俺のピカチュウだけでんき技使えないんだけど 作:イリノイ州の陰キャ
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緑髪の少年……カンゼキを右に置いて、俺達二人は苦境に立たされていた。
「何してんだろね、俺達」
「知るかッ!! そんなもんオレだって聞きてぇよッ!!」
ここにいるのは総勢……何人だ? 分からないけどとにかく大量の生徒に囲まれ、逃げ場を失っている。しかも、こっちは素人同然の男を一人抱えて、圧倒的不利だ。
「逃しませんわよッ……!」
俺達の進行方向には、血相を変えて激するユリオが立っていた。
彼女に付き従うボスゴドラが、目に刃物のような冷たい光を走らせている。あのメタグロスよりも練度を感じる立ち姿に、カンゼキのスコヴィランは戦う前から怖気付いていた。
「話が通じる様子じゃないな……」
「ど、どうすりゃいいんだよ……!?」
震え声で周囲を見回すカンゼキの情けない様子が、少し面白かった。
「お二人とも、覚悟はよろしいですかッ!!」
周囲を囲む大量のポケモンと、足踏みで地面を揺らすボスゴドラを前にして、俺達が使えるポケモンはそれぞれ2匹ずつ。
「正面突破しかない! カンゼキッ! 背後を止めろ!」
「うぅ……クソ、クソ!! こうなりゃもう、やってやる……! やってやる!!」
正面突破。いい響きだ。結局それしか能がないんだろ、俺達は。
事件の発端は二日前に遡る。
「ポリさん……また勝手に戸棚漁ったな」
授業が終わって部屋に戻ると、箱が散乱している台所と、部屋の隅で目を泳がせまくっているポリさんが目に入ってきた。
惨状の犯人が誰かは一目瞭然だ。こいつホントにポリゴンなのかな。冷や汗とかかいてるけど。
「……明日はおやつ抜きね」
おやつ抜き、でビクッと体を震わせたポリさんは、どこからが肩かも分からないが、人間のようにがっくりと肩を落とした。感情表現豊かだね。
自分でやったことだろうに。後悔するなら最初からやるなよ。
「あー、酷い散らかしようだな……」
人間用のオートミールや冷蔵庫の加工肉まで食い荒らしている。加工肉は塩分が多いからやめろって言ってるのに、聞きやしない。
まぁ、ポリゴンに食生的な健康被害があるかと聞かれると、こちらこそ常々疑わしく思っているとしか言えないんだけど……。
「そんな顔するなら最初からやるなっての」
とうとう逆ギレして拗ね始めたポリさんをボールに戻してから、荒らされた部屋の掃除を始めた。
気付かずに出てきたハイネが、小さくて硬いものを踏んだりしたら大変だ。ないとは思うが、万が一足裏にケガをしたら、競技に参加するポケモンとしては致命傷だ。
「えー……掃除機どこいった……」
いつも掃除はもっぱらフローリングワイパーだから、たまに掃除機の位置を忘れる。デカい音が好きじゃないんだよな。俺も、ポケモン達も。
押入れの中で掃除機を見つけた瞬間、背後でボールが開く音がした。
「ライムか? 今ちょっと部屋汚れてるから、少し待ってて――――」
そこにいたのは見慣れた黄色い小さなポケモンではなく、久しく会っていなかった、古い記憶の中にいるばかりの姿だった。
「エルレイド……!」
最後に姿を見た時と同じ、光を一切反射しない眼差しには、善悪、好悪の概念も通じない。
全ては俺の責任だ。俺がこんな風に歪めてしまった。
「お前、それ…………」
その首元には、見覚えのない極彩色の石が二つ、下げられていた。
エルレイドに固有の名前はない。
他のトレーナーが、競技のために(稀にルールで固有名の呼称を禁止している大会がある)あえて名前を付けないようにしていたり、人前でそれを言わないのとは違う。
俺はこいつを感情ある生き物だとは見なしていなかった。
人のいなくなった夕方の校内を、エルレイドを伴って歩いていた。特に理由はない。ただそうしたかった。
行き先のない放埒な逍遥は、第一教室棟と第二教室棟の間にある、イチョウ並木の吹き抜けにさしかかっていた。ここを過ぎれば校門の通りに出て、いつもの噴水がある。
「…………」
エルレイドは口を閉ざしたまま、プログラムされたような挙動で、俺の右斜め後ろ1メートルの距離感を完璧に保っていた。
常に俺に位置を教えるために、わざと足音を鳴らす歩き方、すぐに前に飛び出せるように、俺の背が死角にならない浅い角度の右斜め後ろに追随する習慣……全て昔のままだ。
「エルレイド……」
エルレイド、と呼んだことすら片手で数える回数しかないかもしれない。それどころか、こちらに来て初めてそう呼んだのではなかろうか。
