俺のピカチュウだけでんき技使えないんだけど   作:イリノイ州の陰キャ

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 拙作を読んでいただきありがとうございます。誤字報告、感想、評価、お気に入りなども大変励みになっています。

 誤字どころかセリフ丸ごと書き忘れてた奴がいるらしい。何やってんだろうねこいつは。




11、ただのドわすれじゃねぇぞ……

 

 この数日、どうにかしてアコニのスキルアップを図ろうと思案していたが、人を指導した経験なんてあるはずもない俺に、いい案は思いつかなかった。

 

 そこでこれ。名付けて「もうそういうのやってる集団に捩じ込んで二人してバトルとか指導の方法とか教えてもらっちゃおう作戦」だ!!

 

 作戦名にしては長すぎる、などというご意見は、頭の中でニヒルなフリをしている二人目の俺に腐るほどもらったので、もう結構だ。決めちゃったから。

 

「…………」

「どうした、アコニ?」

「あんた、そういう話し方もできるのね。もっとこう、『俺ぁシラン! よろしくしてやってくれや!』 みたいな感じで自己紹介すると思ってた」

 

 何だそのトンチキすぎるキャラ付けは。一体君の中でどんな人物像が固まっているの? いや、言わなくていい。聞きたくない。怖いから。

 

「ライムもそう思うでしょ?」

「ピカ!」

 

 いつの間に仲良くなったんだか。ライムはアコニの腕に抱かれて嬉しそうにしていた。ずるいぞ。ライムは俺の家族なんだぞ。

 

「でもその……私、自分で言うのも違うけど、この研究会に呼ばれる実力なんてないのに、どうやって……?」

「案外、将来性とかを見込まれたのかもよ」

 

 悪気を利用して無理やり二人まとめて採用してもらったとか言えるか。まぁ、本人も裏があるのは承知で、このチャンスに飛び込んできたんだろう。彼女はそれ以上探りを入れるようなことは言わなかった。

 

 トリトマの研究会にアコニを入れたいという話をした時、彼女はどうやって、とかなぜそこを、などとは聞かず、最初に「入りたい」と言っていた。向上心という意味では、伊達ではなかった。

 

「あの、アコニさん、少しお話が」

「え、わ、私ですか?」

 

 先輩研究会員の少女らが、早速アコニに話を振ってきた。真面目腐った表情からして、歓迎会を開くから参加してね! みたいな浮ついた内容ではないことは想像できる。

 

「ワルビルをお持ちなんですよね、我々は今じめんタイプのポケモンへの対策を勘案中でして、仮想敵としてお付き合いいただけませんか?」

「あ、は、はい! 問題ありません!」

「では、準備ができ次第、上のバトルコートにお越しください。お礼という訳ではありませんが、我々の戦術もいくつかお見せしたく思いますので」

 

 無表情かつ丁寧すぎる言葉遣いの女生徒は、あの剃り込みの入った先輩と一緒に部屋を出て行った。

 トリトマは、実力があって真面目にバトル研究をしていれば、風貌や態度には頓着していないらしい。校風にも合ってるんじゃないか。規律正しく、なんてポケモンを介さない野球チームの練習風景だけで十分だ。

 

「じゃあ私、行くから。またね、ライム」

「ピ」

 

 ライムは去り際の彼女の手に頬を擦り付けると、片手と片耳を上げて挨拶をした。一々かわいいヤツめ。ほら、おいで。

 

「そろそろトリミングに行かないとな……」

「ピカ?」

 

 柔い毛が指に絡むようになってきた。毎日ブラシをかけてるけど、抱いた時に服につく毛の量は多くなる一方だし、ここいらで整えてもらおうか。

 ライムの柔らかいほっぺを揉んでいると、幾分か落ち着いた雰囲気のトリトマが机に缶コーヒーを置いた。あ、すみません……お気持ちは嬉しいんすけど、俺コーヒー飲めない……。

 

「当初の取り決め通り、キサマは〝客分会員〟としている。定期的な集会には参加しなくていい。出入り自由だ」

 

 バトル興業奨励というミッションを抱えている強化生の身としては、予定を左右されないのはありがたい。

 とはいえ、研究会の雰囲気や戦法の情報収集はしておきたいし、アコニのこともあるので、おそらく何度かは様子見をするつもりではあるけど。

 

「それから、大会については、一つの研究会につき、2チームまでがエントリーできる。例年我々は1チームしかエントリーしていないからな。残りの一枠はキサマの自由にしてくれていい」

