俺のピカチュウだけでんき技使えないんだけど   作:イリノイ州の陰キャ

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32、Bottle’s surface(2)

 

 光の束がエルレイドを包み、光の皮棘を縦横二十四方に発する。その姿はトレーナーの俺にすら見えなくなっていた。

 だというのに、エルレイドが今どんな体勢を取り、どんな形となっているのか、朧げではなく、かなりはっきりと分かっている。

 

「何だこれ……知らないはずなのに」

 

 指示はいらない。以前にも時折こういうことがあった。何も言っていないのに、俺の意思を汲み取って動くことが。

 

 そしてその暗黙の共鳴は、俺の身にも起きていた。

 

 鏡像と、自他の認知と、薄い自我の上に張った思い出。幼い頃の俺や、親父の姿が目の裏に走っては去り、旅の光景に移り変わっていく。

 思い出はメタフィジカルな啓示に取って代わり、俺の後ろ姿と、決意のような感情が芽生え、エルレイドの胸に留まった。

 対戦の場には似つかわしくない情緒が、輪郭を曖昧なままに集合していく。エルレイドの目にはいつも、俺の姿があった。

 

 

 吹雪の中、意識を失った俺を担いで、シロガネ山の悪魔のような野生ポケモン達を単身で払い退けながら、死に物狂いで山を降りていくエルレイドの姿があった。

 

 

 お前本当はいつも、こんな……。

 

 無愛想なヤツ……。

 

 

「シュバルゴッ!! 〝メガホーン〟!」

 

 ヘリクスは先手必勝とばかりに、シュバルゴに指示を出した。

 まるで遅れて見える。さっきまで俺は、その威容に怯えすら感じていたのに。スロー再生にすら見えるほどだ。

 俺でこうなのだから、エルレイドにとってはアリの行進よりも焦ったい光景なのではなかろうか。

 

「行け」

 

 光の中から現れた闘気の剣が、シュバルゴの両腕の槍と拮抗した。

 

「〝せいなるつるぎ〟かッ……!?」

 

 拮抗したのは一瞬だった。弾けるようにして槍の先端が押しやられ、そのエネルギーの融合に際して四方に散るスパークが、シュバルゴを打ち飛ばした。

 

「シュバルゴッ!!」

 

 地面から体が浮いたことが相当な驚愕だったのか、シュバルゴが体勢を取り戻すまでに、10秒では利かない時間がかかった。槍の穂先にはエルレイドの刃の形に切れ込みが入っている。

 

「何だ、その……それは」

 

 ここでようやく光が静まり、エルレイドの姿がうっすらと輪郭を取り戻していく。

 ヘリクスは固く拳を握りながら、驚愕に目を見開いていた。

 

 

「やはり、メガシンカ……」

 

 

 やっぱこれがメガシンカってヤツなのか……不思議な気分だ。エルレイドの心がまるで気安い。いや、これが心とかなんとか言われる曖昧な精神活動の正体なのか、俺には判別のしようもない。

 ただ、多分エルレイドが普段感じているような感覚を、俺も感じていることは分かる。つまり、考えていることが分かるっての。俺からはエルレイド限定だけど。

 

「来るかッ……!?」

 

 俺がそんな風に逡巡しているうちに、コートのように背びれをたなびかせ、一回り大きくなった肘の剣を前に構えたエルレイドが、風を切って光を脱した。

 

「今だッ!」

 

 ヘリクスの一瞬の動揺は、たとえそれがコンマ1秒未満の思考停止だったとしても、それだけで俺達には絶好のチャンスになる。

 俺の声と全く同じタイミングで、エルレイドの念が通じた。

 

「防御しろッ!!」

 

 振り下ろされた肘の刃から、サイケデリックな紋様を常に変化させる光の剣が伸びて、シュバルゴに飛びかかっていく。

 俺が指示したかった通りの技。〝サイコカッター〟だ。

 

「ぐっ……小癪な……!」

 

 シュバルゴはその頑強な被殻と槍を以て、〝サイコカッター〟を正面から受けてみせた。

 はがね、むしタイプのシュバルゴに、エスパータイプの、しかも奴が得意とする物理攻撃。ほとんどダメージは期待できない。

 

「そのような小技が通じるものかッ!」

 

 しかし、それだけでは終わらない。

 シュバルゴは槍ごと〝サイコカッター〟に押し込まれ、土にめり込むようにしてその体の形に轍を作った。

 

「ぐ、ぬぅぅ……!!」

 

 エルレイドから直線状に伸びる抉れた土の筋道は、その深さも遠目には分からないほどであった。

 

