俺のピカチュウだけでんき技使えないんだけど   作:イリノイ州の陰キャ

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35、君は逆さまの影

 

 ナゲツケサルのトレーナーと思わしき男は110番に電話をかけ、その後すぐに警官がやってきた。

 

「あのね、またアンタか」

 

 駆けつけた警官は俺達を見るなり「あーあ」という顔をした。何だ、いわゆる名物ってヤツか、この男は。

 

「だってこいつらが妹のボールを!」

「はいはい……どーせそのナゲツケサルがまたイタズラでもしたんでしょ」

「違う! ナゲ郎がそんなことする訳ないだろ!」

 

 男は声を荒げて警察官に食ってかかるが、警察官は渋面をさらにしかめ、首を横に振った。

 こんなやりとりが日常であるらしく、公園の子供達はもはやこちらを存在しないものとして、涼しい顔でボール遊びに興じていた。俺もそっちに混ぜてくれないか。

 

「うぅ、うぇ……」

「ごめんね。お姉ちゃんが新しいの買ってあげるから」

 

 あちらの男は警官が何とかしてくれるものと見て、アコニはへたりこんで泣く少女に駆け寄った。

 彼女はこう言っているが、実際に金を出すべきは俺だ。ボールはエルレイドが斬ってしまった訳だし。

 

「うん……っひ、っひく……いいよ」

 

 女の子はアコニから受け取ったハンカチで涙を拭きながら、時折しゃくり上げつつも、俺達のことを許してくれた。

 

「本当にごめんな。大事なボール、壊しちゃって」

「ううん……わざとじゃないんでしょ」

「ありがと。同じ色のボール、あとで買って返すよ」

「分かった……」

 

 未だ警察と揉み合っている兄を他所に、女の子は立ち直り、スカートについた埃を払った。

 そして、彼女は振り向き様にナゲツケサルを一瞥する。その視線でナゲツケサルは萎縮し、そっぽを向きながら口笛を吹いた。

 

「あの、お兄ちゃん達がごめんなさい……」

 

 胸が痛い。俺達より一回りも小さい女の子でも謝罪ができるのに、その肉親らしきいい歳した男があの態度ってのはどういう相関がはたらいているのか。

 というか、謝るべきなのは俺だ。あの兄のほうはとにかく、こちらの少女の持ちものを壊してしまったのは事実だ。それに小さな子供にこんな殊勝な態度を取られると、年上としては立つ瀬がない。

 

「いいんだ。こっちこそごめんな。明日までに絶対返すから、約束」

「うん……ばいばい……!」

 

 女の子は、いつの間にか警官に引っ張られていった兄を追いかけていってしまった。

 

「何だったんだろ、あの人……」

「さぁね……とにかく、直近のジム戦の準備に専念しよう。君はこの件は忘れろ。また何かあったら、俺があの人と話すよ」

 

 早速鼻面に水をかけられた気分だ。しかし、またあの男に遭遇することがあれば、今度はちゃんと俺が矢面に立たなくては。これ以上、アコニの初挑戦に横槍を入れられる訳にはいかない。

 前日にどうこうなるものも少ないが、最大限、できることをしておこう。

 

 

 

「やぁーやぁーお二人とも! 昨日から1日経ったからー……1日振りだね!」

 

 当たり前のことを無駄に迂遠に言い換えながら、セリンセは快活な笑顔で俺達を出迎えた。

 

「今日はよろしくお願いします」

「よ、よろしくお願い、します……!」

 

 アコニは流石に、肩に力が入っている。無理もない。彼等練習生は、バッジの取得率が自身のトレーナーとしての進退にも関わっているのだから。

 もっと言えばアコニの結果次第で、俺の去就にも影響がある。練習生と強化生は一蓮托生だ。だからと言う訳ではないが、幸先のよいスタートを切ってほしいところだ。

 

「ウチのルールは知ってるかな? 2対2のシングルバトル。通常レギュレーションと同じで、トレーナーが道具を使うのは禁止」

「はい……!」

 