「分かりました」

 

 本当ならアコニのバトルの指導方針について、学生同士の指導という意味でも先達であるトリトマに助言をもらおうというだけだった。

 それを正式な研究会員ではないのに、かなり権利を優遇してもらったのは、棚からぼたもちが落ちてきたかのような幸運だった。

 

 大会にはもちろん参加するつもりだ。だって面白そうだし。バトルの成績や指導実績に応じて、強化生には特別な謝礼が贈与されるというのも理由の一つだけど。

 

「客分とはいえ、僕が直接指揮する研究会の関係者に、分派研究会は手出しできまい。それでも何かあれば、この第二競技棟に逃げ込むか、僕に連絡をくれ」

 

 そういうと、トリトマは第二競技棟のカギを2本渡してきた。一本はアコニの分か。というか学校の建物のカギを人数分複製して、しかも生徒が生徒に配るの、よく考えなくてもとんでもない所業だな。

 

「それから、近いうちに姉が……シャグマがキサマに接触するはずだ。姉は最初から、キサマが僕等の研究会には所属しないと予想する旨の示唆を漏らしていた。企みがあるやもしれない」

 

 どちらにせよ、そのシャグマとかいう女には俺の方から言っておきたいことがある。学園内で直接身体攻撃なんかしてこないだろうし、話があるなら是非とも聞いておきたい。

 

「ご忠告、ありがとうございます」

「改めて歓迎する。では、また」

 

 昨日の今日で目の下にがっつりクマを作っていたトリトマであったが、その足取りは確かだった。自分の研究会員でもない生徒の不始末を処理に追われているのだろうか。

 

 さて……俺も一旦帰ろうか。

 

「どういう風の吹き回し?」

 

 頬を膨らませたミヤコが、人のいなくなった研究会室の机を占領していた。

 机の上にはミックスオレの空き缶が5本と、開封した飴の外袋が10枚転がっていた。そんなに砂糖を摂取していたら糖尿病になりそうだな。

 

「何で急に入る気になった訳? しかも〝客分会員〟とか言ってさ。ウチが誘っても来なかったクセに」

 

 なんかメンヘラっぽいな。いや、失礼なことをしたとは思っているが、一連の話を説明するのも面倒というか、知られたくないしな……。

 

「悪かったとは思ってる」

「べー、だ。弱いヤツらとばっかり仲良くしちゃってさ」

 

 ミヤコは口の中の飴をガリガリと噛み砕くと、11個目の飴に手を伸ばした。ザラメが付いてるデカいやつ。

 

「俺が誰と仲良くしてたって関係ないだろ」

 

 俺の主観では、少なくとも悪事をはたらくような人間はいない。

 

「違うよ。関係ある」

「何が」

「強い人だけがいればいいんだよッ!!」

 

 ミヤコは机を叩いて立ち上がった。並べられていた缶が全て倒れ、音を立てて床に転がっていく。ミヤコは俺の目をしかと睨み付け、汚れた床になど何の関心も示していなかった。

 

「は……?」

 

 答えにもなっていない。

 

 ミヤコは自分が汚したゴミを放置して、そのまま部屋を出て行ってしまった。

 これ俺が片付けないとダメ? ダメじゃないだろうけど、はぁ……仕方ないな。

 

 

 

 競技棟を出て、一度授業の準備をするために寮部屋に戻る途中、中庭からドタドタと足音が近付いてきた。

 

「あれ、君は……」

 

 見覚えがあるワルビルが焦り気味でこちらに向かってきた。

 アコニが幼い頃にプレゼントしたという、チャーミングな花柄のスカーフを首に巻いている。いいよなこういうの。俺もライムに何かプレゼントしようかな。

 

 って、そうじゃない。どうしたんだ?

 

「グァっ、ガっ、ガーっ!!」

「なっ、何、何だ何だ」

 

 ワルビルは俺の腕を咥えて引っ張ってきた。分かった、着いていくから。離して。服が破れる。

 勢いそのままにドタドタと走っていくワルビルは、俺が空き時間に昼寝に使っている噴水前のベンチの方へと向かって行った。

 

 ん? 見覚えのある人影だな、あれは……。

 

 

「あ、アコニ? 何してる……?」

 

 

 腰に手を当てて、仁王立ちで突っ立っているアコニがいた。

 

 

 顔には何か毛玉のようなものが張り付いている。アコニはノーリアクションだ。片手はポケットに突っ込んでおり、まるでこれが普段通りですよ、みたいな雰囲気を醸している。

 

「何もしていないわ……」

「は……?」

 

 何言ってる?

