俺のピカチュウだけでんき技使えないんだけど 作:イリノイ州の陰キャ
拙作を読んでいただきありがとうございます。誤字報告、感想、評価、お気に入りなども大変励みになっています。
最近「ここすき」なる機能をようやく発見しました。投票ありがとうございます。面白いですねこの機能。
気付くのが遅すぎるだろと思われるでしょうが、叱り飛ばしたい思いをグッと堪えて、気付いただけでも褒めてください。
『よォー! 元気か? シラン』
「グリーンさん。お久しぶりです」
スマホロトムがいつもより真面目な様子で俺を呼ぶので、課題を解く手を止めて電話に出ると、グリーンさんの顔が映った。
『聞いたぜ。一つ目のバッジを獲得したってな。お疲れさん』
「ひとえにグリーンさんのご指導の――――」
『あー、やめろそういうの。ジジイを相手にしてるんじゃねーんだぞ』
「は、はい。すみません……」
彼への尊敬の念というべきか、返し切れない大恩が俺を畏まらせるのだが、グリーンさんはそういうのを嫌う。
尊敬しているからこそ、あんまり距離感を詰めた感じにはしたくないんだよな……厄介ファンとかじゃないからね。何か自分でもそんな気はするけど、違うから。
『それよりジジイが言ってたぜ? お前のピカチュウ、随分気合い入ってるらしいな』
ベッドの上で丸まっていたライムが片耳を上げた。あっ、かわいい。写真撮りたい。スマホどこだ? あれ? どこ行った……? あっやべっ、通話中だった……。
そんなことをしているうちに、ライムは耳を下げ、またすやすやと寝息を立て始めた。いつも高い位置で止まる口角がうっすら開いており、隙間からよだれが垂れている。何しててもかわいいな。
『発電できないピカチュウか……〝昔〟のお前じゃあり得なかっただろうな』
「……そうかもしれないですね」
『今なら〝アイツ〟も許してくれんじゃねーか?』
「…………」
『ま、いいけどよ。お前にはお前のタイミングがあるだろォしな』
そこでグリーンさんの電話口から、大きな歓声が聞こえてきた。ジムを留守にしがちな彼は、遊び歩いているのだと誤解されるが、その実誰よりも真面目にバトルというものを研究している。おそらくはその一環だろう。
『でもな、一つ忠告しとくぜ』
グリーンの不敵な笑みには変わりなかった。歓声はバイラルな反響を何度も繰り返し、もはや騒ぐことが目的らしい半狂乱の怒声を浴びせ合っていた。
『いつまでも変わんねーものはねぇぞ。いなくなっちまってからじゃ遅ぇんだ』
「でも、実際には〝みがわり〟が優先される場合があって――――」
設備が充実していることもあって、俺はすっかり第二競技棟に入り浸っていた。
そこで課題を片付けるなりポケモン達に練習をさせるなりしていると、会員達が色々と質問をしてくることがある。
《原則として、強化生はバトル興業の振興を義務とする。》
つまり、こういう生徒達を無碍にしてはいけないというのが決まりになっている。
だからこんな感じで、効果を実践しつつ基本を教える、というようなことが増えた。前よりも話しかけてくれる奴が増えてくれたので、俺的には歓迎している。
「例えば相手が〝つるぎのまい〟や〝ほたるび〟を使ってきた場合は?」
会員の一人のエンニュートが発動した〝まもる〟の前で、ハイネが〝めいそう〟をしかけた。
「〝まもる〟が無駄打ちになる……?」
「そゆこと。〝まもる〟の効果時間は短いから、引っかけに弱い。対して〝みがわり〟なら、一回分はほぼ絶対守ってくれる」
ハイネは翼を広げ、大きく息を吸うと、片翼を上げて〝ルミナコリジョン〟……のフリをした。エンニュートは目をぎゅっとつむって「ぐわー」みたいな顔をしながら、よろよろとその場に倒れた。
会員達はかわいい寸劇を前に、カリカリと紙なり携帯なりにメモを書き起こしていた。
「それから、体力低下に応じて威力が上がる技とか〝とくせい〟があるだろ?」
有名なところで言えば〝もうか〟や〝げきりゅう〟が、技ならばライムも使う〝きしかいせい〟もそれに当てはまるか。
「相手の攻撃に依存せずに活用できるから、場面によっては防御と攻撃を兼ねられる」
「おぉ〜」
「なるほど……」
うわ、何だろうこれ。おもしろ。
人に上からものを教えるってのはなんて気分がいいものか。我ながら最悪な思考であることは自覚しているが、こうも素直に聞いてくれると楽しいな。
「じゃあ〝まもる〟より〝みがわり〟のほうが強いってこと?」
