俺のピカチュウだけでんき技使えないんだけど   作:イリノイ州の陰キャ

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 拙作を読んでいただきありがとうございます。誤字報告、感想、評価、お気に入りなども大変励みになっています。

 この少ない話数で学内ランクとかいう後付け設定を増やす暴挙。それもこれも見切り発車って奴が悪いんだ。どっかで設定に矛盾が出てきたらすいません。




14、ぼうふうの前触れ

 

「なぁ、レブン」

「どうしたの?」

「学内ランクって何?」

 

 昨日、シャグマから逃げる際に、背後から聞こえてきた罵声の中にあった文言だ。

 あの時は息切れと胸痛のせいで気にしていられなかったが、その響きにはどこかスケッチーな情緒がある。あぁ、まずい、シャグマのしゃらくさい口調が移りそうだ。

 シャグマだけにしゃら……いや、やめとこ。危ない危ない。これが俺の本気とは思わないでいただきたいね。

 

「君それ本気で言ってる?」

「うるさいな。いいから教えてくれよ」

 

 今から知ろうとしているだけ褒めてほしいくらいだ。

 

「ハドリア内のバッジ数や大会の成績なんかを参照して、学園が発表した指数によって学生がランク付けされるんだよ。500位まで、全学年合同で、四半期毎にね」

 

 全生徒をランキングするのではなく、上位500人だけをピックアップする訳?

 そりゃそうか。約6000人の全員をランク付けするのは物量的に難しいし、というか下の方にランク付けされてしまった生徒は、そのために自信をなくしたりやる気を失うかもしれないから。

 

「50位以内にランクインするような実力者達は、例年ジムトレーナーや、リーグ関係の企業に就職している。逆に言えば、それだけの実力を認められなければ、バトルの世界に参入するのは厳しいってことさ」

 

 実際、カントーでジム巡りをしていた頃のライバル達は、通過したジムの数に相関して減少していった。

 グリーンさんのジムに到達した時、今年は1000人以上とか報道されていたジム巡りの挑戦者は、俺を含めて10人も残っていなかった。

 

「まぁ、一年生には基本的に無縁な話だけどね。大体は3年以上、たまに2年生がランクインするくらいらしい。僕らにはあんまり関係ないかな」

「ふーん……」

 

 他人の評価ほど鼻につくものもないが、これ以上に欲するものもない。ならば、せめて上位を目指すのが俺なりの反抗……ということにしておこう。

 どうせ強化生などという身上の時点で、というか勝敗によって優劣を付けられる世界に参入した時点で、誰しも競争は免れないしね。

 

 

 

「多分あんただけよ……知らなかったの」

「マ?」

 

 さっきレブンにも同じこと言われたな。

 

 アコニのリベンジの申し出を承諾した俺は、競技棟2階の半コートを借りて、二人して対戦の準備をしている最中であった。

 

「〝学内ランク〟は、それ自体が内申につながる訳じゃない……でも、この学園の生徒なら……いえ、ハドリア地方の人間なら、誰もが気にしているわ」

 

 前年のアコニのランクは……聞かない方がいいか。いや、別段悲観するような話でもない。

 中規模程度の大会なら、出場資格にバッジ取得数の下限と上限の項目を設けていることが多い。こういうのは他地方での成績も含まれるため、俺じゃ出場資格を超えてしまっているような大会でも、アコニにはチャンスがある。

 

「今年度最初のランキングが発表されるのは、一週間後」

「結構早いな……」

 

 今からアコニのランクを盛るのは不可能だな。俺も、急いで二つ目のバッジを取りに行く気はないし、俺が手当たり次第にエントリーしまくった大会は、全て最初のランキング発表の後だ。

 

「それより、準備はいい? リベンジ、受けてくれるんでしょ?」

「あぁ。ちょっと待って、すぐに――――」

 

 

 ボールを持って振り向いた瞬間、轟音が俺達の間を駆け抜け、バトルコートにデカいクレーターが生まれていた。

 

 

「あ……? 何が……」

「シラン。まだそんな奴の相手してるんだ」

 

 ブリジュラスの〝ボディプレス〟が、コートに陥没を作っていた。

 縦幅だけで2メートルはあるブリジュラスの威容に、アコニが肩を跳ねて震わせた。デカいドラゴンポケモンってのは、いるだけで威圧感とかストレスを振り撒くものだ。

 別にブリジュラスを悪く言うつもりはない。けどここでは、ボールに入れておいてくれないか。

 

