【推しの子〜アオの行方〜】   作:ジェナス_j

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Scene8『調和』

Scene8『調和』

 

「よろしくね、あかねさん。」

 

「よろしく、蒼人君!」

 

蒼人は、あかねと共に舞台に

立つことを決めた。

彼女との約束を守る為。

そして、母の願いを叶える為

 

「そういえば、何で八神なの?」

 

「あぁ。本名、八神だから」

 

「初耳」

 

「ごめん」

 

「もぅー!

蒼人君、秘密多すぎ!」

 

「子役だったからさ、色々あって」

 

「私も子役だったんですけど〜?」

 

「さ、さーせん」

 

「むぅー!」

 

あかねが頬を膨らませ怒っていた。

だが、そこには怒りなどなく。

蒼人がいる、

それを喜んでいる様に思えた。

 

「あ!ねぇ、出てくれるのはわかったけど、

何でララライに入ったの?」

 

「あぁ、色々とね。」

 

蒼人は、金田一との会話を思い出した。

彼がララライに入った経緯を。

そして、出演を決めたことを。

 

『もしもし、金田一さんですか?』

 

『おぉ、蒼人。どうした?』

 

『金田一さん、

差し出がましいんですが...

僕を舞台に出してくれませんか?』

 

『出る気になったか?』

 

『はい』

 

金田一は驚いた。

あれ程嫌がっていた、

拒んでいた者が

何故出る気になったのか。

蒼人に理由を問いかけた。

 

『理由を聞いていいか?』

 

『...知りたいんです、真実を』

 

『真実?』

 

蒼人は語り出した。

彼が何を求めているのか。

そして、何を知りたいのか。

 

『母さんが何故、芸能界に拘ったのか。

何で、俺を産んだのか。

俺は全てを知りたい』

 

その言葉には決意が込められていた。

自分の全てを擲ってでも、

知り合い真実がある。

自分が何のために...

 

『その為に、立つのか?』

 

『それだけじゃありません』

 

『なんだ?』

 

『...娘さんとの約束、果たしてないから』

 

先程の声色とは違い、

優しく温かい声で話していた。

だが、この一言で蒼人が

変わっていないことを

知り金田一は喜んだ。

 

『女誑しめ』

 

『失礼ですね。

僕は、嘘が嫌いなんですよ。』

 

『わかった。

稽古日は後で知らせる。』

 

『ありがとうございます。

よろしくお願いします』

 

『それと、お前に提案がある』

 

『提案?』

 

『ララライに入れ』

 

『...奇遇ですね。

僕も、同じこと考えてました』

 

『お前の才能は惜しいんでな。

囲えるなら、囲っておきたい』

 

『ありがとうございます。

ですが、僕の才能は

母さんには遠く及びませんよ。』

 

『お前は、星菜を越える』

 

『え?』

 

『お前は、お前で勝負しろ』

 

『ありがとう、ございます。』

 

金田一の言葉の真意はわからなかった。

しかし、母と同じ場所で演技が出来る。

母の軌跡を辿ることが出来る。

彼は、母の全てを知りたかった。

 

「...ララライで芝居がしたいんだ。」

 

「そっか。

なら、これからは後輩になるんだね」

 

あかねの笑顔には、

これから先の未来を想像し、

とても楽しみになると大きな期待を

秘めていた。

 

「そうなんです。

よろしくお願いします、黒川先輩。」

 

「もう〜やめてよ!

普段通りでいいのに」

 

「だって、先輩ですし」

 

揶揄っていた蒼人は楽しそうだった。

また、会えたこと。

そして、あかねが笑顔なのが嬉しかった。

 

あかねは、蒼人には

蒼人としていて欲しかった。

先輩や後輩の様な上下関係ではなく。

2人のままでいたかったのだ。

 

「むぅ。

なら、先輩命令。」

 

頬を膨らませながら、

あかねは先輩命令を下した。

 

「先輩命令って(...可愛いな)」

 

「ね?これなら、いいでしょ?」

 

あかねは笑顔で蒼人に問いかけた。

その笑顔を見た蒼人は、

あかねを可愛いと思った。

 

「わかった。普段通りにします」

 

「よろしい」

 

2人は笑い合った。

あかねは、

また蒼人と舞台で出会えたことが。

蒼人はあかねが笑顔であったことが。

2人とも嬉しかったのだ。

 

「ねぇ、まだララライのメンバーに

挨拶してないよね?