 トレーナーの手持ち数に合わせ、選出可能数は2〜4程度の増減がある場合が多いが、こことセルロは2対2で固定。アコニがこのジムを選んだ理由でもある。

 彼女のボールを握る手には、じんわりと汗が滲んでいた。道中の熱射だけが要因ではないだろう。その恐々とした面持ちたるや、見ているこっちが緊張してくる工合だ。

 

「で、今日はどちらからお手合わせすればいいのかな?」

「私からお願いしますッ……!」

 

 これも、彼女が言い出したことだ。俺に先に戦わせて、ジムリーダーの戦法や場の雰囲気を確認しておくことを提案したが、彼女は聞き入れなかった。

 

「アコニさんだねー! いやー、昨日一目見た時からさー、そのイカしたタトゥーが忘れられなくてねー」

 

 ジムリーダーの軽い触感のトークに、アコニの気持ちはさっぱり追いついていないようであった。緊張のあまり握り込んだ拳が震えている。

 一番を選んだのは、さっさと終わらせて緊張から脱したい、という訳でもなく、彼女なりに考えがありそうな表情だった。

 他ならぬ彼女の意志だ。余計な文句を付けるのはやめにして、その意思するところに任せるべきか。

 

「事前のご連絡によると、バッジは未取得ってことでいいのかな?」

「はい。ここが初挑戦です」

「光栄だねぇー! ここを最初の舞台に選んでくれて嬉しいよ! お姉さん、張り切っちゃうぞ!」

 

 セリンセはむん、と腕を捲り上げ、引き締まった二の腕を見せつけた。

 

「始まるんだ……ジム戦……」

 

 覚悟と恐怖の中間をせめぎ合う彼女に、俺の口から思い付くような安いセリフはかけられなかった。

 精々は、目を逸らさずに見ていることくらいだ。ここから俺にできることと言えば。

 

「それにしてもさ……」

 

 気持ちを改める俺達の準備に割り込んで、セリンセは怪訝な表情に貼り付けるようにして笑顔を作った。

 

「シランくん? 君の手に持ってるそれは何かなー……?」

「何って、ゴム鞠ですよ」

 

 緑色のゴムボール。あの子に返すべく、朝早くにやっているホームセンターで買ってきたものだ。

 

「そ、そっか……」

 

 遠巻きのジムトレーナー達も困惑して顔で俺とセリンセを見比べていた。彼女のような快活な女性に、こんな微妙な顔をさせられるのは、一種の才能だとでも言いたげに。

 自分でもこの歳に似合わないチルディッシュな品物だとは思うけどね。放っておいてくれないか。大体、このくらいは奇抜のうちにも入らないだろ。

 

 

 

 よくあるハイデン(高密度ポリエチレン)の冷たい観客席に片膝を立て、身を乗り出して彼女らの立つバトルコートを一望した。

 

「戦いやすそうだな……」

 

 くさタイプに有利な、芝のバトルコート。有利とは言っても、何らかのタイプに特別不利を強要するものでもない、非常にフラットなフィールドだ。

 

「行って、ワルビル」

「出番だよー! オリーヴァくん!」

 

 二人は同時にポケモンを出すと、互いの先発に探りの視線を入れた。

 

「最初のポケモンはオリーヴァ……それなら、私も知ってる……!」

 

 彼女の言う「知ってる」というのは、単に名前を認知しているかどうかではなく、その特徴、よくある戦法などを知っているということだ。

 というのも、子供が読むようなA4のゴツいポケモン図鑑を、日頃から暇がある時には読むようにと彼女に言っている。

 学生身分の若輩の経験則だが、一見にはバトルとの関連性を見出せない食性や社会行動的生態も、意外と窮地を脱する糸口になる場合があるものだ。

 

「そんじゃ行くよー! 準備はいいね!」

 

 緊張感に欠けるセリンセの笑顔にも、アコニは固く結んだ唇を開かなかった。その代わりに神妙な表情で小さく頷き、それを以て返答とした。

 

「はじめ!」

 

 審判台に立つジムトレーナーの手に握られた手旗が振り下された。

 

「ワルビル! 〝ちょうはつ〟!」

 

