俺のピカチュウだけでんき技使えないんだけど   作:イリノイ州の陰キャ

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 拙作を読んでいただきありがとうございます。誤字報告、感想、評価、お気に入りなども大変励みになっています。

 意外と間に合ったな……時間は遅れてるけど。でも今後このペースの更新ができるかは怪しいですね。ガキの頃の妄想力が今欲しい。




17、なんか半目だけどそれめざめるパワーか……?

 

 研究会の定例会が終わって、アコニが他の研究員達と勇み足でバトルコートに向かった手前、俺はさっさとこちらの用事を済ませてしまおうということで、先生の許可を取って女子寮にやってきていた。

 入る時に女子にジロジロ見られまくるわ、噂話されまくるわ、五枚くらい書類書かされるわで大変だった。女子寮に侵入したい変態ではありませんよ、という証明にどれだけ工数を使わせる気だ。だったらもう見張りの先生とか付けてよ。

 

 ミヤコの部屋の前には寮母のラッキーさんと、養護教諭のオレグ先生がいた。40半ばの女性で、何があっても絶対に怒らないとかで有名らしい。

 今後確実に複数回お世話になるので、教師陣の中では真っ先に覚えた名前だ。本人に曰く、オレグというのはみんなから呼んでほしいニックネームだそうだ。

 

「ミヤコさんのお友達?」

「あー、はい」

 

 違いますとか言って関係性を説明する手間を嫌って、俺は適当に返事をした。

 

「彼女、三日前から部屋にこもっていて、毎日外から呼びかけているのだけど……」

 

 三日間通い詰めか。先生も大変だな。二人とも他に仕事がいっぱいあるだろうに。

 

「返事がないんですか?」

「いえ、お返事はしてくれるの。でも、あーとかうーんとか、あんまり意味をなさない声ばかりでね……」

 

 そりゃそうか。三日も中から返事がなかったら、蹴破ってでも入って安否を確かめざるを得ないだろう。まだそうなっていないということは、少なくとも生きてはいるらしい。

 

「心配ね」

「ラッキー……」

 

 オレグは難しい表情を和らげると、今日のところはこれ以上の接触は無駄だと考えたのか、ラッキーさんと共に踵を返して扉の前から離れていった。

 

「あんまり保健室を空けていられないし、私達は一旦戻ります。よかったらあなたも声をかけてあげて」

「はい」

 

 そのつもりでここに来ている。自分を負かした相手に素直に戸を開いてくれるかは甚だ疑問だが、先輩から頼まれてしまったし、少しは粘ってみるか。

 

 コンコン。

 

「おーい、ミヤコー……?」

「……! …………!」

 

 何か聞こえる。中にいるのは間違いなさそうだ。しかし返事はない。居留守を使っているのなら、声を漏らすようなことはしないだろう。他の何かに集中していて、気付いていないのだろうか。

 

「いるんだろー? おーい!」

 

 ダメだ。全然返事しねぇ。テレビか何かのスイッチを入れたまま、今日は部屋を留守にしているとかそういう顛末じゃないだろうな。

 

「あれ……」

 

 鍵開いてる……?

 

 閉めてないのか? 人のこと言えないけど不用心だな。しかも俺みたいな誰も興味ない素寒貧の野郎とは違う、女の子だろ。

 ドアノブは勘違いでもなく、しっかりと下がった。女性の部屋に無断で入るのは憚られるが、中で倒れていたりでもしたら事だな……失礼は承知で入ってしまおうか。大義名分ならあるし。ん? こう言うとやましいことしてるみたいだな……違うからね。

 

「悪い……! ミヤコ! 入るぞ!」

 

 意を決して扉を開けた俺の目に入ってきたのは、〝甚雨〟と呼ばれた実力派トレーナーなどではなかった。

 

 スウェットを着たミヤコが、その黄色みがかった黒い前髪をヘアゴムで雑にくくり、歯軋りをしながらゲームのコントローラーを握っていた。

 

「このっ、こ、このっ!」

 

 クワガノンシューター、とかいう最近発売されたゲームだ。その前作のアゴジムシシューターを少し遊んだことがあるけど、俺には難しすぎてダメだった。

 

「うわ……」

 

 部屋の中は、俺の部屋とは違う意味で荒れていた。

 

「よし、このままいけばスコア更新……!」

 

