじゃダメよ?ご近所に迷惑だから。」

 

夜も遅くなり始めた頃。

蒼人は星菜が出ているドラマを観ていた。

大好きなお母さんが出ている為、

目を輝かせ、楽しそうに。

嬉しそうに見ていた。

 

「でも、でも!おかあさんいるよ!

おかあさんでてる!!」

 

「もう、はしゃぎ過ぎよ?」

 

「だって、おかあさんだもん!」

 

「蒼人は、お母さんが大好きだな」

 

「うん、だいすき!!」

 

「もぅ、この子ったら」

 

蒼人の言葉に涙ぐむと共に、

改めてこの子を産んでよかったと、

心の底で呟いていた。

本当に親バカである。

 

「あのね、おじいちゃん!」

 

「何だ?」

 

「おかあさん、とってもとっても!

おしばいがうまいの!すごいでしょ?」

 

「あぁ、凄いな。流石、蒼人のお母さんだ。」

 

「へへぇ〜」

 

「もう、この子は。」

 

星菜はあまりの可愛さに、蒼人を抱っこした。

蒼人も大好きなお母さんに抱きしめられ、幸せを感じていた。

 

「ん?」

 

そんな幸福を噛み締めていた親子の元に、

一本の電話が入ってきた。

 

「はい、もしもし。

あ、金田一さん?お久しぶりです。」

 

星菜は、金田一と呼ばれる人物と

電話をしていた。

 

「はい。あ、少々お待ちを。お父さん」

 

「何だ?」

 

「スケジュール確認させて?」

 

「わかった。これだ」

 

「お待たせしました。

えぇ、えぇ。はい、空いてます。

わかりました!任せてください!」

 

「仕事か?」

 

「そう。

役者足りないから、ドラマ出てくれって。」

 

「そうか、それは有り難い。」

 

星菜はドラマのオファーを受けていた。

フリーで活動していた、星菜にとっては、

とても有難い話しだった。

 

「でしょ?ん?あ、すみません。

マネージャーと話してました。

はい・・・え?子役?」

 

「?」

 

蒼人は、母の反応が気になり、

首を傾げていた。

 

「はい、まぁ伝手は幾つかありますけど。ん〜、困りましたね〜。」

 

「おかあさん?」

 

「しーっ!あ、すみません。甥っ子です。

預かってて。」

 

「むぅ〜」

 

蒼人はむくれていた。

大好きなお母さんから、

息子ではなく甥っ子と呼ばれたのが不服だったのだ。

 

「・・・えぇ!?本気ですか?

嬉しいですけど。でも、本人初めてだし。

ん〜・・・わかりました。

お世話になってますから。

但し、期待しないでくださいね?

本人が良いって言ったらですよ?

後、お芝居は期待しないでくださいね?」

 

「???」

 

「はい、それでは。

よろしくお願いします。」

 

星菜は電話を切った。

そして、父でありマネージャーでもある

隼人と向き合った。

 

「星菜、何かあったのか?」

 

「出演は確定。

ただ、1つお願いされて。」

 

「お願い?」

 

「そう。ねぇ、ひーくん」

 

「はい!」

 

星菜は蒼人の前で屈み、目線を合わせた。

 

「元気ね〜。あのね?

ひーくんお芝居やってみない?」

 

「星菜?」

 

「おしばい?」

 

「そう。どう?」

 

「星菜、何を言っているんだ?」

 

星菜が言っていることが飲み込めていなかった、

隼人が疑問をぶつけていた。

 

「実はね?

予定してた子役の子が来られなくなって、

人を探してるんだって。」

 

「だからって、

何も蒼人を連れて行かなくても」

 

隼人は心配していた、

いきなり経験も何もない孫を

ドラマに出すのは不安だったのだ。

 

「すぐにでも子役が欲しいから、

どうしてもって。」

 

「だが、経験が無いぞ?」

 

「それも承知なんですって。

ちょい役だし、とにかく人手不足で」

 

「なるほどな。」

 

星菜の説明で、ある程度納得し、

理解もした。

しかし、まだ不安もあるようだ。

 

「ねぇ、ひーくん、どう?」

 

「おかあさん、いっしょ?」

 

「現場はね。でも、同じシーンに出るかはわかんないの」

 

「やる!!」

 

「あら、即答」

 