「あり得るか……!? こんなことが、クソッ!」

 

 まだ技は一つも直撃していない。それどころか傷にも至っていない。にもかかわらず、シュバルゴは大きく息を乱し、焦りと恐怖が僅かに滲む目でこちらを睨んでいる。

 

「かような刀を隠し持っていたか……拙を化かそうとは、全く虚仮にしてくれる……!」

 

 別にそんなんじゃない。と言っても、ヘリクスは聞く耳を持たないだろう。

 俺だって驚いている。突然光りだしたかと思えば、回線が接続されたみたいにお互いの考えていることが伝わり合い、その上姿まで変わっているのだから。

 

「シュバルゴ、〝メガホーン〟だッ!」

 

 エルレイドは速さで有利を取る相手に対して、あえて相手の攻撃が届く位置にいた。シュバルゴの体躯から放たれる〝メガホーン〟を全く恐れていない。

 二方向からの強烈な刺突は、エルレイドの刃の滑りに合わせて浮き上がり、あらぬ方向へと繰り出される。

 

「止まれ! シュバルゴ!!」

 

 武器が二本とも打ち上げられ、無防備になった胴体に対して、エルレイドはあえて追撃を加えることはしなかった。

 

「何ッ……!?」

 

 ヘリクスともなれば、いや彼ほどの実力者でなくとも、今のは不自然であったと分かる。

 

「……見くびるなと、言ったはずだッ!!」

 

 彼や彼のポケモンを侮っている訳では決してない。むしろそのよく訓練された、機能美すら感じる動きには、一種の敬服の念すら惜しまない。

 だが、こんな終わらせ方をしたくなかった。始まったばかりのこの感覚を、なるべく長く身に覚えさせていたかった。

 

「シュバルゴ! 力任せに刺突をするなと言っているはずだ! 突いたらすぐに腕を引け!」

 

 いい動きだ。連続で襲いくる〝メガホーン〟は、先ほどの見え見えの大振りとは異なって、攻撃後の隙を減らすことに重きを置いた一撃離脱の方法だった。

 突いてすぐに引く。点の攻撃である刺突は、これだけで捌くのが難しくなる。引かれれば槍の竿を弾くことはできないし、引くことそれ自体がまた次の刺突の予備動作を兼ねる。

 

「くっ……なぜだ……なぜ仕留め切れんッ……!」

 

 エルレイドは、まるで未来が見えているかのように、全ての刺突を〝触れず〟に回避していた。

 じわじわと後退しながら、まるでその無数の突き攻撃のパターンを覚えようとしているかのように。

 

「虫ケラの分際で……! シュバルゴ! 〝アイアンヘッド〟だッ!」

 

 距離が目と鼻の先にまで詰まったところで、シュバルゴは〝メガホーン〟を両手で放ち、それをエルレイドが躱した一瞬を狙った頭突きを繰り出した。

 今度はあえて両手の刺突を引かずに伸ばし切っていることで、左右に逃げ場はない。そして、後退はもう間に合わない。

 いつかこんなことを述べたような気がするが、大半の生物は後退するより前進する筋肉が発達しており、骨格もそのように構成されている。

 

 だから、残る選択肢は迎撃。

 

「〝せいなるつるぎ〟!」

 

 俺がそう叫ぶより速く、エルレイドの闘気の刃がシュバルゴのたてがみと鍔迫り合い、そして片手で弾き飛ばした。

 

「シュバルゴッ!?」

 

 球状でもない硬い体でゴロゴロと地面を転がって、シュバルゴはそのまま物言わなくなった。

 たてがみには、一見には取り返しがつかないようにも見える大きな刃傷が刻まれていた。中央から二分された赤いたてがみは、触れれば音を立てて崩れてしまいそうであった。

 

「一撃でシュバルゴが……! あり得ん……! そんなことが起こるはずは……」

 

 低い震え声で、ヘリクスはシュバルゴのたてがみに触れていた。火花を散らすほど硬いあの頭部をここまで損傷させるとは。

 その〝きれあじ〟は健在のようだ。ここまでとは思っていなかったが、メガシンカなる妙技で力を増した今のエルレイドなら、それも頷ける。

 

「そうか、そのエルレイドは……」

 

 ヘリクスも、こいつの〝とくせい〟に合点がいったようであった。

 斬撃による攻撃においては、この世のあらゆるポケモンに勝るのでは、とすら思っている。言い過ぎだと思われる向きもいるかもしれないが、悪いがこれは譲れない。

 

「……グソクムシャ! 倒すまでいかなくてもいい。何としても奴の体力を削れ!」

 

 グソクムシャは、ポリさんの攻撃で相当消耗しているはずだ。

 あの厳めしく恐ろしい顔が、今はなぜか集中力の産物であることが理解できる。精神を研ぎ澄ましているからこそ、険しい表情になっているのか。

 

「来い……!」

 

 行けるよな、エルレイド。今度は俺も一緒にやるよ。それがバトルってヤツなんだろ?