 食べ終わったカップ麺や飲み干した缶ジュースが散乱しており、丸まったティッシュやら脱ぎ捨てた服やらもそこら辺に置きっぱなしだ。

 流し台は水を出したら音を立てて崩れそうな量の食器が雑に積み上がっており、おそらく寮母のラッキーさんが持ってきてくれたらしい惣菜のタッパーが、水に浸けられもしない状態で放置されていた。

 というか台所全体が汚い。調味料が飛び散った形跡がそのまま残っており、そこに缶詰やら食べ終わった菓子パンの袋やらが張り付いていて……。

 

「きったね…………」

 

 やべ、思わず声に出た。掃除しろよ。どうなってんだこれは。

 

 もはや無惨だ。俺はバトルするまでこいつをライバル視してたのか……? 俺まで惨めになってくる。汚すぎるだろ。

 開いたページを下にして本を置くな。段ボールを畳め。飲み干していないうちから次のペットボトルを開けるな。そして飲みきっていないペットボトルを放置するな。

 

「えぇ!? ここはボムで……!」

 

 ミヤコはゲームに夢中だ。独り言が多いな。俺も大概頭の中でうだうだ喋り倒しているほうだと自覚しているが、ここまでしっかり発音はしていない。

 

「掃除するか……」

 

 親切心とかじゃない。強化生の中でもトップクラスの実力らしい彼女の部屋がこの有様というのは、同じ強化生として許せなかった。

 

 

 

「うわぁぁー! あと少しだったのにぃ!」

 

 コントローラーをクッションの上に投げ出したミヤコは、そのまま仰向けに布団の上に倒れた。聞きたくないけどそれ、もしかして万年布団だったりしないよな。

 

「あれ!? 部屋がピカピカ……!? 引っ越して来た日以来の綺麗さ……」

 

 ようやく集中が切れたミヤコは、俺が苦心して掃除した部屋を一望して、目を丸くして驚いた。

 

「バカ。週一でも掃除してたらこうはならないだろ」

「あれ!? シラン! もー! 女の子の部屋に勝手に入ってきて、セクハラだぞ! 犯罪だ犯罪!」

 

 不法侵入で言えば前科一犯同士だぞ。というか〝女の子の部屋〟なんてニュアンスで語ることが可能な様相だったか? かろうじて婦女らしき(あるいは自称する)人間の浮巣と言ったほうが正しい。

 

「つーかお前これ、トレーナーカード出しっぱなしにするなよ! 盗まれたらどうすんだよ!」

 

 身分証なんだぞ。勝手に入ってきた誰かに取られたら不正利用され放題だ。

 

「いーじゃん。ウチの部屋なんだから」

「カギ閉めてないだろ!」

「シランもね」

 

 む、ぐぐ。それはそう。でも俺はあれから反省して、部屋の出入りの時にライムにもチェックしてもらっているんだ。

 とにかく、この堕落ぶりは見逃してはおけない。(俺は客分とはいえ)同じ研究会に所属する人間が、この体たらくは……。

 

「てか、これ全部シランが掃除したの?」

「そーだけど。感謝しろよ」

「…………服は?」

「あ? そんなもん……いや、待って。誤解しないでくれ。本当にごめん」

「………………」

 

 い、いや、確かに了解も取らず部屋に入った挙句、これまた了解も取らず部屋を掃除した俺にも非はある。その流れで洗濯してしまった。

 もちろんオシャレ着と普通の服とで分けた。あ……? これ別に言い訳になってないか……?

 で、でもそんな、常軌を逸したノンデリ野郎を見るような目はやめろ。俺がノンデリだとするとお前は生活力がない女だぞ。

 

「はぁーあ……ウチ、リーグでも実績あるのになぁ。あのカトレアを突破した実力者なんだよ?」

 

 カトレアというのは、イッシュリーグの四天王を務めるエスパー使いの女性だ。グリーンさんが見せてくれた試合映像の中では、めちゃくちゃ攻撃的なランクルスを相棒としていたのが印象的だった。

 ポケモンでもないのに超能力を使えるともっぱらの噂だが、定かではない。

 

「ふーん……」

「何だよー。驚いてよ。リーグまで経験してる強化生の中でも、四天王相手に白星を上げてるのはウチだけなんだぞー!」

 

 確かに相当な実績だが、先ほどの部屋の惨状を見てしまった今、何を聞いても感心できる気がしない。

 

