【推しの子〜アオの行方〜】   作:ジェナス_j

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Scene4『開演』

Scene4『開演』

 

「ひーくん、準備できた〜?」

 

「うん!」

 

蒼人は、星菜と共に出かけようとしていた。

 

「ひーくん、緊張してる?」

 

「んーん!たのしみ!」

 

「そっか〜」

 

「まさか、孫が舞台デビューする日が来るとは。夢のようだ」

 

「私よりも早いとは・・・

神様の「そのネタはもういい」最後まで言わせてよ!!」

 

「言わんでもわかる」

 

「もうー!!」

 

以前、星菜と蒼人がドラマに出た際に、

監督をしていた金田一に蒼人は気に入られた。

その伝手により、舞台に出ることとなったのだ。

初体験の舞台。

そして、母親と同じ道を辿れることに喜びを感じていた。

 

「おかあさん!」

 

「ん?どうしたのひーくん。」

 

「おかあさん、いっしょ?」

 

「ごめんね。お母さん、ひーくん送ったらお仕事行かないといけないの」

 

「そっか・・・」

 

蒼人は母も一緒に行ってくれると思っていた。

しかし、1人になるとわかったことで、とても悲しんだ。

 

「あ、でもね。金田一さんに挨拶するから、少しはいるわよ」

 

「ほんと!?」

 

「うん、本当。」

 

「わーい!」

 

「もう、ひーくんったら〜」

 

「ひひー」

 

少しの間だが、星菜も一緒にいるとわかり、蒼人は喜んだ。

ほんのひと時でも、傍にいられるのが幸せなのだ。

 

「あ、忘れるとこだった・・・はい」

 

「なぁに?」

 

「ひーくんが寂しくないように、お守りね」

 

「わぁ!クマさんだ!ありがとう!!」

 

「寂しい時はクマさんがいるからね」

 

「あい!」

 

蒼人は青いクマのキーホルダーを母からプレゼントされた。

星菜から貰えることも嬉しかったが、

母が自分を大切に思ってることが伝わり、とても嬉しかったのだ。

 

「おはようございます」

 

「おはようございまーす!!!」

 

「おぉ、星菜、蒼人来たか。」

 

「はい、今日からよろしくお願いします」

 

「おねがいします!!」

 

蒼人と星菜は、稽古場に到着した。

まだ、人は多くなく始まっていない状態だった。

 

「はい、よろしく」

 

「でも、本当にいいんですか?」

 

「あぁ、そんなに大規模のものじゃない。

それに、アイツにはいい刺激になるだろ」

 

「アイツ?」

 

「素質はあるんだが、どうも殻を破りきれてなくてな。」

 

「金田一さんがそこまで褒めるなんて、珍しいですね。」

 

「蒼人と同年代の子だ。これから伸びていくのは間違いない」

 

「まぁ。私も負けてられませんね」

 

「その内、お前を越えるかもな」

 

「あら、それは聞き捨てなりませんね。それで、その子はどこに?」

 

「あそこだ」

 

金田一は目で、示した。

その先には、ボブカットの青い髪をした女の子がいた。

 

「あら、可愛い子」

 

「どうも、人見知りしてるみたいでな。中々心を開いてくれないんだ」

 

その後も星菜は金田一と話していた。

その間に蒼人は、駆け出して行った。

 

「・・・」

 

女の子は、台本を読んでいた。

何かを忘れる様に。

 

「こんにちは!」

 

「ふぇ!?あ、こんにちは・・・」

 

蒼人は台本を読んでいた女の子に、

話しかけた。

いきなりだった為、とても驚いていた。

 

「あ、ごめんなさい。びっくりした?」

 

「う、ううん。その・・・台本読んでたから、びっくりして」

 

蒼人は、女の子の台本を見ながら、

こう思った。

 

「へー。がんばりやさんなんだね!」

 

「え?」

 

「だって、たくさんよんでるんでしょ?」

 

「え?な、何でわかるの?」

 

「だって、だいほん、ボロボロだよ?」

 

「え?あ、あの。これは・・・」

 

女の子は、台本をボロボロにする程、読み込んでいた。

それに一目で気付いた蒼人は、凄いことだと目を輝かせていた。

 

「ぼく、ひろと(蒼人)!おなまえは?」

 