「おかあさんといっしょなのうれしい!!」

 

「もう〜、一緒とは決まってないのよ?」

 

「でもね?おかあさんがいてくれるから、うれしい!」

 

「あぁ〜この子ったら〜」

 

「ひひ〜」

 

蒼人にとっては、芝居をすることよりも、

母と一緒に居られることが幸福だったのだ。

そして、それを喜んでくれる母の存在が。

 

「それじゃ、ひーくんも一緒に行きましょう?」

 

「あい!」

 

「んん〜、可愛い子」

 

「へへ〜」

 

「お父さん、いいでしょ?」

 

「星菜と蒼人が決めたことだ。文句はない」

 

「それじゃ、お願いね、ひーくん」

 

「あい!!」

 

蒼人は元気だった。

何のことか、よくわかっていないが。

母と祖父が喜んでいた。

それが、嬉しかったのだ。

 

「・・・それでね、ひーくんにお願いがあるの」

 

星菜は、伝えなければならなかった。

蒼人と自分にとって、辛いことを。

 

「なぁに?」

 

「現場に行った時にはね、

お母さんじゃなくてお姉さんって呼んで欲しいの」

 

「えぇーー!!なんで!!」

 

蒼人の反応が、予想以上に悲しそうだった為、

胸が締め付けられた。

しかし、蒼人の為にも伝えなければならなかった。

 

「えっと・・・お母さん少しは売れてる女優さんでしょ?

それで、お母さんに悪いことしようと、

ひーくんを捕まえる人がいるかもしれないの」

 

「おまわりさんいるもん!」

 

「そ、そうなんだけどね?でもね、

お巡りさんも見てられないかな〜って・・・」

 

「・・・ひっぐ」

 

「あ!」

 

蒼人は泣き出した。

大好きなお母さんを、お母さんと呼べないことが。

好きな気持ちを嘘で隠さなければならないことが。

 

「おかあさん、ぼくきらい?

ぼくおかあさんだいすきなのに・・・」

 

「そんなことない!そんなことは絶対にない!!」

 

泣き出した蒼人をすぐに星菜は抱きしめた。

思い切り。

そして、包み込むように。

 

「で、でもね?ひっく、おかあさんって、

よんじゃダメって・・・」

 

「ごめんね。本当はたくさん呼ばせてあげたい。

でも、お母さんの我儘でごめんね。」

 

「・・・お、おかあさん」

 

「なぁに?」

 

「おかあさんは、ぼくのことすき?」

 

「当たり前よ。お母さんは、世界で1番ひーくんが好き。

ひーくんが大好きよ」

 

「ふへ、ぼくもおかあさんだいすき」

 

「あぁ、もう可愛い!!」

 

蒼人は星菜からの言葉で元気になった。

そして、星菜も蒼人の言葉で笑顔になった。

この2人は、互いを大切にしている親子なのだ。

 

「ひひー。でもね、やっぱりさみしい」

 

「ひーくん・・・よし、

それならひーくんにとっておきのお歌をプレゼントしてあげる」

 

「おうた?」

 

「そう。ひーくんの為の」

 

「ききたい!」

 

「じゃあ、聴かせてあげる。名前はー」

 

星菜は自分の大切な歌を息子に聴かせた。

多くの悲しみを背負わせたが、

それが少しでも癒されるように。

彼の心が優しくなるように。

母は願いを込め、歌った。

 

そして、数日経ち蒼人と星菜は現場に行った。

尚、隼人も同行したがったが、

作品の打ち合わせに行かねばならなかった為、

どうしても外せなかったのだ。

孫の活躍を見たがった、おじいちゃんは大層悲しんだ。

 

「おはようございます!」

 

「おはようございまーす!!!」

 

「お、来たか星菜」

 

星菜の前に、オファーをした監督が現れた。

名を金田一敏郎(きんだいちとしろう)

このドラマの監督であり、

とある劇団の創設者でもある。

 

「金田一さ、おっと。今日はよろしくお願いします、監督」

 

「撮影前だ、普段通りでいい」

 

「ありがとうございます。

なら、今日はよろしくお願いしますね、金田一さん」

 

「あぁ、頼む」

 

この2人は旧知の仲であった。

金田一からの許可もあった為、

普段通りに接していた。

 

「あ、そうそう。この子が、甥っ子の」

 

「こんにちは!ひろと(蒼人)です!!

