俺のピカチュウだけでんき技使えないんだけど   作:イリノイ州の陰キャ

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28、君と日々をたくわえる

 

 さらに麓に近い森の中、俺は川で顔を洗っている最中だった。

 

「あいつ……」

 

 結局エルレイドはそのあと、また黙りこくってしまった。頷いたりも首を横に振ったりもしない。いつもの調子に戻ってしまった。

 だから、結局どういう意図で俺にバトルをしてほしくないのかは判然としない。あるいは、あいつ自身がもう、バトルなんてしたくないのかもしれない。

 

「そういえば、昨日は、少しは……」

 

 人工情報の少ない自然の中で、恥じらうべき相手のいない世界をくつろぐエルレイドは、相変わらず無表情だった。しかし、心なしか安らいでいるようにも見えた。

 

「あー、冷て……」

 

 圧巻の瀑布から滑り落ちてくる大量の水が、同じ水同士で打ち合って弾け飛び、滝壺で連続的に音を立てていた。

 滝の半ばでコロイドみたいになって空を舞う水の粒子が涼しかった。朝日が東から斜めに降ろす形に、白い粉のような水気が姿を得る。まるでレースカーテンのようだった。

 

「どーすっかなー……」

 

 未だ真意を図りかねるのは、以前のエルレイドを知っているからだ。ここで言う「以前の」とは、つまり、ジム巡りをしていた頃のこいつ。

 ひいき目混じりなことは自覚しながらも、確かにあいつは強かった。しかも、多分俺よりもバトルを望んでいたような気がする。

 

「全部の試合に出たがってたしな……」

 

 だから突然バトルをやりたくない、と主張し始めた理由が分からなかった。

 何ならトレーナーの俺よりも前のめりだった。バトルと聞けば呼んでもいないのに勝手に飛び出してくるほどには。

 

「もう少し、話してみるか……」

 

 そもそも、丸々一年だんまりを決め込まれていたんだ。向こうから意思の疎通を図らせただけで前進と言える。

 

 そう思い立って、川辺から立ち上がった時だった。

 

 ガサ、と滝壺に近いほうの木の下の茂みから、草木をかき分ける音が聞こえてきた。

 

「何だ……」

 

 まずい、川の前じゃ隠れる場所がない。旅をしていた時には考えられない迂闊さだ。

 

「グルルル……」

 

 茂みから飛び出してきたのは、腹部に環状の黄色い模様のある獣のポケモンだった。

 

「リングマ……!?」

 

 カントーでもたまに、ジョウトからシロガネ山を経由したリングマが人里に降りてきて、大混乱になってはニュースに流れている。

 近くの木に爪痕がないことは確認済みだ。それに、クマ避けのスプレー(グラエナの尿)を一帯にかけておいたはずだが、それすら分からないほどに猛り狂っているのだろうか。

 

「やべ……」

 

 寝巻きのスウェットのポケットをまさぐるが、ボールが入っていない。置いてきてしまったか……?

 

「グルルルルッ…………!!」

 

 リングマは四足で一気に距離を詰めてきた。そして、血に飢えた目で俺を睨め付けながら、野生環境で黄ばんだ爪を大袈裟に振り上げた。

 

「うぁっ…………!」

 

 反射的に顔を手で守りながら、身を小さくして屈み込むことしかできなかった。

 自分が死ぬイメージなどはどうしても浮かばなかったが、恐怖の瞬間には場違いな日常の思い出ばかりが頭をよぎる。

 現実逃避というやつか、あるいは強いストレスに対する対処反応によってか、俺は浮遊間を感じていた。

 

 

 キィィッ――――!!

