【推しの子〜アオの行方〜】   作:ジェナス_j

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Scene7『再開』

Scene7『再開』

 

「あかねさーん!お待たせ」

 

「蒼人君!

今日はありがとう、来てくれて」

 

電話の翌日、

蒼人はあかねに呼び出されていた。

話しがあると、呼ばれたのだ。

そして、夕方になり駅で

待ち合わせをした。

 

「いや、全然。暇だったし。

でも、話って何?」

 

「え!?あ、えっと...

とりあえず、どこか入らない?」

 

「?まぁ、いいけど」

 

「ありがとう!

それじゃ、行きましょう!

ちゃっちゃと、ささっと!

今すぐに!」

 

「え!?

あ、そんな押さなくても!」

 

蒼人はあかねに押されていた。

過去のあかねしか知らない為、

こんなに積極的な彼女に

困惑していた。

 

「それで、何処行くの?」

 

「んっとね...内緒」

 

人差し指を口元に当て、

柔らかくて笑った。

その笑顔は、見るものが見たら、

全員可愛いと言うほどのものだった。

 

「あかねさんの内緒、

めちゃくちゃ気になるんすけど」

 

しかし、

蒼人はあかねの行動に

裏があるのでは無いかと

勘繰っていた。

 

「だ、大丈夫!

悪い話じゃないから!!」

 

「もしかして、

俺詐欺られようとしてる?」

 

「!!」

 

「マジ?」

 

鎌をかけたつもりが、

まさかの事態だった為、

蒼人は驚いていた。

 

「ち、ち、違う!違う!

そんなんじゃないの!

詐欺じゃないの!」

 

「その慌てぶり、

めちゃくちゃ怪しいんすけど?」

 

「...やっぱり、隠せないよね」

 

「いや、バレバレだよ」

 

「あのね、

蒼人君にお願いがあるの。」

 

あかねは、隠せないと思い。

話し出した。

 

「何?」

 

「...着いてから、話していい?」

 

「わかった」

 

「ありがとう。」

 

あかねの表情から、

真剣な話しなのだと気づき、

蒼人はちゃんと聞こうと思った。

そして、目的地に到着した。

 

「着いたよ!ここなの!」

 

「...さっき、

詐欺じゃないって言ったよね?」

 

あかねは元気に目的地を指し示した。

しかし、蒼人の表情は凍っていた。

陽だまりの様な笑顔が嘘の様に。

 

「うん!詐欺じゃないの」

 

「いや、詐欺やないか」

 

「どこが?」

 

まるで自分はおかしくないと

言わんばかりの笑顔で、

答えていた。

しかし、

蒼人はそれどころではなかった。

 

「あのねぇ!

何で、俺が劇団ララライに

連れてこられてるの!?」

 

蒼人は劇団ララライの事務所に

連れてこられていた。

そこには、あかねが所属している。

つまり、それが意味するのは。

 

「出演交渉」

 

「んなこったろうと思った!」

 

「おぉ〜、頭の回転早いね〜」

 

「バカにしてる?」

 

「まっさか〜。

やっぱり、蒼人君才能あるよ〜」

 

「...帰る」

 

蒼人は、そのまま帰ろうとしていた。

 

「ちょちょちょ!

待って!

ねぇ、話聞いてくれるんでしょ!?」

 

帰ろうとしていた蒼人を

あかねが必死に引き留めた。

このまま帰すわけにはいかなかった。

 

「今聞いた。それじゃ」

 

「待ってぇー!

お願い!ちゃんと、説明するから!

ちゃんと話すからぁ!!」

 

「ほな、聞こか?

ちゃんと、理由あるんやんな?」

 

「わぁ、リアル関西弁」

 

「帰りますよ?」

 

「ごめんごめんごめん!

話すから!」

 

「早く話してください」

 

向き直り、

今度はちゃんと話しを聞こうとした。

そして、あかねも話し出した。

 

「あのね、舞台に出て欲しいの。」

 

「断る。それじゃ」

 

「早いー!!返事が早いーー!!」

 

「考えてないって、

この間話したよね?」

 

「そうなんだけどね?