朧げな記憶を探ってみるが、エルレイドを「おい」とか「お前」以外の呼び方で呼称する自身の声を思い出すことはできなかった。
「座れよ」
光沢を発する樹脂製のベンチに腰かけ、もはやお馴染みと化している噴水を眺めつつ、エルレイドにも座るように促した。
しかし、エルレイドはベンチを指す俺の手掌に目もくれない。俺の背後の死角を補完するように、俺の正面からやや右側に立っている。
「それ、グリーンさんから渡されたのか?」
「…………」
エルレイドは昔から、何があっても鳴き声を発さない。特に鳴くなと指示したこともないけど、いつの間にか、多分キルリアから進化した時から、声を聞いていない。
そして俺の質問に対しても、首を横にも縦にも振らなかった。
「はぁ……」
正直、こいつの意図するところを全く図りかねている。なぜ突然ボールから出てくる気になったのか。
カントーにいた頃は、丸一年ボールの中に閉じこもっていた。そのままにしておく訳にもいかず、ポケモンセンター(ボールの内部で電子情報化したポケモンに栄養供給をするノウハウがある)で面倒を見てもらっていた。
つまり育成放棄のような有様だ。ネグレクトってヤツ。ポケモンの命の責任を取るべきトレーナーが、そこから逃げ出した。愚かにも。
「なぁ」
何でまた、俺の前に姿を現す気になった?
グリーンさんも、何の意図があって俺にこいつを返したのだろうか。しかも、おそらく彼の土産であろう、とんでもない曰く品の石を託して。
メガストーン。
首から下げられていたのは、間違いなくメガストーンだった。それに、もう一つの方はキーストーン。
未加工、剥き出しの石が二つ、エルレイドの呼吸で胸が膨らむ度に、カチカチと音を立てていた。
そのうちの、キーストーンだけをエルレイドの首からゆっくりと持ち上げ、沈みがちの太陽に透かしてみた。
独特の模様が光を四方に散乱させ、自然的に無作為な輝きを放つ。有色の反射スペクトルは、穏やかな風の中を突き進み、鼓動を伝わせる手の微動に合わせて直線的に揺らいでいた。
「どうしてほしいんだよ……」
エルレイドも、グリーンさんも。俺に何を求めているのだろうか。
グリーンさんが俺にメガシンカを使えって? そんな訳あるかよ。
100歩譲ってもあり得ないが、もしもエルレイドのほうにその気があったとして、俺にメガシンカなんか使う資格はない。その気もない。
そもそも、メガシンカを使うために絆を深める、なんて動機が先行している時点で、これは破綻している。
メガシンカを使うための絆ではない。むしろ反対。メガシンカを使えるほどに、稀有なる絆をポケモンと醸成できているか。その指標だ。
バトルにおいて非常に強力な武器となるのは確かだが、激しいエネルギーの消耗を伴うその形態に必要なのは、単にポケモンとの仲の良さなんて生温いものじゃない。
トレーナーとしての力量、ポケモンの練度、次の日の一昼夜、行動不可能になるほどの疲労を受け入れ、そして受け入れさせるほどの関係性。
「…………無理だ」
メガシンカはガラルのダイマックスやパルデアのテラスタルとは違う。
使用する場所に依存しないというのはつまり、100%トレーナーの力量に左右されるということだ。
真の意味でこれを使いこなせるのは、それこそ四天王以上の実力者か、全国に0.1割もいないであろう一握りのジムリーダーくらいか。
俺にはできない。
「なぁ、エルレイド」
いくら呼びかけてみても、エルレイドは毛程も反応を寄越さない。彫刻のように固まって、俺を見下ろしている。
「教えろ。何であの時……」
日毎に魔力を増すかのような夕月の気配が、不躾にも俺達を見下ろしていることに気付き、二の句が続かなかった。
「…………戻れ」
結局俺は、その視線から逃げるようにしてエルレイドをボールに戻した。手元にはエルレイドの体温が移ったキーストーンだけが残っていた。
紐を外して、ストーンをポケットにしまった。こうしているとただのビー玉のようだ。これがグリーンさんのジョークで、本当にビー玉であったらどんなに良かったか。残念だが、彼はそんなつまらない冗談をしかけてこない。
「お前さ」
罪滅ぼしとか思ってないだろうな、なんて聞けるかよ。散々ものみたいにコキ使っておいて、今更……。
ベンチには肌の温度が伝わって、人が一人座っていた熱がくっきりと残ってしまった。
全く無駄な時間を過ごした。こんな風に足踏みをしている間にも、猶予は刻一刻と削れているというのに。