 

 

 途端に目蓋の内側が白くなる。目を瞑っている前で大きな光が放たれた。その光が収束する頃には、怯えたリングマの声が遠ざかっていくのが聞こえた。

 

「に、逃げた……?」

 

 恐る恐る目を開けてみると、獣道のほうの木々が、6本くらい切り倒されているのが視界に飛び込んできた。

 どれも切り口の周りが全く毛ば立っていない、切断面の角度すら均一な丸太が、こちらに年輪を覗かせていた。

 この横振りは間違いなく〝せいなるつるぎ〟だ。それも、相当な練度でなければこうはいかない。

 

「エルレイド……」

 

 案の定、エルレイドがそこに立っていた。

 

 エルレイドが間に合っていなければ、この川が俺にとっての末期の水となるところだった。

 

「助かったよ……ありが――――」

 

 エルレイドは顔をしかめて、俺の腕をぐいっ、と掴んで引っ張った。

 

 激怒している。怒った顔を見ることは、初めてではない。ただ、極端に少ないことは確かだ。

 俺が一人で行動したことを咎めているのだろうか。あるいは、単に迂闊な主人に呆れているだけなのか。

 

「わ、悪い……」

 

 咄嗟に出てきた謝罪の言葉を聞くと、エルレイドは腕を引っ込めて怒りを収め、またいつもの無表情で立ち尽くした。

 

「あー……お前も顔洗えよ。涼しいぞ」

 

 何を言えばいいか分からなくなって、結局当たり障りのないことを言ってしまった。

 何だかずっと薄ら気まずいな……とりあえず俺は先に荷物のあるほうに戻っているべきか。

 

「俺は先戻って――――」

 

 エルレイドはまたもや俺の腕を掴んだ。ただ、先ほどより力は強くない。引き留めるための行動に思える。

 今度は何が気に食わなかったのかと振り向いてみれば、エルレイドは手に持っていたポケモン(二足歩行)用歯ブラシを持って、俺をじっと見つめてきた。

 

「ど、どうした……?」

 

 エルレイドはぐい、と歯ブラシを押し付けてくると、自身は目を瞑り、んあ、と、ちょっと声を出しながら口を開けた。

 

 

 

「もうちょっと開けて。そうそう」

 

 エルレイドの大きくなった、とはいえ人間のそれよりは少し小さめの歯を磨く。水だけを付けたブラシで、一本一本を意識しながら。

 ポケモン用の歯磨き粉はあるにはあるけど、最初は何も付けずに、10分くらいかけて一本ずつ磨け、なんて、昔、歯医者さんが言っていた。ポケモンも人間もこうしろと。

 曰く、5分では磨き足りないが、10分も歯磨き粉で磨いていると、その中に含まれる研磨剤が歯を過度に傷付けてしまうんだとか。

 

「下の歯磨くぞ。はい、下向いて」

 

 こうして歯を磨いてやるのは、ラルトスの頃以来だ。キルリアに進化してからは、サイコパワーを器用に使って自分で磨くようになっていたから。

 

「あ、お前、また歯軋りしてるだろ。ちょっと歯が擦れてるぞ」

 

 進化するまでは、毎日俺がこの子の歯を磨いていた。子供用の、毛先が柔い小さな歯ブラシで。

 思い出の中のラルトスと今のこいつを見比べてみると、確かに成長している。だが、変わらないところもあった。歯軋りをする悪癖のせいで、左の犬歯が少し平らになってしまっているところとか。

 

「もう少し我慢してな」

 

 ぎゅっ、と目を瞑って、大人しく歯を磨かれているエルレイドの姿は、昔と同じだった。思わずその頭を撫でてしまうくらいには。

 今度は悪い意味じゃない。家族として過ごしていた頃の、俺の知っているこいつの姿だ。

 

「はい。終わり。仕上げするから、一回口の中すすいでこい」

 

 エルレイドは立ち上がると、小走りで川のほうに駆けていった。

 こいつもこいつなりに、失った時間を取り戻そうとしているのだろうか。

 

「ピカ!」

 

 口を濯ぐエルレイドを眺めていると、荷物を置いているほうからライムまでやってきた。小さな歯ブラシを口に咥えて。

 

「そうだった。ライム。ちょっと待っててな」

 

 歯ブラシを受け取ってからその顔を撫でてやると、ライムは自ら手の中に頬を擦り付けてくる。右頬を下にして寝ていたのか、そちら側の毛が不自然に倒れていた。

 一応は小型ポケモン用の歯磨きガムを、三日に一回は噛ませているものの、それでも人の手でケアするのが望ましい、とか、親父の蔵書にあった携帯獣医学の本に書かれていたような気がする。

