俺のピカチュウだけでんき技使えないんだけど 作:イリノイ州の陰キャ
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「ポリさん! 〝れいとうビーム〟ッ!!」
足下を半円の線を描くように凍らせ、牽制する。見覚えのあるレパルダスが次の足を踏めずに立ち往生した。
ガントルやフラージェスも同じように怯み、一歩を進ませられない。
しかし、その程度の牽制は、ユリオのボスゴドラには関係なかった。
凍った芝を踏み割って、非常に緩慢ながらも接近してくる。まるで罪人に猶予を与えているかのように。
「いいのかよ! ボスゴドラの特殊耐久じゃポリさんの技、耐えられないだろ!」
こんな呼びかけで止まるとは思っていない。単なるトラッシュトークだ。とはいえボスゴドラでポリさんを仕留められると本気で思っているとしたら、それは心外かな。
「ご忠告痛み入りますわ。老婆心ながら申し上げますが、ご自身の心配をなさったほうがよろしいかと存じますわよ」
ユリオがどんな育成方針でボスゴドラを育てているのかは知らないが、攻撃を一切かなぐり捨てて、特殊防御の訓練をしているとかでもなければ、ポリさんの〝10まんボルト〟を受け止める硬さはボスゴドラにはない。
しかも、その強靭無比の装甲に守られた体は、足も腕もないサナギラスより鈍重だ。その分だけ防御に厚い訳だが、物理攻撃を使わないポリさんの前では何ら意味をなさない。
「そうかよ……カンゼキッ! 〝かえんほうしゃ〟使えるだろそいつ! 後ろを薙ぎ払え!」
「クソッ、命令しやがって……! やりゃあいいんだろ!」
それでいい。黙って従え。トレーナーなんて自我が強くなければやっていけない身分だが、少なくともここは自分の実力を試す場じゃない。
「スコヴィラン! 地面に――――」
「む、ムウマージッ! 〝トリックルーム〟!!」
図ったようにスコヴィランの指示に被せて、嫌な技の名前が聞こえてきた。
40メートル四方に互い違いの念によるタイルが敷かれていき、その終端からシステマチックな動きで壁が形成されていく。
「あーあ……」
当然ポリさんは限界まで敏捷性を育成している。この空間では、どのポケモンにも先制を取れないかもしれない。
「ど、どっちの男も、か、覚悟してくださいッ!!」
「彼女はリビナ。私の練習生ですわ。以後、お見知り置きください」
メガネをかけた背の高い女生徒だった。俺やレブンよりも高そうだ。トリトマより少し低いくらい。身長を気にしていたとしたら申し訳ないが、勝手に敗北感を感じてしまう。
「なんか大分どもってるけど」
「少々緊張しやすい性分のようですわね。それから、男性を……こう、憎んでいるとか」
かわいさも余れば憎くなるのだから、嫌悪感なんか一滴でもあれば憎悪に変わりそうだ。
「さて、ボスゴドラ、どうですか。涼しくなったでしょう?」
ユリオは余裕の表情でボスゴドラの背の横を撫でながら、挑発気味に腕を組んだ。
「ポリさん、どうだ?」
軽く腕を回してみたポリさんは、その違和感に何度も首を傾げた。やはり〝トリックルーム〟の中では、水をかき分けるかのように動きが遅くなってしまう。
「ボスゴドラッ! 〝てっぺき〟!」
ここで〝てっぺき〟? ポリさんを相手に? 何の意図があっての行動かは知らないが、攻撃をしないことには始まらない。
「スコヴィラン! 〝しっとのほのお〟だ!」
元の速さが低いらしいスコヴィランが、ポリさんに先行した。
一度で全体に及ぶ技を覚えさせていたか。覚えているのがほのお技ばかりなのは気になるが、これなら少しは頭数を――――
「ガントル! 〝ワイドガード〟ッ!」
ボスゴドラの背後から飛び出てきたガントルが、黄色味がかったハニカム構造の半透明の壁を展開し、スコヴィランの〝しっとのほのお〟を無効化した。
「へっ! 素人が! ポケモンバトルってのはこうするんだよ!」