 

「コンタクトが落ちて、それを通りかかった人が踏んじゃって、替えのコンタクトも期限が切れてて、顔上げたら、この、何かのポケモンが……」

 

 ポケモン……あ、ホントだ。よく見るとアコニの顔に張り付いていたのはムックルだった。足でがっしりとアコニの両肩を掴んでおり、翼を広げてひしっ、とアコニの顔に張り付いている。

 

「どうしようもなくて、途方に暮れてたわ……」

 

 情けなさすぎるだろ。かわいそうだから無理に引き剥がすとかはできなかったのかな。

 

「……す、スマホで人を呼ぶとかさ」

「研究会の部屋に忘れた……」

 

 こいつ、こういうとこ俺とそっくりだな。それでこんな往来の中途半端な場所で立ち尽くしていた訳か。それにしては堂々としていたけど。

 

「せめてこう、見かけだけでも強がっておこうと思って……」

「何の意味があるんだよ……」

 

 とにかく場所が悪い。せめてベンチまで移動すればいいのに。いくら目が悪いとはいえ、ぼんやりとなら景色も見えるだろ。

 俺は彼女の手を引いて、躓きそうなところを避けて噴水の前のベンチに誘導した。

 

「とりあえずこの子、取るぞ……うわ、がっしり食い込んでる。懐かれたな、アコニ」

「嬉しくないわよ……」

 

 ムックルはアコニから引き剥がされるのを激しく嫌がって、翼をはためかせて抵抗した。羽根がアコニの制服に落ちる。クリーニング代、高くつきそうだな。

 

「ほら、一瞬でいいから、さっ」

「ちょ、痛い、いたたたたたっ……!」

「ほい。取れた」

「ありがと…………」

 

 髪の毛が乱れたアコニは、げんなりした表情で顔周りを拭いた。獣っぽい匂いが染み付いていることだろう。

 

「くるっくー!」

「あ」

 

 ムックルは目を見張る身のこなしで、するりと俺の腕の中を逃げ出すと、ベンチに座るアコニの膝にひし、としがみついた。

 

「…………」

「何よ……」

「い、いや、いいんじゃないか? ひこうタイプ。かくとうタイプに有利だし」

 

 アコニはがっくりと肩を落とした。今日はもう授業休めよ。何にもうまくいかない日ってあるじゃん。一日休んだらさ、ほら、いい感じになるって。

 

 

 

 確かにあの後、俺に対する辻バトルの申し込みはパッタリとなくなった。トリトマの名前が効いたのか、彼自身がそれとなく釘を刺したのかは知らないが、一応は一段落付いたようだ。

 それでも視線は以前にも増して多い。中でも敵意を含ませて俺を睨む大半の眼差しは、手を出したくても出せない、という様子だった。

 

「一致技がないピカチュウか……」

 

 あの剃り込みの先輩は、サワギと名乗った。今年で三年になるらしい。

 

「噂通りの実力だったな。この俺のブーバーンが形無しか」

 

 歓迎の意を込めて、一対一のエキシビションマッチをおこなっていた。俺の相手はこのサワギ先輩。

 ブーバーンの〝しっとのほのお〟は凶悪だった。範囲が広く、ライムの〝かげぶんしん〟がまとめて消されてしまうので、中々対応に困らされた。

 

「強かったですよ。サワギ先輩のブーバーン」

「それなりに鍛えているからな」

 

 観客席に座っていた会員達からはどよめきが漏れていた。

 

「すごいな、強化生の〝二人〟」

「あぁ……それに、対照的だな」

 

 俺の隣のコートでは、ミヤコのブリジュラスがフィールドを電撃で焼き払っていた。

 ブリジュラス、本物を見るのは初めてだ。ミヤコの出身地であるイッシュに生息するポケモンではないはずだが、どういう縁があって彼女の手持ちとなったのだろうか。

 

「ミヤコ強化生か……」

「サワギ先輩?」

「強いポケモンを、強いトレーナーが使う。全く合理的だな」

「そ、っすね……」

 

 対戦に応じた研究会1年の少年と、ミヤコとの実力差は歴然だった。

 あの〝エレクトロビーム〟とかいう技、うまく天候がハマれば、ポリさんの〝はかいこうせん〟を数段上回る威力が出そうだ。

 

