俺のピカチュウだけでんき技使えないんだけど   作:イリノイ州の陰キャ

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21、迷宮は奇術師も尻尾巻いて逃げる

 

 サマヨールにウソッキー。

 

 どちらも物理防御に厚いポケモンだが、速度ではこちらが勝る。ヒットアンドアウェイを成功させるコンビネーションが俺達にあるかどうか、といったところか。

 

 サマヨール、ひいては進化系のヨノワールと言えば、俗に〝三色パンチ〟などと呼称される三つのパンチ技と合わせ、〝シャドーパンチ〟の四つが有名だ。何が有名って、こいつらはその四つを自然に覚える。

 特にあれが内部で捕まえた野生のサマヨールだとしたら、迂闊にキマワリを出す気にはなれない。

 

「サマヨール! 〝じゅうりょく〟!」

 

 奇妙な技選択だ。こちらにひこうタイプや〝ふゆう〟のポケモンはいないが、それでも使ってきたところを見るに、何かを企んでいるのは間違いない。

 

「ニダンギル! 一撃で飛ばすよ! 〝シャドークロー〟!」

 

 やや外縁を回るような気味でニダンギルが先行し、ウソッキーの前に立つサマヨールを攻撃する。

 ニダンギルの〝とくせい〟は〝ノーガード〟だ。そもそも鈍重な上、技の後隙を狙われたサマヨールに避けられるはずもないが、さらに〝とくせい〟によって必中が保証されている。

 

「サマヨール! そんなものが堪える君ではないはずだ! 〝のろい〟!」

 

 サマヨールの生命力を贄に増幅した怨嗟の手が、ニダンギルの刀身の部分に目がけて走る。避ける術も思いつかないうちにあえなく捕まり、体力を蝕まれ始めた。

 

「めんどくさ……だからゴーストタイプって嫌い。性格悪そうだもん」

「やめろよ。ニダンギルの前で」

 

 顔見れば分かるけど、ニダンギルが「え?」って言ってるぞ。そらそうだ。自分のトレーナーがそんなこと言い出すんだから。

 しかし、面倒なことになったのは確かだ。耐久ポケモン相手に短期決戦を強いられるストレスと言ったらない。こちらの切れる手札は、生憎無難な揃いだ。

 

「ハギギシリ、ニダンギルと距離を取れ」

 

 相手は固まって、露骨にウソッキーを庇う陣形を作っている。同じ方向から攻撃をしていても切り崩せない。

 

「ミヤコ、攻撃は待て」

「何でよ。早く二人で攻めたほうがいいじゃん。時間稼がれたらウチらが不利だよ」

「あのサマヨール、〝シャドークロー〟を喰らって〝のろい〟まで使ったのに、普通に動いてるだろ」

 

 生半可な攻撃は反撃の隙を生むだけだ。ウソッキーの戦法は皆目見当がつかないが、あのサマヨールの技に〝シャドーパンチ〟でもあれば、ニダンギルは次の一連で終わり。

 それよりは、まだ攻撃を避ける可能性があるハギギシリで動きを引き出すべきだ。

 

「ハギギシリ、〝サイコファング〟!」

 

 とはいえ、当然撃破も狙う。最高火力で相手の戦力打破を目的としつつ、度肝を抜くつもりで予期せぬタイミングの指示を飛ばした。

 

「サマヨール、まだ耐えられるだろう! 引きつけろ!」

 

 硬過ぎる。見せられた二つの技からして、攻撃は完全に諦め、防御に徹しているタイプか。

 これは、パンチ技の警戒は完全に深読みだったな。これならキマワリで搦手合戦に持ち込んだ方が分があったか……!

 

「けど……!」

 

 ウソッキーを庇われている以上、前の壁を突破するより他にない。反動を伴う〝ウェーブタックル〟をサマヨールを居座らせたまま使うのは憚られる。

 

「ハギギシリ、回遊してニダンギルを――――」

 

 第六感とかいうものを信じるようになったのは、シロガネ山で生死の境を何度か彷徨ってからだったか。

 俺のちょっとした回想に度々シロガネ山が出てくることに、いい加減うんざりしている諸君にはご容赦願いたい。あの場所での体験がなければ、この場はたった今負けが決定していたところだ。

 

「サマヨール、〝てだすけ〟だ!」

「ウソッキー! 〝もろはのずつき〟!」

 

「ハギギシリ伏せろ!!」

 

 ギリギリでハギギシリは地面に身を伏せ、ウソッキーの理性をかなぐり捨てた頭突きを紙一重のところでやり過ごした。

 

「バッ…………!」

 

 バカじゃねーの。一点突破にしてもやり方がゴリラ過ぎるだろ。

 