紹介するから、行こう!」

 

あかねは、蒼人の手を掴み、

歩き出した。

 

「あ、ちょ、引っ張んないでよ!」

 

「ふふっ、昔引っ張られたから、

お返し」

 

「...根に持ってる?」

 

あかねは少し考えた。

しかし、笑顔で答えた。

 

「思い出かな」

 

「思い出、か...」

 

蒼人は楽しそうに微笑んだ。

昔の思い出を懐かしむように。

 

「みんなー!

新人さん連れて来ました!」

 

「おぉ!待ってたぞ!」

 

「新人さんだ!初めまして!」

 

「わぁ、かっこいい子〜」

 

蒼人はあかねに連れられ、

ララライメンバーの元に着いた。

そして、姿勢を正した。

 

「ご挨拶が遅れました。

劇団ララライ新人で、

本日より稽古に参加致します、

八神蒼人です。

よろしくお願いします。」

 

蒼人は丁寧に頭を下げ、挨拶した。

この姿を見て、

あかねは改めて彼が成長したこと、

そして再会できたことを実感した。

 

眼鏡をかけて、七三分けにしてる、

スーツ姿の男性が蒼人に詰め寄ってきた。

 

「初めまして!ミツヒデ役の

みたのりおだ!

よろしくな、八神君!」

 

「よ、よろしくお願いします。」

 

「んー!!いい顔だ!

正に役者をやる為に、

生まれた存在だ!!!

わかんないことは、

何でも聞いてくれ!!

俺は君の先輩だ!!!!!!!」

 

蒼人はみたの熱量に戸惑っていた。

真面目な風貌だと思ったら、

とてつもない熱量と、

熱さを持っていたからだ。

 

「は、はい。

ご、ご指導、

よろしくお願いします。」

 

みたの熱量に押され、

少し引き気味だった。

しかし、この男は凄まじかった。

 

「はっはっは!固いぞ!

男同士仲良くしよう!!

リラックス、リラックス!!!」

 

そう言うと、

みたは蒼人の肩をバンバン叩いた。

 

「さぁ、八神君!今日は君の初稽古だ!!

気合を入れて頑張ろう!!

はーっはっはっは!!!!!!!!」

 

みたは、1人テンションを上げていた。

その隙に、あかねの元へ逃げてきた。

 

「ね、ねぇあかねさん」

 

「何?」

 

「みたさんって...熱い人?」

 

「うん、とっても...」

 

「そ、そっか...」

 

蒼人はみたの熱量に参っていた。

しかし、演技に熱く、

どんな人でも受け入れてくれる

度量を持っているとも思った。

 

戸惑っていた蒼人の元へ、

可愛らしい2人の女性が話しかけてきた。

 

「八神君!初めまして!

私、木々役の化野(あだしの)めい!」 

 

「私、キハル役の吉冨(よしどみ)こゆき!」

 

「「よろしくね!」」

 

グレーのグラデーションカラーの髪をした

めいと茶髪のショートボブのこゆきが、

蒼人の前に現れた。

 

「はい、八神蒼人です。

よろしくお願いします。」

 

「「よろしく!!」」

 

「ねぇねぇ、

蒼人君って呼んでいい?

私のことはめいでいいよ!」

 

「私もこゆきでいいよ!」

 

「ありがとうございます。」

 

2人とも蒼人を笑顔で歓迎してくれていた。

それが嬉しかった蒼人も笑顔で返した。

しかし、それは悲劇の始まりだった。

 

「ねぇ、ねぇ。」めい

 

「蒼人君とあかねちゃんって」こゆき

 

「「どういう関係!」」

 

「へ?「へぁ!?」」

 

「だって、だって〜

あかねちゃんが、

あんなに可愛い顔して、

男の人に近寄ってるの

見たことないもん」めい

 

「絶対過去に何かあったよね!?」こゆき

 

「あっと、それは...」

 

「昔、共演したんです」

 

あかねが戸惑っているのを他所に、

蒼人は素直に答えていた。

 

「「昔共演した!?」」

 

「聞きました?奥様」めい

 

「聞きましたわ、奥様」こゆき

 

2人はこそこそ話していたが、

直ぐに蒼人に向き合い質問した。

 

「ねぇ、蒼人君」めい

 

「あかねちゃんに

クマのキーホルダー渡した?」こゆき

 

「あ!?蒼人君、だめ!!」

 

あかねは、これから起こるであろうことを

予測し、蒼人を止めようとした。

だが、遅かった。

 

「渡しました」

 

「え!?ということは?」めい

 

「ということは!?」こゆき

 

「「噂のひーくん!?」」

 

「へ?「ちょっと!」」

 

「そっか、そっか。

あなたが、ひーくんなのね!」めい

 

「なるほど、納得ね!」こゆき

 

「納得?」

 

「...どうしたらいいの?