蒼人君に話しが、

ある人がいるの。」

 

「誰なの?」

 

「金田一さん」

 

「え?」

 

「金田一さんが、

蒼人君に話しがあるって」

 

帰ろうとしていた蒼人の足が止まった。

その人物は自分にとって、

重要であり。

ケジメを付けなければならない人物だった。

 

「...それはズルいよ」

 

「へへ。

お話し聞いてくれるでしょ?」

 

「聞かないわけないよ。

というより、

会わないといけない。」

 

「来てくれる?」

 

「うん、行く」

 

あかねは、恐る恐る尋ねた。

そして、蒼人の了承を得ると

事務所へ案内し、応接室へと向かった。

 

向かってる最中に、

蒼人はある疑問を持った。

 

「ねぇ、思ったんだけど。

何で、金田一さんララライにいるの?」

 

「え?知らなかった?

金田一さんって」

 

遂に、扉が開かれた。

この扉の先は...

 

「来たか、蒼人。

久しぶりだな」

 

「...お久しぶりです。

や...蒼人です。」

 

「久しぶりだな。」

 

「金田一さん、

連れてきました。」

 

「ありがとう、黒川。

改めて、自己紹介しよう。

劇団ララライ代表の金田一敏朗だ。」

 

蒼人は懐かしい人物と再会した。

しかし、

そこには知らないこともあって。

 

「え!?

金田一さん、

ララライの代表なんですか?」

 

「知らなかったのか?」

 

「初耳です」

 

「...そうか」

 

金田一は納得した。

星菜がどの様に

彼と過ごしてきたのか。

 

「あ、何か飲みますか?

私、持ってきます」

 

空気が重くなったのを

感じたあかねが、

空気を変えようと呼びかけてくれた。

それに、蒼人は感謝した。

 

「すまんな。

コーヒー頼む」

 

「わかりました。蒼人君は?」

 

「俺も、コーヒーお願い。」

 

「わかった。待っててね」

 

「ありがとう」

 

蒼人がお礼を言うと、

あかねは給湯室に向かっていった。

そして、2人が残された。

 

「まぁ、座れ」

 

「はい、失礼します。」

 

座ったのを確認し、

話しが再開された。

 

「...何年振りだ?」

 

「大体、10年ですかね。」

 

「そうか、10年か。」

 

「はい」

 

蒼人が東京を出て、

10年が経過した。

その時間が現すものを、

金田一はわかっていた。

 

「いつ帰ってきた?」

 

「昨日です。

今年から、高校生なので」

 

「そうか。

入学おめでとう」

 

「ありがとう、ございます。」

 

「どこに行くんだ?」

 

「...陽東高校です」

 

「...そうか。

何で、そこにした?」

 

「校風、ですかね。」

 

そう答えた蒼人の表情は、

子どもの様な優しげな笑みだった。

 

「そうか。

それならいい」

 

そう答えた、

金田一の表情は優しさと懐かしさ。

そして、寂しさが映し出されていた。

 

「お待たせしました。

コーヒー2つです。」

 

「ありがとう、あかねさん。」

 

「黒川、ありがとう。」

 

「いえ、これぐらい。」

 

あかねが飲み物を持って入ってきた。

なるべく、空気が重くならない様に、

笑顔を作り。

 

「黒川、持ってきてくれた所すまんが。

蒼人と2人にしてくれないか?」

 

「あ...はい。

わかりました。

レッスン室にいるので、

何かあったら呼んでください。」

 

「あぁ、わかった」

 

「蒼人君、後でね」

 

「うん、後で。」

 

あかねは金田一に会釈をし、

応接室を後にした。

 

そして、

蒼人と向き合って話しが始まった。

 

「さて、改めてだな。

久しぶり、元気だったか?」

 

「えぇ、何とか。」

 

「星菜、お母さんの葬儀以来か。」

 

「えぇ。あの、母の葬儀に

参列してくださって、

ありがとうございました。」

 

蒼人はしっかりと頭を下げた。

その姿に、彼が大人になっていること。

そして、時間が経ったことを実感した。

 

「...気の毒だったな」

 

「...もう、10年前です」

 

「昔は、おじちゃんなんて呼んでた奴が、

こんなにデカくなるぐらいだ。

10年は長いな」

 

「一生に、感じられました」

 

「...あれだけ仲の良い親子だったんだ。

そう感じて当然だ。」

 

蒼人の表情には、

悲しさが映し出されていた。

金田一の目から見ても、

あれ程仲の良い親子はいなかった。

息子が母を思う気持ち。

何より、母が息子を思う気持ちは特に...