 そういえばシンオウのチャンピオン、シロナにも、片付けが不得意とかいう風説が付いて回っている。

 あのシロナに限ってそれはない、と俺は思っている。流石に彼女の実績を妬んだ何者かが嘘を流したと見ているが、あるいは(100歩譲って)もしも噂が本当なら、何かしら欠陥がある奴のほうが、バトルは強いのかもしれない。

 

「はぁ……結局ただのサボりかよ」

 

 周囲の人に余計な心労を負わせやがって。あとで全員に謝っとけよ。口頭でだぞ。

 

「え? サボり?」

「サボりだろ。三日も授業飛ばして……お?」

 

 ミヤコがコントローラーのコードを伸ばしていたせいで、掃除ができなかった部屋の奥、そこだけ異様に綺麗にしてあった一角に、脚の低いビューロー(文机と収納が一体の家具)があった。

 そこには四冊ほどのほぼ埋まっているノートと、バトル学における基礎論から、間合いや位置関係を専門的に取り扱う書籍、局地的天候操作による戦術の最新理念の本……とにかく何冊もの紙束が置かれていた。

 

「バトルの勉強……?」

「シランに負けてから、あのギャラドスの対策考えてるの。それからクエスパトラも」

 

 現在のハイネの型であるバトンタッチの戦術は〝ちょうはつ〟や場外への誘導(〝ほえる〟とか〝ふきとばし〟)による交代強制に滅法弱い。何ならプロシーンでは廃れた戦術とすら囁かれる。

 だからこそ、使う側にはバトンタッチを潰されないための〝読み〟がいっそうに求められる。少なくとも初見で完封されたことはない。

 

「そう。最初の〝かそく〟と〝めいそう〟さえ抑えれば、私のほうがずっと有利だったはずなんだ……それに、防御力に厚いギャラドスは全く想定外だった……三体目にブリジュラスを温存しておけば、あの時勝っていたのは……」

 

 彼女はあれから、もしかして俺にリベンジするための反省と対策に三日三晩を費やしていたのだろうか。

 バトル強者、というものにはいくつかの典型がある(と勝手に思っている)が、常人が勝利に喜び、敗北に落ち込む時間をも惜しんで反省に使う奴は、大体強い。

 

 ミヤコはまた自分の世界に集中し始めてしまった。彼女は机の上から大きな飴を取って、半ば無意識にそれを口に含むと、もう書き出せるところのほうが少ないノートに、文字の上から重ねてまた新しい文を書いていく。

 

「あ、ごめん。様子見に来てくれたんだったよね」

「え? あ、あぁ……」

「明日から全部復帰するから! トリトマ先輩にも、そう伝え……ううん。明日自分で言ったほうがいいね」

 

 彼女は石墨で黒く染まった右手の小指など一顧だにもせず、その手でジュースの紙パックを取ると、半端に残っていた中身を一気に飲み干した。

 

「今日はありがと。今日の借りもバトルの負けも、そのうち倍にして返すから。震えて待ってな」

「そーかよ」

 

 彼女は落ち込んで塞ぎ込んでいるのではなかったらしい。むしろ以前にも増して闘志を滾らせている。

 心配して損した。全然元気じゃないか。

 

 

 

 傍迷惑な女の立てこもりは、本人の宣言通りその日に終わり、次の日には授業にも研究会にも復帰していた。トリトマの懸念もむべなるかな。とはいえ一応の解決を見せたので、もうこの一件は終わりでいい。

 

「今年度の第一期研究会大会も、残り三ヶ月にまで迫っている。今日までのキサマらの努力は、この僕が知るところだ。今年も我々の研究会の優勝が安泰だろう」

 

 トリトマはこの僕が出場するからには、と付け足した。

 

「そうだねぇ〜。ま、ウチらの圧勝でしょ」

「おー……」

 

 圧勝とまでは言わないけどね。アマチュアの中には全く予想だにしない戦法を使ってくる奴がごまんといる。

 それを捌ける力量をしてプロと呼ぶ訳だが、現在の俺自身がそれを自称できる実力にあるとまでは思い上がっていない。万全の対策をしなければ。

 

「つーかさ、近いよ。何、急に」

 

 ミヤコは俺の隣……普段はアコニがいる席に座っていた。席を取られたアコニは何とも言えない顔をしている。別に文句を言うようなことではないけど、急にどうした? みたいな顔。全く同感だ。

 