 あれがパルデアで発見されたジュラルドンの進化系ポケモンか……。

 強いポケモンを使えば強い、というのはよくある発想だが、全く勘違いだ。他のポケモンと形質が全く違うはがねタイプである時点で育成が難しいというのに、ドラゴンタイプに特有の気難しさまで持ち合わせたジュラルドンは、実績のある多くのトレーナーすら育成を断念している。

 さらにその進化系だ。俺達と同じくらいの年齢でそれを手懐けているというのだから、その実力は折り紙つきか。

 

 

 …………それにしても。

 

 

「ワルビル! じなら――――」

「くるっくー!」

「ちょ、むっ、ムックル! 待って! おやつならあとであげるから! お願い!」

 

 あっちは大変そうだな。ボールから勝手に飛び出してきたムックルが、アコニにたかっていた。何というか、気に入られてはいるみたいだ。

 ポケモンに好かれることはトレーナーの第一条件だから、まぁそれはいい。今からムックルに教えてあげればいいんだから。

 いややっぱタイミング悪いな。前見えてないだろあれ。

 

「すいませんサワギ先輩、ちょっとあっちを……」

「あぁ。ここは気にするな」

 

 使ったコートの整備を先輩に丸投げするようで悪いが、あれを見過ごすのは担当強化生としては許されないだろう。

 先輩は剃り込みを撫でながら、赤子を見るかのような目で微笑んだ。全くお恥ずかしい限りで……。

 

「ターイム! アコニ! ボール借りるぞ」

 

 両手をTの字にしてコートに横入りした俺は、傍のベンチに置いてあったトレーからボールを取った。

 

「くるー! くるっく――――」

 

 アコニの顔にしがみついたムックルにボールの開閉口を当てて、強制的に格納する。ムックルを回収すると、俺はさっさとコートから出て、謝意を込めて片手を上げた。

 

「すいませーん! もういいでーす!」

 

 折角のアコニの実践の場を台無しにしたくはない。何とかバトル中止にはならなくて良かったか……うわっ、ちょ、暴れるな。この調子で暴れてたらいつかボール壊れるぞ。

 

 こいつめちゃくちゃ元気だな。アコニにしがみついている時の翼が筋肉質だし。ムクホークになった時のパワーが楽しみだ。

 

 ぽんっ!

 

「くるっくー!」

 

 もう出てくるのかお前……! いや、そんなこと考えてる場合じゃない、そうだ。確かポケットに……。

 

「む、ムックル! ほら、ポロックあるぞ!」

「くる!? くるー!!」

 

 そうだこっちに来い! 今だけでいいから! あとで存分にアコニに甘えればいいからさ!

 

 ぽんっ!

 

 あ、ちょ、ポリさんまで出てくんな! これはポリさんのじゃないの!

 

「くるー!」

「ピカ?」

 

 ライムまで……! おい、落ち着け! このポロック一匹分しかないから、そんなに出て来られても渡せな――――。

 

「くるー!」

「ちょ、痛い痛い! いて、いてててて!」

 

 痛い痛い痛い! 顔に爪を立てるな!

 

「ラーイム! かば、鞄! 鞄取って!」

「ピっ、ピカ……!」

 

 

 結局ムックルの大暴走は、アコニのバトルが無事に終わっても、収まることはなかった。

 慌てて駆けつけたトリトマが、手持ちのアヤシシの〝さいみんじゅつ〟でムックルを眠らせることでことなきを得た。

 ……すいません。本当に。トリトマは笑っていたが、肩で息をする彼の顔色は真っ青を越して真っ白だった。俺も人のこと言えないけどさ。

 

 





熟成オレンのきのみジュースシャーベット

味 :★★★★☆
栄養:★☆☆☆☆
他 :★★★☆☆

総合評価:★★★☆☆

 ツボツボの中で熟成したきのみジュースを凍らせてシャーベット状にしたスイーツ。きのみはオレンのみだけを使用しており、人間の味覚にはほんのりと風味を感じる程度だが、ほのかに甘みがある。
 学内に定期的に来るキッチンカーで曜日毎に提供されているスイーツの一つ。ワンカップで税込410円。ジュースに使われるきのみは季節で変わる。

ライム評:★★★★★
備考
 ピカ! ピー(好き! もっとちょうだい!)

シラン評:★★★☆☆
備考
 ハイネのお気に入りスイーツ。主張薄めなハイネがねだるので、ついつい買ってしまうのだが、ワンカップでこの値段は流石に高い……。
 味は結構うまい。キッチンカーに「私が熟成させました!」という文言と共にツボツボの写真が貼られており、食べている時に何だか複雑な気分になる。
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