私は、どうしたらいいの?」めい

 

「...女の子は、

苦しみに打ちひしがれていた。

来る日も来る日も、

彼女は悲しみに苛まれていた。」こゆき

 

劇団ララライのお姉さんコンビによる、

無駄にクオリティの高い、

小芝居が展開されていた。

 

「ぐす、ぐすっ。

どうしたらいいの?

私、寂しいよ。」めい

 

「彼女は苦しみ、悲しみ、

もがきながらも進み続けていた。

そして、彼女はその度に、

彼の名を呼んでいた!!」こゆき

 

「会いたいよ、ひー「わー!!!!」

もう、なぁに?あかねちゃん。

いいとこなのに」めい

 

「どこが!

恥ずかしいやつでしょ!」

 

「ってな感じでね?

あかねちゃん、何かあるとひー

「もうやめてー!!」」こゆき

 

あかねは、

ララライのお姉さんコンビに

弄られていた。

普段見られないあかねの姿を見て、

親近感が湧く役者が

多く出てきたのは余談である。

 

そして、稽古の開始時間となった。

しかし

 

「よし、稽古始めるぞ。

始めたいんだが...

うちの看板女優どうした?」

 

「むぅぅぅ!!」

 

「あ、あかねさん?

け、稽古始まるよ?」

 

あかねは顔を真っ赤にし頬を膨らませ、

涙目で蒼人を睨んでいた。

睨んでいたという程の凄みは無いが、

とにかく蒼人を睨んでいた。

 

「「うちの新人が、

看板女優泣かせました」」

 

「えぇ!?

やったの、お2人ですよね!」

 

「そうか。

新人、責任取って

先輩の機嫌取っとけ」

 

「ちょ!?何で俺が!?」

 

「芸能界の縮図だ。

しっかりやれ」

 

「はぃぃ!?」

 

「むぅぅ、むぅぅぅぅ!!」

 

あかねは蒼人を睨みながら、

唸り続けていた。

しかし、

蒼人にはどうしたらいいか

わからなかった。

 

「あ...えっと...

(ヤバい!どうしたらいい?

どうすりゃいいんだ!?)」

 

蒼人はその後も、

ずっと思案していた。

しかし、どうすればいいか

わからなかった。

 

『どうしよ、どうしよ、どうしよ!!

...あ!』

 

「むぅ!むぅぅ!!むぅぅぅ!!!」

 

「...あかねさん」

 

「!?!?!?」

 

蒼人は、思考を重ねた結果、

あかねの頭を撫でるという結論に至った。

まさかの展開に、

あかねはパニックになった。

 

「え、えっと...稽古始まるから、

機嫌直してくれない?」

 

「...わ、わかった」

 

蒼人は頬を染め、

照れながら頭を撫でていた。

あかねは、顔を真っ赤にし、

俯きながら答えた。

それを見た蒼人は、

ほっとして手を離した

 

「あ...」

 

「ん?どうしたの?」

 

手を離したら、

あかねが寂しそうな声を上げた。

そして、指を弄りながら

小さな声を発した。

 

「...も、もう少し」

 

「へ?あ、うん」

 

あかねは、

蒼人から撫でられて機嫌を直した。

だが、大切なことを忘れていた。

 

「...お前ら、忘れてないか?」

 

「「あ」」

 

稽古中だということを。

金田一は頭を抱えていた。

 

「...今更だが、

お前を使ったことを後悔した」

 

「なんやて!?」

 

「稽古場で乳繰り合うな、

馬鹿者が」

 

「「あ!?」」

 

自分達の行いを思い出し、

2人とも顔を真っ赤にした。

そして、それはみんなに

見られていたわけで...

 

「見ました?奥様」

 

「見ましたわ、奥様」

 

「私も見ました、ザマス」

 

「「「お幸せに」」」

 

ララライ先輩組に、盛大に揶揄われた。

 

「何を言い出すんですか!」

 

「そ、そうよ!...て、違う!

元はと言えば、

ひーくんがバラすからでしょ!」

 

「はぃ!?俺のせい?」

 

「だ、だって...

とにかく、ひーくんが悪い!」

 

「暴論やないか!」

 

「暴論じゃないもん!