「取り込み中だ。どいてくれ」

「どかない」

「…………」

「ねぇ、ウチとバトルしてよ」

 

 いつも微笑みを絶やさないミヤコであったが、今日は見るものが何も面白くなさそうな表情だった。

 

「先約がある。その後で――――」

「ダメ。じゃあどかない。そんな弱っちいヤツのために、ウチが待つのは嫌」

 

 レインコートのポケットに両手を突っ込み、ブリジュラスにもたれかかったミヤコは、挑発的な目で俺を睨んでいた。

 その視界の中に、アコニは含まれていないのだろう。一瞥すらくれる様子がない。

 

「どうするの。ウチ、どかないよ」

「はぁ…………」

 

 じゃあ俺達は移動するだけだ。好きなだけそこで地蔵のマネでもしてろよ。

 

「行こうアコニ。上が空いてるだろ」

「待って」

 

 鞄に手をかけた俺を静止したのは、ミヤコではなくアコニだった。

 

「…………私がやる」

「え?」

 

 私がやるって、君がミヤコとバトルをするってことか?

 それは……いや、担当強化生として、止めるべきだ。ミヤコは手加減や、指導などには一切考えを巡らせていないだろう。

 彼女との力の差を知って余計に自信喪失するか、あるいは手加減なしの攻撃でポケモンや、アコニ自身が怪我をするかもしれない。

 

「強くなるためには……! 逃げちゃダメ、だから……」

 

 強くなるためには……。

 

 全く同感だ。いや、やろうと思えばいくらでも反駁できる。強くなるのに方法は関係ないし、人それぞれのペースがある。無理をして体を壊しては本末転倒だ。

 

「アコニ……」

 

 しかし、俺にはそんなこと言えない。なぜなら、場所は違えど、俺も彼女が今やろうとしている方法で強くなった。逃げ場のない環境に身を置いて、自分とポケモン達以外に頼りにするものがない場所で。

 

「ふーん……いいよ。理事長の娘でも。何ならハンデ付けてあげる。ウチが最初に出すポケモンはシビルドンだよ」

 

 そう言うと、ミヤコはブリジュラスをボールに戻し、宣言通り、シビルドンを繰り出した。ドス、と、土嚢を降ろしたような重量を感じる音が響く。

 

「ほら、来なよ。やるんでしょ?」

 

 ミヤコがアコニを指で挑発した。そのナメた態度に目を剥きそうになったアコニの肩を叩いて、静止する。

 

「やるなら、せめて冷静になれ。感情的になれば、君のポケモンも引きずられる」

「……大丈夫」

 

 シビルドンのことはよく知っている。カントーの大会で一人、使い手がいた。〝とくせい〟を活かした奇策で翻弄されたので、向こうでのバトルの記憶の中でも特に思い出深い。

 

「手持ちは2匹? じゃあ2対2でいいや。早く出してよ」

「シビルドンなら……行って! ワルビル!」

 

 でんきタイプのシビルドンに有利と見て、彼女が出したのワルビルだった。

 悪くない選択だ。というか、弱点を突かれる上に、経験は皆無に等しいムックルを出す理由はない。俺でもそうする。

 

 ただ、アコニは気付いているだろうか。

 

「気をつけろアコニ、それは――――」

 

 ミヤコの鋭い視線に貫かれた。一対一のバトルに外野が助言をするなということか。突発的に仕掛けておいて。

 

「平気……私自身の力で戦わなくちゃ、ずっと誰かがアドバイスしてくれる訳じゃないもの」

 

 そう言ってミヤコの反対側のトレーナーボックスに立つアコニの表情は、危なっかしかった。

 確かに参入はおくれたかもしれないけど、君にはまだ時間がある。自分の力にこだわるのは大切だが、焦って取りこぼした時の反動はその分……。

 

「シラン! 審判してよ。いいでしょ」

「あ、あぁ……」

 

 ミヤコに催促されて、俺は渋々審判台に立った。木組みの安定しない台の上で片手を上げ、二人に合図する。

 

「はじめ」

 

「ワルビル、え、えと――――」

「シビルドン! 〝あまごい〟!」

 