「えー? 近くで観察しようと思って」

「観察?」

「次は絶対ウチが勝つために、情報は何でも集めてるの」

 

 彼女が机に広げたノートには「シランの好物:サイコソーダ」と記入されていた。

 本人も認める事実だが、それをメモしてどうするんだ。学園中の自販機からサイコソーダを買い占めて俺のテンションを下げるとかするつもりか。

 そんなことしてみろ、人目も憚らずに往来で泣き喚くぞ。果てはアコニに泣きついて買ってもらうから。やーい、泣き虫半ヒモ男に負けた女〜、って。これ、俺のほうが総ダメージデカいな……。

 

「先輩が話しているのに、考えごと、ばかり、している……と」

「おい、ちょっと。悪評を書き留めるな」

「へー、右利きなんだ……」

 

 右利きはお前もだろ……いや、確かに大体のトレーナーは、バトルコートを見渡したい時に、トレーナーボックス(バトル時にトレーナーが移動できる範囲)の中でも利き手のほうに偏重する。

 つまり、相手から見て右側でバトルを展開するようにすれば、相手は自分のポケモンで死角が作られ、咄嗟の指示が難しくなるので、相手の利き手も有効な判断材料だ。

 とはいえ、メモを取るほどではないだろ。あんまりジロジロ見られるの、恥ずかしいからやめてよ。

 

「うわ、購買で売ってるやっすいシャーペンだ……使ってる人いたんだ……」

 

 やかましい。いいんだよ書ければ。何でも。

 

 

 

「おっすユリオ」

「シランさん。どうも」

 

 アコニは最近、研究会の生徒と激論とバトルを交わす日々だ。邪魔するのも悪いので、俺は俺で力を磨こうと、ユリオにエキシビジョンマッチを申し込んだ。

 

「メタグロスか……一段とカッコよくなったな」

 

 ユリオのメタングは、いつの間にかメタグロスに進化していた。その重量感たるや、ミヤコのブリジュラスにも引けを取らない。

 

「えぇ。つい先日、二つ目のバッジを取得しましたの。まさかバトルの最中に進化するとは……本番に強いのは私譲りかもしれませんわね」

 

 少し見ないうちに、ユリオも中々スペクタクルな日々を送っていたようだ。メタグロスは単にその体躯の大きさを増したのみではなく、表情にも自信があふれていた。

 

「ところで、その、シランさん」

「ん?」

「そちらの……ミヤコ強化生は?」

「あ、あぁ…………」

 

 観察に集中するあまり、ミヤコは俺の背中に刺さっていた。頭をくっつけ、体重の半分を任せてずっとメモを書いている。

 

「悪い。気にしないで……あのーあれ、あれだよ。会合周期で言うところの……」

「内合、とおっしゃりたいのですか?」

「そーそれ。そんなん」

「差し出がましいことを言うようですが、使い方を間違っておりませんか……?」

 

 我ながらカスみたいな誤魔化し方だなとは思う。しかし、ミヤコ本人に語らせても変なことしか言わないだろうし、自分の口から勝利の功績を述べるのは、自慢しているようで憚られる。

 

「と、とりあえず始めよう。今日は俺、ちょっと試したいことがあって――――」

 

 ミヤコをいないものとして、怪訝そうなユリオの視線を躱しつつ、俺は練習試合を始めることにした。

 ミヤコは何を言っても聞かない。こうして四六時中くっついて、俺の戦術をコピーし、対策する腹積もりらしい。そういう他のものを顧みない向上心は好むところではあるが……。

 近いよ。君みたいな見目(だけは)よい女性が体重を預けてくるのは、あるいはどんな精神攻撃よりも強力かもしれない。俺だって健全な男子だぞ。ドキマギして悪いか。

 

「意外と初心なところあり――――」

「おい! やめろ!」

 

 





・養護教諭オレグ先生の本名

オレガノ・コンスエロ=ベラスコ・マリア・トリホス
 ラテンアメリカ丸出しの名前からも察せられる通りパルデア出身。マリアは洗礼名。ベラスコは父方のミドルネーム。コンスエロは曾祖母の名前。

 全く意味のない設定だぜ! 他のキャラにも少しずつこんな設定を作ってるけど十中八九本編には使わないぜ!
 飯のレビューが全く思いつかなかったための苦肉の策です。子供番組の不人気コーナーみたいなものだと思って許して。
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