正論だもん!」

 

その後も蒼人はあかねに

詰められており、

とても困った顔をしていた。

しかし、それを見ていた

ララライメンバーは、

あかねが楽しそうであったこと。

そして、元気であったことを喜んだ。

 

「次のシーン行くぞ。

準備しろ」

 

『はい!』

 

このままでは埒が明かないと、

金田一が場を閉めたことにより、

稽古が始まった。

そして、次のシーンへと移行した。

 

「...」

 

「どうしたの、蒼人君?」

 

「ん?あぁ、あかねさん。

わかってたけど、

レベル高いなって」

 

先程の小芝居でもわかったが。

改めて、ララライだけでなく、

外部から来た役者のレベルの高さを

思い知った。

 

『こんなにレベル高けぇのかよ。

...まいったな〜

母さん、

このレベルの劇団に居たのかよ』

 

「...」

 

あかねは、

蒼人の真剣な表情を見ながら、

彼が何を思っているのか考えていた。

 

『このままじゃ、何も出来ずに終わる。

...母さんはどうやったんだ。

母さんは、どうやって...』

 

「えい」

 

「ん?」

 

蒼人の頬に、クマの唇がくっついた。

 

「...あかねさん、何してんの?」

 

「クマゴロウのおまじない」

 

あかねは優しく微笑み答えた。

昔、蒼人がプレゼントした

クマのキーホルダーで、

蒼人の頬にキスをした。

 

「...何で?」

 

「蒼人君、

むつかしいお顔してるもの。」

 

「...」

 

蒼人は気づいた。

あかねが何を伝えたいのか。

そして、彼女の想いを。

 

「稽古見てる蒼人君、

苦しそうだよ?」

 

「苦しいんじゃないよ。

どっちかって言うと、焦りかな。」

 

「何を焦ってるの?」

 

「ララライの先輩達のレベルが

高いのは、

さっきの小芝居でわかってた。

でも、ここにいる役者のレベルが

みんな高い。

だからかな。」

 

蒼人の表情には、

微かだが焦りが見られた。

自分は場違いの人間ではないか。

ここでやっていけるのか。

不安になっていた。

 

「大丈夫」

 

「え?」

 

「だって、蒼人君だから」

 

「どうして、そう言い切れるの?」

 

あかねは蒼人の正面に周り、

顔をしっかり見て微笑んだ。

 

「蒼人君、お芝居楽しくない?」

 

「楽しいよ。

それは、昔と変わらない」

 

「なら、大丈夫。

あなたの才能は消えてないんだから」

 

「え?」

 

「蒼人君は、演技を楽しむ為に

一生懸命だったでしょ?

その想いが消えてない。

だから、蒼人君は大丈夫。」

 

あかねは笑顔で伝えてくれた。

自分の不安を、

今度はあかねが取り払ってくれた。

それが、嬉しかった。

 

『そうだった。

母さんは楽しむこと。

楽しませることを1番に考えてた。

上手くやれなんて、言わなかった。

離れてたから、忘れてたな』

 

「ありがとう、あかねさん」

 

「ううん!

あ、でもね。

もし、不安になったら言ってね。

今度は、私が約束守るから」

 

「へ?」

 

「いつでも手伝うから」

 

「...ありがとう。

あかねさんが居るなら、大丈夫」

 

蒼人は再会後、

最高の笑顔をあかねに向けた。

心からの感謝。

そして、心からの喜びを表した。

 

だが、これを受けたあかねは

 

「え!?

あ、う、うん...」

 

「?」

 

蒼人の笑顔に一発KOされていた。

かつての輝きを纏い、

年月を重ね成長した彼の笑顔は、

あかねにとって破壊兵器だった。

 

余談だが、この笑顔を見た

女性キャストの一部が蒼人を

狙い出したのは、別のお話である。

 

「よし、次だ。

準備しろ」

 

この後も稽古が進んでいった。

そして、遂に。

 

「あ、俺か。」

 

「そういえば、蒼人君何やるの?」

 

「門番兵」

 

「え!?本当?」

 

「うん、本当」

 

「なら、私と同じシーンだよ!」

 

「そうなの?」

 

「うん!

(やった!ひーくんと話せる!)」

 

あかねは、

少しでも蒼人と同じシーンに

出られることが嬉しかったのだ。

表面には出さないようにしていたが、

内面はとても嬉しそうだった。

 

しかし、ララライのメンバーは

気づいていた。

 

『黒川さん((あかねちゃん))

八神君((蒼人君))の

こと大好きなんだな((のね))』

 

無論、まったく隠せていなかった。

 

「あ、そういや俺の相方って。」

 

「八神君、初めまして。

君の相方の清水だ。

よろしくね」

 

「初めまして、八神です。

よろしくお願いします。」

 

清水は手を差し出した。

それに返す様に、蒼人も手を出し。

握手を交わした。

 

「よろしく!