 先手を取ったのはアコニだった。練習を始めた時と比較して、格段に予備動作が機敏になった〝ちょうはつ〟が、何かの準備をしていたオリーヴァの頭に血を昇らせた。

 

「おっとやるね! オリーヴァくん! 〝エナジーボール〟!」

「ワルビル! 〝じならし〟!」

 

 途中まで言いかけていた指示を打ち切ったセリンセは、すぐさまオリーヴァに反撃を命令した。

 元々何を企んでいたかは分からないが、オリーヴァによくある〝ちからをすいとる〟や〝やどりぎのタネ〟を押さえることができたのは、ワルビルが削られた体力よりも重い。ここを嫌がらず、〝ちょうはつ〟から入ったのは正解だ。

 

「オリーヴァくん! このまま突破しちゃうよ! 〝エナジーボール〟!」

 

 たった今〝こぼれダネ〟によって〝グラスフィード〟に転じたフィールドの効果も相まって、〝エナジーボール〟はワルビルには大ダメージだ。

 

「ワルビル! 〝ステルスロック〟!」

 

 アコニもワルビルも覚悟した表情で、高速で迫る〝エナジーボール〟を無視して〝ステルスロック〟を撒いた。

 これも、あるいは必要になる。〝グラスフィールド〟によって活力を得るポケモン達の回復速度に待ったをかけられるほどではないかもしれないが、ワルビルにこれ以上できることはない。

 

 ボン! と、破裂音がして、寸前で〝ステルスロック〟を撒き終わったワルビルの顔面に〝エナジーボール〟が炸裂した。

 その勢いで後頭部から倒れ、目を回して気絶するワルビルに、アコニは大声を上げるでもなく、冷静に駆け寄った。

 

「ごめんね……ありがとう。ワルビル」

 

 役割は果たしている。自身も搦手を使いつつ、同じような戦法をとるポケモンを速度で上回り、その役割遂行を咎める。

 ワルビルが倒されたのは、ワルビルやアコニに実力が足りていなかったのではない。トレーナーとして、よりシビアな選択ができるようになったことの証左だ。

 

「さぁ、お次のポケモンはどんな子かな? お姉さんに見せてみなさいよー!」

「言われなくても、行きますッ……!」

 

 後続に出されたムクバードは、〝こぼれダネ〟によって芝が茂生するフィールドを嫌って、飛び出した瞬間に羽ばたいた。

 

「ムクバードくんか! かわいいねぇ」

 

 ムクバードは嬉しくなさそうな表情をした。これから戦う相手に容姿を褒められることを、暗に侮られていると受け取ったようだ。

 血気の激しさはライムにも似たところがあるが、ムクバードはライムのように機会を待って後脚に力を溜めるタイプではないようで、セリンセの方向に風を吹かせて挑発を返した。

 

「おぉー! やる気マンマンだ! じゃあ行くよ! オリーヴァくん! 〝エナジーボール〟!」

 

 固定砲台の様相を模したオリーヴァが、やや上向きに〝エナジーボール〟を発射した。

 

「ムクバード! 〝かげぶんしん〟!」

 

 突如、ムクバードの姿が二つに分かれた。その一方にエナジーボールが炸裂し、ムクバードの姿と共に消滅した。

 

「〝かげぶんしん〟……!」

 

 ライムのものと比べると、その像にはブラー処理のようなブレが常にあり、数も少ない。

 だが、少なくともオリーヴァの攻撃を回避することには成功している。指示のタイミングも、前より一歩早くなっている。

 

「上達早いな……」

 

 この上達ぶりも頷けるほどの努力をしてきたことも、俺は知っている。

 俺やミヤコのように、ガキの頃からバトルにどっぷりで、これしか生きる術を知らないって言うんじゃない。

 まだ一年余りのキャリアで、四六時中バトルのことを考えていられる人間が、果たしてどれだけいる?

