Scene5『幕引き』
「お疲れ様でした。
また、よろしくお願いします。」
星菜は今日の撮影を終え、
帰宅しようとしていた。
「は〜、今日のお仕事終〜わり。
さって、お迎え待って・・・ん?」
星菜のスマホに、1件の着信が入った。
「はい、もしもし。
あ、久しぶり!元気?
うん、うん。
あ、本当に?
えぇ、いいわよ。
少しなら、時間あるし。
それじゃ、後でね。」
星菜は、通話を終えると、
足早に去っていった。
その後、しばらくして、
星菜は自宅で電話をしていた。
「はい、はい。
え!?本当ですか?」
「?」
母の喜び様に、
何が起こっているのかわからなかった
蒼人は、首を傾げながら母を見ていた。
「はい!是非やらせてください!
ありがとうございます!」
「どうした、星菜」
「あのね、お父さん。
劇団四音の舞台決まったの!」
「おぉ!凄いじゃないか!」
「やったー!
漸く夢に手が届いたわ!!」
劇団四音とは、
役者なら誰もが憧れる、
商業演劇の代表である。
その舞台に立てると、星菜は喜んだ。
「よく、頑張ったな」
隼人は星菜の肩に手を置き、
微笑みながら、
星菜へ賛辞を送った。
その笑みを見た星菜は、
優しく笑いかけた。
「お父さんのおかげ。
お父さんが居なかったら、
私はここにいない。
だから、お父さんのおかげよ。」
「そんなことはない。
全部お前が頑張ったんだ」
「いいえ、お父さんのおかげ。
お父さんが支えてくれて、
助けてくれた。
だから、お父さんのおかげなの」
「星菜...」
星菜と隼人は、
親子二人三脚で歩いてきた。
父が娘を支え、
娘は父の支えを受け、
歩み続けてきた。
苦しいことも、大変なこともあったが。
家族に支えられてきた。
「それに、お父さんは私が
居ない間に蒼人を守ってくれた。
だから、全部お父さんのおかげ。
ありがとう、お父さん」
「...当たり前だ。
家族は支え合うから、家族だ。
だから、お前は何も心配するな」
「お父さん...」
感極まり、抱きついた。
こんなにも優しく、
思いやりのある父を持てたこと。
そして...
「おかあさん?どうしたの?
おげんないの?」
「あぁ、ごめんね。ひーくん。
そんなことない、
そんなことないわよ。」
泣きそうな表情で慰めてくれた
蒼人を抱き上げ、
目線を合わせ話した。
「ほんと?」
「えぇ、本当。」
「ひひ〜。おかあさん
げんきなのうれしい!」
「...ひーくんのおかげよ」
「ふぇ?」
優しく微笑み、
頭を撫でながら、
息子に語りかけた。
「ひーくんが居るから、
お母さんは嬉しいの。
ひーくんが居てくれるから、
お母さんは頑張れるのよ。」
「ぼく?」
「そう。ひーくん」
母から受けた言葉の意味を、
まだ深くは理解出来ていなかった。
だが、この感情が何なのかはわかった。
だから、彼は彼の持てる全てで。
「ひひ!ぼくも!
おかあさんといっしょなの
うれしいの!
おかあさんがわらってくれると、
とってもとってもうれしい!」
「あぁぁー!
もう、ひーくん!」
「ひゃー」
今まで我慢してきたが、
我慢出来ず、
遂に思い切り蒼人を抱きしめた。
「ひーくん。
お母さんは、ひーくんが大好きよ。」
「ぼくも!
ぼくもおかあさんだいすき!」
「...ひーくん。ありがとう」
「ひひ〜」
その後も、親子で戯れていた。
蒼人の存在が、
母にとってはとても大切だった。
自分を癒してくれる。
何よりも大切な...