 

「...ご迷惑をおかけしました。」

 

「よせ、迷惑なんてかけられてない。」

 

「僕が出る予定だった、舞台の件です。」

 

「仕方ない。

母が殺されて、

引っ越さなきゃならなかったんだ。

それに、精神的にも辛かったろ。

だから気に病むな。」

 

あかねとの初共演の後、

次の作品に蒼人は出る予定だった。

しかし、母の死により

引っ越さなければならなくなった為、

出られなくなったのだ。

 

「ありがとう、ございます。」

 

「まぁ、お互い色々

積もる話もあるだろうが、

本題に入るぞ。

俺が演出する舞台。

出てみないか?」

 

「無理ですよ、

もう10年もやってない。」

 

「アンサンブルだ。

過度な要求も無ければ、

それ程稽古の時間を取るわけでもない。

それに、お前なら問題ないだろ」

 

「だから、僕にはブランクもあるし、

そもそもやる気なんてないんです。」

 

「そうか、それは残念だ。」

 

「えぇ。声をかけていただいて

申し訳ありませんが。」

 

蒼人は申し訳なさでいっぱいだった。

過去の降板。

そして、今回の拒否。

もう、会うことは無いだろうと思った。

 

「蒼人、幾つになった?」

 

「え?15です。」

 

「そうか。

星菜が初めて、

ララライの舞台に出た時と

同じぐらいになったか。」

 

「え?今なんて?」

 

「やはり、知らなかったんだな。」

 

「知らなかった?何を?」

 

「星菜は、劇団ララライに

在籍していた。」

 

金田一が語ったのは、

蒼人が知らない母の過去。

蒼人は、星菜がララライにいた時期を

知らなかった。

 

「え!?

でも、僕が生まれた時は...」

 

「その時はフリーだったからな。

あいつが居たのは、

お前が生まれる前だ」

 

「母さんが、ララライに?」

 

「知人の勧めとは言っていた。

しかし、誰のとは

言っていなかった。」

 

「そ、そうですか。」

 

もしかしたら...

そう思ったが、

それは消え去ってしまった。

 

「どうだ?出る気になったか?」

 

「...出ません」

 

「そうか、わかった。」

 

「すみません、

僕はもう「言い方を変えるぞ」え?」

 

真剣な表情で、

蒼人へ語りかけた。

今までの柔らかな

表情からの変化だった為、

蒼人は戸惑った。

 

「...俺の娘を泣かせるな」

 

「は、え?む、娘?」

 

「そうだ」

 

蒼人は何を言われているのわからず、

呆気に取られていた。

 

「えっと、すみません。

金田一さんの娘さんと、

会ったことありませんよ?」

 

「黒川だ」

 

「え!?娘なんですか!?」

 

蒼人は驚いた。

あかねの父親が金田一であったこと。

そして、それをここで告白されたことに。

今年1番の衝撃を受けた。

 

「バカ、違う。

娘みたいなもんだって話だ。」

 

しかし、そんなことはなかった。

 

「あ、そういう。

でも、あかねさんとどう関係が?」

 

「アイツは、ずっとお前を待っていた」

 

「え」

 

一つ一つ、ゆっくりと話し出した。

あかねの想いを。

そして、願いを。

 

「お前が出る筈だった作品、

あれには黒川も出てたんだ。

また、ひーくんと演技できる。

今度は上手くやるんだって。

あいつは、一生懸命稽古してた。」

 

「それは、後で謝ります。

でも、それとこれとは

「お前は知らないだろ?」え?」

 

「あいつがどれだけ、お前を待ってたか。

どれ程、お前と共演出来るのを

楽しみにしていたか。」

 

「だから、もう俺は芝居はやらないって、

何度も「最後まで聞け」...」

 

蒼人は聞きたくなかった。

もう逃げ出したかった。

苦しみたくなかったのだ。

 

「お前が出られないと知った日、

アイツは悲しんだ。

お前から貰ったキーホルダーを握りしめ、

ずっとお前を待ち続けたんだ。

お前が戻って来ることを願って、

またお前と会えた時に、

今度はもっと上手くなる様に、

アイツは、

ずっとお前を待ち続けたんだ。

何年も何年も。

ただお前を待ち続けた。」

 

「...」

 