「クソッ……! 元はオレと同じ使い捨ての下っ端が、イキがりやがって……!」
今のは不自然だ。複数体で挑むことを前提とした指示、最初からこうなることが分かっていたかのような技選択。
あいつら、わざとユリオとあのリビナって子がいる時にカンゼキを誘導して、二人にカンゼキが回復サーバーに触ってる光景を見せやがったな。元からユリオに悟られず、おんぶに抱っこをしてもらおうって腹づもりの訳か。
「仕方ない……スコヴィランはとにかく〝かえんほうしゃ〟撒き散らしてろ。こっちは勝手に避ける」
「あ……!? 何だその雑な……分かったよ。やりゃいいんだろ!」
カンゼキは観念して、俺の言うことを聞くつもりになったようだ。
スコヴィランが〝かえんほうしゃ〟を吹きながら暴れ回る。芝が燃えて黒ずんでいく見た目には心を痛めさせられるが、今はそうも言っていられない。
「ポリさん! 〝10まんボルト〟ッ!」
ようやく〝トリックルーム〟中での体の違和感に慣れてきたポリさんが、エネルギーを地面から吸い上げるかのように上部に集め、敵の軍勢めがけて放電した。
誰に当たるでもいい。奴等にじめんタイプのポケモンはいない。
「レパルダス! 受けなさいッ!!」
ポリさんの〝10まんボルト〟はボスゴドラめがけて走ったはずだった。その横を割って入ってきたレパルダスが攻撃を受け、激しく感電する。
奴等、どんだけカンゼキを潰しておきたいんだよ。自分のポケモンをどうしても捨て駒にしなければならない戦局は確かにある。でも、こんなに雑に肉壁みたいな使い方をするか?
「文字通りシャグマの犬かよ……!」
頭に血が昇っているユリオは、その乱雑極まりない指示に対しても、疑念が及んでいない様子であった。
目の前で明らかにおかしいことしてる奴がいるのに、全然目に入ってない。こんなに頑固な奴だとは知らなかったぞ。
「ボスゴドラッ! 〝もろはのずつき〟ッ!」
ソッテラネアで冷や汗をかかされたウソッキーと同じ技だ。あのボスゴドラが〝がんじょう〟ではなく〝いしあたま〟だったとして、ポリさんが受け切れるか……。
「ポリさん違う! 後ろじゃない! 前に避けろッ!!」
ポケモン達もヤバそうな技は指示をしなくとも勝手に避ける。だが、その動きを口頭で補佐しなければならない時もある。今がそうだ。
ギリギリで俺の声に合わせたポリさんが、前に飛び込むようにして身を投げ出し、地面にうつ伏せになった。
ボスゴドラの〝もろはのずつき〟はポリさんがいた場所を通り過ぎて、さらに前方へと1メートルは伸びた。後ろに回避しようとしていれば、あの速度による慣性で、結局捉えられていた。
「…………〝トリックルーム〟下の指示出しに、随分慣れているご様子ですわね」
渾身の攻撃を避けられて歯噛みするユリオが、苛立ち紛れにそう言った。
当然ながら、後ろに動くより、前に動く方が大抵の生物はスピードが出る。咄嗟の動きでユリオは俺の経験を察したようだった。
「そうかもね」
トキワジムで、一定以上の実力を持つトレーナーに対してグリーンさんが使う戦法もこれだ。
グリーンさんにジム戦で8回はボコられてる俺は、いい加減その特異性を頭と目との両方で理解している。
とはいえ、ポケモンまでそうであるかと言えば、それは違う。慣れているのは俺だけで、ポリさんは別だ。俺の考える最適な動きを、常にポリさんが遂行してくれるとは限らない。
「おい! もうこっちは限界だ! 頼むから何とかしろッ!!」
カンゼキの情けない救援要請が聞こえてきた。声が裏返っている辺り、必死だ。
後ろでは、複数体のポケモンに囲まれて早くもピンチに陥っているスコヴィランが、半狂乱で炎を撒き散らしていた。今はその炎に怯えてポケモン達が近付けていないが、それも時間の問題だ。
くそっ。あのボスゴドラ。もっと普通の時に戦いたかった。〝トリックルーム〟を使う補佐役もいていいから、こっちもあの素人じゃなくて、ちゃんとしたダブルで……!