 

 シロミの歯磨きもしてやらなければならない。これからエルレイドが毎日歯磨きを要求してくるとなれば、二匹で済んでいた労力が三匹分になる訳か。

 

「ま、いいか」

 

 手を焼かされているのに、そこまで悪い気分にはなれなかった。

 

 

 

 エルレイドはやけに甘えたがりというか、昔のように世話をされたがった。

 朝の歯磨きもそうだが、昼間、また雛鳥のように口を開けて待っているかと思えば、食わせろ、ということだったり。森の開けた場所に咲いていた花を摘んできて、見せびらかしてきたり。

 ラルトスだった時を思い出す。今のように何をしていても無表情な訳ではなく、むしろよく笑っていた。

 

「くすぐったかったか?」

 

 まだ短くて手が届かなかった頃は、頭のツノを俺に磨かせていた。毎日ではないが、週に一度は必ず。

 ラルトスは、ここが汚れているのを嫌がる。感情を感知する能力に問題が生じるのか、単に気分が悪いだけかは分からない。

 

「どう? 綺麗になったんじゃないか?」

 

 成長して緑色になったツノを、スマホロトムの内カメで確認させる。

 エルレイドは首を振った。もっと磨けってことか? これ以上綺麗にならなそうだけど。

 

「んー……? しょうがないな。ほら、もう一回座れ」

 

 本来はポリさんを磨くためのガーゼを水に付け、擦れすぎて痛まないように、弱い加減で磨いていく。板のように平になっている部分には、鈍くも光沢が生まれていた。

 

「ピカ」

「…………」

 

 エルレイドのうしろには順番待ちができていた。ライムに、ポリさんに、ハイネの順で。ハイネは少し不服そうだった。ポリさんに横入りでもされたのだろう。

 

「お前らね……普段からやってるだろ」

 

 三匹とも首を横に振った。それとこれとは話が別ということらしい。

 

「分かったよ。ライムはブラシ持ってこい。もうそろそろ終わるから」

 

 目を瞑ってツノを差し出してくるエルレイドは我関せずだ。満足するまでこうしているつもりなのだろうか。

 折しも、シロミが川で大はしゃぎしている音と、いつもの鳴き声よりもピッチの高い咆哮が聞こえてきた。日頃、大きな水辺が近くにない環境に鬱憤をためていたようだ。楽しそうだった。

 

 

 

 そんなことをしているうちにまた日が沈み、飯も済んだので、さっさと寝支度をして寝てしまおうとしていた時のこと。

 

「ピイィカ〜ッ!!」

 

 一昼夜をエルレイドの世話に費やされ、あまり構ってやれなかった上に、寝る時までエルレイドが俺の隣にいるのが気に入らなかったのか、とうとうライムが怒り始めた。

 

「あー、エルレイド、ちょっとだけスペース開けてくれないか?」

 

 シートの上に座り、木によりかかった俺の隣で、肩をくっつけて眠ろうとしていたエルレイドの肩をゆする。

 

「…………」

 

 ひし、と俺の腕を掴むと、エルレイドはイヤイヤと首を振った。

 

「ピカピィカッ!」

 

 負けじとライムが異議申し立てる。何と言っているかは分からないが、怒っているのは確かだ。

 

「………………」

 

 エルレイドは少しの間ライムと目を合わせていたかと思うと、俺の肩に頭を預けたまま、突然目を瞑ってわざとらしい寝息を立て始めた。たぬき寝入りだ。

 

 ごめんライム。嫌なんだって。

 

「ほら、こっちなら空いてるから」

「ピッ…………!!」

 

 ライムは腕を組んでそっぽを向いた。ふてくされてしまったようだ。

 ライムはとぼとぼと荷物のほうへと向かうと、俺の着替えを抱き枕にして、こちらに背を向けながらリュックの上で眠ってしまった。起きた時変な寝癖が付いていそうだ。

 

「ごめん……」

 

 今日だけは譲ってやってくれ。ライム。普段は全く自己主張しないこいつが、こんな風にしているのは、何か理由があるはずだから。

 

 

 