 

 

 

『こんな…………』

 

 五体目に繰り出したニドクインをも倒され、膝を突いた俺の前で、あの人は海面の黒黒しい波の間隙を眺めるかのように、心の所在も分からないような眼差しを降ろしていた。

 

 これまでも苦戦させられたことはあった。負けたことも数えきれないほどにある。

 グリーンさんにはジム戦だけでも八度の敗北を喫しているし、道中、バッジの少ないトレーナーを狙って逆走してきた悪趣味なジム巡りに遭遇したこともあった。

 

『嘘だ…………』

 

 それでも、ここまで圧倒的な実力差にねじ伏せられたことはなかった。

 

 鎌の汚れを払うかのような動作で巨木を斬るストライク。その翅が開いた途端、俺の見ている世界は著しく速度を損ねていく。そのあまりに幅の狭い関数の大きさも測れない。

 

 この世には周知の法則や概念では説明の付かないものがある。神が信徒の相貌や宗教的価値観の相違を区別しないように、地球に作為的な抗体反応が生まれ、日々生物が代謝していくように、文芸の中でのみ許されるような不条理が、実際には如何なる場所にも蔓延っている。

 常人にはその想像さえ及ばないような、道義を卑しむ残酷で卑俗なおこないのイメージが侵入してきた。

 あるいは多少自己愛の強い悲劇や、単なる日常の一端、感動的な成功の体験が、頭の中で巡っていた。

 

 なんて無意味な時間。振り返った時そこにあったのは、安寧の箱家からここまでの、そう長くもない舗装路だった。

 俺が才能や努力だと思っていたものは全て、掴まり立ちの赤子のボール遊びのようなものだった。

 

『…………』

 

 無理だって…………勝てない。俺達じゃ、百年かかっても勝てないよ。

 

 お前は、まだそう思っていないのか? 

 

 

 

 グソクムシャとの対決は、詳述するまでもない。元々消耗していたこともあってか、一方的な内容となったから。

 開幕の〝であいがしら〟と〝せいなるつるぎ〟が撃ち合い、競り勝ったところに〝つじぎり〟でとどめを刺した。その堅牢な防御も、エルレイドの前には無力だった。

 

「行けッ……! ストライクッ!!」

 

 奇しくも、ヘリクスの最後の1体は、ストライクだった。

 

「まさか、我が秘奥を見せることになるとは思わなかったぞ……」

 

 顔に傷のあるストライク。年季によって色付いた鎌は、よく研がれた刃物とは別種の、危険な鋭さをその切先に光らせていた。

 

「こやつを出したからには、拙に敗北は許されん。なぜならこやつは、未だかつて敗北を知らぬストライクだからな」

 

 確かに、一眼見るだけでその実力のほどが分かる。年輪のように刻まれた鎌の黄ばみは、その分だけ血を吸ってきたことを意味するのだろう。

 ストライクか……昔はトラウマになるくらい苦手だったのにな。今は素直な気持ちで見ることができる。

 

「……いいポケモンだよな」

「何を言い出すかと思えば、そのような分かりきったことッ!!」

 

 数奇な話だ。俺にとって挫折の象徴となったポケモンが、この場に至っては、最後にして、いや最初の試練として立ちはだかっている。

 

「…………あの人とは違う。けど、そのつもりでやろう」

 

 エルレイドも同じ気持ちだった。その姿をして俺達の前に現れたということは、もはや運命に等しい。最初からここに行き着く道程を辿っていたのだろうか。

 

「捩じ伏せろッ!! 〝シザークロス〟!」

 

 羽ばたきを利用し、一歩で肉薄してきたストライクは、斜め上から振り下ろすようし二本の鎌を交差させた。

 エルレイドはそれを〝つじぎり〟で受ける。わざと跳躍しながら撃ち合うことで、相手の押す力を利用して一気に俺の斜め前にまで後退してきた。

 

「いい判断だぞ。〝シザークロス〟ってことは、俺達の知識は通用しないな」

 

 エルレイドは頷いた。こいつもあの赤い帽子の青年が使うストライクには、散々辛酸を舐めさせられている。骨の髄までその戦法が刻まれるほどには。

 だが、その経験はこの場においては忘れるべきだ。今は、目の前にいる相手を見なければ。

 