「今回の話し、

他の役者に回すことも出来た。

だが、あいつが望んだんだ。

お前と。

蒼人と舞台に立つことを」

 

「あかねさんが?」

 

「たとえ少しでも。

一言でも。

掛け合いが無いとしても。

たった一瞬でもいいから、

同じ舞台の上に立ちたい。

また、お前と舞台の上で会いたいと。

黒川がお前を選んだんだ。

そんなアイツの気持ちをお前が

わからないわけないだろ。」

 

あかねの想いを

理解できないわけではなかった。

しかし、それだけでは進めない。

進むわけにはいかない理由があった。

 

「...俺の苦しみを知らねぇくせに」

 

「何?」

 

蒼人は立ち上がり、

金田一に詰め寄り話し出した。

いや、話し出したのではない。

 

「アンタだって、知ってんだろ?

母さんが殺された。

俺の目の前で、

母さんが殺されたんだ!

子どもを作ったお前が悪い。

子どもが居るのに、黙って、

俺達を騙したお前が悪い。

そう言われて、

母さんは殺されたんだ!!」

 

「...」

 

蒼人は怒鳴り散らした。

その姿に、過去の蒼人の面影はなかった。

それと同時に、

彼の持つ苦しみと悲しみを理解した。

 

「あかねさんが選んだ?

何で、俺にこだわるんだよ!

何で俺なんだよ!!

俺のせいで、母さんが死んだのに。

俺が生まれきゃ、

母さんは死なずに済んだのに...」

 

「お前のせいじゃない」

 

「口で言うのは簡単だよな!

でも、わかんねぇだろ?

女優で、演技が好きで、

人が好きで、

誰にでも優しかった母さんが

愛していたものが芝居だ!

あの日の前日、

出たかった作品に出演が決まって、

夢が叶ったって、喜んでた。

それなのに、殺されたんだ。

なのに...

俺に芝居をやれ?

出来るわけないじゃないですか。

...母さんから、俺が奪ったのに。

俺だけ、出来るわけない」

 

蒼人が落ち着きを取り戻し始めたと

感じた金田一は蒼人に問いかけた。

 

「...蒼人」

 

「何ですか?」

 

「初めて俺とお前が会った日、

星菜は何て言ってた?」

 

「初めてって、ドラマの?」

 

「そうだ。

あの時、お前の母はなんて言った?」

 

蒼人は思い出していた。

愛すべき、母で。

役者の先輩が彼に授けた教えを。

 

「...お芝居は楽しいものだから、

その気持ちをみんなに伝えなさい」

 

その言葉を聞き、

金田一は嬉しそうに答えた。

 

「それが、黒川に届いたんだ」

 

「え?」

 

そして、あかねの過去を。

彼女がどれだけ、

蒼人を想っているか話してくれた。

 

「アイツは、お前に会う前は

どこか苦しそうな表情で

演技をしていた。

いつも、辛そうな顔でな。

だが、お前に出会って

アイツは変わった。」

 

「...」

 

「あんなに楽しそうなアイツは、

後にも先にもあれ以来見ていない。

そして、お前が戻って来たと

話していたアイツは、

とても楽しそうだった。」

 

「だけど、それは...」

 

「母さんの教えに従った、か?

確かにそうかもしれん。

だが、それを伝えたのは、

蒼人お前だ。」

 

「...」

 

「俺がお前を舞台に出したいと

星菜に話したら、喜んでいた。

蒼人、星菜は誰よりも

お前の演技を楽しみにしていた。

そして、それは俺も同じだ」

 

母が、自分が。

そして、あかねがどれだけ蒼人を

大切にしているか。

 

「...何で、

みんな俺にこだわるんだよ」

 

「お前が、愛に溢れてるからだ」

 

「...愛?」

 

「気づいていないだろうが、

お前は愛に溢れてる。

誰にでも優しく。

手を差し伸べ、人を導く。

その優しさと愛に、

俺達は賭けたくなった。

だから、選んだんだ」

 

そう語る金田一の顔は、

芸能界に関わる大人の顔ではなく。

ただのおじさん。

いや、彼の成長に期待する、

1人のファンの様だった。

 

「...」

 

「蒼人、決めるのはお前だ。

出るか、出ないか。

お前が決めろ。

誰かの為、誰かの押し付けではなく、

お前自身が決めろ」

 

「...わかりました」

 