「考え事をしている暇はありませんわよッ!! ボスゴドラ、〝ボディプレス〟!」
それはマズいっ……!
「足下に〝トライアタック〟だ!」
ポリさんは俺の無茶な指示に、何の疑問もなく従い、己の足下に〝トライアタック〟を叩き込んだ。もちろんその余波でポリさんは吹き飛ばされ、地面を転がりながら己の技でダメージを受ける。
だが、〝ボディプレス〟はそれで不発に終わった。ポリさんがいた場所にデカいクレーターを作ったボスゴドラは、不服そうに鼻を鳴らしていた。
「肉を切らせて骨を断つ、ですわね」
かくとうタイプの技で、しかもあの防御力の〝ボディプレス〟を食らったら、一撃で気絶確定。それなら、多少ダメージを伴うでも、無理やり離脱するしかない。
そのための自爆行為だった。体の動きが遅くなるとはいえ、爆風で飛ばされる時の速さにまで変わりがある訳ではない。
「ですが、同じことを続けるつもりですか?」
「どうかな……」
ユリオの言う通りだ。これをやっているだけでポリさんは勝手に傷付いていく。相手からすれば技を当てなくてもダメージを稼げている訳だ。
「おい! 何ボサッとしてんだよ! おいって! くそっ! スコヴィラン! こうなったらもう――――」
どうすればいい? ボスゴドラに攻撃を当てようとすれば、シャグマの手下共が己のポケモンを残機同然に突っ込ませて身代わりにする。
かと言って〝トリックルーム〟が切れるのを悠長に待っていれば、あの〝ボディプレス〟が飛んでくる。
右ポケットの中で、ボールが激しく揺れ始めた。
エルレイド。分かってる。分かってるから、騒ぐな。大人しくしてろ。
「どうやら策はないようですわね……では、こちらから行きますわよッ!」
お前を出せば確かに一瞬だ。確信がある。たとえこの数的不利で、〝トリックルーム〟の中だったとしても、お前なら一匹で全員何とかできるだろう。
でもな、お前は…………!
「ボスゴドラ! 〝ボディプレス〟ッ!」
遂にポリさんに目がけて、二度目の〝ボディプレス〟が襲いかかる。
どうする、ポリさんが倒されたら本当に……!
キイイィィ――――ィィ――ィィ!!
全く予期せぬ方向から打ち出された〝ソーラービーム〟が、飛来するボスゴドラの軌道を大きく逸らした。
「お前は……!」
この絶対絶命の戦況に横槍を入れたのは、ソッテラネアで捕まえたキマワリだった。
「間違いない、迷宮の……!」
技構成は少し変わっているようだが、その姿には確かに見覚えがある。
太々しい表情で緑の腕を組むキマワリは、その腕を解くと、チッチッチ、と左右に振った。かわいい顔して非常にムカつく。
「何でいる…………!?」
どうやってここまで来たのだろうか。名誉のために弁明しておくが、連れてきたのは俺ではない。
ソッテラネアの内部の野生ポケモンは連れ帰ってはいけないルールなので、次の挑戦まで運営に預けるか、あるいは逃さなければならない。
「や、野生のキマワリ……!? 一体どこから……!」
ボスゴドラの横っ腹にビームをぶち当てられたユリオは当惑気味だ。もちろん彼女以外の生徒達も、困惑を隠せない様子であった。
「と、とにかくこれはチャンスだ! ポリさん!」
俺が言うまでもなく、ポリさんは〝はかいこうせん〟の体勢を取っていた。ボスゴドラ一匹を見るなら通りのいい〝10まんボルト〟を打つところだが、複数体を相手に突破口を開くなら、見た目の威圧感こそ重要だ。
「スコヴィラン戻せ! ポリさん、やってくれ!」
疲れ気味のポリさんの腕を引っ張って、その射角を調整する。競技棟でもない学内でこんな技を水平に打ったら、トリックルームの範囲を超えて、地面が全て丸ハゲだ。あるいは校舎にあたったら死人が出る。
だから少し上向きにして、道を作る要領で……!