八神君、若いよね?幾つ?」

 

「15です。」

 

「お!ということは、高校生?」

 

「はい、来月入学します。」

 

「そっか、そっか!

俺は、今年3年なんだ。

歳近いし、気軽に話しかけて」

 

「はい。

ありがとうございます。」

 

「よし、準備出来たな。

行け」

 

『はい!』

 

蒼人の幕が上がった。

長い間眠っていた少年は、

また歩き出した。

 

『10年振りか。

そもそも、

まともにやってなかったけど。

でも、なんだろう。

ワクワクする』

 

蒼人は心の中で込み上げてくる何かに、

ワクワクしていた。

それは、無意識に顔に出る程に。

 

『さぁ、見せてもらおうか。

今のお前がどんなもんか。』

 

「...」

 

蒼人は舞台に上がった。

そして、膝を落とし手を触れた。

 

『...母さん』

 

「それじゃ、始めるぞ。」

 

『はい!』

 

赤髪の白雪姫。

この物語は、ダンバルン王国に住む

薬剤師の少女が王子の愛妾になる様

言われたことから始まる。

愛妾になることを断った、

赤い髪の少女白雪。

少女は国を出て、隣国へ渡った。

その後、少年と出会い、

国に引き戻されそうな所を助けられた。

これが、おおよその物語である。

 

『このシーン、

白雪が城にいる王子のゼンに、

会いに来るんだよな。

んで、そこで白雪と話す。

それと、俺がやる門番は後輩だよな。』

 

こうして、

蒼人達の演技が始まった。

白雪が門番の前に現れた。

 

『清水さんか。

挨拶した限りいい人だよな。

白雪来るまでのリアクション見るに、

芝居慣れしてるだろうし、

たぶん作り上げてきてる。

だったら』

 

「すみません。

近衛兵団の木々さんか、

ミツヒデさんに面会を」

 

「あっ!!

きみ、もしかしてっ!」

 

蒼人が興奮の余り、

白雪に近づいた。

しかし、清水に殴られて止められた。

 

「はっ!

ゼン殿下より、

お客人だと伺っております!」

 

「ゼンに?」

 

「赤髪の白雪殿!

どうぞお通りください!」

 

「ありがとうございます」

 

清水は白雪を通していった。

白雪は頭を下げ、

2人の前を通り過ぎた。

 

「おっどろいたな〜

赤い髪なんて、自分初めて見ました!」

 

「ゼン殿下を呼び捨てにしてたのにも

驚いたがな。

後で、皆に自慢しよ」

 

こうして、

2人の前から白雪は去っていった。

しかし

 

「それにですよ?

あんっっっなに、美人なんて!!

殿下も隅に置けませんな〜」

 

「うぇ!?」

 

進んでいた白雪は、

立ち止まり振り返ってしまった。

 

「何やってる!

白雪、止まるんじゃない!」

 

「す、すみません!!」

 

演出が一度シーンを止めた。

本来、そのまま白雪は

通り過ぎる筈がだったが、

歩を止めてしまったのだ。

 

「ごめん、あかねさん。

俺、余計なことした...」

 

「う、ううん!!

ち、違うの。

私がミスしただけ」

 

「そう?」

 

『これは演技これは演技、

これは演技!!』

 

蒼人は予定に無いアドリブを

入れてしまい、

それが元であかねの

調子を崩したと思った。

 

だが、事実は違い。

蒼人、もとい門番の褒め言葉に、

あかねは一瞬だが素に戻ってしまった。

そして、今は演技中であると、

心の中で唱えた。

 

『一緒に出られて嬉しいけど。

...これ以上は、望んじゃいけない。

この瞬間に感謝しなきゃ』

 

「よし、もう一度行くぞ。

だが、その前に。門番」

 

「「はい!」」

 

「あれぐらいやっていいぞ。

清水、よく止めた。」

 

「ありがとうございます。」

 

「行っていいぞ。

八神、お前は残れ」

 

「はい」

 

清水は金田一の一言で、

戻って行った。

だが、蒼人は残された。

答え合わせをしたかったのだ。

 

「聞かせろ。

何故、あの演技にした?」

 

「ここは短いシーンでしたが、

この後も僕らは2人で

出ることがあります。

だから、作品内での

僕達の関係性を示したかった。

それに、ここは少しですが

笑いも取れると思いました。

後は、王族に関わる人間から見た

白雪の評価を

伝えることも出来るシーンでした。」

 

「なるほどな。

だから、積極的に絡みに行ったのか?」

 

「はい。

それに、清水さんなら上手い具合に

フォローしてくれると思ってました。」

 

「何故だ?」

 

彼にとっては、蒼人の言葉は

馴染みのあるものだった。

だが、それは...