 先に動いたのはシビルドンだった。緊張からか指示が遅れたアコニに対して、シビルドンは余裕綽々で両手を上げ、空に向かって慇懃に雨を乞う。

 程なくして雨が降り出した。陥没したコートがツヤを発し始め、円の淵から重力に削られてぬかるんでいく。

 

「ワルビル! 〝じならし〟!!」

 

 それは……! いや、俺には何も言えない。審判台に立ってしまった以上、どちらにも肩入れすることは許されない。

 

「シビルドン! 距離を詰めろ!」

「え、な、何で……!」

 

 シビルドンは〝じならし〟を耐える必要もなかった。なぜなら、そもそも当たっていないから。

 

 奴の〝とくせい〟は〝ふゆう〟だ。失念されやすいが、じめんタイプの技は効かない。

 〝ふゆう〟とは、ただ静止時に浮いているポケモンを指す訳ではない。空中で浮動している際にも安定した運動能力を発揮できるポケモンのことを言う。見た目は浮いていても、技を放つ時には着地しているポケモンがほとんどだ。

 それをシビルドンとかいうポケモンは、体質から生み出される電磁力で運動方向への反動をコントロールしつつ、自在な方向に回避行動や攻撃をおこなうことができる。

 

「シビルドン! 〝インファイト〟!」

 

 予期せぬタイミングで、突如懐を開いたシビルドンが、反撃覚悟でワルビルの腕の中に侵入し、一見には強靭に見えない拳を何度も振り切った。

 

「ワルビルッ!!」

 

 強烈なかくとう技になす術なく、大ダメージに膝をついたワルビルに対して、間髪入れずミヤコからの追撃の指示が飛ぶ。

 

「〝ブリジュラス〟!! 〝ラスターカノン〟!」

 

 弱点技のボディプレスでもない。十分距離を保った位置から、安全策の〝ラスターカノン〟をワルビルに命中させ、ミヤコは完全にワルビルの意識を奪い取った。

 

「な、何でブリジュラスが……!?」

「ふふっ。理事長のご息女には難しかったかな?」

 

 性格悪いなこいつ……ミヤコだって俺と同じで一人は〝練習生〟を受け持っているはずだろうに、こんなんでちゃんと教えられているのか?

 

「……〝だっしゅつパック〟だろ」

 

 でんきタイプかつ〝ふゆう〟のシビルドンには、弱点がない。

 あえて完全に速度を捨て、耐久に厚く育てることで、確実に相手の攻撃を耐える。そして攻撃力の高い〝インファイト〟を〝だっしゅつパック〟の効果で打ち逃げしながら、後続のブリジュラスにノータイムで繋げる訳だ。

 

「いけないんだ。審判が教えるの」

「その前に彼女は練習生だ」

「ま、いいけど。流石にシランは見る目が違うね。君に手の内を知られるのは痛かったかな。このあとすぐに二戦目をやるのに」

 

 ミヤコはすでに自分が勝ったものとして話していた。アコニへ肩入れする主観を排して言えば、俺の目にもミヤコの勝利は明らかだ。アコニが何か俺の知らない奇策を用意していたりしなければ、ここから挽回する術はない。

 

「話にならないな。ほら、シラン、見たでしょ? 君が相手してあげるようなヤツじゃないんだよ」

 

 シビルドン……〝あまごい〟のイメージがないポケモンでまんまと雨を降らせ、しかもその効力がほとんど失われていない段階で、ブリジュラスが出てきている。

 

「聞いてる? ウチの言う通りだったでしょ? 弱いヤツらなんかと一緒にいるべきじゃないの。ウチも、君もね」

「…………」

 

 当然新参者のムックルで太刀打ちできる相手ではないし、ワルビルが無事だったとして、その圧倒的な耐久力を前に痛痒を与える術はない。

 

「ま、まだ……!」

「アコニ!」

 

 思わず声を荒げてしまった。語気が強くなってしまったのはよくなかったが、ここは強く言ってでも止めるべきだ。

 

「確かに危険を冒すべき時もあるけど、今は違う」

「でも、私…………!」

「大丈夫。別にいいんだよ。負けても。そのために強化生がいるんだから」

「…………分かった」

 

 アコニは固く握りしめていた拳を解き、震える肩を落ち着かせると、ため息を吐いた。

 それでいい。必ず立ち向かわなければならない日が訪れる、それには同意するけど、今じゃない。まだ俺達は学生で、規範にすべき人が周りにいくらでもいるんだから。

 

「私は……き、棄権――――」

「ダメだよ」

 

 審判台から審判が降りたにもかかわらず、ミヤコは雨を止めなかった。

 

「そんなのダメ。自分からウチの邪魔をしたくせに。それはもう通らないから」

「おい、ミヤコ――――」

うるさいッ!!