 

「ムクバード! 〝アクロバット〟!」

 

 ムクバードは背を地面に向け、逆向きに羽ばたいてブーストをかける。そして首から地面に落ちつつ、体を回す勢いで翼を畳んで空気抵抗を抑え、一気に降下した。

 

 古代から続く継承の先端にいるジョウトの鷹匠達は、自らの相棒にその技を極めさせるのに、実に6年の歳月をかける。

 前に少しだけ、アコニにその映像を見せたことがある。公営放送の特番でやっていた、ジムリーダーのハヤトによる擬似餌を使った実演。その一幕に感銘を受けた俺は、いつか誰かに見せるために録画を撮っておいた。

 

「そうだ……怖がらず、真下に……」

 

 入射角77度の直滑降によって、ピジョット達は降下というよりは〝落下〟によって急激な速度を得て、上空から一瞬にして地上の獲物を狩り取る。

 朝廷貴族の戯れとは違う、芸事には現れない冷徹な機能美。海抜1000メートル以内の最短距離から発するピジョットの実速度は、最新鋭から二番目の空軍偵察機の最高速に比肩するという。

 

「オリーヴァくん! 来るよ!」

 

 当然ながらムクバードの落下速度は、ムクホークは勿論、ピジョットにも遠く及ばない。しかし、本来横方向への滑空速度が優れているピジョットより、速筋の比率が高く、翼を畳んだ形状が涙型に近い分空気抵抗の少ないムクホークのほうが、理論上では降下速度を上回るはずだ。

 今はまだ、俺の目にも追える程度の速度だ。入射角も60度より広く、完全に〝落下〟することはできていない。

 それでも、くさポケモンにとってあの鉤爪は無二の脅威となる。いいポケモンだ。

 

「オリーヴァくん! 〝リーフストーム〟!」

 

 直前で放たれた〝リーフストーム〟は、その威力にもかかわらず、ムクバードにとって何らの障害ともなりはしなかった。

 降り始めた雨の雫の一滴目のように、あるいは真上に打ち上げ、落ちてきた一筋の弾丸のように空気を縫って、鋭い刃葉の間をいとも簡単にすり抜けていく。

 オリーヴァの直前で体を広げ、急停止した鉤爪が丁度その枝腕を捉え、痛々しいまでに食い込んだ。

 

「オリーヴァくん! 〝エナジーボール〟!」

「させないでムクバード! 持ち上げなさい!」

 

 胸の筋肉が盛り上がると同時に、軽々とオリーヴァを持ち上げたムクバードは、慣れない空中で技の発射も姿勢制御もうまくできないオリーヴァを放り出して、縦に一回転しながら〝アクロバット〟を繰り出した。

 

「オリーヴァくん!」

 

 墜落したオリーヴァは顔から地面に突っ込んで、そのまま意識を失ってしまった。

 

 よしッ……!

 

「よしッ……!」

 

 瞬発力を最大限活かすため、一度ムクバードを着地させたアコニは、抑え目に、腰の辺りでガッツポーズをした。

 というか、俺もしてた。思わず同じタイミングで拳を振り出していた。

 よくないな。気持ちが入り過ぎていては、試合を冷静に観察できない。

 

「いやぁー! すごい筋肉だねー! オリーヴァくんをそのまま持ち上げちゃうんだから!」

「ありがとうございます……!」

 

 乾燥させていない丸太を持ち上げるようなものだ。オリーヴァの平均体重は約48キロ。鍛えられ、よく水分を吸っている個体は50キロにも及ぶ。

 

「次はこうは行かないよー! 行っておいで! メェークルちゃん!」

 

 セリンセの2体目は、角の片方に傷のある、一回り体躯の小さなメェークルだった。

 

「メェークル、事前のリサーチ通り……!」

 

 そう、アコニが調査していた通り、繰り出したポケモンはメェークル。足下に広がった〝ステルスロック〟を痛がる、一見には牧場で見るそれと大差ないメェークル。

 

 しかし、ただのメェークルではない。

 

「まずいな……」

 

 なぜとっとと進化させてジムの一軍にしないのか、などという安易な考えが、一瞬だけ俺の脳裏に流れていった。

 セリンセの思惑は分からないが、あのメェークル、相当な経験を積んでいる。

 