「うぇ?え、く、黒川あかね。」

 

「あかねちゃんだね!よろしく!」

 

「よ、よろしく」

 

「ひひ。ねぇ、あかねちゃん」

 

「な、なぁに?」

 

「あかねちゃん、むつかしいおかおしてたよ?」

 

「え!?」

 

「だいほんよんでた、あかねちゃんくるしそうだった」

 

「そ、そんなことないよ・・・」

 

あかねは否定していたが、本心は違った。

それを見破られてしまった為、

取り繕ったのだ。

 

「・・・あかねちゃん、

おしばいたのしくない?」

 

「たのしい!たのしいよ!でも・・・」

 

あかねは、思い出していた。

初めて演技を始めた日。

そして、始めた理由を。

だが、それが自分を苦しめた。

 

「わぁ!いっしょ!」

 

「え?」

 

「ぼくもおしばいたのしいからすき!」

 

「わ、わたしも好き」

 

「なら、ともだちだね!」

 

「え?友達?」

 

「うん!おしばいすきなら、ともだちだよ!」

 

「・・・」

 

あかねは、過去のことを思い出していた。

友達になりたかった。

もっと、話したかった。

だが、それが出来なかったことを。

 

「で、でもわたし。人のこと考えるの苦手だから・・・」

 

過去のトラウマにより、

人と距離を取ろうとしていたのだ。

傷つけるのが、相手を不快にさせるのが嫌だったから。

 

「なら、あそぼ!」

 

「え!?」

 

「あそんだら、たのしいよ!」

 

「で、でも、けいこがあるよ?」

 

あかねは、蒼人の申し出に驚いた。

しかし、蒼人はあかねの話を聞かず、

星菜の元へ走って行った。

 

「おねえさーん!」

 

「あら、どうしたのひーくん。」

 

「あのね、あかねちゃんとあそんできていい?」

 

「あかねちゃん?」

 

「ひろとくん!?なにやってるの!」

 

あかねは、蒼人がやっていることに

驚いて追いかけて来た。

 

「このこだよ」

 

「もう友達になったの?」

 

「うん!」

 

「可愛い子ね。初めまして。」

 

「うぇ!?え、星菜さん?」

 

「あら、知ってるの?」

 

「は、はい!ドラマ観ました。」

 

「あらぁ!ありがとう」

 

星菜は喜んだ。

こんなに可愛い子が、自分のことを知っていたのだと。

そして、あかねも喜んだ。

好きな女優が目の前にいて、優しく微笑んでくれたから。

 

「ひろとくん、星菜さんと知り合いなの?」

 

「うん、おねえさんなんだー!

ねぇ、おねえさん!あかねちゃんとあそんでいい?」

 

「ダメよ、そろそろ稽古でしょ?」

 

「あ、そうだった・・・」

 

蒼人は星菜に指摘され、

稽古の開始が近いことを思い出した。

 

「少しならいいぞ」

 

「「え!」」

 

「いいの!?」

 

「あぁ。どうせ、まだ始められそうに無いし。子役は子役同士、遊んでこい。」

 

金田一は、子ども達が仲良くなるきっかけを作ろうと笑顔で了承した。

 

「わーい!ありがとうございます!おじちゃん!」

 

「こら、ひーくん!

おじちゃんじゃないでしょ!」

 

「はっはっは!

長いこと演出やってるが。

子役におじちゃんって、

言われたのは久しぶりだな。」

 

その言葉を聞き、星菜は驚いていた。

 

「え?前にも居たんですか?」

 

「おぉ、いた。今もなんだがな。」

 

「恐れ知らずな子ですね・・・」

 

「まぁ、アイツは息子みたいなもんだからな。

さてと、蒼人、遊んで来ていいぞ。但し、1時間だけだぞ。」

 

「わーい!!ありがとうございます!」

 

「え、えっと・・・」

 

「まだまだ、稽古はあるんだ。今日くらい、行ってこい」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

あかねは丁寧にお辞儀をし、お礼を言っていた。

その表情は、緊張もあったがとても嬉しそうだった。

 

「演出が良いって言ったなら、何も言えないわね。

ひーくん、約束は守るのよ?