 こんな形振り構わない指示を出すのは、カントーで四つ目のバッジを賭けて戦っていた頃にまで遡る。まさかこんなところで冷や汗をかかされるとは思わなかった。

 からぶったウソッキーの〝もろはのずつき〟は、その振りで押し出された空気の塊が壁に当たるだけで、まるで金属バットで思い切り殴りつけたかのような音が響いた。

 

「危ねぇ……」

「あれ、ハギギシリなら一発耐えそう? ニダンギルは削られてるし、無理だと思うけど」

「即〝おじゃん〟」

「だよね。これはちょっとマズいかもな……」

 

 完全に一撃に賭けている動きだ。当たれば確実に倒せる、という自信が見て取れる。これは〝とくせい〟も〝いしあたま〟で決まりだな。

 さっきのサマヨールの〝じゅうりょく〟は、こちらのスピードを下げて少しでも命中率を上げるための作戦という訳か。あっちは元から鈍足の二体。速度低下がディスアドバンテージにならない。

 

「ニダンギル下げろ、ハギギシリで前を張る」

「うん……」

 

 二度目だが、ニダンギルの〝とくせい〟はノーガード。何でもぶち当てる代わりに相手の技も避けない。

 普段ならギャンブルポケモンであろう〝もろはのずつき〟ウソッキーが、この場合には効果的な戦術として機能している。〝のろい〟が利いているせいで、あっちはハギギシリにさえ当てられれば勝ちの状態だ。

 はっきり言って最悪。こんな初見殺しロマンコンボみたいなポケモンがいるのも最悪だが、こちらの手持ちが物理一辺倒なのがキツい。

 

「あのサマヨールが〝おにび〟でも持ってたら終わりだぞ……」

 

 持っていればとっくに必中のニダンギル相手に使っているはずなので、それはない、と思いたい。

 ここから勝つにはあれしかないか……。

 

「ミヤコ、悪いんだけど……」

「ま、しょーがないよね。正直ウチもそれしか思い付かないし」

 

 さっさと終わらせよう。正直このバトルから得るものは特にない。ポケモンも、情報もない。ただ心労を溜めただけだ。

 

「ハギギシリ! 〝こおりのキバ〟!」

 

 火力の出せる技を二つとも温存し、(比較的)発動の早い技でサマヨールの注意を引きつける。

 

 二度の被弾と〝のろい〟で、あのサマヨールは流石に死に体。そして攻撃を仕掛けるハギギシリへ何の反撃もしないところを見るに、直接攻撃する技はなし。

 何とかしなければならないのは、背後で牙を研ぐウソッキーのほうだ。

 こんな雑な方法、本当は取りたくなかったんだけどな……。

 

「ハギギシリ、退け。こんなもんでいい」

 

 四つの目の技が攻撃技だった場合を考えて、ハギギシリに付かず離れずの距離を取らせつつ、しかし攻撃の危険を感じさせる。

 何度も左右に揺さぶれば、サマヨールはウソッキーの防御が疎かになり、立ち位置が少しずつズレてくる。サッカーやハンドボールでレーンに見立てたフィールド上を往来するのと同じ。そこが狙い目だ。

 

「ニダンギル、〝シャドークロー〟」

 

 ミヤコは流石の嗅覚で、僅かに立ち位置がズレて防御を漏れたウソッキーに攻撃を仕掛けた。

 当たることは当たるが、それそのものは別に問題じゃない。必要なのはダメージではなく、攻撃される位置につり出されてしまったという焦りを相手に感じさせることだ。

 

 そして相手には同時に、絶好のチャンスにも見えているだろう。なぜなら命中不安定でも確実に技を当てられる〝ノーガード〟の敵があっちから来てる訳だし。

 

「ウソッキー、もろはの――――」

「ニダンギル、〝みちづれ〟」

 

 それこそが罠だ。

 

「あっ、ウソッキー、止まって! 止ま――――!」

 

 一度発動を命じた技が止まることはない。ウソッキーは命令を全うして〝もろはのずつき〟をニダンギルに命中させた。

 倒れた瞬間〝みちづれ〟にしてやろうと待ち構えるニダンギルに、だ。

 

「クソッ……! サマヨール! 〝かなしばり〟だ!」

「〝サイコファング〟!」

 

 共倒れでウソッキーを落とされ、体力に心許ないサマヨールを駆り出すキレンゲであったが、先に〝こおりのキバ〟を使った以上、〝かなしばり〟で縛ることができるのはそれになる。

 

「サマヨール!」

 

 さっきのベトベトンと同じように、がっぷりと噛み跡を付けられて気絶したサマヨールに、キレンゲはすかさず駆け寄った。

 あっけない幕切れだ。無駄にバトルを長引かせるのは趣味ではないが、それにしても展開の早い試合だった。

 