「そうだな……〝まもる〟ほど咄嗟に発動できないから、相手が発動の早い技、例えば〝でんこうせっか〟とかを使ってきたら、〝みがわり〟を置く前に攻撃を受けるかも」
それに〝ほえる〟や〝ふきとばし〟で交代を余儀なくされた場合には無力だ。体力を消費しただけという悲しい結果だけが残る。
もっと言えば〝みがわり〟は耐久性に乏しい。どんな高威力、広範囲、高回数の技でも一度ならほぼ確実に何とかしてくれる〝まもる〟と違って、目にも止まらぬ連続攻撃を繰り出されれば、折角の〝みがわり〟は最初に壊され、二度目の攻撃が届いてしまう。
「難しいな……」
「なんか使いこなすの大変そうだねぇ」
「自分で試して体で覚えるしかない……ありがとう、ハイネ」
「キュ……」
おずおずと擦り寄ってくる彼女の羽を撫で揃え、デモンストレーションを手伝ってくれたことを労う。あまり鳴き声を発しない彼女だが、ライムよりご機嫌がナナメになりやすいので、構ってほしそうにしている瞬間を見逃さないことが大切だ。
「キュ……キュ……!」
「おわ、服に羽毛が……まーいいか」
クエスパトラは大概の個体は気性が荒く、手懐けるのに苦労する、と聞いたことがあるが、ハイネはむしろ怖がりで争いを好まない性格なので、類型というのはそこまで当てにならないよな。
ヒラヒナの頃から一緒にいるから、野生の競争世界にスれてないってだけかもしれないけど。
俺のほうはこんな感じで、何だかんだ順調だった。うまいこと研究会の中でもう二人メンバーを見つけて、アコニと四人で大会に出場するのを目標としている。
アコニの調子については、おそらく諸君にも想像が付いているのでは無いだろうか。
「ムックル! ダメ! これは明日の……ちょっと、危ないから!」
アコニは昨日に引き続き、ムックルに言うことを聞かせるのに苦労していた。
「くる?」
「そう、いい子だから、フーズはここに戻して……!」
「くるぅー!」
「あぁ〜〜!? 撒き散らさないでぇ〜!」
競技棟という、おそらくは見慣れていない景色に大はしゃぎのムックルは、コート中を飛び回って、会員達に食べものをねだったりかわいがられたりしていた。
それを追いかけるアコニは目をぐるぐる巻きにして、今にも膝から崩れ落ちそうな様子だ。
ちょっと助け舟出すか……。
「ムックル、ほら、これなんだ」
「くる!? くるー!!」
俺はニンジン型の小さなぬいぐるみを取り出すと、ムックルの少し後ろに向かってそれを投げた。ムックルは一目散にそれに飛びつくと、嘴で挟んだり、足でガシガシと蹴り始める。
ムックルは活き活きとしていた。力加減が強いのか、咥えられたぬいぐるみはぐにゅっと潰れ、形を戻そうとする間にまた咥えられる。
「元気を持て余してるんだよ。遊びたくて仕方ないってさ」
ムックルが口を離した隙におもちゃを取り上げ、少し高いところで揺らしてみせた。するとムックルは目を輝かせて、パタパタと飛び跳ねながらぬいぐるみを突っつきだした。
「散歩、連れて行ってるのに……」
「飛べるほうがいいかもな。ボールに入るってことは、ちゃんとアコニの下が帰る場所だって分かってるから、多少放しても問題ない」
競技棟は広いし、屋上コートを軽く飛ばせてみるのもアリだろう。心配なら3階の室内コートでもいい。あの中でも十分な広さを確保できているはずだし、基本的に会員の誰かがいるから、目を離していなくなっても、彼らが見つけてくれる。
「それからね、寝る前にもよくはしゃいでて、部屋の中を飛び跳ねるから、ワルビルが寝不足になっちゃって……何が原因なんだろう……」
それは問題だな。ワルビルにとっても、アコニにとっても、それからムックル自身にとっても。
騒音を聞かされているほうも当然だが、はしゃいでいるほうも眠っていないからはしゃいでいる訳だし、元気に見えて睡眠負債が積み上がっているかもしれない。
「ムックル、寝る時はどこで寝てる?」
「どこって……ボールの中に入れてる」
「もしかしたら、夜は一緒に寝てあげたら落ち着くかも。ムックルって普通は群れで行動するポケモンだから、一人だと不安で暴れてる、って可能性もあるからさ」
特に、自ら群れを離れたのではなく、何か原因があって分断されたような個体であった場合は、寂しさで夜鳴きをすることも珍しくはない。
新たな群体として受け入れる儀式とでも言うべきか、ポーズを見せることが重要だったりする。例えば、同じものを食べて、同じ挨拶をしてみるとか。
「そっか……」
アコニはワルビルの特徴を話し合った日のような、思い詰めた表情で唇に拳を当て、俯き加減で思索に没頭し始めた。