「追い上げろ! 〝くさわけ〟!」

 

 草の根を切って進むように、ストライクは走りながら横薙ぎに腕を振いまくった。

 腕を振るたびに速度が増していく。エルレイドに到達するまでには二秒とかからなかったが、その間に先ほどとは格段のスピードを伴っていた。

 

「〝つじぎり〟」

 

 だが、それ自体の威力は低い。〝シザークロス〟よりも余裕をもって受けられる範疇だ。

 エルレイドの〝つじぎり〟が縦に振り下ろされ、ストライクの両手が弾かれた。

 

「〝せいなるつるぎ〟ッ!」

「〝つばめがえし〟だッ!!」

 

 間髪入れずに互いの刃が衝突する。まるで時代劇に描写されるような剣戟がそこにあった。

 技の相性もあって、ややこちらに分がありつつも攻撃を受け切られる。押し切られて後ろに踵を引きずったストライクの腕は、まだ上がっていた。

 

「〝つじぎり〟」

「振らせろストライク! 〝シザークロス〟!」

 

 ストライクはあえて攻撃のモーションを止め、エルレイドが〝つじぎり〟を横に振り切った瞬間を狙った。

 上から叩き下ろすように繰り出される〝シザークロス〟。エルレイドに比べれば遅いが、この体勢からでは不利を取る。

 

「〝サイコカッター〟!」

 

 だったらこっちはクロスカウンターだ。振り切った腕の刃は、直接切断を目的にするなら大きな隙だが、その肘の形に念動の刃を飛ばすには問題ない。

 エルレイドは〝シザークロス〟をモロに受けながら、相手の腹にきっちり〝サイコカッター〟を決めた。互いに攻撃のダメージで弾かれ、二歩分の距離が空く。

 

「いいぞエルレイド、続けて――――」

「〝カウンター〟ッ!!」

 

 この位置からでも伸びる闘気の覇気が、咄嗟に防御体勢を取った腕越しに、エルレイドを突き飛ばした。

 今のはうまいやり方だった。攻撃の手を休めたと勘違いさせ、二の矢三の矢を用意しておく。その周到さは見習いたい。

 

「エルレイド、平気か?」

 

 あのストライク、俺達の知ってるそれとは使う技も戦法もまるで違う。いぶし銀な戦い方をしやがる。

 記憶の中で一番印象に強いストライクが〝テクニシャン〟を活かして破滅的な威力の〝ダブルウイング〟を連発、あるいは〝インファイト〟からの〝とんぼがえり〟で荒らすだけ荒らして引っ込む戦型なので、てっきりそれをベースに考えていた。

 

「何度も言わせるな。見くびるなと。この勝負、何としても拙が勝つ……!」

 

 俺とヘリクスは、このバトルが始まった瞬間からは考えられないような闘志を、互いに燃やし合っていた。

 

 負けたくない。この人には。

 

 学園でここまで熱くなったことはあっただろうか? 俺はずっと昔の小さな思い出と共に、ほとんど命がけだったジム巡りの日々すらも思い出していた。

 道中は森をよく経由した。テレビの対戦ばかり見ている巷間の意見には、むしポケモンは弱いなどと言われがちだが、初心者にとって虫ポケモンは恐怖の象徴だ。

 毒やら麻痺やら糸やらの搦手を用いて、弱ったポケモンやトレーナーを集団で囲い、捕食する。ジム巡りにおける〝死亡事故〟の大半は、そんな場に慣れない初心者がむしポケモンに襲われることで起きている。

 

 その強さはよく知ってるよ。あんたの強さも、たった今肌で実感しているところだ。

 

「ストライク! 〝くさわけ〟だ!」

 

 ここまで〝くさわけ〟を連打されると、速度だけなら段々エルレイドに迫られつつある。手に負えなくなる前に致命傷を喰らわせたいが、それには〝カウンター〟が厄介だ。

 いや、一度は覚悟するしかない。信じるって決めたんだろ。

 

「エルレイド! 〝サイコカッター〟!」

 

 中距離に届く〝サイコカッター〟から入る。一度の防御体勢を相手に強いるだけで、その後の動きに幅を持たせられる。

 

「〝つばめがえし〟ッ!」

 

 ストライクは最初からエルレイドの弱点を突きにきた。ここで体力を削られる訳にはいかない。

 

「〝つじぎり〟!!」

 

 ここでストライクは、あえて体を開いてつじぎりを掠らせた。本当にクレバーなストライクだ。このギリギリで動きを完全に変えることができるのか?