 

「挨拶した時に、

清水さんの人柄を多少知りました。

だから対応してくれる。

それに、面白くしてくれると

思ったんです。」

 

「...役者を使ったのか?」

 

「使ったって言うよりは、

頼りました。」

 

「頼った?」

 

蒼人は真剣に、

だがしっかりと自分の現状を。

そして、その打開策を話した。

 

「...はっきり言って、

この場で1番下手なのは俺です。

経験も能力も、何もかもが足りない。

だから、俺は俺の全力を尽くすけど。

周りを頼ります。

1人じゃ無理でも、仲間がいるから」

 

「...そうか、わかった。

それと、最後だ。

白雪の褒め言葉、何故入れた?

アドリブだろ。」

 

「あぁ、あれは、

死に間にしたくなかったんです。

それに...」

 

照れくさそうに頬を掻き、

会ってから見た中では、

珍しい表情をしていた。

 

「どうした?」

 

「白雪ってか、あかねさん綺麗だから。

折角ならみんなに、

もっと知って欲しくて」

 

そう語る蒼人の笑顔はとても眩しく、

年相応の少年の様だった。

 

「そうか。

だそうだ、白雪」

 

「うぇ!?!?

な、何で私に振るんですか!」

 

「さっきから、

話したそうにしてたからな」

 

蒼人は気づいていなかったが、

あかねは先程からチラチラと

蒼人を見ていた。

 

「え?ごめん、あかねさん。

何かダメだった?」

 

「う、ううん!!

その、蒼人君と演技出来て嬉しいよ。

ただ、ね...さっきの本当?」

 

「さっきの?」

 

「...わ、私が綺麗って」

 

「?うん。綺麗だよ」

 

先程、金田一と話していた時よりも、

輝きを増し、優しさに溢れる笑顔を

あかねに向けていた。

その笑顔には、

嘘や演技は何一つ混ざってなく、

ただ純粋に相手に向ける

好意そのものだった。

 

「あ、ありがとう...」

 

金田一に号令をかけられた。

 

「そろそろ、行くぞ」

 

「はい!

行こう、あかねさん」

 

「うん!

行こう、蒼人君」

 

『...周りを活かし調和が取れる様に、

相手がやり易いように演技をする。

優しいと言えば、それまでだが。

これは、母親の...』

 

金田一は蒼人の演技に、

母親の面影を見た。

そして、これは彼にとって...

 

その後、稽古は進んでいき、

その日の稽古は終了した。

また、清水は蒼人の演技を気に入り、

2人の仲は深まっていった。

 

「よし、今日の稽古はここまでだ。

解散!」

 

演出の号令により、

各々解散していった。

しかし、残る者がいた。

 

「金田一さん、すみません。

今日ゼンとのシーン出来なかったから、

残っていいですか?」

 

「おぉ、いいぞ。

遅くなるな?」

 

「ありがとうございます!」

 

あかねは、

残って稽古をすることにした。

人一倍努力家であること、

何よりも今日は相手役が

不在だったこともあり、

彼女は残ることにした。

 

「あかねさん残るの?」

 

「うん。

今日、相手役居なかったから。」

 

「そっか。」

 

蒼人は少し考えた。

そして、即決した。

 

「金田一さん、僕も残っていいですか?」

 

「蒼人君も?」

 

「足りないものが多すぎるからね。

邪魔しないからさ。

だめかな?」

 

「ううん!

一緒にやろう!!」

 

蒼人が残る。

この一言は、彼女にとって

とても嬉しいものだった。

これを励みに、

今日も頑張ろうと思える程に。

 

「よし!

それなら、俺も残ろう!

さぁ、みんなで元気に」

 

みたも付き合うと言ってくれていたが、

ララライお姉さんコンビに止められた。

 

「ごめんなさい、

みたさんはこの後打ち合わせなの!」めい

 

「だから、

居残り稽古は『2人で』お願いね!」こゆき

 

「「2人で!!」」めい・ゆき

 

「ちょっ!?」

 

めいとこゆきの言っている意味が

わかっているあかねは、

顔を赤くしていた。

 

「え?そんなのない」

「「それじゃ、お疲れ様でした!」」

 

「あぁ!待ってくれ!

俺も、俺もーー!!」

 

みたが何か言い出す前に、

お姉さん達が連れ出していった。

その際に、とても意味深な

笑みを浮かべていたが。

 

「お疲れ様でしたー!