「…………」

 

 脚の筋肉を見れば瞭然だ。前後で均等に見えてその実、前脚のほうが発達している。

 普通の野生生活では起こり得ないような、スプリントの不自然なストップ&ゴーを繰り返していなければ、前脚の脛に近い位置の筋肉があそこまで発達することはない。

 

「いつでもどーぞ! 言っておくけど、普通のメェークルとは違うからね!」

「……ムクバード。〝アクロバット〟!」

 

 くさタイプのメェークルには当然、〝アクロバット〟は脅威だ。しかもあの筋肉を見せつけられては、防御の姿勢に転じるなどは到底できないだろう。

 

「メェークルちゃん! 〝ビルドアップ〟!」

 

 草地にぴたりと合う蹄の硬さで、左右に独特のステップを踏みながら気合いを溜めたメェークルは、〝アクロバット〟の予備動作で高く飛ぶムクバードの翼をまじまじと観察していた。

 

「今よ! ムクバード!」

 

 縦に一回転して、急降下するムクバードの〝アクロバット〟は、先ほどの見事な一撃が嘘だったかのように空振った。

 メェークルは四足の指向性を最大限引き出して、体重移動のみで完璧なフェイントを繰り出し、ムクバードを全く反対の方向へといなしてみせた。

 

「嘘ッ……!」

 

 一度の〝アクロバット〟で、ムクバードは着地する。肩で息をしながら。

 こちらも自然界にはあり得ない動きを、それも空中でおこなうので、翼への負担が大きい。旋回したまま3度4度と繰り返すことはできない。

 

「メェークルちゃん! 〝ワイルドボルト〟!」

 

 その隙を見逃すようなトレーナーであれば、ジムリーダーにはなれないということだ。

 疲労した筋肉では、一度の羽ばたきでは空中へと舞い戻ることはできない。そして二度の羽ばたきを待ってくれるほど、あのメェークルは遅くない。

 

「――――ムクバードッ!!」

 

 メェークルの〝ワイルドボルト〟が正面から激突した。そのごわついた体毛に帯電し、角を介して発生する雷の一撃は、連続的な激しい破裂音と共に、目も眩むようなスパークを引き起こした。

 

 





閑話 暑がりお嬢様

・移動中の車内にて。

「暑いわ。エアコンの温度1度下げて」
「恐縮ながらお嬢様、現在の設定温度は25度。かなり低い値に設定しております」
「いいから。下げなさい」
「……かしこまりました」


・ジムへの前日挨拶の帰り。飲食店のテラス席で休む二人。

「ねぇ、シラン。暑いわ。飲み物買ってきて。甘くないやつ」
「君ね……はぁ、ちょっと待ってろ」

 3分後。

「買ってきたぞ、お茶……おい」
「…………」
「俺のブルーハワイ(かき氷)どこ行った」
「じ、自分で食べたんでしょ」
「半分も食ってねーよ!」

 溶けた氷の液体すらなく、綺麗に平らげられた発泡スチロールの容器が二つ転がっていた。

「自分のかき氷はどうしたんだよ! いちご味買ってただろ!」
「だって……! 暑かったんだもん!」
「だもんって……はぁ、もういいよ。ほら」
「ありがと……ごめん」


・ホテルの部屋にて。

「アコニー、来たぞー。何か用かー?」
「ちょっと待って、今開けるからー!」

 ガチャ、と扉が開き、途端に冷蔵庫のような冷気がシランの足下に漂う。

「寒ッ……!?」
「一緒に見てほしい映像があるの。ムクホークの使い手の……」

 手招きされているのに、部屋の前で立ち尽くすシラン。

「……何よ? 遠慮してる? 別に気にしなくていいから、入ってきてよ」
「寒いんだよ! エアコン何度にしてるんだ!」
「……14度?」
「14!? 14って何!? エアコンってそんな低い温度まで下げられんの!?」
「う、うるさいわね! いいから入りなさい!」
「だから寒いんだって! 温度上げろ!」

 結局シランが折れて、部屋からベッドの毛布を持ってくることになった。
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