「サマヨール!! ぬあぁぁー!! 負けたぁー!! 何故だぁー!!」

 

 臨終寸前のような雰囲気を出しているが、別にサマヨールは死んじゃいない。それに、俺達よりも長く潜っているというなら、リタイアせずとも手持ちが残ってるだろ。

 

「奇襲戦法に命賭けすぎなんだよ」

 

 サマヨールの耐久を使い潰してしまったことが敗因だ。ウソッキーにあれだけのチャンスを捻出し、結果がこれなのは、サマヨールが少々気の毒な気もする。

 

「正直タチの悪さで言えばハギギシリより酷いよねー。大会で会ってたら暴言吐いてたかも」

 

 ミヤコはこれまで何回審判に旗を突きつけられたのだろうか。バトル中に不適切な言動で注意を受ける奴が年に数人はいるが、同じ奴が何回もすることは早々ないぞ。

 

「いやー、焦った……」

 

 戦術という意味では大敗を喫した気分だ。プライドを捨てて〝みちづれ〟で勝ちを拾いにいかなければ、いずれあのウソッキーが相討ちのダブルノックアウト狙いでハギギシリを落とし、サマヨール相手に僅差でニダンギルが落とされていただろう。

 

「ウチ、こんなのはもう二度とごめんかな。楽しくないし」

 

 ミヤコは大袈裟に泣き崩れるキレンゲと、それに駆け寄るお供を睨みつけながら、深くため息を吐いた。

 

「ま、これで満足だろ。俺達は先に行こう」

 

 まだここは2階。下まであと何階残っていたんだったか。とにかく今日中に6階は踏んでおきたい。

 

「じゃ、ウチが先頭でいっちゃうか――――」

 

 

 

 ビーッ!! ビーッ!! ビーッ!!

 

 

 

「何だッ……!?」

 

 ミヤコが円状の大部屋を抜けようとした瞬間、巨大な警報の音が鳴り響いた。

 

「うるさっ! 警報の音? もー! やめてよー!」

 

 不安を煽る音だ。何か迷宮内のシステムにトラブルでも起きたのか……?

 

「マズい……スチーム・ランだ!!」

 

 俺達よりもさらに慌てふためいていたのは、たった今まで崩れ落ちていたキレンゲ達のほうだった。

 彼等は慌ててボールにポケモンを戻し、バトルのために傍に置いていた荷物を回収すると、すぐさま逃げる支度を整え始める。

 警報に惑わされずに耳を澄ませてみると、そこかしこから野生ポケモン達の移動の音が聞こえてくる。旅を経験したトレーナー達なら、これが自然界における危険信号でもあることは身に染みているはずだ。

 この階層で一体何が始まる……?

 

「スチーム・ラン?」

「この迷宮の隠しギミックの一つだッ!! 詳しく説明している暇はない、とにかく君達も下へ逃げろ!」

 

 走り出したキレンゲ達を追いかけ、何も分からないなりに俺達も走り始めた。

 

「おい、キレンゲ! 説明してくれ!」

「スチームで内部の環境が急激に変化するんだよ! この後に迷宮内に放流される、あるポケモン達のためにね……」

 

 やがてキレンゲの説明通り、石壁や床の隙間から蒸気が吹き出し始める。触れると温かい。あまり連続して触り続けていると火傷しそうな勢いだ。

 

「始まったか……!」

 

 走りながらキレンゲは、壁を睨みつけ、お供達を急停止させた。

 

「君達も止まれ! この道はおそらく……」

 

 彼が全てを言い終わる前に、道を止められた理由が目の前を横切って行った。

 

「バクーダ!?」

 

 橙色の巨体が、俺達には目もくれず奥へと突進していく。その発砲音のような一歩の地響きがいくつも続き、酷い雨の中にいるかのような耳障りな音が迷宮に響き渡った。

 

「一体じゃないよ! 10、20……ヤッバ、何体いるのこれ……!」

 

 大量のバクーダが道を横切って、俺達が通ったことのない別の通路へと走り去っていく。

 俺はその間、スチームの熱で痛む目を細めながら、耳を塞ぐので精一杯だった。

 

「今だ! 抜けろ!!」

 

 群れが途切れた瞬間に、5人で道を一斉に駆け抜けた。その間は1秒。たった1秒の横断の瞬間、自分の体が運動の不得意な肥満児のようになった気分だった。

 横目に一瞬バクーダの姿が見えた時、額から流れるものがあったが、スチームによって空気中の水蒸気量が飽和しているこの場では、汗なのか水滴なのか、判別が付かなかった。

 最後尾の俺が十字路を走り切った瞬間に、後続の群れが背後の道を覆い尽くす。1秒判断が遅ければ分断されていたか、あの群れに巻き込まれて……。

 