その場を離れようとした時、エルレイドと歩いてきた教室棟のほうから、一つの人影が近付いてきた。
「ンだよ、ビビらせやがって。テメェかよ……」
人影の正体はカンゼキだった。相変わらず目立つ緑髪を立てており、逆光でもシルエットだけで判別が付く。
「どうした?」
彼は肩で息をしていた。表情に滲む焦燥感は気のせいではないだろう。彼は落ち着きなく左右に揺れながら、片足の踵を小刻みにゆすっていた。
「何でもねぇよ」
明らかに何か、面倒事になっているらしい。俺をみて露骨に安堵していたことから察するに、俺以外の別の誰かに見つかったらマズいということか。
「何でもない訳ないだろ。息切らしてさ」
「るせぇなッ!! テメェには関係――――!」
「ようやく見つけましたわ」
答え合わせなどする必要もなかった。カンゼキがやってきた道から、またしても人影がこちらに近付いてきて、彼の前で仁王立ちの体勢を取った。
「ユリオ?」
青いレースが長袖の端までを彩る純白のリボンワンピース。お嬢様然とした着こなしと、二つ結びで胸に下げた波打つ金髪は、あどけなくも落ち着いた雰囲気を醸している。
「シランさん。しばらく音信いただけなかったですわね」
アスベルの迷宮で遊んでいた時から数えて、大体二週間足らず。その間連絡を取っていたのも、直接顔を突き合わせたのもアコニ一人だ。彼女は俺の担当する練習生なので、当然と言えば当然だけど。
「ど、どうしたんだよ。なんか顔が怖いぞ」
カンゼキは彼女の姿を見るなりすっかり萎縮してしまい、いつの間にか俺の座るベンチよりさらに後ろに後退っていた。
「それは、女性に対して失礼な物言いではありませんか?」
「ご、ごめん。そんなつもりじゃない」
「えぇ。そうでしょうね。〝あなたの〟おっしゃることは信用に値します」
あなたの、のところに強いアクセントを感じた。そして、背後のカンゼキがますます警戒心を発している。
ユリオにしてはトゲトゲしい言葉遣いに、緊張を禁じ得なかった。十中八九カンゼキが関係している。いや八九どころじゃない、十中の十そうだと言えるか。
「その男、捕縛するのにお力添え願えませんか?」
捕縛。穏やかじゃない響き。しかも声音はどう解釈しても私人逮捕のテンションだ。引き留めることを大袈裟に言っている訳ではない。
「カンゼキ、お前何したの?」
たまにある叱りつけるような態度ではなく、切れてはいけない何らかの線が複数本切れているような様相だ。
「その男、学内の回復サーバーに細工をしていました。その瞬間を私自身、目撃しています」
「は?」
回復サーバーというのは、ボール内のポケモンをスキャンして即座に健康状態を確認し、特殊な電子情報によって(簡易的な)回復措置を行使する装置だ。
ポケモンセンターに配備されているような超高性能のそれではないが、競技棟と学生寮にそれぞれ一台ずつ設置されているものがある。
「断じて、許してはおけません。あれは言うなれば、ポケモンの健康診断をおこなう装置。全てのトレーナーにとってのライフラインであり、最も大切にするべき設備です」
滔々とした語り口の割には、抑揚が激しかった。ユリオの正義がこれを許さないようだ。彼女は真っ当な感性の中を生きており、自身にそれを強く厳守させている。それを踏み躙られた時の怒りもまた、相応に大きい。
というか、彼女の話が本当なら、俺としてもカンゼキを許してはおけないところだ。
「ち、違う! 誤解だ! オレはただあの時、サーバーが不具合を起こしているのを見つけただけだッ!!」
カンゼキは両手を前に張り出して、すかさず弁明した。必死な表情には大量の冷や汗が浮かんでおり、それが自身の潔白を伝えるための迫真にも、悪事がバレたための緊張にも見える。何とも絶妙な案配……。
「あのサーバーは1時間おきに情報単位の教員、養護教諭、並びに専用の業者が交代で確認しています。素人のあなたでも見つけられる不具合を、プロが見落とすとでも?」
極めて流暢に、かつ聞き取りやすい声で、ユリオが反論した。腕を組む彼女の迫力と言ったらない。
「違う! 細工なんてしてねぇよ! オレは本当に――――!」
「嘘も大概にしなさいッ!!」
棟の間をユリオの声が抜けていった。よく通る声だ。あまりの声量に、俺達は二人して固まってしまった。
「ゆ、ユリオ。落ち着けよ」
不可解だ。偶然カンゼキが見た時に限って不具合があった? 確かに彼が細工したように思えるだろう。しかし、回復サーバーのような重要な設備を、単なる一生徒が突破できるようなシステムロックにその防備を任せるだろうか?