「どうだったのさ、三日間の、何だっけ? デジタルデトックス?」

「まーまーだ」

 

 レブンには人里から離れて修行してくる、とか何とか言っていたはずだが、それをどう聞き間違えればそうなるのか。とはいえやっていたのは似たようなことか。

 

「大丈夫なの? 前にも一週間くらいの超短期休学もらってたのに、授業付いて行ける?」

「一応ね」

 

 ありがたいことに、俺には理事長の直系の頼もしい外部講師がいる。かなり厳しいけど。

 彼女の呆れ顔もそろそろ嬉しくなってきた頃だ。別にマゾヒストの気があるってんじゃない。口では咎めてくるものの、懲りずに教えてくれる優しさのことを言っている。

 

「それよりレブン、このあと時間あるか?」

「このあとって、授業終わってから? あるよ。また学校の外でおいしい店でも探しに行く?」

 

 それも捨てがたいが、今日はまた別の頼みがある。そんなに難しいことじゃない。

 

 

 

 レブンを連れてやってきたのは、たまたま空きが取れた第四競技棟の室内コートだった。

 

「珍しいよね。君が僕をバトルに誘うなんてさ」

「ちょっと確かめたいことがあって」

 

 レブンが繰り出したのはジオヅムだった。体表にまんべんなく付着する塩の結晶には特別な作用があり、バトルでいうところのまひ状態やこおり状態にならない。

 

「ジオヅムか。初めて見るよ」

「角ばっててかわいいでしょ? ほら、君もポケモンを出しなよ」

「あぁ。じゃ、よろしく、エルレイド」

 

 ボールのボタンを押して開閉し、投げずにその場でエルレイドを解放する。こっちのほうがボールが壊れにくいんだよな。

 

「エルレイドか。早速――――!」

 

 エルレイドは目にも止まらぬ速さでジオヅムを飛び越えて、一足でレブンに肉薄したかと思えば、その肘の刃を彼の首に当てがった。

 

「……………」

 

 俺もレブンも絶句だ。二人してポカンと口を開けたまま、何が起きたかも理解できなかった。

 トレーナーの俺にすら、その疾走は全く見えなかった。自分のポケモンを見失うなど、初心者のようなやらかしだが、ボールから出してすぐに相手トレーナーに襲いかかるとは誰が予想できようものか。

 

「え、エルレイド! やめろッ!!」

 

 慌てて大声で注意したが、エルレイドは刃を降そうとしない。指示に背いたことなど一度もないのに。

 レブンは強盗に銃を突き付けられた銀行員のように両手を高く上げ、エルレイドの鋭利な刃にビビり散らかしながら、首をブンブンと横に振って拒否を表した。

 

「…………シラン。僕、もう、君とは、バトルしない。金輪際」

「あ、あぁ……悪かった……」

 

 恐怖でカタコトになっているレブンから、ボールに戻すことで無理やりエルレイドを引き剥がした。そうでもしなければ動いてくれなさそうな迫力があった。

 

 レブンに対しての敵意は並ではない。憎しみに近いレベルだ。彼に心当たりを聞いてみるも、普段の5倍ほど強めの毒混じりに、強烈な皮肉で返された。彼も彼で腹に据えかねているようだ。本当にごめん。

 よく見ると、彼の白い髪の下に見える整った顔立ちは、どこかエルレイドに似ていなくもない。

 お前もしかして対抗意識を燃やしているのか。だとしたら大丈夫だって、キャラ被りとかしてないから。

 

 

 

 リングマの一件ののち、俺はもしかして、と思い、手当たり次第にバトルを申し込んでいた。研究会で仲良くしている十数人や、最近ようやく強化生への疾視が落ち着いて、教室で話してくれるようになった友人相手に。

 結果として、エルレイドは普通にバトルに応じた。今までが何だったのかと言いたくなるほどに。

 もちろんと言うべきか、本気は出させていない。あくまでバトルに出てくれるかの検証だ。力を見せつけるためじゃない

 

 例外は3人。その一人はわざわざもう一度述べる必要があるかは疑問だが、レブンだ。

 