よろしくおねがいします!!」

 

蒼人は元気に挨拶していた。

その姿を微笑ましく思い、

金田一は優しく微笑んだ。

 

「あぁ、こんにちは」

 

「こら、ひーくん?おはようございますでしょ?」

 

「でも、いまおひるだよ?」

 

「撮影の現場はおはようございますって、

お話ししたでしょ?」

 

「ごめんなさい、おか・・・おねえさん」

 

「ううん、いいのよ。よく言えました」

 

「元気ないい子じゃないか。

初めまして、おじさんは

ここの監督やってる、

金田一敏朗(きんだいちとしろう)だ。

今日はよろしくな」

 

「はーい!」

 

「ひーくん、楽屋で待っててくれる?

少し監督とお話しするから。」

 

「あい!」

 

蒼人は星菜の言いつけ通り、

楽屋に向かって行った。

 

「本日はお仕事をいただき、

ありがとうございます。

誠心誠意努めさせていただきます。」

 

「そう畏まるな。

寧ろ、お礼を言いたいのはこっちだ。」

無理言って、子どもまで、

連れてきてもらったんだから。」

 

「あ、そのことなんですけど。

本当に大丈夫ですか?

彼お芝居やったことないんですが」

 

「あぁ、大丈夫だ。

台詞も殆どアドリブだし、

お前と一緒のシーンだから問題ないだろ」

 

「え!?私とひーくん、

同じシーンで出るんですか!?」

 

「ん?あ、聞いてないか?

実はな、元々子役を入れるシーンを

カットして、

お前と蒼人くんのシーンに

差し替えたんだ。」

 

「初耳です!」

 

「すまん、今言った」

 

「あぁ、芝居プラン練り直しね」

 

急遽の台本変更により、

星菜は組んでいた芝居プランを

練り直さなければならなくなり、

項垂れていた。

 

「まぁ、お前なら大丈夫だろ。

なんせ、姫だからな」

 

「もう〜。そんな何年も前の話し持ち出すのやめてください!

それに、姫なんて歳じゃありませんよ。」

 

「まだ、若いだろ?」

 

「そういう問題じゃなくてですね。

はぁ、とにかく今日はよろしくお願いします。」

 

「おぉ、よろしく頼む。」

 

星菜には懐かしく思えた。

あの日々が。

そして、それが自分にとって・・・

 

「それじゃ、楽屋行ってます」

 

「おぉ、後でな」

 

星菜は一礼し、

蒼人の待つ楽屋へ向かった。

 

「ひーくん〜お待たせ〜・・・あれ?」

 

蒼人と合流しようとし、

楽屋の中を探していた。

そして、見つからなかったので、

中にいた人達に話を聞いた。

 

「あの、すみません。

ここに男の子来ませんでした?」

 

「え?ねぇ、来た?」

 

「知らない」

 

「・・・えぇぇぇ!!?」

 

蒼人は迷子になっていた。

 

「わぁ〜、ここどこだろう!しらないのがたくさんあるー!」

 

蒼人は楽屋に行く筈が、

面白いものを見つけたので、

そっちに行っていたのだ。

収録終わりで、

各々機材の片付けなどやっていたからか、

周りは蒼人に気づいていなかった。

彼は、別の撮影スタジオに潜り込んでいた。

 

「おとなのひといっぱいだ〜」

 

目を輝かせ、セットや機材を眺めていた所、

人とぶつかってしまった。

 

「・・・いて」

 

「ん?」

 

「いてて・・・」

 

「大丈夫かい、坊や」

 

青年は蒼人を立たせる為に、

座り込んだ。

 

「だいじょうぶ!

ごめんなさい、おにいさん。

ぶつかっちゃった」

 

「気にしなくていいんだよ。

気をつけなかった、

お兄さんが悪いんだから」

 

「・・・」

 

蒼人は青年の顔をじっと見ていた。

何かを思い出すように。

 

「ん?どうしたんだい?」

 

「あ!あのね、あのね!ぼくおにいさんみたことある!」

 

蒼人はどこで見たのか思い出し、

上機嫌で話し出した。

 

「へぇ〜、どこで見たんだい?」

 

「あのね!あのね!