「お、おい! バッ、バカ、バカッ! 無茶すんな! それやべぇって!!」
意外と小市民的な感覚の持ち主らしいカンゼキが後ろでパニックを起こしていた。
俺だってこんな学校の敷地そのものもを人質に取るような真似はしたくなかったよ。でも仕方ないだろ。素人を庇いながらこの人数を捌くのは無理。しかも一人は俺と同じ強化生だぞ。
「それはッ……! 戻りなさいボスゴドラ!!」
正式なバトルでもない場所でリスクを取る気はないのか、ユリオもボスゴドラをボールに戻した。
冷静になれば、〝はかいこうせん〟なら〝10まんボルト〟を食らうよりもダメージが低いことには気付けるのだが、とはいえそれでも耐えられるかと言えば別の話だ。
ジジジ――――ジジ――ジジ――ッ!!
直視すれば網膜にダメージが残りそうな強烈な光の束が、ポリさんから放たれた。その瞬間、蜘蛛の子を散らすようにしてトレーナーやポケモン達が〝はかいこうせん〟の直線を浮き彫りにするようにして逃げ惑う。
「走れッ!!」
反応で動けないポリさんをいち早くボールに戻して、〝はかいこうせん〟の余波に怯えるポケモンや生徒達の間を駆け抜ける。
背後から憎々しげに俺達を睨み付けるユリオの視線が痛かった。暴虐の具現のような白い光に呆気に取られた生徒達は、腰を抜かしたのか、俺達を追いかけることもできない様子であった。
「はぁッ……はぁッ……ぅ、ぶ……はぁッ、はぁッ……!」
「お、おい、大丈夫かよ……?」
カンゼキに肩を借りて、俺達は何とか第二競技棟の前にまで到着した。
「あぁ……はぁ、はぁッ……う、へー、き……」
「どうみても平気じゃねぇだろ! ちょっと待ってろ、水買ってきてやっから。カギ借りてくぞ」
「ポケット……入ってる……」
カンゼキがいなくなると、何とかカッコ付けようとしていた全身の筋肉が、役目を終えたかのように震え出した。
覚束なくなった平衡感覚が、千鳥足で地面を探し当てるのに任せ、俺はその場に情けない倒れ方をした。
「何だよ……」
顔の側では、なぜか着いてきたキマワリが俺の顔を上から覗き見ている。心配というよりは、興味津々って感じだ。
たまにその葉っぱの手で、存在を確認するかのようにペタペタ触ってくるのが鬱陶しかったたが、それを止めさせる体力は俺には残っていなかった。
「ほら、水。それとカギ」
踏み固められた土の道に、無様に転がる俺の顔の横に、カンゼキがおいしいみずのペットボトルを置いた。
学内の自販機だと100円丁度で、コンビニで買うよりは安いが、同じく学内の購買で買うよりは少し高いヤツ。
「サイコ、ソーダ、くれ……」
「こんな時に何バカ言ってんだ! いいから受け取れよ!」
おいしいみずを飲んで少しは落ち着いた俺達は、とりあえずキマワリも伴って、競技棟の中へと入ることにした。
「わり、100円でいいよな」
「いらねぇ。オレも、まぁ……助けられた訳だしよ……」
一階の休憩用ホールで、窓枠に寝転がった俺を見つめながら、カンゼキは樹脂製の真新しい椅子に、背もたれを前にして座っていた。
「そのキマワリ……テメェのポケモンか?」
目に入るものが全て気になるのか、少し興奮した様子のキマワリが歩き回っていた。暴れている訳でもないので放置しているが、テーマパークにやってきた子供のようだ。
「んー、違うような、違わないような……」
「あ? 何だそれ」
何だと言われても、説明に窮する。というか、酸素の足りない頭に面倒な質問をしないでくれ。
キマワリは一通りホールの中を歩き回ると、すっかりくたびれた俺達のほうにやってきて、カンゼキの前で立ち止まった。
「ンだよ……?」