あと、危ないことしたり、遠くに行ったらダメだからね?」

 

「はーい!あかねちゃん、いこう!」

 

「うん!あ、あのね、ひろとくん」

 

「なぁに?あかねちゃん」

 

「えっと・・・わ、私もひーくんって呼んでいい?」

 

「うん!いいよ!」

 

「ありがとう!」

 

「ひひ。行こう、あかねちゃん」

 

「うん!行こう、ひーくん」

 

蒼人は、あかねの手を引き、

外へ出た。

 

「あかねちゃん、なにしてあそぶ?」

 

「んっとね、んっとね・・・お、おままごとしたいな」

 

「いいよ!やろう!なにやりたい?」

 

「えっとね、えっとね!わ、私がお嫁さんで、ひーくんが旦那さんは?」

 

あかねは、顔を赤くして蒼人にお願いしていた。

 

「いいの?」

 

「うん!いいよ!」

 

「わかった!なら、だんなさんやる!」

 

2人は時間いっぱい、楽しく遊んでいた。

そして、この時間が2人にとってとても大切な思い出となった。

 

こうして、あかねは蒼人と出会った。

この日以降、2人は徐々に近づいて行った。

最初は怖がっていたあかねも、

蒼人の優しさと思いやりに絆されていき、心を開いていった。

稽古の中で、上手くいかないこともたくさんあった。

その度に、蒼人は大丈夫だと笑った。

そして、あかねも笑った。

蒼人が失敗し落ち込むと、今度はあかねが傍で励ましていた。

2人は、共に歩んで行った。

 

そして2ヶ月の稽古を終え、本番を迎えた。

 

「あぁ〜、もうひーくん可愛い!何て可愛いの!!」

 

・・・親バカ、もとい星菜は令息の格好をした蒼人を見て、感極まっていた。

本当は抱きしめたかったが、本番が近いことと、

衣装を崩したくないという理由で必死に感情を押し殺していたのだ。

 

「ほんと!」

 

「うん、本当。本当に可愛い!!」

 

星菜は、仕事を休みにし本番を観に来ていた。

この日のスケジュールを確保する為に、

父である隼人は死ぬ気で調整していた。

そして、関係者権限に加え、

本人のネームバリューを使いに使い倒し、楽屋に現れたのだ。

勿論、親戚のお姉さんという体で。

・・・親バカもここまで来ると天晴れである。

 

「ひひ〜、でもね、でもね?あかねちゃんもかわいいの」

 

そう言っていた、蒼人の表情はとても照れくさそうだった。

星菜は、蒼人の表情から勘付いた。

しかし、この場で言うべきでは無いと考え、

言葉を呑み込んだ。

 

「そっか〜、あかねちゃん可愛いのね」

 

「うん!」

 

そう答えた蒼人の表情は、とても輝いていた。

 

「ひーくん!準備できた?」

 

「うん、できた!」

 

あかねの準備が出来た様で。

令嬢の衣装を着て、蒼人を呼びにやって来た。

 

「あ、星菜さん。おはようございます。」

 

「はい、おはようございます。あかねちゃん、可愛いわね〜!」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「あかねちゃん、とってもかわいい」

 

「へ!?そ、そう?」

 

「うん!おひめさまみたい!」

 

「う、うぇ!?あ、あの・・・ひーくんもかっこいいよ!」

 

「ほんと?」

 

「うん!」

 

「へへ、ありがとう」

 

蒼人は星菜が過去に見たことがない表情で笑っていた。

それを見ていた、星菜はとても幸せそうだった。

これから先も、もっと見ていたいと思う程に。

 

「おーし、全員いるな?そろそろ幕上がるぞ!」

 

『はい!!』

 

「じゃ、ひーくん。客席から見てるからね。」

 

「はーい!いこう、あかねちゃん」

 

「行こう、ひーくん!」

 

蒼人はあかねの手を取り、舞台に向かった。

最初は顔を赤くしていたが、あかねは握る力を強めた。

 

そして、彼等の物語が開演した。

 

「さぁ、開演だ。全部出してこい」

 

幕が上がった。

 

作品の内容だが。財閥の令嬢と御曹司が、パーティ会場で出会った。

2人の恋愛を描いた作品であり、あかねと蒼人は幼少期を演じる。

 