15歳という年齢で、バトルの実績が伴わないことを焦ってか、彼女は不安定だ。幼い頃からのパートナーであるというワルビルが彼女の心の安寧を支えているようだが、トレーナーはポケモンに寄りかかる存在ではなく、ポケモンを支える存在にならなければならない。
「ねぇ、シラン」
ということを、本人も自覚しているようだ。学校が始まってから二、三週間のこの頃、彼女の目には並々ならぬ決意が滾るようになっていた。
「そっちの予定に合わせるから、ライムにリベンジさせて」
ベンチに置いてあったトレーのボールがうずく。ワルビルの先走る闘争心がボールを揺らしていた。
「考えてきたの。ワルビルと話し合って、どうしたいか、どうするべきか……」
話し合い、か……これができるトレーナーは意外と少ない。ポケモンを導かなければ、という自負が暴走するあまり、全ての意思決定を自分でおこない、手持ちの意思の確認を忘れてしまう者がいる。
彼女に助力する強化生として、この初心を忘れてはいけないと、俺は彼女にそう助言するべきだった。ただ、この時ばかりはそんなことを言えなかった。
「初めて会った時は、プライドが邪魔して認められなかったけど、シランは強い。ワルビルよりずっと経験の少ないライムで、私に勝って……違うわ。私が、弱い……」
アコニは拳を固く握り、口端からため息にもならない空気を漏らした。
「自分で考えた戦い方で、強くなりたいの」
曲がりなりにも勝負師の目をしていた彼女に、まるで教師のように高弁を垂れ、上から気付きを褒めてやるなど、できなかった。
あの人と……赤い帽子のあの人の強さを知ってから、俺は強くなった気になって、そのために何を失った? ハドリアに来てから、いや、ずっと前から感じなくなっていた血の騒ぎを、この初心者に揺るがされるのは、一体なぜなのか。
そう、初心者だ。バトル学の授業で習う寝言のような基礎話を、まるで初耳のように机に齧り付いて聞く彼女は、この学園でも下から数えたほうが早い程度の実力しかない。
……何か関係あるのか? それ?
「分かった」
真面目な顔を取り繕うのに苦労した。口角が上がるのを必死に抑え、俺はただ了承だけしてその場を去った。血の気を写し取ったポケモン達が騒ぎ出す前に。
グリーンさんもこんな気分だったのだろうか。思えば彼は、俺とバトルをする時、いつも笑顔だった。
強化生には最近、ちょっと自分で名乗るには恥ずかしい異名が付き始めた。
ミヤコなら〝甚雨〟とか、ユリオなら〝白銀〟とか、そんなん。人から呼ばれるのは強者と認められているようで嬉しいが、自分からそれを使うと冷めるな……というような。
20人いる強化生のうち、特に知名度のある5人程度にこのような工合で異名が付けられている。まぁ学生のノリだ。それに上記の二つは、意外と特徴に合致しているような気もするし。
ところで、実は俺にも異名がある。異名が付けられた強化生という、この5人のうちの一人は俺だ。
……聞いちゃうか? 俺の異名。聞いたことを後悔しなければいいが。
「〝雑魚狩り〟だ……!」
「あれが〝雑魚狩り〟のシラン……」
「流石に〝雑魚狩り〟のオーラをまとってやがるぜ……!」
俺についた異名はこれ。〝甚雨〟のミヤコ、〝白銀〟のユリオと並べてみるか。この〝雑魚狩り〟のシランを。
あんまりだよ。降りかかる火の粉を払っていただけなのに。つーか誰だ〝雑魚狩り〟のオーラとかたわ事をほざいた奴は。今すぐその謎概念の詳細を俺に説明してみろ。
「やべぇよ……見てみろあの目つき、あれが次に狩る相手を見定める時の〝ウォーグルアイ〟か……!」
「目を合わせるなよ、狩られるぞ……!」
そっちでいいじゃん。その、ウォーグルがなんたらって奴。呼ぶならせめてそっちにしてよ。
少しの間続いた狙い撃ち的なバトルの申し込みの連続は、トレーナーとしての経験の違いからか、全て一方的な内容で俺の勝利に終わっている。その様子が雑魚を蹴散らしているように見えたからだろう。
「くくっ……調子どうかな、ざ、〝雑魚狩り〟の……くくくっ……」
レブンがいつものようにかけそばを置いたトレーを持って、含み笑いを堪えながら俺の隣に座った。
「やめろ」
「ごめんごめん! だってさ、よりにもよって〝雑魚狩り〟……くははははっ!」
「もう怒った。じゃあ俺にも考えがある」
俺はレブンが頼んだかけそばから海老天を奪い、サクサクサク、と食べ切ってしまった。
知ってるぞ、肉嫌いなお前は、これを一番楽しみにしているということを。