キマワリはカンゼキを凝視していた。じーっと見つめる表情は著しく知性に欠けるが、こいつが野生にしては驚くほどに戦闘巧者であることは、実際にバトルをした俺自身が認めるところだ。
キマワリは鳴き声にしてみれば「ン」みたいなことを言っていそうな雰囲気で、その短い手を突然カンゼキに向けて指した。
「何、カンゼキがいいの?」
キマワリは頷いた。どうやら一目見てこの男を気に入ったようだ。
「良かったな。手持ちが増えるぞ」
「ちょ、おい! オレは捕まえるなんて一言も……ん、ん……? なっ、何だよ……」
キマワリは手でちょいちょい、とカンゼキに手招きをして、彼をしゃがませた。
そして、彼のトサカのような緑色のモヒカンを指指して、目を輝かせ始めた。
「あぁ……そういう」
キマワリはカンゼキの毒々しい髪色を見て、同族の植物分類のポケモンだとでも思っているらしい。
確かに色と形を見れば、何となくキマワリの手のように見えなくもない。
「て、テメッ!!?」
キマワリは器用に彼のベルトに付けられていた空きのボールを手で弾くと、空中に浮いたボール目がけて自ら頭突きをし、中に入ってしまった。
「…………」
「そいつの〝とくせい〟サンパワーだぞ」
「そうかよ……」
カンゼキは何とも言い難い表情でボールを拾うと、深いため息を吐いた。
結局、回復サーバーに細工をした人物は別人だったということが翌日に判明した。
犯人はユリオが言っていたメンテナンスをしている業者。金を握らされていたということだが、仲介人を通したやり取りで、その金を握らせた人物が誰かは定かではないらしい。
まぁ九分九厘シャグマだろうけど。
「本当に申し訳ありませんでした……!」
その翌日、というかつまり今日、教室の前でくだらない口諍いを繰り広げていた俺とカンゼキの前に、律儀にもユリオが菓子折りを持ってきた。
「私の勘違いで、お二人には大変ご迷惑を……!」
教室の前で、二つ名で知られるような強化生が直角に頭を下げているので、俺達はちょっとした注目の的になってしまった。
「やめてくれ。別にいいって」
カンゼキは納得がいかない表情を浮かべていたが、元はと言えばお前の素行が疑いを強めたんだ。勉強料だと思えよ。
「それよりほら、もう授業始まるよ。ユリオも行ったほうがいい」
「そ、そうですわね……またの機会に改めてお詫び申し上げますわ!」
そう言って走り去るユリオを見送って、手渡された菓子折りをその場で開けてみた。
「行儀わりーな」
「ヤンキーに行儀とか言われたくねーよ」
中身は白いクッキーだった。はがねタイプのポケモン達をデフォルメした、かわいいクッキー。彼女が紅茶のお供にでもしているものだろうか。
「それにしても、シャグマさん、本当にオレを……」
「もう忘れろよ。あんな女」
己の口から出た言葉とは言え、聞く人が聞いたら勘違いされそうなセリフだったな。
「…………」
「黙ってないでほら、食えって」
「お、おい! やめろ! 自分で、もがぅ……!」
シャグマとカンゼキの間に、どのようなやりとりがあったかは知らないが、こんなところでセンチメンタルに浸らないでほしいね。
「お、うまい」
クッキーからはシナモンの香りがした。
キレンゲくんの華麗なる日常(カントー編)
「ヨノワールッ!! 僕は思うんだ……ハドリアまで泳いでいけば、着く頃には僕達、今よりずっと強くなっていると思わないかッ!!」
「?????」(正気を疑うヨノワール)
※補足
カントー地方からハドリア地方までの表面距離は、概算9700キロメートルくらいだぞ!
「行くぞッ!! 着いてきたまえッ!!」
翌日、聞き取り不可能な奇声を発しながらクチバ港から海に飛び込んだ少年が保護された。未成年飲酒、薬物使用などを疑われたが、どちらも検出されていない。