みたさん本当に、演技好きなんだな〜」

 

「そ、そうだね...」

 

蒼人はみたが残りたかったのは、

演技が好きだからだと思っていた。

しかし、あかねはお姉さんコンビに

言われたことにドキドキしていた。

 

「お前ら、遅くなるなよ?

あと、蒼人。

お前、ちゃんと黒川送ってやれ」

 

「勿論ですよ」

 

蒼人が送ってくれることに、

あかねは喜びを感じた。

そして、蒼人との居残り稽古。

彼女のテンションは、

大いに高まっていた。

 

「戸締りはしっかりやっとけ。

それじゃ、お疲れさん」

 

「「お疲れ様でした!」」

 

金田一の退出を見届けた2人が、

稽古を始めた。

 

「さてと、んじゃやりますか。」

 

「うん!」

 

「始める前に聞きたいんだけど、

今日の演技どうだった?」

 

「凄くよかったよ!

ブランクあるとは思えなかった。」

 

「そんなことないよ。

今回出番多くないから。

それに清水さんが相手だから、

やりやすいんだよ」

 

その後も蒼人は話してくれた。

自分がどの様に役を作ったか。

どの様に演技をしたか。

その表情には、笑顔があった。

 

「よかった」

 

「え?」

 

「...無理やり連れて来たような

ものだったから、

本当は嫌なんじゃないかって

思ってたの」

 

あかねには、罪悪感があった。

自分が連れて来た。

自分が巻き込んでしまったと。

だから、蒼人に対して

申し訳ない気持ちがあった。

 

「だけど。

蒼人君、とっても楽しそうだった」

 

「あ...」

 

「蒼人君の演技から、

蒼人君が楽しんでるのが伝わってきた。

誰よりも楽しんで、楽しませて、

私はあなたともう一度立てて嬉しい。」

 

蒼人は自分でも気づいていなかった。

だが、あかねにはしっかり見えていた。

伝わっていた。

本当は、ずっと演技をやりたかったと。

 

「...楽しいよ。

だって、みんなを笑顔にできる。

みんなに楽しんでもらえる。

それに...」

 

蒼人の表情には、

楽しさの中に少しだけ寂しさが

混ざっていた。

亡き母が愛していた。

そして、それを自分が叶えたい。

彼は愛している母を思い出していた。

 

「蒼人君?」

 

「なんでもない。

そうだ、ゼンとのシーン出来ないよね?

俺でよければ、手伝うよ?」

 

「え、本当に?」

 

「うん。

まぁ、役に立つか「やろう!」え?」

 

「やろう、ひーくん!

私、ひーくんのゼン見てみたい!」

 

蒼人が相手役を買って出てくれた。

これは、願ってもないことであり、

彼女にとっては最高の時間だった。

彼からの申し出に、

今日1番の熱量で蒼人に詰め寄った。

 

「え?い、いいけど、力になれるか」

 

「なれる!なれるよ!!

寧ろ、私すっごく嬉しい!」

 

「そ、そう?

なら、やりますか。」

 

「うん!!」

 

蒼人とあかねは稽古を始めた。

代役ではあったが、

蒼人と共に演技ができた。

だから、楽しかった。

また、蒼人と演技が出来るのが。

隣に居てくれるのが。

そして、彼とならどこまでも行けると。

彼となら、どんなことも。

 

「...」

 

2人の稽古の様子を金田一が物陰から、

見ていた。

その表情はとても穏やかで、

楽しそうだった。

 

「何してんの?おっさん」

 

金田一に眼鏡をかけた、

黒髪の青年が話しかけてきた。

 

「ん?

おぉ、来てたのか大輝(たいき)」

 

「様子見と近くまで来たから」

 

「態々ご苦労だな。

今日の稽古は終わりだ。

それに、今貸切なんだ」

 

「貸切?」

 

青年は稽古場を覗いた。

そこには、青年が

見知らぬ少年が居た。

 

「...誰?」

 

「八神蒼人。

この間からお前達の後輩になった奴だ。」

 

「ララライの新人?」

 

「そうだ」

 

「へぇ〜...」

 

大輝は彼等の稽古風景を

じっと見ていた。

その表情は微かだが、

驚きが混じっていた。

 

「どうした?」

 

「...黒川、あんな演技できたんだ。」

 

「それは、相手があいつだからかもな。」

 

大輝の言葉に、

金田一は目線を蒼人に向けた。

 

「八神が?」

 

言葉には出さなかったが、

その目には期待と希望。

そして、彼の成長を楽しんでいるのが

はっきりと伝わってきた。

 

「あいつに対して、

やたらと期待値高そうだけど?」

 