おにいさんテレビにでてた!」

 

「テレビ?

あぁ、お兄さんが出てる番組を

見てくれたんだね。ありがとう」

 

「・・・」

 

青年は、蒼人の言葉が嬉しかったのか。

優しく微笑み、彼を撫でた。

そして、蒼人は頭を撫でられたことに

幸福を感じ、青年にに抱きついていた。

 

「おっと、どうした?」

 

「あのね、おにいさんといるとうれしいの」

 

「嬉しい?」

 

「うん。すっごくうれしい」

 

「そうか、嬉しいか。」

 

「・・・」

 

青年は蒼人のやりたい様にやらせていた。

そして、自分も幸福を感じていた。

 

「あ、ここにいたんですね?探しましたよ。」

 

「ん?おぉ、すまん。」

 

青年の元へ、眼鏡をかけた男性が

やってきた。

 

「おや?この子は?」

 

「たぶん、どこかから迷い込んだんだろ。

君、お名前は?」

 

「ひろと!」

 

「ひろと君か。どうしてここに来たんだい?」

 

「あのね、おねえさんにがくや?で、

まっててっていわれたの!」

 

「あぁ、どうやら楽屋とスタジオを

間違えたみたいですね。」

 

蒼人の説明で、眼鏡の男性は理解した。

 

「らしいな。よし、お兄さんが

連れてってあげよう」

 

「え!?そんな、それなら私が。

次があるんですよ?」

 

「大丈夫、すぐに戻る。それに」

 

「?」

 

蒼人は首を傾げ。

青年の行動に、眼鏡の男性は驚いていた。

しかし、青年の顔はとても穏やかで、

優しげな表情で、蒼人を見ていた。

 

「・・・この子と少しお話ししたいんだ」

 

「ぼくと?」

 

「そう」

 

「わーい!」

 

蒼人は喜んだ。

彼は、誰と話していても、

とても笑顔になるのだ。

 

「まったく・・・すぐに戻ってくださいね?」

 

「わかった」

 

そう言うと、青年は蒼人を抱き抱え、

進んで行った。

 

「ひろとくん。

今日は何でスタジオに来たんだ?」

 

「あのね、おねえさんとおしばいするの!」

 

「へぇ〜、お姉さんと。お姉さんは女優なのかな?」

 

「そう!あのね、あのね!

おねえさんとおにいさん、

いっしょだったの!」

 

「そうなの?」

 

「うん!」

 

「そっか。昔共演してた人かな。

そういえば、ひろとくんは

何処から来たんだい?」

 

「んっとね、むこうからきたの!」

 

「なら、Bスタジオだな。よし、行こうか」

 

「あい!」

 

青年は蒼人と話しながら進んで行った。

そして、蒼人も楽しそうに話していた。

 

「もぅ、何処行っちゃったのよ、ひーくんは〜」

 

星菜は、行方不明になっていた蒼人を

探し回っていた。

中々見つからない為、心配していたのだ。

 

「・・・!?」

 

「あ、おねえさんみっけー!」

 

「ひーくん!!もう、何処行ってたの?心配したのよ?」

 

青年の腕から離れ、

蒼人は星菜の元へ向かった。

蒼人が見つかったのが嬉しかったので、

思い切り抱きしめた。

 

「ごめんなさい」

 

「もう〜、無事でよかった。」

 

「ひひ〜」

 

2人の様子を見ていた青年が、

頃合いを見て声をかけた。

 

「・・・よかったね、ひろとくん。

おねえさんに会えて」

 

「ありがとうおにいさん!」

 

星菜は青年の顔を見て、

優しげな表情で言った。

 

「・・・すみません。

甥っ子を連れてきていただいて。」

 

「いえ。偶々見つけただけですから」

 

「偶々、ね」

 

「そう。偶々」

 

星菜は微妙な空気を感じ取っていた。

だから、戻ろうと思ったが。

 

「あ!あのね、おねえさん!」

 

「どうしたの、ひーくん」

 

「おねえさんとおにいさんテレビでてた!」

 

「・・・よく覚えてるわね」

 

「ひひー」

 

「賢い子ですね」

 

「えぇ、それにとってもいい子」

 

「そうか・・・」

 

青年と星菜は、優しく蒼人に微笑みかけた。

蒼人はそれに返す様に笑った。

 