「ここまで来れば3階の階段はすぐそこだ! 僕に着いてきたまえ!!」

 

 キレンゲの勇ましい声が先導する。さっきまで奇襲戦法で遊んでいた奴とは思えない頼もしさだった。

 

 

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」

 

 死ぬほど暑くなっていた2階を抜け、地下3階。俺だけは膝に手を置いて肩で息をしていた。

 

「シラン、大丈夫……? 尋常じゃない汗だけど」

 

 ミヤコが肩に手を添えて、心配そうにサイコソーダを渡してきた。ミヤコ、俺にはサイコソーダさえあればいいと思ってないか。貰うけどさ。

 彼女もキレンゲ達も汗はかいていたが、俺ほどではなかった。俺だけが滝のように額から汗を流し、ポタポタと地面に黒いシミを作っている。

 

「わり、暑いの、苦手でさ……」

 

 嘘だ。むしろ俺は夏か冬かで言えば夏が好きで……なんてのは別にどっちでもいいけど、自分の虚弱体質が情けなくなる。

 スチームに酸素を奪われた中で、意図しないタイミングで疾走を求められた体が、突然安定した環境に戻ったせいで、緊張を一気に失っていた。

 

「それより、ほら、見ろよ……」

 

 3階は通路ばかりだった上から様相が打って変わって、階段を降りた瞬間にある程度の広さの空間が連なる、小部屋の連続の迷宮らしい。

 

「二人とも無事か。運がいいな。初遭遇で僕がいたのだから」

「キレンゲ……あれは、何だ……? 蒸気が、吹き出てたけど……」

 

 息を整えながら、切れ切れに質問をする俺の死に体に合わせてか、彼は俺の額の汗が引き始めるのを待ってから、ゆっくりと話し始めた。

 

「この迷宮には入り口では教えてもらえない、いくつかの〝隠し要素〟がある。その一つがスチーム・ランだ」

 

 隠し要素……? 確かに冒頭で何もかも説明されてしまっては興醒めだが、あんな知らなければ対策不可能みたいなギミックも秘密の要素だというのか。

 

「発動する時間、条件、階層、一切不明だ。今のところ、完全にランダムで起きるものだと考えられていてね、さっきのが起きると、ほのおポケモン達が迷宮内に大量投入され、高温で興奮して内部を走り回る」

 

 だからスチーム・ラン、か。知らずに遭遇していたら死んでいたかもしれない。

 入り口で不穏な内容の誓約書を書かされたのは、こういうことが起きるからか。バトルで死ぬのは本望だが、こんな誰にも説明付かない死因はごめんだぞ。

 

「何、一度起きればしばらくは再発生しない。安心したまえ」

「そうか……」

「僕達はもう行くよ。これでも、僕も下を目指しているからね」

 

 そうだ、下……今の衝撃で忘れるところだったが、俺達も下の階層を目指さなければ。

 

「君は少し休んだほうがいい。まだ先は長い。健闘を祈るよ」

「あぁ……ありがとう」

 

 3階入り口の階段に座り込んだまま、俺達はキレンゲを見送った。

 

「ねぇ、シラン、君さ、本当は……」

「何?」

「…………何でもない。ほら、飲みなよ」

 

 言われなくても飲むから、人が飲んでる途中のボトルを傾けるな。溺れるって。

 

 





キンセツキッチン:お好み(ホウエン)焼き

味 :★★★★☆
栄養:★★★☆☆
他 :★★★☆☆

総合評価:★★★★☆

 キンセツキッチンで最近提供が始まったメニュー。チャンポンの余った麺をお好み焼きに転用しているらしい。
 大体普通のお好み焼きと作り方は同じだが、刻んだオボンのみで食感が増している。基本的には人間用の味付けだが、プラス百円でポケモンでも食べられる低脂質マヨネーズに変更可能。また、ネギ類の代わりにキャベツが増量できる。

ライム評:★★★★☆
備考
 ピカ!(マヨネーズ付いてるとこが好き!)

シラン評:★★★★☆
備考
 ホウエン焼きと言うと現地の人は怒る。ホウエンの人に曰く、あくまで本場はこれらしい。どーせジョウトで聞いたら答えは変わる。
 キンセツキッチンでここ数年始めたメニューの一つで、これを頼むとソースの匂いがキツいのか、席争奪戦で余計に狙われる……気がする。
 個人的にもこっちの焼きそばが入ってるタイプが好み。どっちが本場とかはどうでもいい。名前如きでごちゃごちゃうるさい。お好み焼きという名前自体廃止してもうホウエン焼きとジョウト焼きでいいんじゃないか。
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