 それから、ミヤコにも同様の反応を示した。つまり、場に出るなり彼女に〝せいなるつるぎ〟で襲いかかったのだ。

 ギリギリで彼女のボールから飛び出したガマゲロゲが受け止めるも、その一撃でガマゲロゲは気絶してしまい、バトルどころではなくなってしまった。

 

『…………君さぁ。そっちからバトルに付き合わせといて、この仕打ちは何?』

『ごめん…………』

 

 俺はもう平謝りだ。元から最近嫌われ気味だったのが、余計に溝が深まった。

 人に危害を加えようとするな、とか、トレーナーなら1年目にポケモンに教え込むようなことだ。正座して叱責に甘んじるエルレイドの姿には、少しかわいげがあったけど。

 

 それからもう一人。

 

「え、エルレイド?」

 

 アコニ相手に繰り出した時だ。攻撃というよりかは奇行だった。

 

「何、うわ、ちょっ……ちょっと?」

 

 コートに出したエルレイドは、アコニを見るなり彼女に向かって行って、彼女に頭突きを繰り出し始めた。

 頭突きといっても勢いのあるものではなく、トストスと胸をツノで突いてみたり、ぐりぐりと頭を押し付けたりしていた。ニャオハが飼い主に甘えるかのように。

 アコニは肘から中途半端に両手を上げて、俺のほうを見ながら目を白黒させた。

 

「ええぇ……!? あの、シラン、これは、どういうことなの…………!?」

「ぜっ、全然分からん……!」

 

 攻撃している訳ではなさそうだが、これではバトルにならない。

 結局アコニとバトルをするつもりにはなってくれなかったので、コートの掃除だけして、俺達は早々に競技棟を退散した。

 

 エルレイドはボールに入りたがらず、俺の後ろを歩いて付いてきている。あとで足を拭いてやらないと。

 

「それで、うまくいったの? 親睦を深めるんだっけ? そんなこと言ってたわよね」

「うまくいった…………か?」

「私が聞いてるんだけど」

「どうだろう……」

 

 何とも言えない気分だ。確かに今のエルレイドには何と言うべきか、感情が見える。

 相変わらず表情はピクリとも変わらないが、少なくとも自分の意思を伝えようとしているような気はする。

 

「私の勘違いかもしれないけど、もしかしたら、少し変わってるかも」

 

 アコニは手を前で組んだまま、盗み見るようにエルレイドのほうを振り向いた。

 目が合ってびっくりしたのか、肩を振るわせたと思ったらすぐにまた前を向いたが、以前のように、エルレイドを見ることすら躊躇うほどではなさそうだ。

 

「相変わらず殺気立ってるけど……先週見た時よりは、怖くない、かな」

 

 俺にはその違いは分からないが、少なくとも彼女の目には変化があったようだ。

 

「だってよエルレイド」

 

 やはり、何を考えているのかさっぱり分からない。少しはポリさんを見習えよ。年中だだ漏れだぞ。

 

「ねぇ、やっぱりさ、エルレイドは……」

「ん?」

「…………何でもない」

「えー? またそれかよ。もう何でもないはなし!」

 

 言いたいことがあるなら遠慮しないで言ってくれよ。ただでさえそれっぽいことだけ言って黙るヤツばっかなんだから。

 

「じゃあ、言うけど……そのエルレイド」

 

 アコニはなぜか、少し恥ずかしそうにしていた。頬を赤くして口ごもる姿に、俺まで照れくさくなってしまう。

 彼女は左手で髪の毛をくるくるといじりながら、エルレイドのほうを向いて、俺の顔と見比べてからはにかんだ。

 

「あなたにそっくり」

 

 





キレンゲくんの華麗なる日常(カントー編2)


「くっ……おとといはジュンサーさんに多大なご迷惑をかけてしまったかッ……! だが僕は諦めないッ! そうだ! フライト中、膝に荷物を乗せたまま、ずっと空気イスをしているというのはどうだろうかッ!?」

「…………」(呆れてものも言えないヨノワール)

「そうと決まれば早速荷造りだ! ヨノワール! バッグにダンベルを入れてくれッ!!」

 ダンベルは荷物検査で引っかかった。
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