 

「〝カウンター〟だ!!」

 

 今度は防御が一歩の差で間に合わず、エルレイドは鎌の峰をモロに腹部に食らった。

 息を吐かされ、片膝を突くエルレイド。その真上では、ストライクが鎌を振り上げていた。

 

「〝シザークロス〟ッ!!」

「〝せいなるつるぎ〟!」

 

 自分を原点として、コンパスで半円を描くように、エルレイドは下から腕の刃を振り上げた。

 ストライクの鎌が拮抗する。今度はなぜか、先ほどよりも重くのしかかり、弾くことができない。

 

「威力が……そっか。〝テクニシャン〟じゃないなら、あのストライクは〝むしのしらせ〟……」

 

 ギリギリのところで競り勝ったエルレイドは、回し蹴りでストライクを遠ざけながら、肩で息をしつつバックステップで後退してきた。

 

「悪いな。3匹も相手してるんだ。疲れてるだろ」

 

 エルレイドは気丈にも首を横に振っているが、もう互いに嘘なんか通じる訳ないだろ。

 二度目の〝カウンター〟は受け切れない。さっきみたいにうまく掠らせて、技の威力にだけタダ乗りされたのではたまったものではない。

 奴の〝カウンター〟を発動させないためには、確実に攻撃を当てる必要がある。

 

「あれでいこう。やり方、覚えてるよな」

 

 エルレイドは静かに頷いた。ここにきてこいつが失敗することはあり得ない。もしこれが通用しなければ、それは全て俺のトレーナーとしての実力が足りなかったものとして、素直に受け入れよう。

 だがそれは、負けたつもりになってる訳じゃない。この勝負、俺達が勝つ。

 

「〝サイコカッター〟」

 

 まずは布石。相手に接近する隙を作る。ストライクは今の〝カウンター〟の成功を鑑みて、引き気味の態勢だ。来ないなら引きずり出してやる。

 

「甘いッ! 今更その手が通じるものか!」

 

 狙い通り、ストライクは〝カウンター〟が当てられる距離までは近付いてくる。そして、ここで俺達に攻撃を振らせるために、あえて迎撃しやすい技を使ってくるはずだ。

 

「〝つばめがえし〟ッ!」

 

 案の定ストライクは縦振りの攻撃を選択してきた。これは横薙ぎの〝つじぎり〟をうまく誘発させる、いいコンビネーションだ。

 乗ってやるよ。その技の最後まで、全て俺に見せてみろッ……!

 

「〝つじぎり〟」

 

 ここで翅を利用して、急激に突撃のスピードを落としたストライクが、鎌を上げてその胴に〝つじぎり〟を掠らせた。

 

 ここまではさっきと同じ。

 

「馬鹿めッ!! 勝負を逸ったなッ!!」

 

 その瞬間、ストライクの腕が、居合の達人のように下がり、隠れて見えなくなる。

 

「今だッ!!」

 

 俺の合図に合わせて、エルレイドの姿が一瞬、完全に消えた。

 

「なッ……ま、待てッ! ストライクッ!!」

 

 制止は間に合わず、ストライクの〝カウンター〟は完全に空振った。〝むしのしらせ〟による闘争心の増大を含めたその威力に応じて、ストライクは盛大につんのめる。

 

 その〝背中〟は無防備だ。エルレイドは一瞬にして、ストライクの背後に回っていた。

 

「〝テレポート〟ッ……!!」

 

 その不可解な移動を間近で見て、ヘリクスもカラクリに気が付いた。

 そうだ。これは〝テレポート〟。同じ相手には一度しか通じない、奇策も奇策の飛び道具。ここぞという瞬間まで温存しておいた最後の技。

 

「トドメだッ!! 〝せいなるつるぎ〟!」

 

 別に言わなくても伝わっているのに、俺は咄嗟に叫んでしまった。

 

 叩きつけられた闘気の刃に押し潰され、ストライクの体越しに、花畑の真ん中に巨大なクレーターが生み出されていた。

 

「ストライク! おいッ! ストライクッ!?」

 

 気が付けば、エルレイドの姿は、俺の見知ったそれに戻っていた。

 

「はは…………」

 

 ストライクを助け起こすヘリクスの声が、遠巻きに聞こえる。太陽の位置が西に近くなった快晴が、何だか書割のように白々しく見えた。

 

「ありがとう。よくやったな」

 

 ずっと前から知ってたよ。エルレイド。お前がこんなに強い奴だってこと。

 

 





 メガシンカ〝きれあじ〟エルレイドとかいう本編でも実装されてないポケモン。ごめん本当にごめん。
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