その後、蒼人は金田一に頭を下げ、

部屋から出て行った。

そして、帰る前にあかねがいる

レッスン室に向かった。

 

「...」

 

蒼人は、扉越に付いていたガラス越しに、

あかねを見ていた。

先程言われていたことを

思い出していたのだ。

 

『また、お前と舞台の上で会いたいと。

黒川がお前を選んだんだ。』

 

「...何で、俺なんかを」

 

蒼人が眺めていたのに

気づいたあかねは、

笑顔で扉を開けた。

 

「蒼人君、お話し終わったの?」

 

「う、うん。

ごめんね、レッスン中に」

 

「ううん、いいの。

待ってて、準備するから」

 

「わかった。

外で、待ってる」

 

「うん、後でね!」

 

蒼人とあかねは、一旦別れた。

あかねを待っている間、

蒼人は考えていた。

自分はどうするべきか。

どうしたいのか。

そして、母ならどうするか。

 

「蒼人君、お待たせ」

 

「おかえり、あかねさん」

 

「ふぇ?

あ、た、ただいま」

 

蒼人からの思いがけぬ

おかえり発言に、

あかねは思考が一瞬止まった。

 

「それじゃ、行こっか」

 

「う、うん!」

 

駅までの道を行く途中、

蒼人が口を開いた。

 

「...あかねさん」

 

「何?」

 

「...ごめんね」

 

「え?何が?」

 

「金田一さんから聞いた。

共演予定だった舞台、

俺が出られなかったこと」

 

あかねは、

遂に知られてしまったと。

気恥ずかしさと、

寂しさを表情に浮かべていた。

 

「...そっか、聞いたんだ」

 

「ごめん、

楽しみにしてくれてたのに」

 

「ううん!いいの。

だって、お家の事情でしょ?

仕方ないよ」

 

「でも、悲しませた」

 

「気にしないで、

もう過ぎたことだから」

 

そう語る表情に、

寂しさは無かった。

あかねは優しい。

だから、心配させまいと

笑顔を作っていると、

蒼人は思っていた。

 

「...ねぇ、あかねさん」

 

「なぁに?」

 

「...どうして、

俺にこだわるの?」

 

「え?」

 

「俺に...俺なんかに、

こだわらなくても」

 

そう語る蒼人は、苦しそうだった。

自分が生まれなければ、

母は死なずにすんだ。

自分は、愛されるべき存在じゃないと、

常に思い続けていた。

 

だが

 

「なんかじゃない」

 

「え?」

 

「なんかじゃ、ないよ」

 

「あかねさん?」

 

彼女の持てる優しさを集め、

彼女の持つ真実を話し出した。

 

「蒼人君は...

ひーくんは誰よりも優しかった。

優しくて、思いやりがあって、

愛に溢れてた。

あなたの演技からは、

愛が感じられた。」

 

「あかねさん...」

 

「初めて会った時、

私の心に踏み込んでくれて、

導いてくれた。

稽古も本番も、

全部ひーくんが導いてくれた、

支えてくれた。

それが、とても楽しくて嬉しかった。」

 

「...それは、大切な人の教えで」

 

「だとしても、あなたがやったこと。

あなたが、私にくれたの。

優しさと愛を」

 

「...でも、悲しませた」

 

「それは、昔。

また、ひーくんと会えた。

それだけで十分だから」

 

あかねは、蒼人に出会う前に、

苦しんでいた。

人との関わり方がわからず、傷つけた。

本当は友達になりたかった。

しかし、その子を傷つけた。

その経験から、彼女は苦しんだ。

だが、蒼人との出会いで、

彼女は救われた。

彼との出会いが、

運命を変えてくれた。

 

「あかねさん...」

 

蒼人の手を取り。

正面から向き合って、

あかねは告げた。

 

「改めて言わせて。

私は、あなたと舞台に立ちたい。

他の誰でもない、蒼人と一緒に。

たとえ、話せなくても、

すれ違うだけでも、

ほんの一瞬でいい。

ひーくんと一緒にいたい」

 

「...」

 

「だから、待ってる。

ずっと、待ってるよ。」

 

その後、2人は一言も話さず、

歩いていた。

 

蒼人は、自宅に戻り、

すぐにベッドに横になった。

今は、何も考えたくなかったのだ。

 

「...どうしたらいい?」

 

身体をお越し、

母の写真を見つめながら、呟いた。

 

「...母さん、

母さんならどうするの?