 

 ブリジュラスが姿勢を極端に低くした。雨によって伝導率が増加した全身が通電し、顔の左右にある電極に、周囲の起毛した布類が全てけば立つほどの圧倒的な電力が集中していく。

 

「うるさいんだよッ!! 何で分からないの!? 弱いヤツは、ウチらの足を引っ張るだけ!! いる意味なんてないのッ!!」

 

 

 ジジ――ジジジ――――ジィィ――ィィィ――!!

 

 

 このまま撃つ気だ。ワルビルを介抱しているアコニごと、コートを消し飛ばすつもりで……!

 

「いや――――」

「ライムッ――――!!」

 

 

 

 咄嗟にボールから出したライムが、アコニの斜め右に飛び出した。

 

 おそらくはポリさんの全力よりも強大なエネルギーが、全て不発のまま発散する。その命中点には、無傷のライムが四つ足で立っていた。

 

「〝ひらいしん〟……!」

 

 渾身の一撃が泡沫と化したミヤコは、下唇を噛みながらこちらを睨みつけた。

 

 ライムに吸われた〝エレクトロビーム〟は、ピカチュウの〝とくせい〟としては個体数の少ない〝ひらいしん〟の効力によって無効化された。

 でんきポケモンに特有の強誘電体の皮膜に、もはや不条理な抵抗値の絶縁体が共存するライムの体は、通常なら周囲が焼けつくほどの直撃雷(物体に直接到達する落雷)の電圧にも絶縁破壊を起こさない。

 

「その辺にしとけよ」

 

 それは競技者としては最低のおこないだ。試合という形式である以上、相手を過度に貶めない敬意と、トレーナー同士を狙わない了解がなければ、競技は成り立たない。

 負けを認めた相手に攻撃するなど、トレーナーとしては以ての外だ。

 

「シラン…………」

「お疲れアコニ。悪い。ワルビルも休みたいだろうし、今日はやめとこう」

 

 俺達は担当強化生と練習生なんだから、これから何度でも練習には付き合うし、リベンジにも付き合う。

 

 ただ、今日は時勢が悪そうだ。というか、このままにしてたんじゃ俺の腹の虫が収まらない。

 

「バトルの邪魔、しないでよ。君でも許さないから」

「…………」

「どいて。ウチ、まだバトルしてるよね」

 

 ミヤコのブリジュラスは、いつでも別の技が撃てるように、彼女の傍で熱気を巻いていた。

 

「いいのか? 俺と試合がしたかったんだろ?」

 

 俺の合図を待たずして、ボールからハイネが飛び出てきた。彼女は自身に攻撃技を使わないという制約をかけているだけあって、自分の役割が何なのか、誰よりも理解している。

 

「やっとその気になったってこと?」

 

 ミヤコの不機嫌な表情の上で、獰猛な笑顔がせめぎ合い、優位となった。

 

「ここで待ってる。ポケモン、回復させてこい」

「ふーん。いいんだ。折角、ほんのちょびっとは消耗してるのに。〝だっしゅつパック〟も使っちゃった――――」

「さっさと行けよ」

「…………そ。じゃあ、そこで待っててね!」

 

 走り去っていくミヤコの背を見送って、俺はワルビルの手当てをするアコニの反対側に立って、〝げんきのかけら〟を手渡した。

 

「し、シラン……」

「大丈夫。ワルビルと一緒に休んでろ。いいもん見せてやるからさ」

 

 君の強化生の実力を教えてやる。この人に付いて行けば強くなれるって、君がそう思えるようにさ。

 

 





ミヤコの手持ち大公開スペシャル

1、ブリジュラス
2、シビルドン
3、サザンドラ
4、ヒヒダルマ
5、ガマゲロゲ
6、ゾロアーク

 ふゆうあまごいインファ打ち逃げシビルドン、伝説環境じゃない頃に実際に使ってみたけども、耐久がびみょーーーに足りない。あまごい使うからチョッキ持たせらんないし。
 あとかたやぶりドリュウズに手も足も出なかった。それまで影も形もなかったのに急にドリュウズ入りパとマッチし出すのズルやん……。
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