「こいつに細工とか、無理だって」
「その男の素性は存じませんが、シランさんこそ、騙されているかもしれませんわよ」
シャグマの子飼いであった時分ならまだしも、その彼女にクビを切られた彼が、今になって他のトレーナーを貶めるような工作をする理由が思い至らない。
いや、こじつけるなら愉快犯とか腹いせとか、あるいはシャグマに追放されたという話が嘘だったとか、それっぽい理由をいくらでも言えるが、そうじゃない。疑わしきは罰せずが法治の原則だ。
「シランさん。その男を庇い立てするつもりですか」
いつも一定以上の声量を超えない涼やかな発音が、今日に限っては金属に触れているかのように冷たく感じられた。
「ユリオ、あのさ、勘違いじゃないの? だってこいつ……」
「問答は結構。真偽のほどは捕縛してから確認します」
もはや受け答えも拒絶の構えだ。俺が何を言ったところで彼女は受け入れないだろう。ユリオにこんな正義感の強い一面があったとは。
その善性には激しく共感するところだが、犯人を決め付けるには早すぎるんじゃないか?
「どうぞお帰りください。そしてお部屋でお休みにでもなられてはどうですか。その男の処遇は、こちらで判断しますわ」
いつもより皮肉っぽい口調に、彼女の怒りを感じる。俺達よりも頭半分背が低いのに、よっぽど巨大な影が前方に伸びていた。
「お、おい、見ろ! 後ろから」
突然騒ぎ出したカンゼキが指差したのは、彼やユリオがやってきた教室棟方面だった。リズム感の悪い複数の雑踏がこちらに近付いてきている。
「そいつですそいつ! 俺らも見てましたよ!」
「回復サーバーに細工とか、卑怯なことしやがって……!」
あ……? 誰だよ。
10人ほどの生徒がユリオの背後からカンゼキに指を差した。声だけは憎々しげに演出しているが、ユリオに顔を見られない位置から、下卑た笑顔を浮かべている。
あれ、何人かは見たことある顔だな……。
「こいつら……!」
俺が気付いたのと同じタイミングで、カンゼキも勘付いた様子だった。
ユリオは知らないようだが、俺はこいつらに見覚えがある。
俺に辻バトルをしかけてきた〝自称〟トリトマの信奉者。つまり、シャグマの手駒。
「どうなってる? 知り合いだろ?」
「知り合いじゃない……けど、奴らがオレと同じように、シャグマさんに従ってたのは知ってる」
質を求めない烏合の衆とはいえ、その全てが路傍の石という訳ではなく、玉石混交だ。バトルの実力的な意味でも、素行的な意味でも。
つまり、普段はユリオも見抜けないような真面目な生徒を装っている中にも、シャグマの手が及んでいるということになる。こいつらが正にそれだと考えてよさそうだ。
「ハメられたな」
「クソッ……! そういうことかよッ!」
やはり、カンゼキは実力不足で追い出されたのではなく、何かシャグマの気に障る言動があった、ないしは知られたくない何かを知ってしまったとか、別の理由がありそうだ。
実力に乏しい生徒一人を貶めようなどという理由として考えられるのは、その辺だろう。
「これだけの目撃者がいるようですが、ご意見はお変わりありませんか?」
「信じられないね。そいつらホントに目撃したの?」
俺も、あの女のコンゲーム紛いのおままごとに巻き込まれたことがある身だ。あの時はもっと直接的だったけど、複数の手駒を走らせるやり方には変わりはない。
「仮に彼らの主張が嘘だったとして、私が目撃しています」
「そうかよ……」
どうあっても平行線だ。俺はむしろたった今カンゼキの無実を確信したが、事情を知らない彼女から見れば、素行の悪い学生を庇う悪者に見えているようだ。