「あぁ! 一番好きなのに! それはナシだろ!」
「余計なこと言うからだ!」
机を叩いて立ち上がったレブンにつられて、俺も立ち上がってしまう。ばーか。ざまぁみろ。お前の海老天はもう俺の胃袋の中だよ。
「今のは嫌がらせレベルで言ったら10だろ! 僕のは精々2とかだった!」
「そんなルールありませーん! 一回は一回でーす!」
「お二人とも、人前ではしたないですわよ」
食堂のテーブルで取っ組み合いを始めた俺達を止めたのは、ユリオだった。
「何を人前で言い争っているのですか」
「だってシランが僕の海老天を!」
「お前が先に〝雑魚狩り〟とか言うからだろ!」
「だからって海老天は――――」
「黙りなさいッ!!」
ビシッ、と机を叩いたユリオは、普段の訓練されたかのように均一な声量のタガを外して、1ミリだけ目を見開いた。
「食堂は共有スペース。お二人だけの場所ではありませんの。お分かりですか?」
「は、はい……」
「ごめんなさい……」
怒ったユリオは、それはもう怖かった。普段から怒ってるオコリザルより、温厚なイエッサンがブチ切れた時のほうが怖いのと同じだ。
いつも丁寧なユリオが青筋を立てて睨み付けてくる表情には、真冬のシロガネ山で古傷だらけのギャロップと対峙している時のような緊張感があった。あそこのポケモン、ゴルバットすらエリートトレーナーのクロバットより強いからな……。
「つーか珍しいな。ユリオが食堂に来るの」
「そういえばそうだね。今日はお弁当じゃないの?」
彼女は(お嬢様なのに)俺達とは生活力が違うので、自分で弁当を作っている。だから彼女が学生食堂に来るのを見るのは、初日にバトルを申し込まれた時のそれのみだ。
「伝言を頼まれましたの。シランさんのお知り合いという先輩から」
「知り合い?」
最近はトリトマの研究会のおかげで親しくしてくれる人が増えたけど、友だちなんかユリオとレブンとアコニしかいないし、みんな用があったらチャット送ってくるよな……?
「えぇ。授業が終わり次第、校門で待っていると。男子生徒でしたわ」
最近知り合いになった会員達にしても、全員俺のIDを教えてある。知り〝合い〟の中には、伝言を使う必要がある奴なんかいないということだ。
自分で矢面に立つと目立つので、伝言役を間に挟んだと見るべきか。
「…………」
「どうされましたか?」
「いや……ありがとう」
心当たりはある。一つだけ。来てほしくなかった、いや、来てほしかったというべきか、特に想定外でもない、一つの可能性が思い浮かんだ。
「二人とも悪い、俺ちょっと……」
「今すぐ会いに行かれるのですか?」
「いや、薬持ってくるの忘れてさ。レブン、めんどいから5限フケるわ。ノートよろしく」
「はいはい」
急いで食べ終えた焼き魚の定食を返却口に返し、サイコソーダを思い切り呷って口の中を空にし、俺は一度寮の部屋に帰ることにした。
ポリさんとハイネのボールを部屋に置いたままだ。それに、競技棟のカギは置いて行きたい。
早足で学食を出た俺は、中庭を横切る道中で、ある人物に電話をかけた。
『もしもし』
「言ってた通り、来ました。多分、前に言ってた……」
『準備する』
今日の午後の授業は5限で終わりだ。おそらくそれを知って、今日を指定してきたのだろう。
いい加減、おとなしい学生を演じるのにも飽き飽きしだした頃だ。
限定ポットデスマカロン(ポットデス0%)
味 :★★★★☆
栄養:なし
他 :★★☆☆☆
総合評価:★★★☆☆
ポットデスのトレーナーである有名な職人が経営するパティスリーで、一日限定100袋だけ販売しているマカロン。フレーバーは実際にポットデスの体を使っているのではなく、職人が味見させてもらった時の味を再現したもの。
正山小種とラムのみを合わせたような渋みとクセのある風味が特徴。かなり独特な味で、職人も認める通り、好みが分かれるところ。
ライム評:★★★★★
備考
ピカー!? ピカァ!!(やったぁー! マカロンだぁー!!)
シラン評:★★☆☆☆
備考
テレビで特集が組まれていたのを偶々ポリさんに発見され、部屋が半分氷漬けになるレベルで駄々をこねたので、渋々朝から並んで買ってきたマカロン。一袋4個入り。税込1210円。こんな小さいもんが1000円超えるってアホか。
味は、ポケモン達には好評。ポリさんもハイネもご満悦だった。このスモーキーな甘さは正直俺の好みではない。紅茶とかもあんまりフレーバーを足したものは好きじゃないし。