「もう、行きますね。次があるから」

 

「え、えぇ。ありがとう」

 

青年は、蒼人を送り届けたので、

戻ろうとしていた。

 

「いいんだ、これぐらい。ひろとくん」

 

「なぁに?」

 

青年は蒼人の頭を撫でてこう言った。

 

「・・・家族は大切にするんだぞ?」

 

「??あい!」

 

「いい子だ。それじゃ、またね」

 

「バイバーイ!」

 

そう言うと、青年は戻って行った。

そして、星菜はそれを見送っていた。

 

「星菜、戻ったか。」

 

「えぇ。すみません、お待たせして」

 

その後、蒼人を連れ星菜は

スタジオに戻ってきた。

 

「いや、いい。それより、すぐ行けるか?」

 

「え!?もう!?ん〜少しだけ時間ください」

 

「わかった、少しならいいぞ」

 

「ありがとうございます!ひーくん、おいで」

 

「あい!」

 

星菜は蒼人を連れて、

セットから少し離れた場所で

蒼人と話していた。

そして、彼にとって、

幸せな報告をした。

 

「あのね、ひーくん。

これからやるお芝居はね、

お母さんって呼んでいいからね」

 

「ホント!」

 

「えぇ、本当」

 

「ホント?ホントにいいの?」

 

「うん、ホント」

 

「ありがとう!おかあさんだいすき!」

 

蒼人はとても喜んだ。

嘘の呼び名では無く、

真実の呼び名で母と呼べることを。

たとえ、芝居の中でも、

嘘を吐かなくてもいいことに。

 

「それとね、ひーくんに

伝えたいことがあるの。」

 

「なぁに?」

 

「ひーくん、お芝居は楽しいものなの。

だから、その楽しさをみんなに伝えなさい。

その真実は、観てる人達みんなが

楽しい気持ちになるから」

 

母として、役者の先輩として、

蒼人に伝えた。

芝居がどういうものか。

そして、どうなって欲しいかを。

 

「うん!たのしいのだいすき!!」

 

「よし、それじゃ行きましょうか」

 

「あい!」

 

こうして、撮影が開始された。

ドラマの内容はこうである。

妻に先立たれ、

仕事にばかりかまけていた父親が、

娘とのコミュニケーションが

取れなくなっていて、

悩んでいた所、

気分転換にカフェに入ったというものだ。

尚、このカフェの店主が星菜である。

 

「あぁ〜。どうしたら、いいんだ。」

 

「お待たせしました、アイスコーヒーです」

 

「ありがとうございます。」

 

男性の顔色を伺い、店主(星菜)が

声をかけてきた。

 

「どうしました?元気無いようですが。」

 

「聞いてくれます?実は娘のことなんです」

 

「娘さん?」

 

「えぇ、妻に先立たれまして。

それで、私が育てているんですが、

どうにも心を開いてくれなくて。

どうしたら、いいか。」

 

「あぁ、それわかります。」

 

「え?」

 

「・・・私も主人を亡くしましたから」

 

店主は寂しげな表情で話していた。

夫が、どれだけ大切なのか。

男性はすぐにわかった。

 

「そうなんですか?」

 

「えぇ。息子を残して」

 

「おかあさーん!!」

 

「ん?あぁ、こら。今お仕事中よ?」

 

息子(蒼人)は、元気におかあさんの

足元に抱きついた。

 

「だって、おかあさんといっしょだよ!

おかあさんがおしごとしてるの

ぼくだいすき!!」

 

「あぁ〜もぅ〜、この子は可愛いんだから〜」

 

息子の演技は最早、演技では無く、

素の状態そのものだった。

しかし、母が受ける影響は計り知れなかった。

最早、ただの八神家であった。

 

「・・・仲が良いんですね」

 

「え?あぁ!すみません、つい可愛くて」

 

「羨ましいです。私の娘もその子と同じぐらいの歳なので・・・」

 

そんな2人の姿を見て、男性は羨ましく思った。

自分では、こんなに素敵な家族になれないと。

心底落ち込んでいた。

 

「おじさんお元気ないの?」

 

「え?」

 

「あ、こら!」

 

蒼人は台本上では、

星菜としか掛け合いが無かった。

しかし、蒼人はそんなことは気にせず、

男性に声をかけていた。

そして、それを見た監督はカメラを止めず、

そのまま続けさせた

 

「ん?あぁ、少しね」

 

カメラが止まっていない事が気になったが、

撮影を止めるわけにはいかなかったので、

男性は演技を続けた。

 

「ひひ」

 

「おっと、どうしたんだい?」

 

息子は、男性の足に抱きついた。

 

「あのね、おげんきないときに

いつもおかあさんがぎゅってしてくれるの」

 

「あ・・・」

 

星菜は全てを察した。

そして、喜びで満ちた。

 

「それにね、おかあさんにぎゅってすると

とってもげんきになるの!