しばらく、
親子の時間を過ごし、
星菜は蒼人を寝かしつけた。
「...本当。天使みたい」
息子の天使の様な寝顔に、
優しげな表情で微笑み、
幸福を噛み締めていた。
「...星菜」
「なぁに?」
「少しいいか?」
「いいわよ。どうしたの?」
隼人と話しをする為、
リビングに呼び出した。
そして、真剣な表情で
話し出した。
「...蒼人には、いつ話す?」
「それは、どの話?」
「色々だ。
父親のことだけじゃない。
お前の...」
星菜は、取り繕う様に笑い
問いかけに答えた。
「わかってる。
ちゃんと、話さなきゃいけないことは」
「...私にも、
話せない相手なのか?」
「...これだけは、
私が抱えていく。」
「そうか」
星菜の表情から、
決意の固さを感じた。
だから、これ以上は聞かない。
聞いてはいけないと、
心に誓った。
だが、それでも譲れないものがあった。
「だがな、せめて蒼人にだけは」
「ちゃんと、話す。
だけど、今は」
息子に話さなければならない。
普段気丈に、
笑顔で振る舞っていた星菜も、
この時ばかりは、
表情を暗くしていた。
「わかった。お前に任せる」
「ありがとう、お父さん」
「だが、もう一つの話しは、
必ずしなければならない。
それに、さっきの話しだが、
大丈夫なのか?」
「えぇ。寧ろ、今しかないから。
まだ、大丈夫な内に」
「はぁ、お前は本当に」
そう語る彼女の表情から、
もう何を言っても止まらない。
止められないと悟った。
だからこそ、支えていきたいと思った。
たった1人の娘を。
そして、自分の孫の為に。
「...この話しは、ちゃんとする。」
「いいのか?」
「えぇ。
話さなきゃ、いけないから」
「わかった。」
言わなければいいのかもしれない。
しかし、事実を伝えなければならない。
最後は必ずわかるのだから。
「ありがとう。
何も言わないでくれて」
「誰の親だと思ってる」
「...お父さんとお母さんの元に
産まれてよかった。」
「私達は、お前を愛してる」
「ありがとう」
父と母。
2人から愛を貰った。
その愛が、自分を守ってくれた。
この真実が、星菜にとって
とても嬉しかった。
だからこそ、大切にしたかった。
そして、その愛を...
「もう寝ろ。
蒼人の傍に居てやれ」
「うん。ありがとう、お父さん」
星菜は蒼人の元へと向かった。
その表情には、
感謝と幸福が映し出されていた。
星菜は蒼人元へ着くと頭を撫で、
優しい顔でこう唱えた。
「...ひーくん。
私の所に来てくれて、ありがとう。
ひーくんは、優しくていい子。」
「んぅ...」
「...お母さんは、
あなたが大好きよ。
愛してる」
星菜は息子を抱きしめながら、
眠った。
抱きしめられた蒼人は
幸せな表情をしていた。
そして、朝を迎えた。
「ひーくん〜、起きなさい?」
「んぅ、おかあさん」
「はい、お母さんよ。
どうしたの?」
「ひひ〜」
蒼人は母に抱きついた。
息子からのハグが大好きな星菜は、
幸福に満ちていた。
「ほら、早くご飯食べましょう?」
「あい!」
「その前に、お着替えしようね〜」
「あい!!」
着替えを終え、
リビングにやって来た蒼人は、
周りを見渡した。
しかし、居るはずの人物が
居ないことに疑問を感じていた。
「おかあさーん」
「ん?どうしたの?」
「おじいちゃんは?」
「あぁ、おじいちゃんはお買い物よ。
少し遠くまで」
「えぇ〜!ぼくもいきたい!」
「だ〜め。ひーくんは、
お母さんと一緒」
「おかあさんと?」
「うん。お母さんと」
「わーい!
おかあさんといっしょ!」
蒼人の表情を見て、
彼女は躊躇った。
この幸せを壊したくない。
しかし、嘘を吐きたくない。
この想いが、彼女を苦しめた。
「...ひーくん」
「なぁに?」
「...ご飯食べよ?」
「あい!!」
2人は楽しく朝食を取っていた。
溢しそうになり、焦る星菜。
そして、叱られる蒼人。
だが、この2人の間には、
親子という絆と。
決して消えない、愛があった。
「ごちそうさまでした!」
「はい、お粗末様。」
星菜は、後片付けをしていた。
その間に、星菜は決意していた。
蒼人に真実を話そうと。
「ねぇ、ひーくん」
「なぁに?」
星菜はソファに座り、
蒼人を横に座らせた。
そして、重い口を
少しずつ開いていった。
「あのね、お話しがあるの。」
「おはなし?」
「うん...とっても大事なお話し」
「わかった。」
「あのね、ひーくん。お母さん、実は」
星菜が話そうとしていた際に、
インターホンが鳴った。
「もう、誰よこんな時に。」
星菜が扉を開けようとする間に、
何度もインターホンが鳴っていた。
「はいはい。
今開けます、もう何ですか?
こんなに何度も」
星菜の腹部に、
ナイフが突き刺された。
「え?」
「はぁ、はぁ。
お前が悪いんだ。
お前が悪いんだ!!」
男は叫び出した、
激しい怒りと憎悪で、
目の前にいる星菜を罵倒した
「おかあさん?」
男の叫び声にびっくりした、
蒼人の目には、
彼にとって残酷な光景が広がっていた。
「俺達に内緒で、
子どもなんか作りやがって!
それを何年も黙ってやがったなんて、
俺達を騙したな!!」
「んぐ、ごっ、はぁ・・・はぁ」
腹部を刺された影響で、
星菜は血を吐き出した。
「何が真実を演じるだ。
お前は嘘ばっかじゃねぇか!!!」
苦しみの中、
意識が朦朧としてきた。
その中で、彼女は考えた。
『子どもを作ったのが悪いの?