実際、カンゼキに同情はできない。素行が悪かったのは事実だ。
「悪いけど、どかない」
「て、テメェ……」
一度会話を交わしたカンゼキに、俺は情を移している自覚があった。あぁそうだよ。認めるよ。俺はすぐ人に絆される甘ちゃんだ。
「そうですか…………」
ユリオは大いに吸って吐いた。眉間にシワを寄せ、片手で頭を抱えると、すぐにキッと姿勢を戻し、何かを決意したかのように、無感情にも眉を平坦に上目蓋の曲線に合わせた。
「では、多少強引な手もやむなしですわね」
「おっ、俺達も……加勢するぜッ!」
「不良にルールを教えてやるわよ!」
彼等は一斉にボールを投げた。十数匹のポケモン達が綺麗に円を作り、俺達のいるベンチを囲む。
ユリオだけは一拍おいて、他のポケモン達を潰さないようにスペースを探し、俺達の正面にボールを投げた。
ボールから放たれた途端に地鳴りがする。静止時にはサイコパワーで浮いているメタグロスではない。とすれば、以前彼女に見せてもらったあのポケモンが脳裏によぎった。
「ぼ、ボスゴドラ……!」
カンゼキはその威容に萎縮し、片足をずるずると後退させていた。
「お、おい、オレの話を聞けよッ! あの時は――――!」
「カンゼキ、無理だって」
シャグマの息がかかっている連中なら、説得は無意味だ。どう考えてもカンゼキを貶める理由なのだから、むしろ彼等はその無罪を知ってすらいるだろう。
それに、もうポケモンが場に出ている。トレーナーってのは困った生態を持っていて、何かに付けては優劣や意思決定をバトルで白黒付けようとする。
「ポリさん。ほら、出番だぞ」
シロミもライムも部屋に置き去りだ。どちらも大会や練習での疲労が残っている。ボスゴドラ相手にはシロミを頼りたかったが、この場にいないのであれば仕方ない。
ポリさんはいつもと違って素直だった。食べ物を漁って部屋を荒らしたのがバレたことで、決まりが悪いのだろう。
「クソッ、行け、スコヴィラン!!」
カンゼキも覚悟を決めたのか、相棒らしきポケモンを繰り出した。不良然とした風体のくせに、荒事には慣れていないようだ。
「行きますわよッ!!」
ユリオは律儀にも合図を寄越して、ボスゴドラが咆哮した。
丁度いい機会だ。あの日その姿を見た時から、戦ってみたいと思っていた……!
ビステッカ・アッラ・ハドリアーナ(ビオールナ・オリーヴァーノ)
味 :★★★★☆
栄養:★★☆☆☆
他 :★★★☆☆
総合評価:★★★☆☆
ハドリアのコース料理の中ではもっともメジャーなセコーンド・ピアット(メインディッシュ)。ハドリア風Tボーンステーキのこと。塩コショウのみをかけ、直火で焼く。Tボーンとは言うが、衛生的な観点から、ほとんどの店では骨を外して焼く。
近年一ツ星を取ったメラミンタウンの比較的新しいレストラン「ビオールナ・オリーヴァーノ」のもの。マトマのみとレモン果汁、玉ねぎ、パプリカなど(詳細は秘密)を合わせたソースが付いている。
単品では一皿10000円前後。日によって12000円になる。
ワルビル評:★★★★★
備考
グァ! ガ、グァー!(肉うめぇ!)
アコニ評:★★☆☆☆
備考
とあるジムリーダーがイチオシしているビステッカだというので期待していたが、正直期待外れだった。
素人目には分かりにくいが、全体に若干焼きムラがある。ブランド肉をブランド塩とコショウで焼いているので、曲がりなりにも旨みのある味だが、位置によってわずかに食感に差があるのが非常に煩わしい。
そもそもハドリア風を名乗っているにもかかわらず、ビステッカにソースを付けるのは邪道中の邪道。