女の子は、母に問いかけた。

 

「お母様、本当にパーティに行かないといけないの?」

 

「えぇ、財閥の娘なのだから当然です」

 

「で、でも私は・・・」

 

「麗羅(れいら)、あなたはこの家の娘です。なので、我儘は許されません。」

 

「・・・わかりました」

 

母親は娘から離れ、身支度を始めていた。

 

「お母様の我儘は、許されるのに?」

 

男の子は、父に問いかけた。

 

「お父様。何故、僕がパーティに出席するのですか?」

 

「決まっている。亜藍(あらん)、お前が我が財閥の跡取りだからだ。」

 

「それと、パーティの出席に何の関係が?」

 

「大人の対応を学ばせる為だ。

お前はいずれ、跡を継ぎ、会社を経営する。

その為に、パーティで周りをよく見て、学んでおけ。

この世界がどうやって回っているか。」

 

「はい、お父様」

 

父親は身支度を済ませる為に、息子から離れていった。

 

「・・・僕の世界がどう回っているのか、見てくれないんだね」

 

女の子と男の子は、パーティ会場に到着した。

煌びやかな料理やシャンデリア。

とても、輝いていた。

しかし、その中にある空気は真逆で、とても黒いものだった。

大人達に連れ回され、2人とも疲れていた。

なので、休憩の為、隅に移動したのだ。

 

「「・・・はぁ」」

 

2人は深く溜息を吐いた。

こんな大人の世界は嫌だと。

自分達の物語を進めたいと。

 

「「え?」」

 

2人とも、近くに人が居るとは気づいていなかった為、驚いていた。

 

「・・・君もパーティに呼ばれたの?」

 

「ううん。私は、連れてこられた」

 

「同じだね。僕も、連れてこられたから」

 

「そっか・・・」

 

「・・・何だか、息が詰まる」

 

男の子は、女の子が自分と同じ境遇だと気付き、少しだけ本音を吐いた。

 

「え?」

 

「ここは、窮屈だよ。大人の嫌な空気がする」

 

「・・・私、ここ好きじゃない」

 

「僕も、一緒」

 

「うん」

 

男の子は、決意し女の子に問いかけた。

 

「・・・ねぇ」

 

「何?」

 

「抜け出そっか?」

 

「え!?だ、ダメよ!勝手に抜け出したら怒られるわよ!」

 

「このまま、ここで過ごしたい?」

 

「あ・・・」

 

「僕は嫌だ。だから、抜け出すんだ」

 

「で、でも、見つかったら・・・」

 

「大丈夫だよ」

 

「え?」

 

「僕がいるから」

 

「あ・・・う、うん」

 

男の子は優しく微笑んだ。

その微笑みを見て、女の子は安心し、自分も行きたいと思った。

 

「よし!行こう!」

 

「え!?あ、ちょっと!」

 

男の子は、女の子の手を引き走り出した。

 

「行こう!僕、亜藍(あらん)。君は?」

 

「麗羅(れいら)・・・」

 

「よろしくね、麗羅!」

 

「うん。よろしく、亜藍」

 

こうして、2人はパーティ会場を抜け出した。

そして、夜道を歩いていた。

 

「わぁ〜真っ暗だね。」

 

「でも、月明かりがあるからまだ明るいね。」

 

「うん。お月様があってよかー」

 

2人を照らしていたライトが、機材トラブルにて消えてしまった。

 

「ひゃ!?え、あ、あかりが・・・」

 

急なトラブルにより、あかねはパニックになっていた。

そして、それにより台詞が抜けてしまった。

これが、更にあかねを追い込んでしまった

 

『ど、どうしよう!