だから、ぼくぎゅーすき!」

 

「・・・何となくわかりました、

お姉さんとこの子が仲が良い理由が。」

 

息子の心意気に胸を打たれた、

男性は自分に足りないものが何なのか、

気づき始めていた。

 

「そんなに、大層なことじゃないんです。ただ」

 

星菜は、蒼人の元へ歩み寄り、

抱き上げた。

 

「私は、この子を愛してる。

その想いを、言葉にして伝えてるんです。

だって、好きなことを口にするのに、

ダメな理由なんて無いでしょ?」

 

「そうですね、そうですよね!」

 

「はい。だから、仲良くなる秘訣は。

『愛』ですよ」

 

「ありがとうございます。

私も、娘に伝えてきます。

愛してるって。」

 

「はい、是非」

 

こうして、撮影は無事に終了した。

蒼人のアドリブにも似た演技は、

子持ちの撮影スタッフに刺さったようで。

スタッフは終始涙ぐんでいた。

星菜に至っては、自宅に帰りベタ褒めしていた。

その日の蒼人はかなり上機嫌だった。

 

そして、後にこの作品に関わった者はこう言った。

 

『これが、始まりだったのかもしれませんね』

 

蒼人は、他の共演者達に可愛がられていたので、

撮影を終えた星菜は金田一と話していた。

 

「今日はありがとうございました。

後、すみません。シーン勝手に変えたりして」

 

「いや、構わん。寧ろ、あれが良かった。

今日はありがとう、本当に助かった」

 

「いえいえ、お世話になった監督ですから」

 

「また、頼むな」

 

「はい!」

 

金田一は言いづらそうにしながら、

彼の中の答え合わせをしようとしていた。

 

「・・・1ついいか?」

 

「何ですか?」

 

「あの子、もしかして・・・」

 

「あ・・・気づきました?」

 

「何となくはな。演技の仕草や雰囲気が、

お前に似ていたからな」

 

「そこまで、見破られてるなら隠せませんね。

金田一さんの推察通りです。

あの子は、私の子です。」

 

「やはりな」

 

金田一は気づいていたのだ。

蒼人が星菜の息子であると。

 

「あの、無理を承知でお願いです。

あの子のことは」

 

「安心しろ、何も言うつもりは無い」

 

「よかった」

 

「1人で育ててるのか?」

 

「いえ、マネージャーやってる父と2人で」

 

「父親は?」

 

「・・・」

 

星菜の表情から、全てを悟った。

これ以上は、踏み込んではいけない。

詮索してはいけないと。

 

「わかった、これ以上は聞かない」

 

「ありがとう、ございます。」

 

「お前のことだ、お前が決めたらいい」

 

「はい」

 

「・・・なぁ、星菜」

 

「何でしょう」

 

「あの子は、いいものを持ってる」

 

「え?」

 

『もし、芸能人の子どもに生まれていたらと

考えたことはありますか?』

 

「お前を越えるだけの物を持ってると、俺は思ってる」

 

「そう言っていただけて、嬉しいです」

 

「そこで、1つ提案がある」

 

『この芸能界(世界)へのチケットが、

初めから、その手にあったなら』

 

「何でしょう?」

 

「彼を、八神蒼人を俺の演出する舞台に出してみないか?」

 

「え?」

 

『この出会いが』

『この出来事が』

 

『1人の子どもの未来と』

『1人の子どもの運命を』

『『変えることとなった』』

 

Scene3『始まり』 end




・各キャラの容姿説明(オリキャラのみ)
青年
容姿: マリクシザース(現在の年齢は20代歳)

眼鏡の男性
容姿: 風間裕也(現在の年齢は20代歳)
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