「あぁ、期待してる。

若い才能が花開くのは、

おっさんの楽しみだ」

 

「おっさんに、

そこまで言わせる奴なの?」

 

「まだ眠っているんだ。

起きたら、

お前でも喰われるかもしれんぞ?」

 

「へぇ〜...なら、早く起こしてよ」

 

「起こしたいなら、

あいつが必要だな」

 

今度は目線をあかねに向けた。

次世代の俳優界のエースにして、

ララライのエース。

蒼人だけではなく、

あかねにも期待していた。

2人が揃えば、2人が力を合わせれば、

どんなことでも出来ると金田一は

確信していた。

 

「黒川が?」

 

「そうだ」

 

「何で?」

 

「愛だ!!」

 

金田一はキメ顔で、力強く。

そして、はっきり意志を込めて言った。

 

「...キモい」

 

どうやら、

柄にも無いことを言った様である。

 

「お前、次の作品覚えてろよ?」

 

「そんぐらいじゃないと、物足りない。」

 

「あぁ、みっちりやってやる」

 

軽口を叩き合っていたが、

2人の間には確かな絆があった。

苦楽を共にした、大切な存在だった。

 

「楽しみにしてる。

なら、今日は帰る。

お疲れ」

 

「おぉ、気をつけてな。

大輝」

 

「何?」

 

「お前の目から見て、

あいつらどうだ?」

 

青年は2人を再度見て、

少し考えた。

その後、自分の意見を話した。

 

「はっきり言って、

黒川は他の奴と組んでる方が上手い。」

 

「だろうな」

 

「だけど...あいつと組んでる黒川は、

間違いなく輝いてる。

誰と組むよりも」

 

「そうか。

八神はどうだ?」

 

「...何か隠してる。

そんな気がする。

おっさんも気づいてんだろ?」

 

「まぁな。

だから、あいつを目覚めさせたい。

見てみたいんだ、怪物が起きる所を。

そして、お前と蒼人が

一緒に立ってる所を見てみたい。」

 

蒼人と大輝。

2人の若い俳優のぶつかり合い。

そして、これから先の未来を

楽しみにしていた。

 

「俺の圧勝だよ?」

 

「そうだろう。

だが、お前も楽しめる筈だ。

劇団ララライ看板役者、

姫川大輝(ひめかわたいき)」

 

「なら、気長に待ってるよ」

 

青年は去って行った。

 

青年の名は姫川大輝。

劇団ララライ看板役者にして、

若き天才。

これからの俳優界を

背負って立つ男である。

 

『...まさかな』

 

彼が何を思ったのか。

それは、誰にもわからない。

 

Scene8『調和』 end




番外編『クマゴロウ』

クマのキーホルダーでキスされた、
蒼人はある疑問をぶつけた。

蒼「ねぇ、思ったんだけどさ。」

あか「何?」

蒼「何で、クマゴロウなの?」

あか「え?蒼人君なら、
そんな名前付けるかなって」

蒼「そんな名前にしないよ...」

あかねは、蒼人が付けるであろう
名前を連想して付けたそうだ。
しかし、蒼人のイメージが
そうであったことに、
彼は不満があった。

あか「なら、なんて付けるの?」

蒼「...熊太郎」

あか「同じじゃない」

蒼人のネーミングセンスに、
あかねは笑っていた。
笑われた蒼人は、
顔を真っ赤にし照れていた。

蒼「そんなに、
笑わなくていいじゃん」

あか「あ、照れてる。可愛い〜」

蒼「可愛いはやめてよ。
そんな歳じゃないって」

あか「あ...(見たことないひーくんだ。可愛い!)」

見たことのない、蒼人の表情。
再会した蒼人は、爽やかな好青年で。
昔に比べて落ち着いていた。
だから、そんな蒼人の表情を
もっと見たいと、彼女の中の悪魔が囁いた。

蒼「...あかねさん?
何考えてるの?」

あか「ん?何にも?」

蒼「その、意味深な笑顔何!?」

あか「べっつに〜?」

あかねは、何でもありませんと
言わんばかりに一回転し、背を向けた。

蒼「ちょ!気になるじゃんか!」

あか「秘密の多い人には、
教えませ〜ん♪」

蒼「はぁ?何だよ、それ」

その後も、2人は仲良く話していた。
兄弟というよりも、もっと深い...

めい「ねぇ、信じられる?」

こゆき「信じられない」

めい・ゆき「...あれで付き合ってないなんて」

金「アイツら2人とも降ろすか?」

みた「はっはっはっは!!
これが青春か!」
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