台詞が言えなくなっちゃった、ど、どうしたら・・・』

 

「お月様、隠れちゃったね」

 

「え?」

 

「危ないから、ここで待ってよう?たぶんすぐ出てくるよ」

 

そう言って、蒼人はあかねの手を握っていた。

あかねが安心する様に、あかねが怖くないようにと。

 

「う、うん。そうしよう。」

 

「大丈夫?怖くない?」

 

「うん。平気、あなたがいるから」

 

「よかった。実は、僕怖いから麗羅がいてくれるのが嬉しいんだ」

 

「わ、私も、亜藍がいてくれるから、嬉しい。」

 

「これで、怖くないね」

 

「うん!」

 

そういうと、ライトが点灯した。

 

「あ、お月様が戻った!」

 

「うん、よかった。」

 

あかねは、ライトが戻ったことに安心していた。

そして、蒼人は台本に合流し、演技を再開した。

 

「あ、見て!お星様!」

 

「本当だ、綺麗〜!」

 

亜藍は、星を見ていた麗羅の笑顔を見て幸せを感じていた。

そして、この笑顔を守りたいと思った。

 

「・・・麗羅。また、ここで星を見ようね」

 

「うん!絶対見ようね。約束だよ、亜藍!」

 

「うん。約束」

 

こうして、2人のシーンは終わった。

トラブルに見舞われ、一時はどうなるかと思ったが、2人は乗り切った。

そして、千秋楽を迎えた。

 

「金田一さん、凄くいい作品でした!ありがとうございました。」

 

「お、おう。大丈夫か?」

 

閉演後、星菜はすぐに金田一の元に挨拶へ向かっていた。

演技中の蒼人を見ていた際に、我が子の活躍が嬉しかった為、

終始泣きっぱなしで眼を腫らしていたのだ。

 

「えぇ!本当に、今回はありがとうございました。」

 

「いやいや、お礼を言うのはこっちだ。

本当に、あの子はいい子だ。役者としてだけでなく、人としてな。」

 

「・・・とても、嬉しい言葉です」

 

「どうだ、今度演出する作品もあるから、蒼人を出さないか?」

 

「え!?い、いいんですか?」

 

「あぁ。あの子の行く末を、見てみたくてな。」

 

「ありがとうございます。本人と話してみますね」

 

「おぉ、頼む。今回は、本当にありがとう」

 

「いえ、こちらこそお世話になりました。」

 

その後も2人は話し続けていた。

星菜と金田一が話していた頃、

蒼人もあかねと話していた。

 

「あかねちゃん、たのしかったね!」

 

「うん!すっごく、すっごく楽しかった!ひーくんのおかげだよ!」

 

「ぼくの?」

 

「うん!ひーくんが一緒だったから、楽しかったの。

だから、ひーくんのおかげ。」

 

あかねは、心の底から楽しかった。

今まで辛いこともあり、辛い思い出もあった中で、

彼との時間がとても楽しく幸せなものだったから。

 

「ぼくも!あかねちゃんといっしょで、楽しかった!」

 

「・・・あ、ありがとう」

 

「?あかねちゃんだいじょうぶ?」

 

「う、うん!へ、平気・・・」

 

蒼人からの思いがけぬ言葉に、

あかねは顔を真っ赤にした。

そして、恥ずかしさから顔を隠してしまったのだ。

 

「ひーくん、そろそろ帰るわよ?」

 

「はーい!」

 

「え!?も、もう帰っちゃうの?」

 

「うん、もうかえらないといけないんだ〜」

 

星菜に呼ばれ、帰りの時間となった。

蒼人は笑顔で帰ろうとした。

だが・・・

 

「・・・やだ」

 

「へ?」

 

「やだ。ひーくんともっとお話ししたい。

ひーくんともっと一緒に演技したい」

 

あかねは泣き出した。

彼女にとって、彼との日々はとても楽しいもので、

何よりも幸福の時間だった。

だから、彼と離れたくなかった。

 

「私、もっと上手になるから。

もっと、上手になって、

今度はもっとひーくんと上手く演技するから・・・」

 

「あかねちゃん・・・」

 

「だから、やだぁ。ひーくんとバイバイしたくない」

 

あかねは蒼人に抱きついた。

いや、しがみついたというべきだろう。

もっと一緒にいたい。

もっと話したい。

彼の知らないことを知りたい、

彼のことをもっと・・・

 

「あかねちゃん」

 

「ひっぐ、な、なぁに?」

 

「おうたうたお!」

 

「へ?おうた?」

 

「うん!あのね、

ぼくがおかあさんからおしえてもらったおうたがあるの!