俺、わからないんだ。

自分がどうしたいのか、

どうするべきなのか。」

 

母の写真を一撫でし、

心の中で自問自答を繰り返した。

星菜を殺され、

何年ももがき苦しんでいた。

その中で自ら道を決め、戻ってきた。

しかし、新たな道に導かれていた。

 

「...」

 

彼は思い出した。

母の言葉を。

そして、それは自分にとっても

大切な言葉だった。

 

「...俺もだよ」

 

蒼人は、スマホを取り出し、

電話をかけた。

 

「もしもし」

 

蒼人は通話を終え、

ベランダに出た。

そして、まだ咲いている桜を見ながら、

消えそうな声で呟いた。

 

「...ごめんね。」

 

その後、彼は景色を眺め続けた。

自分の未来が間違っているのか、

正しいのか。

それは、誰にもわからない。

 

それから、数日が経過していた。

 

「おはようございます!」

 

あかねは、今日も稽古に参加していた。

主演であるという点。

真面目で努力家であり。

更には、演技が好きなこともあり、

稽古に参加するのが

とても楽しいのである。

 

「...」

 

そして、稽古場に着くなり、

周りを見渡した。

 

『...ひーくん、居ない。

やっぱり、出ないのかな...』

 

蒼人のことを考えている内に、

金田一が現れた。

 

「みんな居るな」

 

『はい!』

 

演出の号令に、

キャストが返事をした。

和やかだった雰囲気が、

一気に締まった。

 

「今日から、

追加キャストが合流する。

色々教えてやる様に。

では、半から開始だ!」

 

キャストの追加。

この話を聞き、期待した。

それが、待ち人であることを。

 

「黒川、ちょっといいか?」

 

「はい!」

 

金田一は、あかねを呼び出した。

だが、その表情は申し訳なさと、

寂しさが映し出されていた。

 

「蒼人の件だが。

ダメだった。」

 

「あ...そ、そうですよね」

 

「説得したんだがな。

すまなかった」

 

「い、いえ!

仕方、ないですよ...」

 

わかっていたことではあった。

蒼人の想いは変えられないと。

だから、

期待し過ぎないようにしていた。

だが、それでも待っていた。

 

「願いを叶えられなかった所

申し訳ないが。

お前に頼みがある」

 

「何ですか?」

 

「これから来るキャストの

面倒見てやってくれないか?

今回からの新人でな」

 

「え?あ、わかりました」

 

あかねは、一瞬驚いた。

だが、元来優しく。

人のことを思いやる性格の為、

頼まれた以上しっかりやろうと

考えた。

 

「まぁ、新人だが大丈夫だろう。

何故か知らんが。」

 

「おはようございます!」

 

挨拶と共に、

稽古場に新しいキャストが現れた。

 

「え?」

 

「何故か知らんが、

アイツに似てるからな。

おい、挨拶しろ新人」

 

「はい。

皆さん、初めまして。

劇団ララライ新人の

『八神蒼人(やがみひろと)』です。

よろしくお願いします」

 

そこに現れたのは、

亜麻色の髪色で青い瞳をした

少年だった。

 

「今日から合流した、

追加キャストだ。

黒川、色々面倒見てやれ。

八神、半から開始だ。

準備しとけ」

 

「わかりました。

ありがとうございます」

 

金田一は稽古場を後にした。

そして、あかねが話しかけた。

 

「蒼人君!

何で?

出ないんじゃなかったの?」

 

「...蒼人としてはね。

だけど、八神蒼人は別だから」

 

「...どうして?

あんなに嫌がってたのに」

 

困惑と、

無理矢理出させてしまったのでは

無いかという罪悪感に、

苛まれていた。

しかし、彼の返答は違った。

 

「...嘘、嫌いなんだ」

 

「え?」

 

「約束破るのは、

嘘吐くのと同じだから」

 

「あ...」

 

あかねは気づいた。

彼が何を思っていたのか。

そして、それを叶えてくれたことを。

 

「だから、約束守りに来た。

10年遅れだけどね。」

 

「ひ、ひーくん...」

 

泣きそうな顔で。

しかし、その内側は喜びで満ちていた。

 

「初めまして、

よろしくねあかねさん」

 

「うん!よろしくね!蒼人君!」

 

Scene7『再開』 完

 

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