何で?どうして?
あの子は、私の大切な..』
「ぞゔ、ね。
...わたしは、
嘘を吐いてたわ」
「ほら!やっぱり、
テメェは!「でもね」あ?」
「愛してるって...思って、お芝居した...
ずっと、みんなに...
えがおをとどけ、たくて...」
「な、何言ってんだ?」
「あ、おもいだした...
あなた、きょねん、
わたしがでたぶたい、
みにきてくれたよね?」
星菜は思い出した。
目の前の男性が、
昔から自分を追いかけてくれていた
ファンであったと。
「は?な、何言ってんだよ?」
「あ、それと...ことしのぶたいも、
たくさんみてくれたよね。
ありがとう...」
公演が終わり、
話しをする機会もあった。
その中で、
彼が笑顔だったことを思い出した。
彼女にとって、その笑顔が嬉しかった。
「や、やめろ、やめろよ」
「あなたには、うそかもしれない...
でも、わたしはしんじつを...」
「やめろぉーーー!!」
男は去っていった。
そして、星菜はそのままへたり込んだ。
「お、かあさん?」
「はぁ、はぁ...
ひーくん、大丈夫?」
「おかあ、さん?」
「ごめんね、ひーくん。
お母さん、ダメみたい」
「おかあさん?おかあさん」
「...ッゴホッゲホッ」
「おかあさん!?」
蒼人は、星菜に近づき、
声をかけ続けた。
吐血の量が多くなった。
そして、星菜は全てを悟った。
「...ひーくん」
「なぁに?」
「...愛してる」
「へ?」
もう、間に合わない。
だから、今伝えられる全ての思いを。
これから生きていく、息子に。
自分のありったけの思いを。
「はぁ...はぁ...うそって、ざんこくね
ひとをきずつけて、くるしめる。
だから、うそなんてだいっきらい。
あなたに...うそを...つかせて、
ついてきた。
つらいおもいばかりさせて...
ひとまえでおかあさんと
よばせてあげられなかった。
ごめんね。」
星菜は、涙を流しながら、
蒼人を息子を持てる限りの力で、
精一杯抱きしめた。
そして、在らん限りの全てを、
彼に与えた。
「こんなおかあさんだけど...
あなたにばかり、
つらいおもいいをさせてきたけど。
...わたしは、あなたをあいしてる。
ひろと...愛してる
これは、これだけは...真実だから」
「お、おかあさん...」
「おおきく、なっ、て...」
星菜の幕が降りた。
「お、おかあさん?おかあさん!」
蒼人は、母を起こそうとした。
何度も、何度も。
「おかあさん!!おかあさん!!!」
何度も呼びかけた、
誰よりも大切な。
そして、誰よりも愛している
「おかぁぁさぁぁぁん!!!!」
星菜が殺害されたニュースは、
その死にファンが絡んでいた
ということもあり、瞬く間に広がった。
その死を悲しむ者も多くいた。
しかし、その死を
当然の報いだと言う者もいた。
...真実を知らない者は、
彼女を悪だと決めつけた。
男の子は泣き続けた。
葬儀が終わっても、ずっと。
母との別れは、
彼の心に影を落とした。
深く、暗く。
全てを包み込む程に。
彼の笑顔は、光を失った。
第0章『プロローグ』 閉幕
インタビュー②【役者編】
「僕は...俺は、
演技って言葉が好きじゃないんです。
役者やってるのに、矛盾してますよね。
ただ、楽しくて、夢中で。
初めて、芝居を教えてくれた人が
こう言ったんです。
『芝居は楽しいものだから、
その楽しさをみんなに伝えなさい』って。
だから観てくれた人に、
少しでも楽しさが伝わったら
嬉しく思います。」
「...俺にとって、
演じることは真実だから。」
11年後
「お客様、当便は到着いたしました。」
「んぅ?ふぁ〜もう、着いたんどす?」
少年はCAに起こされ、
目を覚ました。
「はい、羽田空港に到着致しました。」
「ほんま、おおきに」
「いえ、またのご搭乗を
お待ちしております。」
「ほな、さいなら」
1人の少年は、愛に導かれた。
「...やっと、戻って来たんだ。」
少年は、空港を出て呟いた。
そして、1枚の写真に目をやった。
「絶対に見つけてやる」
この物語は、1人の少年が。
「俺は、真実が知りたい」
・・・いや、俺が
『真実を見つける物語だ』
「・・・母さん」
そして、物語は新たな幕を開けた。
第1章『再演』 開幕
・各キャラの容姿説明(オリキャラのみ)
八神蒼人
容姿: 白鳥藍良
※ 髪色: 亜麻色
瞳: 青
身体: 174cm