だから、いっしょにうたお!」

 

「え?でも、私知らない」

 

「だいじょうぶ!ぼくがおしえてあげるから」

 

そう言うと、蒼人はあかねの手を握り、

微笑んだ。

その笑顔を見てると、あかねは何でも出来る気がしていた。

 

「うん!」

 

「それじゃあ、いくね」

 

彼は歌い出した。

母から授かった、大切な歌を。

今度は、目の前の女の子の為に。

 

男の子は女の子の為に歌った。

大切に、想いを伝える様に。

女の子が寂しくないように。

 

「ひーくん、上手!お歌上手いんだね!」

 

「ひひ、あかねちゃんもうたお!」

 

「え!?でも、ちゃんと歌えないよ・・・」

 

「だいじょうぶ。ぼくといっしょだから」

 

「ひーくん・・・うん!」

 

蒼人は微笑んだ。

その微笑みが、あかねに勇気をくれる。

 

「それじゃ、もういっかいいくね?」

 

「うん!」

 

「それじゃ、うたお『ベテルギウス』」

 

今度は2人で歌った。

男の子は女の子が寂しくないように

女の子は男の子とまた会えるように

 

「すごーい、あかねちゃんもう、うたえてるよ!」

 

「そ、そう?」

 

「うん!あかねちゃんすごい!!」

 

蒼人はあかねに、自分の思っていた言葉を与えた。

そして、それが嬉しくて、あかねも蒼人へ精一杯の言葉を贈った。

 

「ひ、ひーくんがいっしょだから。ひーくんが

一緒だと、何でも出来るって思えるの。その・・・ひ、ひーくんがいたら」

 

「ぼくが?」

 

「うん・・・」

 

蒼人は少し考え、閃いた。

 

「ひひ、わかった!」

 

「え?」

 

蒼人は、星菜の元へ行くと、

すぐにあかねの元へ戻ってきた。

 

「あかねちゃん、これあげる」

 

蒼人は母の星菜から貰った、

青いクマのキーホルダーをあかねにプレゼントした。

 

「かわいい、いいの?」

 

「うん!あかねちゃんにげんきになってほしいんだ〜」

 

「あ、ありがとう、ひーくん。大切にするね」

 

「ひひ〜」

 

「ま、また一緒に演技やろうね!」

 

「うん、またね!」

 

蒼人は星菜と共に帰っていった。

あかねは、姿が見えなくなるまで見送っていた。

 

「また、会いたいな」

 

クマのキーホルダーを大切に握りしめ、

彼女は思い出していた。

蒼人との思い出を。

今まで、人と関わるのを避けてきた。

しかし、蒼人との出会いが、

彼女の運命を変えたのだ。

そして、彼女に新しい感情が芽生えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・だが、蒼人とあかねはこれ以降会うことはなかった』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インタビュー①【役者編】

 

【黒川あかねさんは天才役者と評判ですが】

 

「そう言っていただけて、嬉しいです。

ですが、私はまだまだです。

尊敬する人、憧れてる人の背中を追い続けて来ました。

だから、これからも精進していきます。」

 

【今回の作品に出てのご感想を】

 

「今作は今まで関わった作品の中で、特に思い入れが強く。

そして、強いこだわりを持ちました。

それは、彼も同じだと思いますが・・・」

 

【彼とはもしかして】

 

「うぇ!?あ、こ、これ!オフレコでお願いします!・・・あぁ〜ごめん」

 

【最後に一言お願いします】

 

「演技は楽しいものです。

だから、その楽しさを皆様に届けられる様に演じました。

それが、皆様に届きます様に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

11年後

 

「ねぇ、午前中で授業終わったし、何処か寄ってかない?」

 

1人の少女は、運命に導かれた

 

「ごめん!この後、用事あるんだ」

 

「えぇ〜、まぁしょうがないか。」

 

「ごめんね、この埋め合わせは今度するから」

 

「いいわよ、忙しいんでしょ?」

 

「ごめんね、それじゃ!」

 

少女は友達にお詫びを言い、去っていった。

 

「・・・春になったんだ」

 

桜を眺めながら、

キーホルダーを一撫し、

彼女は思い出していた。

楽しかった、あの日々を。

 

「・・・ひーくん」

 

彼女と出会うまで、あと・・・

 

Scene4『出会い』 end




衣装一覧
あかね(令嬢)
カタリナ・クラエスの幼少期

蒼人(令息)
スタンダードな子ども用の黒いタキシード
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